Selector Neptuned WIXOSS   作:-Y-

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2.その再会は突然

「あなた方をここに呼んだのは他でもない。もう一度"セレクターバトル"に興じて欲しいのです」

 

 モニターのシルエットが言った。

 

「馬鹿な、セレクターバトルを経験した僕たちにそれを頼むなんて。はいそうですかと言うとでも思うのかい?」文緒がモニターを睨めつけ言った。

 

 そう、セレクターバトルこそ"事件"の本質。願いが叶うという甘言に乗せられた数多の少女達が、悲劇を見た騙しあいのゲーム。

 ここにいる少女達は皆、そんなどす黒く濁った遊びに参加せざるを得なくなった経験を持つ。

 ゆえに文緒の言葉は正論、真実。誰一人としてワダツミに耳を貸すものなどいなかった。

 

「無論、今までのセレクターバトルとは異なります……。あなたたちが経験したものは"繭"が生み出した、いわば未完成のゲーム。ゲームとは勝敗を別ち合い、そして勝利に伴う報酬を受け取ってようやくそれが成立する。勝った者負けた者……そのどちらもがリスクしか負わない遊びなど、ただの身投げと同義です」とワダツミが言った。

 

「どんな報酬があったってね、あたしたちはもうあんなゲームに参加しない。ペナルティがどんなに恐ろしいものか、わかっているんだから」と遊月は反論した。

 

「否、そういうと思いました。安心してください、敗北のペナルティはありません。先に言っておきますが、私はあなた方"セレクター"がしのぎを削ってバトルする……それが見たいのです。いわば私はあなた方の熱狂的なファンと言ってもいいでしょう」

 

「マスターはウィクロスが大好きなんですよっ。今までの皆さんのバトルも食い入るように見ていたんですから。こんな風に、こんな風にっ」

 

 ワダツミの言葉に続き、トヨタマヒメと名乗ったルリグが目を大きく開き身振り手振りのジェスチャーを行いながら言った。

 

「"見ていた"って……どうやって……?」

 

「あたしたちを夢の中だかなんだか、こんなよく分からない場所に連れてこれるんだ。ルリグや繭と同じように、何か不思議な力を持ってるんだろうね」

 

 ワダツミを怪しむ一衣に対して、現状に順応しつつある遊月が答えた。

 

「私は未完成な"あの子"とは違う。真の報酬……"願いを叶える"ことが出来ます。敗北してもあなた方の魂に影響を与えるようなことはしません。ただ私は見たいのです――あなた方の燃えるような――熱い戦い。氷のように――冷たい戦略。緻密な判断力と時に黒い意志の洞察……。あなた方少女は、ウィクロスによってそれらの要素を露にする」とワダツミは言う。相変わらず表情は見えない。

 

 何人かの少女は"願いが叶う"という言葉に、ぴくりと反応していた。――だが、拭いきれない。疑念を、疑惑を。

 

「それでも断る――といったら?」文緒は表情を変えず、言った。

 

「バトルをしない……その場合、あなた方はここから出ることは出来ません。私はどうしてもあなた方の戦いが見たいのでこのような強引な手段をとらざるを得なかったのです。勝てば願いを、負けても罰はなし……ただし戦わなければ脱出は叶わず。ここから脱出させる時は、この場にいる全員を一緒にすることを約束します。この条件をどうか受けて入れてもらえないでしょうか」とワダツミは言う。

 

「腰は低いけど言ってることがめちゃくちゃだ……。――でも、やるしか選択肢はないみたいだよ。るう子」どうする? と遊月はるう子の方へ振り返る。

 

「私は……――」

 

 セレクターバトル。るう子にとってあまりいい思い出ではない。しかしやらなければずっとここから出られない。かといってあのワダツミの言うことを鵜呑みにするのは危険な気がする――とるう子は思っていた。

 

「……どうやらまだ私に対して疑念を抱いている方がいるようですね。――分かりました。では私の力を証明しましょう。ひとまず、この場にいる少女達の中で"最も強い願いを持つ"少女の願い……それを叶えて見せましょう」

 

 その言葉に少女達の誰もが耳を疑った。

 

「願いを……」

 

 晶は思わず自らの頬の傷を手で押さえる。執念……傷を治したいという思いはとても強い。もしかしたら自分が――と。そう思っていた時。

 

「……小湊るう子。あなたには会いたい人物がいますね?」ワダツミは、突如るう子に語りかける。

 

「会いたい人物……」

 

 そういわれて、るう子が真っ先に思い出したのは三人の人物。タマ、ユキ、マユ……。

 セレクターバトルを通じて出会った友達であり、そして今は会えない少女達。

 るう子は冬の日から今まで、ずっと思い描いてきた。彼女達と再会する日を。

 

「……います」

 

 だから答えた。嘘偽りのない、自分の思い……願いを。

 

「ならばその一部を叶えて見せましょう……これが力の証明となることを願います――タマ」ワダツミがトヨタマヒメに語りかける。

 

「合点合点、承知です。マスターっ」

 

 トヨタマヒメはびしっと敬礼をすると、ふっとモニターから姿を消した。そして音も無く時間差も無く、トヨタマヒメはセレクターたちの集うホールに現れていた。

 近くで見るとよりタマに似ている……るう子はふとそう思った。

 

「私は受け入れる……選択者の理を――」

 

 そしてトヨタマヒメが"あの言葉"を紡ぎ始める。セレクターが夢限少女となる、あの宣誓を。

 だが、その後に紡がれた言葉は、少女達の知る宣誓とは少し異なっていた。

 

「今ここに、新たなる"願い"が誕生する――!」

 

 青い閃光がトヨタマヒメを包み、収束し、膨れ上がる。宣誓の終わりと共に、それは甲高い周波音を発し、そして拡散する。

 光があちこちに霧散する。しかしそれらは逆放射状にある一点に収束していく。やがてそれは人型を模って――。

 

 

 

 

「――タマ!?」

 

 真っ先に駆け寄ったのはるう子だった。その姿、今度こそ見間違えではない。

 はじめてあった時のように、タマは眠っていた。るう子の呼びかけに応えるように、ゆっくりと目蓋を開ける。

 二、三度、目をぱちくりとさせあたりをキョロキョロと見渡すタマ。そして目の前のるう子に気がつくと表情はぱあっと明るくなっていき――。

 

「るうっ!!」

 

 タマはるう子に飛びつくように、抱きついた。るう子はタマを受け止め、ぎゅっとその身体を抱きしめ返した。

 

「るう、タマ、ずっと会いたかった! ずっと、ずーっとるう、探してた!」

 

 タマはひたすらに自分の思いを強く叫んだ。もう離れないとばかりに、るう子の身体をぎゅっと掴んでいた。

 

「るうも……会いたかったよ、タマ――。本当に、会えて嬉しい……っ」

 

 突然の再会。一瞬、幻かも知れないと思うほど、それは唐突に訪れた。

 るう子は涙ぐみながら、タマを抱きかかえていた。

 

「……るう? 泣いているの? どうして? るう悲しいとタマも悲しいよ」

 

 まだ精神的な幼さゆえにるう子の涙の意味が分からないタマが、言った。

 

「これは悲しいんじゃないの。嬉しいんだよ、タマ。嬉しい時は、泣く時もあるんだよ」

 

 タマの純粋な言葉に、るう子はくすりと笑ってそう言った。

 

「信じていただけますか?」ワダツミはさも特別なことは行われなかった。とでもいう風に声色を変えずに言った。

 

「それ、は……」

 

 タマと再会できたことは純粋に嬉しいるう子。しかし何か引っかかる。願いが、こうも簡単に叶ってもいいものなのか?

 簡単に信じていいものだろうか。そう考えていた時――。

 

「るう子!! てめぇッ!!」

 

 がっ、と。るう子はふいに服を引っ張られる。視線の先には晶がいた。

 

「ふざっけんなよ……こんな、こんなルリグに会いたい……それが願い? じゃあなんだ!? あたしの傷はただ会いたいってだけの願い以下か!?」

 

 晶の、るう子の服を引っ張る腕に力がこもる。

 

「るうはっ……そんな。晶さんの願いを消したわけじゃ」

 

「同じことだろーが! あたしの傷は治らず、お前はルリグと再会した!! なんでッ……あの時もっ!! 今もッ!! てめぇはあたしの邪魔すんだよォ!!!」

 

 晶は激昂する。かつてのセレクターとルリグが再会する。ただそれだけのために自分の願い――顔の傷を癒すことを踏み倒されたのだ。

 ただでさえ短気の彼女が、感情を抑えることはできなかった。

 

「待ってくれ。今はそういうことを言ってる場合じゃないだろう……。モニターの人物が不思議な力を持つことはどうやら本当らしい。僕らをここに集めたのも間違いなくあの人だ。――とすれば、やはり僕達は従わなければここから出られない。今ここで願いが叶おうが叶うまいが、ここから出られなければ意味はない。違うかい?」

 

 物書きの性なのか。特異な状況を受け入れ、分析する文緒。冷静な物言いには、確かな説得力があった。

 

「確かに、言うこと聞かなきゃここから出られそうにはないよね。ペナルティもないって言ってるし……あたしらは受け入れるしかないんじゃないの」

 

 遊月も、文緒の言うことに賛同し頷く。

 全体の空気が、ワダツミの言葉を受け入れるという方向に向かおうとしていた。

 

「どうやら、承諾していただけるようですね」心なしか嬉々とした声色で、ワダツミは言った。

 

「ではまず、この中で最強のセレクターを決めていただきます。そのセレクターが私とバトルを行い、見事私に勝利できればあなた方を解放します」

 

 誰の返事も待たず、ワダツミは畳み掛けるように言葉を続けた。

 

「なんか条件増えてるし……で、もしそのセレクターがあんたに勝てなかった場合は?」当然の疑問。遊月は質問を投げかける。

 

「その場合はもう一度最強のセレクターを決め、そしてまた私とバトルしてもらいます。それがずっと繰り返されます。何度も言いますが、負けた場合のペナルティはありません」淡々と、ワダツミは言ってのける。

 

「それで、その。最強のセレクターはどうやって決めるんですか?」一衣はわざわざ挙手してから言った。

 

「スイスドロー……つまり、全員が全員と戦って、勝利数の多い者を最強のセレクターとしましょう。――……ただ、いささか人数が多いようですね。時間が掛かりすぎます……これでは私がつまらない。なので、こうしましょう、あなた方にはそれぞれペアを組んでいただきます。ペアは他のペアとバトルを行い、勝ち上がったペアの二人に私への参加権を与えます」とワダツミは言った。

 

 少女は全員で8人……つまり4ペアが出来上がることになる。

 この4ペアがそれぞれのペアとバトルし、勝利者を選定しようというのだ。

 

 一体誰と誰がペアとなるのか……少女達はお互いの顔を見やった。

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