睦月は夢を見ていた。
如月と初めて任務に出た時の夢だ。
敵の攻撃で中破に追い込まれ、
死の恐怖に縛られて硬直した睦月を、
如月がカバーした。
ボロボロの帰投、
泣きじゃくる睦月、
曳航する如月も中破寸前だった。
初めて入る修復風呂は暖かく、
内外両方の癒やしをもたらしていく。
「知っているかしら睦月ちゃん」
まだなきべそをかいていた睦月に、
如月は優しく謎かけた。
「落ち込んでいる子の慰め方って、
どうすると思う?」
口をつぐんで、
睦月は首を横にふる。
如月は色気のある笑みを浮かべて、
「そ・れ・は・ね~」
グッと抱き寄せられる、
懐かしい感覚が睦月を襲った。
目覚めればそこは入渠場で、
受けた傷は殆ど癒えている。
「……」
意識がまだ霞がかっている睦月は、
誰に抱きしめられているのかがわからない。
黒い髪と、自分と同じくらいの体格。
思い当たる人物の名前を、睦月は口にする。
「……吹雪、ちゃん?」
声を出したことに、睦月を抱きしめた吹雪が、
驚いて離れた。そして、意識が戻ったことに安堵したのか、
目を潤ませて再度抱きしめる。
「良かった……良かったよぉ……」
死ぬかも知れなかった。
睦月の意識はまだ混濁している。
だから、死の恐怖が目前にあったことに、
恐怖を感じない。
「睦月ちゃん死んじゃうかと思ったよぉ……」
「……私……」
無茶な単艦特攻を仕掛け、
大破し、沈みかけた。
吹雪が魚雷を撃つのが後数瞬でも遅れていたのなら、
砲撃の正中によって、海の藻屑と成り果てていただろう。
その恐怖を身に引き起こすことが、
今の睦月には出来なかった。
緊張の糸がズタズタに切れていて、
今のこの状況も、
半ば夢見心地なのである。
「大破して、もう少し遅かったら……うう、
訓練しておいて良かった……睦月ちゃああああああん!!」
そうだ。
睦月は朧気な意識の中で、
そこで泣いているのが、
本来なら自分なんだと思っていた。
あの時、必死に掴みきっていれば。
練度が足りていたら。
被弾さえしなければ。
泣いて抱きしめて、
今の自分の気持ちを、
如月にもわかってもらえるのだろうと。
「……敵は……?」
「あいつは、逃げた。
魚雷を命中させたのに、
中破にも届いていないくらいの速さで。
……あれは駆逐艦の範疇を超えていたよ。
睦月ちゃんが、やられなくで……ほん、と、に……」
きりりと涙をこらえたかと思えば、
直ぐ様涙腺は緩んで決壊する。
「…私……どれくらい……こうしていたの?」
「に、2時間くらい……。
ずっと息も絶え絶えで……」
「……ずっと、抱きしめていたの?」
「え、ええ!? あ、あう、う、……うん。
迷惑だったかな? なんか、部屋にいても落ち着かなくてさ。
ほ、ほら! 夢の中で寂しくないように! ね!」
顔を真赤にして、手を振り乱して、
無理矢理笑って吹雪は取り乱す。
それがおかしくて、
睦月は笑った。
「吹雪ちゃん必死すぎるよ」
「あ、あはは、ごめん」
ズキンと、右腕が痛くなる。
睦月は自分の右腕を抑えた。
どうしたのだろう。
突き出した時に打ったのか?
それとも不備で、艤装がダメージを受けきらなかったのだろうか?
「……」
どれも違った。
「ねぇ、吹雪ちゃん」
「え、なに。どうしたの?」
「……私の……その……抱き心地はどうだった?」
「……え゛?!」
どうしてそんな質問を受けたのか吹雪にはわからず、
ただただ混乱する。
「(抱き心地!? え、それってどういうこと?!
か、感じたままを言えばいいのかな?
えと、体が柔らかくて、その、おお、お、
ど、どうすればいいの?! まさかそっちの趣味あるの!?
不肖駆逐艦吹雪は、至ってノーマルだよね!?
女の子同士の恋愛って漫画とかの話だよね!?
と、とにかく黙ったままはいけない!
その上でもしも同性愛とかならそれとなくはぐらかさなきゃ!
だって私にはまだその世界は早いし!)」
「えっと、睦月ちゃんの抱き心地ね、
その、あ、暖かいし、柔らかいしで本当、
お、その……よ、良かったよ」
腕を抑えていた睦月が、
思いつめたような顔で、
口を開いた。
「如月ちゃんも……同じ事言ってた」
その右腕は、砲門がある箇所だ。
しかし、何かを掴む手もある。
「私ね……如月ちゃんに引っ張られてきたの。
ここに来た時も、戦いの時も。
いっつも、引っ張ってくれたの」
ぐーと、パーを、交互にゆっくりと繰り返す睦月の右手。
「どうしてもダメな時は、抱きしめてくれて。
恥ずかしかったんだけどね……でも。落ち着いたの」
吹雪は、睦月が見ているのが、
右手ではないことがわかっていた。
ここでも、今でもない。
「そんな如月ちゃんが大好きだったし。
今度は私が引っ張ってあげたいなって……
そう……思っていてね……」
引き戻してあげなきゃいけない。
吹雪は心に湧き上がった衝動にまかせて、
睦月を抱きしめた。
「なのに、引っ張りきれなかったの……
私が、あの時もうちょっと、
ううん、もっと、もっと…強かったら…」
「睦月ちゃん。
ダメだよ。それは、駄目だよ」
「だって、沈んだんだよ……
私の、手から、自分から、落ちて……」
「引っ張られちゃダメ」
「如月ちゃんを、追いかけなきゃ……」
「帰って来て睦月ちゃん!」
大きな声に、睦月は体を竦ませて、
すぐに、負傷のない右腕に痛みを感じて、
目の端から、抑えていたものが溢れでた。
「帰って来て……今、私たちは、生きているんだから」
「痛いんだよ、吹雪ちゃん―――」
目をぎゅっと瞑って、
「痛くて、痛くて―――痛いんだ―――」
吹雪は彼女を強く、きつく抱きしめた。
自分は泣いてはいけない。
泣いてはいけない。
だが吹雪の目にも、
こみ上げてくる。
吹雪は、泣き声をあげることはなかった。
強く歯を食いしばって、泣き続ける睦月を抱きしめていた。
そうしなければ、睦月がここからいなくなるのではないかという、
予感めいたものを感じていだ。
悔しさも悲しさも、弱さも辛さも、
湯は洗い流そうとはしなかった。
彼女の涙が、代わりに流していた。
きっともう大丈夫だろう。
ダメだったとしても、守ってあげよう。
吹雪は硬く誓ったのであった。
嘘次回予告
「お笑いが世界を救うのでーす!」
金剛発案、お笑いフェスティバル。
いざ開幕!!
「僕らムツキサ!」エア友達で挑む睦月に皆も涙。
「冷やしぽいぽい!」島風と体を張った新体操を!
「さぁ、パーティーの時間だゴラァ!!」
現代風「真出玲羅ガールズ」に特攻服でいどむキリクマ。
勝つのは、誰だ!!
以下、この小説のスタンスについて解説
如月轟沈に関して、
あれは劇場版で語られるのか?
それとも、
「そういう世界観だ」と暗に伝える装置だったのか?
今の私にはわかりませんが。
何にせよ私はこの小説を書くに当たり、
「本編の大筋を変更はしない」という信念のもと書いています。
如月轟沈も、鎮守府直接攻撃も。
作中において肝心な部分は書きます。
……が、原作通りには書きません。
それは、この4話。
アニメ4話では金剛姉妹が勢揃いで、
キャラソンも歌って、戦闘も頼りがいのあるお姉さんです。
しかし、肝心なのは金剛四姉妹ではなく、
「睦月がどうやって持ち直すのか」のはずです。
だから肝心な部分は書ききり、
そうでない部分は削りました。
アニメ4話で、吹雪は金剛を頼りがいのある人だという描写がありますが、
それはこの小説における3話と、
吹雪のいない4-1で描写済みです。
面白お姉さんの側面は、次回でも十分間に合います。
というよりも、
アニメの4話、あれはいったいなんだったんだ……。
睦月ちゃんの声優さんが本気を見せてくれたこと以外、
何も印象に残らないとは……。
ともかく次回は、
第五遊撃部隊の結成話です。
メンツはアニメと一緒のつもりです。