曹操軍は元就と桂花の策、春蘭を筆頭とする武官の活躍により黄巾の反乱を悉く鎮めていった。新たに加わった三人は一刀の警備隊の配下に入ることになり、それと共に元就の作った諜報部隊の訓練に体術を戦闘の中心としている凪を加えより強固な部隊を作り上げようとしている。中にはこの世界ではもう十分だろうという人材もいる。元就はその人材を抜粋し、彼らを他国にも送り込みを始めている。現在は黄巾党の首領張角を捜索させている。
「なかなか姿を現してくれないね」
「仕方がありません。人相書があれでは」
元就と桂花はお互いに苦笑いを浮かべる。巷で出ている張角の顔は最早人間で無く元就の時代に北条の忍びの風魔もかくや、という顔なのである。もっとも元就は風魔を見たことは無いので何とも言えないが。
「いずれにしろ、黄巾党の残党に今、間者を忍ばせている。おそらく、そこに本物の張角がいるはずだ。報告を待つしかないね」
桂花が頷き、お互いに考えた今後の策を出し合って調整をしていると、そこに間者が帰ってきた。どうやら本物の張角は広宗にいるらしい、だが、そういった報告は何度も受けているので事実確認をもう一度するよう命じた。
「しばらくは兵を動かす必要はないだろう。朝廷もやっと本腰を入れて討伐を行ってくれるし、そっちは任せておいて私たちは私たちで張角を討つという大功を手に入れて大出世といこうか」
「・・・そう、ですね」
なんだか、桂花は答えるのに詰まってしまう。急に穏やかな顔をして、さらっと黒い一面を見せてくれた元就に対する驚きである。今もいつでも穏やかにしていて兵や民にも慕われるような存在なのにその実、こういった政略、戦略、戦術、全てにおいて非の打ち所が無く、時として、汚れ役も買って出るような存在なのに、不思議だ。これが桂花の元就に対する評価である。どんなに汚れようと決してその穏やかさを崩さず、嫌われ、疎まれるような事が決して無いのである。どう考えてもわからない、元就の奥底にある彼の真髄は何なのか・・・
「それで私に聞いてきたのね」
その日の夜、桂花は華琳の下に向かい自分が抱えた疑問を聞いてみた。彼の主ならわかるかもしれない、そう、考えたのである。だが、
「残念だけど、私もわからないわ、元就は普段の私たちに接する態度がいつもの彼であるというのはわかるけどそれを支えるのには心にある何かの支えが必要となる。でも、それが何か私にもわからない、駄目な君主ね、家臣の心もわからないようじゃ」
「そ、そんなことありません!華琳様は素晴らしい御方です!」
自嘲ぎみに話す華琳に桂花は慌てて訂正をする。
「フフッ、ありがとう、桂花、そうね、今夜私の相手はあなたにしましょ」
さっきまでの真剣な表情はどこへやら、華琳の誘いに顔をふやけさせて喜ぶ桂花である。
『しかし、不思議ね、あれほど読めない人は初めてだわ、だけど、裏切りをするような人にはとても見えない、まぁ、いずれわかるでしょう。その時を楽しみしているわよ、元就』
「広宗で間違いないのかい?」
「はっ、張角だけで無く張宝、張粱の顔も確認できました」
間者からの報告により、どうやら広宗が黄巾の本拠地であることを確認し、張三姉妹の人相も確認できたという知らせを受け、元就は一人ほくそ笑む、ところが、張三姉妹の人相を間者に書かせると衝撃を受けた。別にあの人相を信じていたわけではない。だが、三人の本当の顔はただの少女であることに驚いた。だが、腐っていても朝廷である。刃を向けた以上、逆賊は逆賊である。ここに来て元就は改めて乱世の無常さを知った。できれば見逃してやりたい。だが、もう遅いのである。天下を華琳に取らせる以上、彼女たちには踏み台になってもらうしか無いのである。百万一心を掲げ一大勢力を築くことに成功した毛利元就、だが、敵、ましてや賊に温情を掛ける程元就は優しい性格ではない。ただ一人元就は迷っていた。何故か助けてやりたいという気持ちが心から離れ無いのだ、人間毛利元就は迷っている。巷の噂と違い、これほど、普通の少女である彼女たちが本当にこのような暴挙にでるほどなのか、本当は黒い性格なのではないか、だが、間者の報告ではそのような人物に見えないようだ。真相を知るのは我々では無く彼女たちである。聞いて見るのもありだと考え始めた。だが、逆賊の首謀者を許可無く保護するのは危険極まり無い、どうしたものか、と考える。巷では逆賊、実際はそうは見えない・・・巷?ふと、元就の表情が変わり少し考える。そして、一人納得すると明日から忙しくなるだろうと考え、眠ることにした。
百万一心による天下取りが今始まる。