ちなみに主人公は洩矢の国では妖怪退治を生業としていました。
生贄制度を無くしてから早一年たった。はじめの頃は戸惑っていた人々も次第に落ち着き、俺が来た頃のような雰囲気はなくなっていた。
「ああ、お茶がおいすぃー」
本日は仕事もないのでお茶を飲んでいる。
それと関係ないが使える魔術が1つ増えた。強化の魔術だ。まさか習得に一年中かかるなんて思ってもみなかった。
「本当に仕事が無いとだらけてるのねー、あなたは」
「いいだろ、久々の休暇なんだから。それより諏訪子こそ何もしてないだろ」
「こう見えてきちんと仕事してるよ、それなりに…」
うむ、諏訪子は今日も暇そうだ。とは言ってもやる事がない…そうだ、いいことを思いついた。
「なあ諏訪子、1つ相談があるんだけど」
「なーに、改まって」
「た、旅ぃ!?」
「そうだ、旅だ」
「なんでまた唐突に…」
「いやぁ、俺ももっと世界を見て回りたいって言うか、修業したいって言うか…」
「あなたの仕事はどうする気!」
「任せた」
「やだ」
「いいだろそんくらい、だいたい妖怪退治なんてお前の方がすぐ片付けられるだろ?」
「そりゃ、そうだけど…」
「はい決まり、じゃ、行ってくる」
善は急げって言うし、早く行こう!
「い、いつぐらいに帰ってくるのー!」
「気が済んだらー!」
そして俺は最低限必要な物を持ち洩矢の国を後にした。
「さて、気苦労も無くなったしどこに行こうか。」
気がついたら昔水浴びした川にきていた。取り敢えず今日はここで野宿かな。
「それじゃ、始めますか」
次に習得するつもりなのは投影だ。この魔術は簡単に言うと1度材質や形状を読み取った物をなんと、いつでも作り出せるという優れものなのだ。是非習得したい。
「よし…やるぞ…」
大きく深呼吸をして、魔術回路を開く。イメージするのは長年愛用した剣だ。
「…っ!」
次の瞬間、俺の手にはひと振りの剣があった。
「よ、よし…」
だが安堵したのもつかの間、剣は炸裂音と共に粉々になってしまった。
「く、くそ…まだまだ先は長いな…」
あれから散々修業したが結局一度も成功しなかった。ほんと自分の才能の無さに辟易する。
「なんだか面白そうなことをやってるね、盟友」
「ん?だれ?」
自己嫌悪に陥りそうになっていたら急に声をかけられた。にしても誰だこいつは。
「忘れたのかい?前にここで会ってるはずだけど」
前にここで?…ああ、あの時の河童か。てか未だにコイツが河童とはおもえん。
「ああ、思い出した思い出した。それで?なんか用か?」
「いやぁ、なんだか面白そうなことやってるなーって思ってね」
「面白くはないと思うぞ、こんなの」
実際、魔術の修業は別段面白くないらしい。この前見学だのなんだの言っていた諏訪子は飽きて寝ていたし。
「そうかな?私は面白いと思うけど…」
コイツって意外と変わったやつなんだな。
「あ、そういや…」
「どうかした?」
大切な事に気づいた。野宿するのはいいが俺は火が起こせない。このままじゃこの寒空の下お陀仏しかねない。かといって洩矢に戻るのもなんかなぁ…
「なあ、突然で悪いんだけどさ、ここいらに人が住んでる村みたいなところってないか?洩矢の国以外で」
「洩矢の国以外か~…たしか仲間があの山を越えると小さな村があるって言ってたっけ」
彼女の指の先には綺麗なもみじ色に染まった山があった。正直あの山を越えるのは面倒くさいな。
「あの山か…となると今日は野宿で何とかするしかないのか」
「なに?ひょっとして家出したけれど宛がない、って感じ?」
「ま、そんな感じだよ」
家出ではなく修業だけど。
「なら、私の家にでも泊まっていく?」
「お前の家か…」
ここは声を上げて喜びたいが、実際そうもいかない。なぜならコイツが女(?)だからだ。しかも見た目はどう見ても年下の少女だし、おれ童貞だし。
「う~ん、気持ちは嬉しいけど…」
「大丈夫、きちんと持て成しはするからさ!」
そういう理由じゃないんだけどな…
「それに、こんなところで寝てたら妖怪に食べられちゃうかもよ?」
妖怪のお前がそれを言うか。
「まあ兎に角ついて来てよ!」
一晩くらいなら頑張るか…
河童に先導されながら川を上流に歩くこと体感で約10分、木製の一軒家にたどり着いた。
「ようこそ私の家へ!さあ上がって上がって!」
「お邪魔します」
「あ、そうだ。見てよこの扉!珍しいでしょ!ついこの間完成したんだ~」
そう言って彼女はドアを開け閉めする。なるほど、気がつかなかったがこの家はどうやらこの時代にはないであろう洋風な作りらしい。
「うん、確に珍しいね。他所じゃ見ない作りだ。」
「でしょ!この家はね、何を隠そう私が便利性を追求して1からつくったのだ!!」
「一人でつくったの!?」
「材料は他の仲間に貰ったりしたけど、設計と組み立ては私だけでやったよ」
どうやら彼女には凄い才能があるらしい…だけど…
「なんだ、仲間は組み立てとか手伝ってくれなかったのか?」
そう、これが気になっていた。仲間がいるなら手伝ってもらった方が効率もいいはずだ。
「…いやぁ、なんか私の考え出した物は変だって言われててね…だからこういうものは一人で作るんだ」
「意外と河童も大変なんだな…」
「もう慣れたよ。それより中も見てよ!」
なんか暗い空気になってしまった…この空気に耐えきれず言われた通りに中に入る。
「おお…これは凄いな…」
中はまるでファンタジーゲームに出てくるような全て木出てきた家だ。そう言えば死ぬ前はこんな家に住んでみたいって思ってたっけな。
「ふふん、私のこだわりが詰まってるからね~」
「なあ、もっと見ていいか」
「散らかさなければ別にいいよ。それじゃあ私はご馳走の用意をしてくるよ!」
あれからしばらくして彼女のいう「ご馳走」を食べる事いなった。だが…
「……」
「……」
「なあ」
「なにー」
「何故にきゅうりなんだ?」
「何故って、美味しいから?」
俺たちは今、無言できゅうりをたべていた。
彼女の言っていた持て成しはこの事らしい。そりゃ河童といったらきゅうりだけどさ…
「お、俺って今晩どこで寝ればいいんだ?」
「……」
だめだ、聞いちゃいねぇ。
「な、なあ…」
「そこ使っていいよ、私はそこで寝るから」
彼女が指さしたのはベット(と言っていいのだろうか)であった。そして彼女はソファー(と言ってry)で寝るらしい。
「おう、わりぃな」
「…」
「て、てかさ、きゅうり意外何か無いかな~なんて…」
「あのさ」
「は、はいぃ!」
突然ドスの効いた声で返され情けない声を上げてしまった…まあここには俺とコイツの二人しかいないから別にいいが。
「いい?きゅうりを食べるときはなんていうか、救われてなきゃいけないんだよ…こう静かで豊かで…」
「お、おう…」
どうやら彼女はきゅうりが絡むとものすごいこだわりを見せるみたいだ…もう話し掛けるのはよそう。
きゅうりを食べ終え俺達は床についた。とは言っても俺はベットで彼女はソファーだが。
…………寝られん、きっと仮にも女の子が居るからか…まぁ仕方ないね。
それにしても、これだけのものを一人で作れるにも関わらず周りに理解されないなんて
「不憫だよな…」
まあ前の世界には死んでから評価された芸術家が居たからよくあるのかもな。
「てかもう寝ないと明日がヤヴァイ…」
一先ず考えるのは明日にしてもう寝よう…