Selector Neptuned WIXOSS 作:-Y-
「肝心のペアですが――ふむ」
ワダツミは少女たちの姿を見やり、頷く。恐らく向こう側からも少女達の監視が可能なのだろう。
「ではこうしましょう。"今隣同士のセレクター"をペアとします」
「今隣同士の――だって?」遊月はそう言って自分の隣を見る。植村一衣と目が合った。
それぞれのセレクター達も隣にいる者を確認する。
「頑張りましょうね、水嶋さん」
「……――っ」
伊緒奈は清衣と。
「ちより君……といったか。よろしく」
「は、はい……」
文緒はちよりと。これで三組のペアが完成した。
残りは――。
「晶……さん」
「……あぁ? なんであたしがてめぇと組まなきゃいけねぇんだ? ふざっけんなよ!!」
るう子は晶と。お互い良い印象ではない者同士のペアとなってしまう。
「これは既に決定したこと。では次にあなたたちにはルリグとカード……そしてデッキを構築する時間を与えます」ワダツミは晶の都合など知ったことかと、話を進めていく。
「当館の三階に、あなたたちの部屋を用意しました。遊月さん、一衣さんは階段を上がってすぐの部屋。伊緒奈さん、清衣さんはその隣。文緒さん、ちよりさんは遊月さんたちの向かいの部屋。同じくるう子さん、晶さんの部屋は文緒さんたちの向かいです。ではタマ、案内しなさい」
「はい、マスターっ。ではでは皆さん、タマについてきてくださいね」そういうとトヨタマヒメは館の階段を登り始めた。
「ねえ、るう。あの子もタマって」自分ではない"タマ"という名前に反応するタマ。どうやらトヨタマヒメのことは記憶にないらしい。
「あのタマ……トヨタマヒメってルリグ。タマのこと妹だって言ってたけど、目もくれないじゃん。本当なのかな」遊月がいぶかしむような表情でトヨタマヒメを見る。
「分からない……けど。今は気にしないでいたほうがいいと思う。勝って……ここから出してもらわないと」とるう子が言った。
「――それもそうか」
話しているうちに少女達は与えられた部屋に案内され、それぞれ部屋の中に入っていった――。
***
「は、花代さんッ!?」「緑子!?」
遊月、一衣が部屋の中に入ると、そこにいたのはかつてルリグであった少女。花代と緑子の姿があった。
事件の後は全てのルリグが元の人間に戻っていたが、何故か今はルリグの姿だった。
「どうしてここに? それにその姿――」遊月が駆け寄り、花代の身体にぺたぺたと触れる。
「分からない。多分あんたたちと同じ……あのワダツミってやつに連れてこられたはずさ。事情は聞いてる。バトルして勝てばここから出られる――そうなんだろ?」花代は腕を組んだまま、冷静に言った。
「うん……あのモニターの人はそう言ってた……。緑子も、そうなの?」
「ああ、僕も気づいたらこの部屋にいてさ……多分同じ説明を受けたと思う。恐らくこの部屋に一衣が来るんだろうなって、なんとなく思ってはいたけれど――」
と、緑子が話している時だった。
突如ブツリ、という音が聞こえたかと思えば、ワダツミの声が部屋内――いや、館内に流れ始める。
「諸君、もうルリグとの再会を果たしている頃だと思うが。ここで私からあなたたちへの贈り物……というか、有益な情報を教えよう」
「贈り物? 有益な情報だって?」これ以上何があるというのか。遊月は首を傾げる。
「君たちセレクターは"レベル5"の存在をご存知だろうか? 既にこの館内にいるセレクターの中でも、レベル5へのグロウを可能としているセレクターがいる」とワダツミは言う。遊月や一衣はすぐにるう子のことを指しているのだと気づいた。
「でもそれは公平じゃない。私が見たいのは、したいのは公平の上でなりたったデッキ構築……戦略……読み合い。だからこの館内のバトルにおいて、君たちセレクター8人全員にレベル5へのグロウを許可することにした」
「あたしたちに……レベル5の力が?」かつて見たるう子とユキ……。そのレベル5の力は計り知れない能力を持っていた。あれが使えるなら――と、遊月の手に力がこもる。
「デッキ構築に必要なカードプールはそこらにあるボックスから自由に使用してくれて構わない。今から一時間後……第一回戦を執り行います。組み合わせはこちらで決めておきますので、それまでにデッキを作成しておいてください……以上」ブツッ。という音と主にワダツミの声が聞こえなくなった。
「今から一時間か……。皆、よく聞いて。この総当り戦はあくまでも最強のセレクターを決める戦い。勝ち抜いて最強に選ばれたセレクターがワダツミって人と戦って、勝てば全員がここから出られる――ってのは、花代さんも緑子も聞いてるよね?」
と、遊月が周りを見やり言った。
「ああ、私らが聞いた説明と同じだな。負けた場合にペナルティがないってのも聞いてるよ」と花代が返した。
「うん、これはかつてのセレクターバトルとは違う。本気同士でぶつかって、一番ワダツミに勝つ可能性のあるセレクターを選出しなきゃあ駄目なんだ。それがたとえるう子が相手であっても。手加減はなし」遊月はぐっと拳に力を込め言った。
「ああ、勝とう。勝ちに行こう。一衣、頑張ろう」
「――うんっ」
***
「ねえ見てあきらっきー、カードがたっくさんあるよ~」
るう子と晶の部屋。ルリグのミルルンと再会した晶は先ほどの館内放送を聞き、早速デッキ構築を始めていた。
「ねえねえあきらっきー、ミルルンこのカード使いたいなぁ~、光るんるーん」ミルルンが最新のレアカード、シロナクジを手にとって言った。
「そ、そのカードは水獣だから……原子シグニを使うミルルンには合わないと思う……」るう子は恐る恐る言った。
「こっちのデッキに口出ししてんじゃねーよ、るう子。何を入れようがこっちの勝手だろーが。ああ?」晶はそう言ってるう子の胸倉を掴み、そして突き放すように身体を押した。
「るうにいじわるしちゃ駄目っ!!」すかさずタマが晶の前に立ちふさがる。
「い、いいんだよタマ。こっち来て、ほら、一緒にデッキ作ろう」
「るう……」
このペアのチームワークは他セレクターと比べて劣悪だと言ってもいいだろう。
二人一組同士で戦うということは、勝ち抜きパターンは二種類。まず二人ともが対戦相手に勝利すること。そしてもう一つは一人が勝ち、一人が負ける。そして勝った方が自チームのもう一人を負かした相手と対戦し勝つことである。
つまりこの戦いは、チームメンバーを負かした相手に勝つということを視野に入れてデッキを構築しなければならない。それゆえチームワークが重要になってくるのだが――。
「(やっぱり、晶さんはるうのこと……)」
るう子はあまり積極的な性格ではない。更に晶のような派手というか、感情をむき出しにするタイプにはどう接していいか分からなくなってしまう。
でも、それでも勝たなくては――。と、るう子はすぐに思考を切り替える。幸いにも、脱出する方法は自分の得意なウィクロスに勝つこと。
勝ち抜いて、皆を脱出させる。それが今のるう子の思いだった。それに――。
「ねえ、るう。タマこのカード使いたい!」
「えっと、どれどれ――」
今は、会いたかったタマがいる。タマと二人ならどんな戦いも乗り越えられる。るう子は確かな安心感を得ていた。
そうして数十分が経ち、デッキの方向性も決まってくる頃。るう子はまだ決定的なことを決められずにいた。
「(皆がレベル5を使えるようになった……。でも、タマのレベル5は……)」るう子は楽しそうにカードを手に取るタマを見つめる。
そう、タマヨリヒメには現状二つのレベル5形態が用意されている。
一つはタマとユキを融合させたグロウ――これにはユキの存在が不可欠である。ユキがいない今、それは不可能。
もう一つは黒天のタマ。黒の力を宿したタマである。しかしこの形態のタマは我を忘れて攻撃的になる、タマにとっていい思い出ではないもの。
現に黒天にグロウしたタマは、こんな自分はるう子見られたくない――その思いで自分の存在感を消したこともあったほど。
きゃっきゃ、と無邪気にカードと触れ合うタマを見ていると、るう子は黒に染まるタマはもう見たくないという思いが強くなってくる。
例えどれだけ強い能力を持っていたとしても、タマを黒に触れさせてはいけない――るう子はそう考え、別の戦略を練る。
「ねえタマ、聞いて。今から組む、るう達のデッキのこと――」
そうしてるう子の口から紡がれる戦略。タマにはるう子の言う難しいことはわからなかったが――信頼。るう子への信頼で、頷き承諾した。
るう子とタマは同じ気持ちだった。当時はバトルすることへの抵抗があった。しかし今回は閉鎖的な空間――閉じ込められているという状況とはいえ、相手を負かしても誰も不幸にはならない。
"勝つために全力を尽くすことができる"という意味では、二人には今までにない生き生きとした表情……バトルを楽しみにしている節があった。
るう子は、それに罪悪感を感じることは無かった。またタマと一緒にバトルが出来る。全力で勝ちにいく、そんなバトルをすることができる。
デッキも組み終わり、数分経った頃、デッキ編集終了を告げるアナウンスがワダツミから告げられた。
「行こう、タマ!」
「うんっ!」
出会った頃のような、ウィクロスを純粋に楽しむあの笑顔で。
るう子とタマ。二人は戦場へと向かっていった――。