艦娘はいつ死ぬのだろう?
海深くに沈む中で如月は思っていた。
光に伸ばしていた手に力はなく、
沈むがまま、手を伸ばすことも諦めていた。
後悔は山ほどある。
睦月には重荷を背負わせてしまったとも思っている。
しかしあの時は、ああするより他はなかった。
だから後悔以上に、満足していた。
艦娘はいつ死ぬのだろう?
被弾して粉々になることはない。
沈むこの中で死ぬのだろうか?
窒息? しかし息はまだ続いている。
不思議と苦しくはない。
如月は、海に抱かれていた。
それは死ぬ寸前の状況で、
多大な安心感を与えてくれる。
このまま苦しみもなく、
泡のように消えてしまうのも、
きっと悪いことではないのだろう。
如月は目を閉じた。
人間だった頃の故郷に思いを馳せた。
「……」
お母さんという言葉が、
泡と共に浮かび、天に昇っていった。
第4話 落ち込む君の慰め方
如月が沈んだ。
それは駆逐艦の少女たちにとって、
大きなショックだった。
駆逐艦から戦艦に至るまで、
全員が彼女の死を悼む。
しかし艦娘には、悲しんでいる暇はない。
「死者を悼むは良し。
死者を思うは悪し」
鎮守府で、提督が残している言葉だ。
いない者を思い慕い続けていると、
死者に足を持って行かれ、
冥府に落ちてしまうというのだ。
そんな迷信があるはずないと誰もが笑っていた。
だが今、吹雪はその言葉に寒気を覚えている。
睦月は、如月が沈んだことを、
誰よりも悲しんでいる。
しかしそれを表に出さない。
そして声も出さない。
一言二言あっても、
それ以上はしゃべろうとしない。
食事の時も、入渠の時も、
どこか虚空を眺めて思いにふけっている。
十分な睡眠も出来ていないのだろう、
睦月の目の下には、くまが出来ていた。
だが訓練には、演習には、
これまでの3倍以上打ち込んでいた。
真剣そのもので、少しでも吸収し、
自分のものとしようと躍起になっていた。
吹雪も努力するが、
今の睦月の努力の仕方には、
自分を顧みない危うさがある。
本当に、何かに取り憑かれたかのようで。
その憑いた何かに、冥府に引っ張られてしまいそうで。
吹雪は、言い知れぬ不安を胸に、
睦月の無茶に付き合った。
何かあっても守れるように。
「駆逐艦如月の消息は不明。
海流と時間を計算して、轟沈地点を割り出したものの、
潜水艦は見つけられませんでした」
作戦室。
大淀の発言に、長門は沈黙で応えた。
傍らにいる陸奥も、難しい顔をしている。
どうにかして、遺体だけでも見つけたかった。
今の睦月の状況、
そして鎮守府の駆逐艦に漂う空気は、重い。
如月の轟沈は、長門も悔やむところであった。
あの場に自分がいればもしかしたら。
という言葉も飲み込んだ。
最後の、道連れ目的の無茶苦茶な砲火。
一箇所に固まれば集中砲火で全員轟沈すると判断し、
散開して合流地点を決めたこと。
その現場判断は正しい。
あの場に自分がいても、
同じ判断をしていただろう。
「潜水艦の子たちは?」
沈黙を守る長門に代わり、
陸奥が大淀に質問した。
「まだ探すと言ってました。
彼女たちも諦めきれないのでしょう。
燃料などの消費につきましては」
「……構わん。提督も、許すだろうからな」
口を開いた長門は、
提督という単語を反芻した。
こんな時に提督がいれば、
落ち込む艦娘に何か言葉をかけてやることも出来たのではないか?
今提督は、内地で何をしているのか。
憤慨こそしないものの、
秘書艦として長門は疑問に感じていた。
「それよりも……睦月ちゃんはどう?」
陸奥の疑問に、大淀は瞑目して、
答える。
「あのままでは、沈みます」
「沈むって……」
「大袈裟に言ってません。
無茶をし過ぎです。
仇討ちとか、そういう感情が渦巻いている様子でした」
「……不味いな」
長門は、近い内に睦月が出撃を望むことを予見した。
それを拒めば、勝手に出撃してしまい、
勝手に沈んでしまうことも、見えてしまった。
かと言って睦月を、監禁、ないしは解体することで救うのは、
他の艦娘も、睦月も一生後悔するだろう。
『深海棲艦許すまじ』
それは持っていて欲しい感情なのだ。
それを殺すことは、艦娘の大義を崩壊させる。
だが今沈むのは、それ以上の悪手だ。
沈痛な雰囲気に、「次は私かもしれない」という、
目に見えない恐怖が加わってしまう。
そうなってはおしまいだ。
戦意喪失したところで、
ウ島奪還作戦並みの危機を迎えれば、
……その結果は明白である。
「出撃はさせよう。もしも、睦月がそれを望んだら」
長門の出した結論は単純だった。
監視下に置きながら出撃させる。
つまり、練度の高い艦娘たちで編成し、
精一杯睦月をフォローするのだ。
そのために、戦艦金剛と、
正規空母赤城、加賀を呼んだ。
「長門秘書艦グッモーニン!」
厳粛な赤城と加賀と違い、
金剛はいつものペースを崩さず笑顔だった。
「よく来てくれた」
長門は3人に、如月轟沈のこと、
睦月に対するフォローのこと。
それを話して聞かせた。
「頼まれてくれるか?」
「はい、私で良ければ力になります」
赤城は開口一番受け入れた。
「嫌デース」
金剛は、先ほどの笑顔を消して、
突っぱねた。
「……金剛。一応理由を聞こうか?」
「長門さんは過保護なんデスね―」
呆れ混じりに金剛は話し始めた。
「仮に一緒に出撃して、
それで変な自信つけて、
難しい海域に行って……それは良いデスね。
でも、いつまでお守りを続けても、
如月は帰ってこないデス」
「私も同感です」
赤城の意見には概ね同意する加賀。
しかし今同調したのは、金剛だった。
「加賀さん?!」
「私達は艦娘です。
ですが、ただの兵器ではなく、生きています。
年頃の女の子や、考えの落ち着いた女性もいます。
……時には、乗り越えなければならない壁だってあります」
「しかし」
長門は焦るが、金剛が重ねる。
「おねーちゃんはどっしり構えればいいんデース。
駆逐艦の問題は、
駆逐艦が解決しなきゃデース」
「その通りです。
余計な横槍は、
彼女たちの成長も……今回は命をも奪います」
提言は長門も理解できた。
しかし納得が出来なかった。
「……わかった」
それでも、彼女たちの意見を尊重しようと、
承諾したのである。
次回予告
睦月ちゃんが、100人!?
にゃしいと言う睦月ちゃんだけで進む、
まさに睦月艦隊!!
逃げろ皆!
勝てるわけがない!
あいつは伝説のスーパー睦月ちゃん達なんだどぉ!!
次回、艦隊これくしょん
初めまして、睦月たちです!
デュエルスタンバイ!
お楽しみは、これからだ!!