短いですが投稿致します。
PCの調子が悪いためスマホからの投稿です。
読み辛い部分があるかもしれませんので、ご了承ください。
「あなたは、食べてもいい人類?」
ルーミアの周りからザワザワと黒い霧の様なものが立ち上る。
彼女の力は『闇を操る程度の能力』、あれは彼女の操る闇そのものなのだろう。月明かりに照らされていた路地裏が徐々に暗闇に飲まれていく。もう隣の壁さえ見えなくなってしまった。
なるほど、普通の人間ならこの時点でアウトだろう。人間の五感は大半の情報を視覚から得ている。目が見えないだけで人間は簡単に感覚を狂わされてしまう。
「でも、私には通用しない」
妖力を使った気配察知と嗅覚により、ルーミアの位置は手に取る様にわかる。背後から襲ってきた彼女の腕を掴んで地面へと叩きつける。
激しい破砕音と同時にルーミアの体がビクン、と跳ねる。
「……ガッ、この!?」
起き上がりながら振るわれた爪の一撃を回避し、距離を置いて向かい合う。私はたぶん無表情で、ルーミアは悔しそうに顔を歪めている。彼女の闇では私を倒す事はできない。実力的にも戦う前から勝負はついている。
「……さて、話を聞いてくれるかしら?」
「……あんた、人間じゃないね。お仲間かしら?」
「そうね、ほら……」
私の妖力が高まると同時に現れる〝三本〟の尾。
ルーミアは険しい面持ちで私を睨む。額に浮かんだ汗から彼女の緊張が一段と高くなったのを理解した。
「……三尾」
そう、年を重ね、高まった妖力は肉体に変化を及ぼす。妖獣はそれが尻尾の数として顕現するのだ。
ゆらりと揺れる尻尾に合わせて周囲の空気が重くなっていく。ルーミアは少しずつだが後退りしており、どうにか逃げ出せないかと必死に思考を回転させているに違いない。それ程までに私とルーミアの実力には差があるのだから。
「不思議よね。私はまだ生まれてから百年程度なのにこんなに力が付いてしまったわ」
そう言って一歩踏み出した瞬間、ルーミアは弾かれる様に空へと舞い上がる。闇を使った目眩ましも忘れていない。だが、それも私が腕を振るった瞬間にあっさりと掻き消された。
一気にルーミアと同じ高さまで跳び上がり、体を捻りながら回し蹴りを放った。腕を交差させて防御する彼女をもろともせず、隣の工場の中へと吹き飛ばす。
窓硝子を粉々に砕きながら工場の中に落ちた彼女を追って私も中に入ると、肩で息をしながらよろよろと立ち上がり、こちらを睨むルーミアの真っ赤な瞳と視線が交わる。
「……く、何なのよ、あなた」
「どうする?まだ続けるなら相手になるわよ?」
暫く黙ったまま此方を睨みつけていたルーミアは深く息を吐くとその場に座り込んだ。
疲労が濃い表情と、ぼんやり宙を見つめる瞳から険しさが抜けていき、遂には両手を広げたまま大の字で倒れこむ。
「……ああ、負けよ、負け。好きにしなさい」
「やけにあっさりと引いたわね」
「私だって死にたくはないもの」
立ち上がるのも億劫なのか彼女は倒れたまま動かない。よく見たら左腕が微妙に変な向きに曲がっている。おそらく私の蹴りを防いだ時に折れてしまったんだろう。折れた腕を刺激しないようにゆっくりと抱きかかえ、工場を後にする。
最後におばあちゃんが倒れている路地を見つめる。目を閉じて黙祷を捧げ、静かに私はその場を離れた。お婆ちゃんは人間で、私は妖怪だ。彼女は同じ人の手で弔われなければならない。
私にできることは無いのだ。それが、少しだけ悲しかった。
◇◇◇
街を離れ、ルーミアを連れて降り立ったのは霧の湖。
私がやって来た気配を感じたのか妖精達が次々と集まってくる。長年この湖で生活していた私は妖精達に懐かれており、気配を感じただけで一斉に飛びかかられる程になっていた。
「おかえり、桜花!!」
「おかえり〜」
「お土産は?」
「尻尾触らせて!!」
「ただいま……って、こらこら急に抱きつくと危ないわよ」
抱き抱えているルーミアを落ちないように抱え直し、尻尾を伸ばして妖精達を引き剥がすと、彼女達は楽しそうに「キャー♪」と可愛い悲鳴をあげた。
一通りじゃれついて落ち着いたのか妖精達の興味が私に抱えられているルーミアへと向けられる。
「あれー?」
「この子だれー?」
「妖精じゃないね」
「人間でもないよ?」
興味津々覗き込む妖精達にルーミアが困惑した様子で私を見上げてくる。その姿が可愛らしくて思わず頬が緩んでしまう。
ルーミアはそんな私が気に入らないのか「フンッ」とそっぽを向いてしまった。それに苦笑いしつつ、私は妖精達にルーミアを差し出した。
「今日から此処に住むことになった妖怪のルーミアよ。皆、仲良くしてあげてね」
「え、いや……あんた、何を言って……!?」
「わぁ、新しい仲間だ!!」
「よろしくねー!!」
「一緒にい遊ぼうよ!!」
私に反論しようとしたルーミアを妖精達が引っ張って連れて行くのを見送り、近くの木の根元に腰を下ろした。
特に疲労が溜まっているわけでもないのに一仕事終えた気分になった私はそのままゆっくりと目を閉じる。今日は此処で昼まで寝てしまうのもいいかもしれない。それから店に戻ってチルノに報告だ。彼女のことだからきっとお婆ちゃんの事を聞いたら泣いちゃうかもしれない。その時はちゃんと慰めてあげないと……。
妖精達に囲まれてあたふたするルーミアを眺めながら、私はゆっくりと微睡みに身を委ねるのだった。
仕事辛いです。