出てこないのでこの字を代用してます。
夜、野営の陣中にて華琳を中心とする主だったものが集まっていた。
「さて、桂花、次の策を」
「はい、敵は一部が壊滅し現在浮き足立っています。とはいえ、所詮は賊、彼の者達を討ち取るのはたやすいことです。まず、敵の砦の眼前に陣を敷き敵を挑発します。そのあと、敵が砦から出てきたところを伏兵にて、討ち取るのです」
「そんなに回りくどいことをせず、正面から一気に攻め込めばいいだろう。こっちの方が数は上なんだから」
春蘭はどうやら暴れ足りないらしい。
「こんな戦で無駄な犠牲は出せない、まったく、そんなこともわからないの?これだから馬鹿は・・・」
明らかに春蘭のことを言っている。
「さっきから馬鹿、馬鹿とそんなに私を怒らせたいのか!?そっちこそ、口だけで自分ではなにもできないくせに」
「なっ!?」
春蘭と桂花がしばらく睨み合いをして、
「「華琳様!」」
二人で華琳に顔を移し、
「こんな、猪武者、華琳様に必要ありません!」
「こんな口だけの女、我が軍に必要ありません!」
「「なんだと、貴様!!」」
不毛なやりとりである。元就がいれば、
「まだ、子供だね」
と、言いそうである。
「とにかく!今回は桂花の策を用いるわ、いいわね?」
「は、はい・・・」
とりあえず、華琳の鶴の一声でその場は収まった。
「あの二人、大丈夫かな?」
「まぁ華琳様がいれば大丈夫だろう・・・多分な」
近くで秋蘭と一刀は溜め息を吐いた。
その夜、時は草木も眠る丑の三つ時、曹操軍も賊も眠っていた。が、
「華琳様!起きてください!華琳様!!」
秋蘭が曹操の天幕に飛び込んで来た。
「何、賊が夜襲でもして来たの?」
落ち着いた様子で秋蘭に応じたが、次の報告にはさすがに華琳も驚いた。
「いえ、賊の陣中から火の手が!」
「えっ?」
「うりゃあぁぁ!!いままでの罰だ、これでも喰らえぇぇ!!」
「散々、私たちを怖がらせて、容赦はしない!」
「ま、これだけ火を付ければ華琳達も気づくだろう、ここまでだ、退こう」
「おい待て!逃がすか!」
「へへーん、ここまでおいでー!!」
「おのれ、小娘が、八つ裂きにしてくれる!!」
賊の砦に火を放ったのは三人組。
一人は元就、もう一人は許墸、そして、もう一人は・・・
「流琉、やるねー!」
「まったく、季衣!勝手に出てって、心配したんだから!」
「でも、こうして生きてるんだし・・・」
「・・・それ、さっき元就さんが言った言葉」
「やれやれ、喧嘩はあとにしてくれ。今は、とにかく逃げるよ」
許墸から流琉と呼ばれた少女、名前を典韋といい、後に曹操から悪来と徒名される人物である。
何故、彼女がここにいるのかというと、元就が村を訪れ、村長に許墸を貸して欲しいと頼み、了承を得た際、突然乱入して来て・・・、
「季衣のバカー!!一人でなにやってんのー!!」
と、許墸をいきなりぶっ飛ばしたのである。
「しょうがないでしょー!村の危機だったんだからー!!」
と、許墸も負けずに典韋をぶっ飛ばした。
しばらく呆然としていた元就だが、我に返り、互いに、飛ばし合っていた二人をどうにか止め、典韋に事情を話すと私も行く!といって聞かないので興味本位で名前を聞くと典韋と答えたので、最初こそ驚いたが許墸も小さい娘なので、じゃあいいか、とあっさり決めた。ついでに、村人の何人かが自分達も連れて行って欲しいと願った。元就は連れて行く気はなかったのだが、説得している内にとある策を思いついたので何人かを選抜して連れていくことにした。そして、その策が、
「それにしても、村人たちに火を付けてもらって適当に暴れて、頃合いを見て退く、しかも退きながら賊をこちらに引きつけて叩くなんて、考えたものね」
「ま、これぐらい稚拙な策だよ、もちろん村人たちには被害はないよ、火をつけたら密かに退いてもらったしね、それにしてもこんなに上手くいくとは・・・普通なら、伏兵とか置いてあるとか考えるものだけど」
「そこまで、考える頭もないでしょ」
今、元就は華琳と話している。
最初、敵陣から火が上がっているのを見て、慌てて様子を見に行った華琳だが、元就たちが悠然と帰ってきて、帰りがけに砦に火をつけて帰ってきた、
敵もやってくるよ、と言ったものだからさすがの華琳も呆れた。一刀なんかはそれを通り越して、顎がはずれんばかりに口をぱかっと開いていた。
「ま、結果として、こちらの大勝利ね」
「ああ、砦を焼かれ、自棄になって私たちを追ってきたところに敵本隊と遭遇、士気は元々緒戦の影響で低かったし、こちらの負ける要素はない、か・・・」
その時遠くからひときわ大きな歓声が上がった。
「どうやら、首謀者を討ち取ったみたいだね
追撃するかい?」
「この夜中では同士討ちになるわ、撤退の合図を!」
こうして、曹操軍は大勝した。
朝になり、全軍が無事に撤退を完了したのを
確認すると華琳は許墸と典韋を呼んだ。
「あなたたちね、元就から事情は聞いたわ、
本当にごめんなさい」
「え、あ、いや、頭を上げてください!
謝るのはボクの方です!助けてに来てくれたにもかかわらず、襲いかかってしまって」
いきなり刺史である華琳に頭を下げられ許墸と典韋は慌てる。
「いいえ、謝るのはこちらよ。こんなことになるまで、放っておいたのは私たちなんだから」
「・・・・・・」
誰もなにも言えない。曹操軍を襲った許墸は罰せられても文句は言えない立場である。しかし、華琳はそんなことはどうでもよかった。彼女があのような行動をとってしまうほどこの国は腐っているのである。
それを変えることができないのは私の力不足である。彼女たちが謝ることではない。故に華琳は頭を下げたのである。
「何か、望みはある?なんでもいいから言ってみなさい」
「え、じゃ、じゃあボクたちの村の人たちのこと、これからも守ってくれますか?」
「当然よ、安心して、今回のようなこと、二度と起きないようにしてあげる」
「なら、ボクを連れて行ってください!ボクたちの村のような人たちを助けたいんです!」
「私も季衣と同じ思いです。私も連れて行ってください!」
揃って頭を下げる二人に華琳が近づき
「わかったわ、二人共、顔を上げなさいあなたたちの真名は?」
「ボクは季衣です」
「私は流琉です」
「私は華琳よ。これからよろしくね」
「「はい!」」
こうして、虎痴と悪来の二人が揃った。
しかし、この中に一人だけ不機嫌な人物がいた。
「元就、どういうこと?勝手にこんなことをして」
桂花である。
「こんなこと、とは?」
「なんで勝手に夜襲なんかして、しかもよりによって民たちに協力を求めるなんて、民たちは私たちが守るもので戦に参加させるべきではない、まさかそんなこともわからないで軍師をやっているつもり?もしそうなら即刻ここから出ていきなさい!!」
明らかに元就に対し嫌悪と侮蔑が入り混じった声である。しかし、元就はやれやれ、そんなに怒ることかな、と頭を掻いていた。華琳は面白そうに二人を見比べ、それ以外は困惑し、元就に注目している。
「まず、この戦いで君はこちらの数を利用して
敵を押し包んで殲滅する策をとった。ところが、
ここを治めていたはずの刺史が逃げてしまい
賊の数が増した、そこで君はやってはいけないこと
をした、それは戦場は常に変化してなにが起きるかわからないということを頭に入れてないということ、実際今回の戦で君の策ままでは包囲が不完全になるのは明らかだった、間違っているかい?」
理路整然としているため桂花も渋々頷く。
「次に許墸が来たことで戦況は変わる。まぁ、これは誰も予測していないことだ。これは別にいい、だが、その後、一旦退いた後、おそらく、挑発をして敵をおびき寄せて、伏兵、といったところだろう。
だけど、そうなると囮部隊に被害が出る、囮がこういう時、一番危険なのは君もわかっているはずだ。もちろん、戦に犠牲は付き物、そんなことは誰でも知っている。だけど、この戦の相手は賊、兵法も知らない彼らにそこまでの犠牲を出して勝つ必要があったかい?それならこちらに被害を出さないような戦をすべきだ、それが夜襲だ。民たちに協力を仰いだのは別に単なる人手不足だ。なら、どうして一旦帰って華琳の許可を得なかったのか?とでも言いたそうな顔をしてるね。君がもし、夜襲のことを聞けば、反対したんじゃないか?」
「当然よ、夜襲なんて卑怯な手段、華琳様にはいらないわ」
桂花は言うが先程から元就に先手を取られてばかりで、その顔には動揺が広がっている。
「卑怯とか、そういうのは関係ない、それを判断するのは君主であって我々軍師は常に最善の策を用いて味方を勝利へと導く、もちろん、犠牲の少ないやり方でね、現に華琳は私の独断行動を許し、夜襲についてもなにも言ってないよ」
さ、何かいう事はあるかい?と言われたが、桂花は何も言えない、そして、とうとう申し訳ありません。と、頭を下げた。
桂花は気づいたのだ。
自分が考えた策は味方の勝利と見栄だけを考え、味方の被害を考えていないことを、ここでようやく華琳の口が動く、
「桂花、あなたは確かに優秀よ、でも、元就の方があなたより一歩も二歩も先に進んでいる、元就に追い付くことは難しいかも知れないけど、あなたは自分のことをよく反省し今後に活かしなさい、わかったわね?」
「はっ」
その後、戦後処理を終えて撤退し、あと一日で
城に帰還すると言う時に更なる事実が発覚した。
計算では兵糧は尽きかけているはずなのに、まだ、二割程残っていたのだ。本来ならまだ余裕だったのだが、季衣が原因で兵糧が思ったより早く減ってしまったのだ。
「元就、やったわね?」
「あははっ、万が一に備えてこうしておいたのが、思わぬ形で役に立ったね」
華琳の睨むと元就は苦笑いで返す。
「なんだか偶然とはいえ、元就さんがやると偶然とは思えないよ」
「同感だ、どうなっているんだろうな、元就殿の頭は」
皆が元就をじっと見てきたので元就は真実を話す
「種明かしをするとね、荀彧の立てた包囲策は
適材適所の配置ではなかった、何故か春蘭を待機させて、後詰めに置いただろう。あの春蘭が大人しく待っているとは思えない、どこかで突出する可能性があった。だとすると、陣形が崩れてしまう。
こちらに被害がでると戦が延びかねないからね」
「ならば、その時はどうするおつもりだったので?」
今度は秋蘭が聞いてきた、
「その時は、私が別働隊となって、春蘭に敵の目が
言っているうちに側面から急襲でもすれば良いさ」
秋蘭と桂花はなるほど、と頷いた。そして、桂花は
「元就殿、お願いございます。あなたの下で更に我が知略を磨きたいのです。よろしいでしょうか?」
元就は華琳を見ると華琳は許可したのでいいよ、と頷いた。
ここで春蘭が首を突っ込んできた。
「しかし、今の元就の話は聞き捨てならん。
まるで、私が猪武者だと言っているようではないか」
「事実でしょ」
桂花があっさりと言い放った。
「なんだと!?」
案の定、春蘭は喰ってかかる。華琳が止めて、その場は収まったが、これからもこのやりとりは続きそうである。
元就はこの光景を暖かく見守っていた。