天狗達の住処であろう山頂付近へ足を進めている途中、不自然なことに気がついた。
「おかしいな、見張りのワン公どもがいねぇ…」
流石に山頂付近ともなると迂闊に近づけないものかと思っていたがそんなことは無かった。ただ、それがかえって不気味に感じた。
「ひょっとして罠…?いや、だとしたらなんのために…」
そんな事を呟きなが進むと、とうとう天狗達の住処についてしまった。
「うわぁ…簡単に着いちまったよ。てか誰も居ないな」
万全を期す為に物陰に隠れながら進むと広場のような開けた場所に出た。
「うーん…怪しいったらないぞこれ…ん、あれは…」
よく見ると広場の中央辺りに人だかりのようなものができていた。さらには大きな笑い声等が聞こえてくる。
「祭りか何かか?じゃあ今の内に探すかな」
俺は近くにあった納屋から探すことにした。
探し物は案外早く見つかった。それとなぜこんなどんちゃん騒ぎをしているかと言うのも何となくわかった。簡単に言うとここの長の娘が初めて手柄を立てたかららしい。
「はぁ~、手柄って俺か…ってか白狼天狗って下っ端じゃないんだっけ」
そんな事を考えながら足元に目をやると、陶器でできた小さな壺のようなものが目に入った。
「なんだこれ、貰っとこっかな…って中に何か入ってる」
壺の蓋を開けて匂いを嗅いでみる。
「ふぅん、酒か…よし、このままやられっぱなしもあれだから貰っとこ」
桜花の荷物を背負い壺を俺の荷物入れに入れようとしたその時、突然戸が開いた。
「…」
「…」
そこにいたのは案の定白狼天狗だった。ただし最初に会った奴ではなくもっと人の良さそうな顔をしている。俺の見立てだが。
「…だ!」
「そい!」
仲間を呼ぼうとしたので喉を右手で思い切り掴み、納屋の中に入れて足で戸を閉めた。
「おっと、あんまり暴れんなよ?」
「…かぁっ!くっ!」
俺の手を振り解こうと両手で右腕を掴む。
「ふっ!」
天狗の足を払い床に叩きつけ、小さな声で言ったら。
「いいか、俺は別にお前を殺そうとしないし他のにも危害を加えるつもりはない。ただお前らに盗られたものを取りに来ただけ。わかる?」
天狗は今にも泣き出しそうな顔で俺の右腕をを掴んでいる。その手自体には全然力が籠ってないが。
「とにかく俺はここから早くおさらばしたいんだよ。だからさ、このことは秘密にしてくれないか?」
天狗は必死に首を縦に振ろうとしていた。
「よし、じゃあ離してやるけど騒ぐなよ」
天狗の喉から手を離す。すると一目散に納屋の角に行き自分の肩を抱いた。
「…いや、何もしないよ?二人きりだからって」
「悪い人はみんなそう言います」
「うーん、まぁ別にいいけどさ、もうここにも来ないだろうし」
「…体目当てじゃないとしたら何が目的でここにいるんですか」
「えーとね、この大荷物と…ついでにこれ」
そう言って近くにあった壺を指さした。
「酒、ですか」
「そ、てなわけでもらってくわ」
壺を俺の荷物入れに入れ再び彼女を見ると、鋭い目つきでこちらを見ていた。
「もしかして、なんかして欲しかったとか?」
「そ、そんな訳あるか、この変態!」
「はいはい、そんじゃあそう言う事にしとくよ。それじゃ、また機会があったらよろしく」
「次会ったら殺す…」
不吉な言葉を無視して俺は納屋を出た。
山の麓まで降りると桜花が火を炊いて何かを焼こうとしているのが見えた。
「おーい、池谷ー」
「!、夕霧!!」
「何でそんなに驚いているんだよ」
「だって、一人で行っちゃうから…」
「俺はそんなに信用が無いんですか〜」
「そ、そういうわけじゃ…」
桜花が泣きそうになってきたのでそろそろ辞めてあげるかな…っていうか俺はそんなに弱く見られていたと思うと少し悲しくなってくる。
「ああ、心配してくれてたんだろ?ありがとな」
そう言って焚き火の前に腰をおろす。
「そういやさ、これお土産」
「これは…酒?」
「うん、ちょっと失敬してきた」
「失敬って…」
「まあまあ、それより昼飯は?俺腹減っちまったよ」
そう言ってわざとらしく腹をさする。
「もう昼って時間じゃないけどね…これだよ」
そう言って俺からリュックサックをぶんどり中からあるものを取り出した。
「ジャジャーン!魚の干物!」
そう言って川魚の干物を取り出した。
「おっ、旨そうだな、早く焼こうぜ」
魚を串に刺して焼こうとした時だった。
「見つけた!」
どこかで聞き慣れた声が響いた。
「…この声はっ!」
上を見上げるとそこには納屋で出会った天狗のがいた。
「よー、また会ったな」
「夕霧、知り合い?」
「友達だ」
「んな訳あるか!」
「違ったっけ?てか何の用だよ、見逃してくれんだろ?」
はぁとため息をつき首を振る。はっきり言ってもう疲れた。
「脱走犯を拘束します!」
「約束破んのかテメェ!」
「約束なんて知るか!私は!手柄が欲しいんだ!」
彼女は腰に下げた剣を抜きこちらに向けた。どうやら本気のようだ。
「しゃーねー奴だなー。池谷、下がってろよ」
「う、うん」
池谷が避難したことを確認し、即座に剣を投影する。
「さあ、かかってこいよワン公!」
「殺してやる…!」
「おらっ!」
左手でガンドを3発放つ。空を飛べない俺はこれくらいしかできないが、少なくとも威嚇くらいにはなる筈だ。
「こんなもの!」
彼女はそれをものともせずこちらに滑空してくる。
「その首…飛ばしてやる!」
「当たるかバーカ!」
それを横に跳びよける。
「動きが直線的過ぎるぞ、まるで猪だなぁ」
「…っ!こいつ!」
即座にこちらに振り向き今度は地面を滑るようにして殺到する。
「そぉい!」
今度は上に跳びこれを回避する。
「どうした〜、この首を飛ばすんじゃないのか〜?」
「クソがぁぁぁぁあ!」
「はぁ…はぁ…ちょこまかと…」
あれから避け続けて5分は経っただろうか?どうやら相手は大量が切れ始めたらしい。
「ん〜、自身の速度と空にいるって事を武器にして戦うってのはいいけど、ちょっと飛ばし過ぎじゃない?」
「だ、黙れ…!」
再びこちらに滑空する。しかし初めに比べるとかなりスピードは落ちていた。
「よっと」
相手の剣を正面から受け、つばぜり合いのようになる。
「やっと、捕まえた…」
「気を抜くなよ?」
相手の剣を左に受け流す。すると思っていた以上に体勢を崩した。
「っそぉい!」
「ぶがっ!」
その隙に横っ面に回し蹴りを叩き込む。すると力なく吹っ飛んでいった。
「くそ…どうして人間なんかに…」
「まだ立つのか…ってかもう飛ぶ力も残ってないだろ?」
彼女は剣を杖のようにして立ち上がった。
「はぁ…全く…」
俺は剣を手放し、腕を組んで言い放った。
「来いよワン公、剣なんか捨ててかかってこい」
「人間が…馬鹿にしやがって…」
杖にしていた剣を手放し、こちらを睨みつけてきた。
「この野郎、ぶっ殺してやる!」
大勢を低くしこちらに向かって走る。少なくともさっきよりは速い。
「ふっ!」
それを横に跳びまた避ける。
「とう!」
そして彼女の着物の襟を掴む。
「ぐぁ…」
「っらぁ!」
そしてこちらに引き寄せ腰に膝蹴りを入れる。
「かぁっ…!」
短い断末魔の後力なく崩れ落ちる。
「全く、疲れることさせるなよ」
「…死んだの?」
桜花がおずおずと聞いてくる。
「いんや、気絶してるだけ」
彼女を仰向けに寝かせる。呼吸はしているので生きている。 筈だ。
「さあ!早く飯食って出発だ!」
「彼女は?」
「そのうち起きんだろ」
それだけ言って俺は焚き火に薪を足し、干物を焼き始めた。
「ふー、食った食った」
「ねぇ、彼女本当に大丈夫?」
「平気だろ、呼吸してるし」
「ならいいけどさ…」
桜花がバツが悪そうに俯く。彼女の性格だ。どうせ心配で仕方が無いんだろう。
「なぁ池谷、水筒の予備持ってるよな」
「あるけど…」
「貸してくれ」
桜花から瓢箪でできた水筒を受け取り、そこに酒を入れていく。
「ちっとこぼしちゃったけどいいか」
「…今から飲むの?」
「んな訳あるかよ」
そう言って気絶した天狗に水筒を握らせた。
「さあ、そろそろ行こうか」
「…うん、そうだね!」
俺達は火を消し、その場を後にした。