「・・・・えーと、ここが地獄・・なわけないか」
元就は目を覚ますととある荒野にいた。しかし、一度己が自身の死をさとり召されてここにいると思っていたがここには誰もいない、さらにいえば、明らかに生きている感覚がある。自身に起きた不可思議な現象に混乱しているが、そこは毛利元就であるすぐ冷静になり辺りを見回し、ここがどこかわからないのでどこか人を探すために歩き始めた。その時自身の身体が若かった頃のように軽くなっていることに気付いた。改めて自分の身体を見てみると、かつて戦場にいたときに着ていた服装をしている、さらに自分の武器である矢手甲も手にはめてあった。さすがの元就もそれにはただ呆然とするしかなかった、しばらくするとどこからか馬の足音がしてそれが自身に向かっていると元就は気付いた。そして、案の定その馬二頭は彼の前で止まり、
「怪しい奴だな、名を名乗れ!」
いきなり馬に乗っていた二人の女性のうちの一人にそう言われたのでさすがの元就も少したじろいでしまった。
「よせ、姉者、すまないこのところ賊の出現が多く我らが警戒をしていたのだ」
「いや、気にすることはないよ、そのような事態では
私のような者を怪しむのは当然さ。でも君のようにいきなりくってかかるのには感心しないな」
「なんだと!?」
「だからよせ、姉者!」
この三人のやりとりのなかで元就は元春と隆景の子供の頃のことを思い出していた、長男である隆元は生来大人しい性格だったので二人の輪にはいることはあまり無かったのであるのは余談である。
「他人を前に、二人で何をしているの」
それはこの三人の言葉でなく女性二人の後ろから聞こえてきた。
「か、華琳様!なぜこのような所に!?」
「あなた達が遅いから気になってね追ってきたのよ」
そう言った女性は先程から元就の前で言い争っていた二人より身体が小さい金髪の少女と言う言葉が似合うような女性であった。しかし、元就は彼女から出される覇気にある人物を思い浮かべていた。
『織田・・信長・・』
そう彼女の雰囲気は元就とかつての世界で敵対していた織田信長と極めて似ていたのである。そう考えていると
「ごめんなさいね、私の配下がいきなり怒鳴りつけて、こういう性格だから許してもらえる?」
彼女の言葉で我に返った元就は冷静に
「気にすることはないよ、彼女たちが武に秀だ方だというのはわかっていたからね」
「あら、春蘭と秋蘭のことを知っているの?」
「やはり貴様、間者か!!」
「落ち着きなさい春蘭、自分から身分を悟らせるようなことを間者はしないわ」
もっともである、さらにこの二人を配下にしている時点で彼女が優秀であると元就はわかっていた。しかし、元就には別の疑問が浮かんでいた
『何故女性である彼女たちが一介の武将のように馬を乗りこなしあのような覇気を出すことができるのだろう?』
彼の世界では立花誾千代や井伊直虎、甲斐姫といった少数派で大半は男が将であった。
「でも興味深いわね、どうして二人が武将だとわかったの?」
元就は先程自分が彼女たちを見て馬の乗りこなしや姿勢、動き、それらでわかったのであるそのことを告げると、金髪の女性はニヤリと笑い
「よくそれだけでわかったわね、あなたただ者ではないわね?」
「いやいや、なんとなく、だよ」
「そうは言うけどなかなかいないわよ、そんな人、かなりの経験が必要になってくるわ」
「まあ、実際その通りなんだけどね」
「ふふ、人は見かけによらないということね」
「やれやれ、そんなに私は頼りないように見えるかい?」
「違うわ、あなたが若いのにいい物を持っているということよ」
簡単に言われた元就だがいきなり自分が若いと言われて
心中では驚いていた試しに顔をそれとなくさわると髭がなく、髪も白髪から黒くなっていた。
「はは、本当に若返っているとはね」
「え?」
元就は何でもないと言うと
「私は毛利元就というんだ、君は?」
「な!?たやすく華琳様に話し掛けるとは!」
華琳様と呼ばれた女性はわめく女性をなだめつつ、どこか合点のいった表情を浮かべながら
「私の名は曹操、字は孟徳よ」
「私は夏候淵、字は妙才だ」
「秋蘭まで!?なら、私は夏候惇、字は元嬢だ!」
三人の自己紹介を聞いて元就は驚きと共にどこか納得をしていた
『まさか彼女たちが史書に名高い英傑とはね、でもそれならさっきのことも納得できる』
そしてもう一つ元就は疑問に思っていたことを口にした。
「ねえ、君たちは名でも字でもない呼び名で呼び合っていたけど?」
「ああ、真名のこと?これはこの世界では親しい者同士が呼び合うもので許可なくこれで人も呼ぶと斬られてもしょうがないのよ、覚えておくことね」
「ああわかったところで君に頼みたいことがあるんだ」
「何かしら?」
「私は気付いたらここにいてねどこかに行くあてもないししばらく君のところにいさせてもらえないか?」
「ええ、いいわよ」
「華琳様!このような男我らには必要ありません!」
「春蘭、さっきみたいにあなたたちの才能を手合わせもなしにすぐさま見破る人なんてそうそういないわ、
この人、かなりの才の持ち主よ」
「わ、わかりました華琳様がそう仰るのなら・・・」
「そういうわけだからついてきなさい」
「感謝するよ、ところで聞きたいのだが、ここはどこだい?」
「ここは陳留よ、私はここの刺史をしているの」
『たしか、曹操が陳留刺史をしていたのは私の記憶では黄巾の乱の後だったような』
思案しふけっていると
「さあ、早くついてきなさい」
「あ、ああわかった」
さすがに強く言われ元就もおとなしく従う。そして一行は陳留の居城を目指していた。しかし、元就はここでも新たな疑問が出た。
『何故彼女たちは私の名を聞いて変だと思わないのだろう?』
聞いてみようとしたが、そのうちわかるだろうとのんびりとと元就は構えていた。それよりも深刻な問題があったのである
『この世界の曹操は見るからに欲しい者は奪ってでもほしがる性格だ、そのような人物と私はつりあうのだろうか?』
元々、元就はこうなった以上曹操に仕官してもいいかなと考えていた。しかし、百万一心を掲げて生きてきた彼と曹操の考えは合わないのではとも考えていたのである。
『とにかく、様子を見るとしよう、そりあわなかったらまた別のところにいけばいいさ』
主君と家臣が反目しあうそれにより家が衰退することは元就自身よくわかっていた。かつて、自分の主君でもあった大内家もいい例である。それによって毛利が大きくなったのでもあるが
『でも、しばらくはここにいさせてもらおう』
その理由は
『だって、男女の違いがあるにせよ史書に名高い英傑たちと一緒にいるなんてめったにないしね』
意外にそっちが本音だったりもする毛利元就の第二の人生の始まりだった