まるで何かに包まれているみたい。
……いや、包まれている。
そうか、私は負けた。
そして沈んだ。
ああ、もう少し生きていたかった。
ここはどこだろう……。
あの戦いはどうなったんだろう。
大事な人がいるのに、
手も足も動かない。
……私は何日、こうしていたのだろう?
何ヶ月かも、一年以上かもしれない。
深海棲艦は……鎮守府は……。
……もう、助からないだろう命だ。
私の声が聞こえているならどうか……。
どうか……亡骸だけでも助けてほしい。
骨でも、身につけたものなんでもいいから。
墓に……故郷に、埋めてほしい。
せめて私は、
地上で死にたい。
5-1
「金色に光る駆逐艦だと?」
全快した睦月は、散々吹雪の胸で泣いた後、
そのままガンルームに向かった。吹雪も付きそう。
「はい。その前は、赤く光っていました。
しばらく戦っていたら、光が変わったんです」
ガンルームには睦月と吹雪。
海図を置いたテーブルを挟んだ先に、
それを眺める長門と陸奥がいた。
島風と夕立は先に夕飯に向かっていた。
「……特殊な形態か……」
「何か知っているの、長門?」
「いや、知らん。
……だが、魚雷を叩きつけても沈まないとなると、
明らかにパワーアップしている」
吹雪が撃った一撃。
あれは普通の駆逐艦であれば致命的なもののはずだった。
それを受けても、
航行速度は変わらず安定していた。
硬さだけなら重巡洋艦に匹敵する。
「前に、提督から聞いたことがある。
他の鎮守府での激戦の際、
赤く光る空母を見たそうだ」
「それも、やっぱり強かったの?」
「ああ。何隻か轟沈するやもしれない状況に追い込まれた。
幸い、うちから派兵した赤城が撃退したそうだが。
……生死は不明だ」
現段階では判断できないとして、
長門は睦月だけ帰した。
吹雪は残るよう言われる。
「あの、何でしょう長門秘書艦?」
「吹雪。お前は自分の功績をあまり覚えない方なのだな」
「え、え?」
答えなければならない。
オーラが強い。
答えなければ、叱責されるかもしれない。
困惑している吹雪に、
陸奥は耳打ちした。
「ご褒美があるのよ」
「え、ご、褒美?」
「ああ。先日のウ島作戦。
それを内地にいる提督に報告したところ、
大変喜んでいてな。
……その褒美と、昇級だ」
長門は赤い勲章を吹雪に渡す。
軽く、飾り気のないシロモノだ。
「明日、第五遊撃部隊を編成し、
特別な任務に当たらせる。
吹雪、お前はその部隊に入り、戦果を上げろ」
「……ファイ!?」
第五遊撃部隊。
旗艦長門率いる、大艦巨砲主義の第一殲滅部隊。
赤城率いる、空の支配者第二航空戦部隊。
神通率いる、高機動力第三水雷戦隊。
高雄率いる、鎮守府の盾第四防衛部隊。
(青葉の【駆逐艦でも分かる鎮守府の鬼たち】より)
これら部隊は作戦により、
提督、もしくは秘書艦の長門から、
編成されて形を変える。
それは先日の囮部隊も、
演習の部隊もである。
だが、
新たな艦隊となれば、
それは作戦による変更とはレベルが違う。
それも遊撃という名前まで付いている。
「完全固定の、6人編成だ。
吹雪はその1人。
名前の通り、あらゆる面で活躍が期待される部隊だ」
「はい、ですが、な、何故私が!
本隊の皆さんには」
「そちらにもお喜びだったが、
吹雪。あの時お前の発案がなければ、
最悪全滅していた。
最善を尽くしても、貴重な戦力を数人失っていただろう」
事実であった。
空母を策敵し、撃破するに至ったのは、
間違いなく吹雪の功績だ。
「……身に余る光栄であります!」
敬礼をして、吹雪は通達を待つよう言い渡されると、
自室へと帰る。
そのまま、そわそわしているものの、
どうにも落ち着かない。
吹雪は我慢できず、
演習場へ向かった。
必ず誰かいる演習場は、
教本や座学では学べない実戦訓練を見ることが出来る。
皆からは座学マスターと呼ばれたこともある吹雪は、
実戦経験を貪欲に求めた。
「あっ、駆逐艦の……えっと、吹雪っち、だっけ?」
艤装装着後に演習場である海上に行けば、
そこには重雷装巡洋艦である、北上の姿があった。
訓練用の魚雷を発射すれば、
反動で三つ編みが少し揺れる。
「はい! 先日の演習は、ありがとうございました!」
「トドメを刺しただけだけどねー。
で、今回第五遊撃部隊に選ばれたんでしょ―?」
「はい! ……あれ、もう皆に伝わっていたんですか?」
北上はケラケラ笑って、吹雪の肩を何度も叩いた。
「私も第五だよ~。長門さんに聞いたらあっさり教えてくれたんだよね~。
吹雪っちは聞いてなかったの?」
「あ、はい……まさか教えてもらえるとは思ってなかったので」
「じゃあまあ、残りのメンバーはお楽しみだね。
いいなー、そういうびっくりなサプライズ」
自由奔放で、凄い人だと吹雪は思った。
こんな会話をしている最中でも、
しっかりと魚雷を的に当てている。
「じゃあね。魚雷も尽きたし、
大井っちと間宮さんで待ち合わせてるし―」
今自分がどちらの方角を向いているのか。
正確に判断できて、的の位置を覚えている。
そしてそれを一発で容易く仕留める。
動かない的とはいえ、
常に波の影響を受けている艦娘にとって、
それがどれほど高度な技術か。吹雪はよく知っていた。
北上が去ったあと、吹雪も魚雷発射の練習をした。
しかし、目視でさえも8割当てるのが精一杯で、
見なければ当然当たらない。
北上の領域には到底及ばない。
もしも目視であれば、
北上は10割方敵に当てるだろう。
自分の力の無さを痛感すると同時に、
目に見えた目標を手に入れた充実感を、
吹雪は手に入れたのだ。
「……何よあの子……私の……北上さんに……肩トントン……ですって?」
そしてそんな吹雪を双眼鏡で見つめる、
何者かの視線を、
吹雪は感じることが出来なかったのである。
というわけで、長らくお待たせしました。
(待ってくれている人いるのかな?という疑問は解体)
如月が沈むまでを描く導入編が終わり、
第五遊撃部隊編の開幕です。
アニメでは何となく組まれた感満載の、
「結局、第五遊撃部隊とはなんだったのだ?」
って感じだったので、上手いことやれればと思います。
えっと、第五遊撃部隊が主に戦闘面で活躍したのは、
第7話だけなんですよね。
(しかも瑞鶴と吹雪のみ)
第五話で結成。
第六話は閑話休題。
第七話で遭遇戦。(加賀さん大破)
第八話はリゾート。
第九話で鎮守府爆撃からの解散。
あれれ~?
おっかしぞ~?
いやでも、金剛さんは個人回(如月没した直後)あるし。
加賀さんは怖い先輩で全編出場だし。
大井北上さんは毎回出番あったし。
……いやしかし、
それでも彼女らで一致団結したお話が見たかった。
結局最終回まで第五遊撃部隊絡みの話が一切なかった。
これが一番残念っした。
そして一番悔しいのが、
一番関係ない第六話こそ、
個人的に一番面白かったというのがね。
「いい! 今までで一番いいわ!」
という暁ちゃんのセリフがががが