目的地の山についたのは太陽が真上に登った頃、つまりお昼時だった。
「ふ~、やっと着いたな。」
「全く、何で数ある選択肢の中から山を選ぶかな」
どうやら桜花は山に登るのは反対らしい。それもそうだ、なにせ河童だからな。
「いいじゃん、山には食料が沢山ある」
「食料より水がほしいよ私は…」
「水だってこの山にあるかもしれないだろ、探す前からない事前提で考えるなよ」
「いや、わかるよ。水はこの山を越えた所にしかない。つまりは山を超えなきゃいけない」
「え、何でわかるんだ」
「さあ?何か川から離れたせいかわからないけど、水源の位置が正確に分かるようになったんだ」
つまりは能力に目覚めたという事だろうか。これはこれでとても興味がそそられる。
「なるほどな…つまり俺らは水を探して奔走する必要がなくなったという訳か」
「私からしたら水が遠くにあればある程絶望的な気分になるんだけど…って無視すんなよー!」
なんかぶつぶつ言っている桜花はを無視して昼食を探すため山を登り始めた。
「ねぇあのさ」
猪でもいないかと山を散策していた時、不意に桜花が口を開いた。
「天狗って知ってるでしょ」
「ああ、聞いたことはある」
天狗と扇を持って空を飛んでいるイメージしかないが。
「天狗がどうかしたのか」
「なんていうかさ、天狗とはあまり関わりたくないんだよね…」
「なんだ昔イジメられてたりしたのか?」
「いや、そうじゃないんだけど…」
「そうじゃないんだけど?」
「あいつらめんどくさくて…」
なんかどうでもいい理由だった。というかただの愚痴だった。
「何だそんな理由かよ」
やれやれと溜息をついたそのときだった。
「そこの二人、止まってください!」
突如鋭い声が響いた。
「なんだ?」
「あ〜あ、やっぱり見つかったよ…」
上を見上げるとそこにはなんと、抜き身の剣と盾を持った少女がいた。
「おい見ろよ、空飛んでるぜ…」
「あれが天狗だよ」
「て、天狗!?どう見ても普通の女の子だろ?それになんか白いぜ?」
「あれは白狼天狗って言って主に見張りや哨戒をしてる俗に言う下っ端さ」
桜花は心底不機嫌そうに言った。それにしてもパンツとか気にしないのだろうか。なんてことを考えてると白狼天狗は声を大にして言い放った。
「この山は我々の縄張りです。これ以上進むのなら容赦はしません」
「だってさ、どうする?」
「なんで私に聞くかな…自分で決めてよ」
桜花はそれだけ言うと黙ってしまった。
「なあ天狗さん、俺達は何もアンタらを退治しにきたわけじゃ無いんだよ。だから通してくれないかな?」
「残念ながらそれはできない相談ですね。」
交渉する耳は持たないということらしい。こうなったら意地でも通りたくなる。
「そうか、ならこっちにも考えがある」
「な、何ですか…?」
一歩ずつ天狗に近づいていく。彼女はというと剣と盾を構え臨戦態勢と言った感じだ。
「なあに、そんなに大それたもんじゃないさ」
そう言って後ろで傍観していた桜花に目配せをする。すると何かを察したのかこちらに歩いてきた。
そして天狗の近く…地上だったらギリ手が届く距離…に立ち、彼女を指差して叫んだ。
「ここを押し通らせてもらうぞ!白パン少女!」
「っ!!」
「走れぇ!桜花ァ!」
彼女が自分のスカートを抑えた瞬間、二人して山頂目指して走り出す。
「あっ!まて、この変態!!」
そんな言葉を無視して全力で走る。当然脚には強化の魔法をかけているため普段より疲れない上に速い。
「全く、なんて適当な作戦なんだよ!このままじゃ囲まれるよ!」
「そんときゃそん時さ!」
そんなやり取りをしながら駆け上がっていると、不意に笛の音が鳴り響いた。
「夕霧…あいつらが来る…」
「あいつら?」
すると突如目の前に人影が現れた。
「止まるんだ!そこの不審者!」
どうやらまた白狼天狗のお出ましのようだ。しかもさっきのとは違うようだ。
「…増援かよ」
周りを見渡してみると至る所に白狼天狗がいた。しかも皆さんこちら、おもに俺を睨んでいる。つまりは八方塞がりというわけだ。
「さがってな池谷、強行突破する」
右手指を相手に向ける。そのときだった。
「征伐!!!」
「ぐはぁ!」
背中に鋭い痛みが走った。
「うん?…ここはどこだ…」
「牢屋だよ」
身体を横たえたまま声をした方を向くと桜花がむすくれた顔をしてこっちを見ていた。
「牢屋…って事は捕まったのかー」
「どうしてそう楽天的なのかなーアンタは」
「どうしてって言われても…何とかなるだろ」
「その心は?」
「ほぼ思考を放棄しました」
「ふざけんな」
正直に言ったら怒られてしまった。それもそうだ、このままどうなるか分かったもんじゃないからな。
「じゃあどうする?見張りもいないし脱走でもするか?」
「あの格子をどうにか出来たらね」
そう言って桜花は木製のおよそ斧や鋸でも使わなければ壊せないであろう格子を指差した。
「ってかここどこなの?どこかの洞窟みたいだけど」
「ここはね…近くの水源の位置から見て、捕まった所の真反対の所だね」
「へ~。て事はここから降りていけばその水源とやらに着くのか」
「そう、ただし問題が二つある」
そう言うと桜花はこちらに向けて指を二本立てて見せた。
「まずはこの格子、これを何とかしないと始まらないね」
「それについては俺にいい考えがあるから大丈夫だ」
「そう、アンタが言うなら大丈夫だろうね。じゃあ二つ目だけどこれが1番重大だねぇ」
桜花ははぁと溜息をつくと頭を抱えた。
「天狗共の包囲網をどうやって掻い潜るか、だろ?」
「そうそう、それだよーそれ」
「天狗かぁ…」
正直に言うと天狗共に見つからずに下山する自信はない。なにせあのスピードと統率性、それにあの数だ。一人でどうこうできる筈がない。
「つーかさ、腹へったぜ…」
「う、そういえばお昼ご飯まだだったねぇ…」
このままだと殺させる以前に餓死してしまう。とにかく何かを腹に入れなければいけない。
「よし、脱走するぞ」
「それしかないみたいだね」
体に力を入れて立ち上がり、格子に近づく。
「よし、ちょっと離れててくれ」
「何するの?」
「いーからいーから」
手元を覗き込もうとしている桜花を奥に追いやり、格子に小さな赤い宝石を1つ乗せる。
「よし、じゃあ見せてやる!俺の新しい魔術を!」
宝石に手をかざし魔力を流す。すると宝石が輝き出した。
「爆ぜろォォ!」
一際大きく輝いた次の瞬間、爆音と共に格子が吹き飛んだ。
「とりあえず成功かな、何とか人が通れるくらいにはなっただろ」
「ほえー、アンタいつの間にそんなことが出来るようになってたんだい?」
「洩矢にいた頃から宝石魔術を少し齧ってね、魔力だけは込めてたんだよ」
「ということは一発で成功したって事?」
「まぁねー…ってそろそろ行かないと、誰か来ちまうぞ」
そう言って出口を指差す。
「そうだね…早く出ようか」
「まだ誰も気づいてないな…ってか案外耳が遠いのかあいつら」
あの爆音で気づかないというのは間が抜けすぎていると俺でも思う。
「よしそれじゃあ……そういえば池谷」
「ん?なんだい?」
さっきまで気付かなかったが改めて見ると桜花があの大きなリュックサックを背負っていない事に気づいた。
「あの大荷物はどうした?」
「取られたんだよ、あいつらに」
どうやら捕まった時に没収されたらしい。
「なるほどな…」
「別にあれくらい、後でまた作り直せばいいから取り返そうなんて考えないでね」
「いや、とって来る」
確かあれには桜花の家の鍵が入っていたはずだ。そんな大切なものを取り返さないわけにはいかなかった。
「どうしてアンタはそう無茶なことを進んでやろうとするかな?私は別に…」
「職人にとっては道具は命だろ?だから取られたままにしておけないのさ」
それだけ言いおれは山の山頂へ向き直った。
「夕霧…」
「先に下山して昼飯用意しといてくれよ。それじゃあ行ってきます」
それだけを言い残し俺は山頂を目指して走っていった。