夕焼け空が水平線に沈もうとしていた。
昔から。
深海棲艦が現れてからでも、
海色はその姿を多様に変える。
夜は漆黒に。
朝は光輝き。
夕方は切ない色へ。
赤城は夢を見ていた。
水平線を眺めていると、
郷愁の念と共に、
戦場を駆け抜ける不安。
破壊をして、されて、
誰かがいなくなるのではないかという、
例えようのない震え。
そんな彼女を支える誰かがいて、
そして。
「……っぁ!」
ぐっしょりとかいた寝汗。
まだ起床には早過ぎる時刻。
敷布団のシーツが乱れていて、
赤城はそれを直すと、
窓の外を眺めた。
海色は、まだ漆黒に沈み落ちていた。
起床時間は朝の5時。
朝食は7時。
空いた2時間をどう使うか。
それは艦娘自身に託されている。
「寝る」「寝るよ―」
駆逐艦の『初雪』と『望月』は、
2度寝を決め込む。
それも自由だ。
「早朝マラソン!
あ、こら島風、
そんなにスピード出したらへばるよ!」
体操着に着替えて体を鍛えることに余年のない、
軽巡洋艦『長良』。これも自由。
「うふふ。中々いいじゃない」
愛玩として飼われている鶏小屋の世話。
軽巡洋艦『五十鈴』が主に管理する。
通称、五十鈴牧場。
「……!
今、何だか不愉快な単語を聞いた気がするわ……」
「れでぃ……れでぃは……髪のお手入れを……」
「睡眠不足はお肌の大敵ですのにぃ……」
服を着替えながらも眠気を引きづる、
駆逐艦『暁』に重巡洋艦『熊野』。
「た~まご~やきぃ~。
美味しい美味しいたまごやきっ」
ご機嫌に腕を振るう軽空母『瑞鳳』
「目指せ、烈風二十機!!」
意気込んで開発を進める軽巡洋艦『夕張』。
思い思いの使い方がこの2時間にはあった。
そして吹雪はというと……。
「ぜぇ…ぜっ、ふっ、ううく、
うう……んぐっ……」
吐き気を必死でこらえて、
喉全体を使って胃の中に戻す。
「大分照準が合わさってきましたね。
最終的には、夾叉なしでも当てられるよう、
専念して下さいね」
神通の特訓。それは熾烈を極めた。
同じ駆逐艦娘専用の寮で、
「ガンバレ。超頑張ってね!」
と、陽炎に励まされた意味が吹雪にはわからなかったが、
やってみて初めて分かる。
基礎トレーニング。
海上旋回、射撃、魚雷。
あらゆる戦闘訓練を叩きこまれている。
休む間がなく、肉体の限界、
そのギリギリを強いられる。
神通は笑顔だが、
吹雪には余裕などない。
「なし!? え、そんな、出来るんですか!?」
「出来ます。
練度の高い長門秘書艦や陸奥さんなどは、
どの姿勢で、どの角度で、波の高さ、
敵との位置関係、諸々の計算を、
経験則と照らしあわせて砲撃します。
夾叉なしでも命中率は5割強。
駆逐艦最大の武器は魚雷ですので、
皆さんはここを疎かにしがちです。
夾叉必中は当然として、
一撃必中を心がけていれば、
いざという時の活路になります」
特訓は7日間。毎朝2時間。
それで吹雪は1人前になると、
神通は自信を持って答える。
「あの~……弾薬とかたくさん使っちゃったんですが」
「提督は演習や練度向上には、
資源を惜しまないようにと通達されています。
勿論、失った分は遠征で補充しますが」
神通は姉と妹を起こしに帰り、
吹雪はよろよろと食堂に向かった。
午前8時。
ここから12時までは、
またしても自由時間だ。
というのも、起床就寝、
3食の時間が設定されているだけで、
あとは殆どが自由時間である。
その自由をそのままの意味で捉え、
好き勝手に使う艦娘は、ここにはいない。
大概は遠征、
演習、近海の偵察などで使われる。
出撃の場合は作戦室に呼び出しをされるのだが、
ここ最近は提督の指示が現状維持のため、
近海の見回り程度。
強い方でも重巡洋艦程度しか現れないため、
轟沈の可能性は限りなく0に近い。
「演習……ですか?」
食事を終えた吹雪は、
先日組んでいた第三水雷戦隊と合流していた。
作戦室は各艦隊に1つ割り当てられ、
狭い部屋にはテーブルと椅子、
黒板に海図など、一通り揃っている。
「そうです。近々訪れる大規模な戦いを前に、
全員の練度を高めること。
そして各人の練度を見た上で、
互いに高め合うこと。これが目標です」
黒板には今日戦う艦隊の名前と、
その旗艦だけが記されている。
演習の際、相手に勝つために有利な編成をするのは、
実戦的ではないということで、
旗艦以外は伏せるという取り決めなのだ。
「本日は2艦隊と相手を致します。
旗艦は戦艦金剛。
次戦には軽巡那珂(ちゃん)」
淡々と喋る神通だが、
戦艦の2文字に睦月がうろたえる。
「金剛さん!? え、無理だよ、
戦艦だよ!? 強いよ!」
「睦月ちゃん、そんなに慌てないの。
……まぁ、女の子はこういうほうが、
異性にはモテるみたいだけどね」
「2人共諦め速いっぽい」
「速すぎ―! 私も負けないんだからぁ!」
「あわわわ……戦艦との戦いだなんてどうしよう……」
ピシャリと手を叩く神通。
彼女に怯えや焦りなどは微塵もない。
「訓練する場です。
実戦と違い、
負けたとしても、次に繋げます。
恐れず、立ち向かうこと。
その心なくして、駆逐艦は戦艦に勝てません」
戦艦であろうと勝ちに行く。
その覚悟を感じた一同は、
先ほどまでの動揺を心の奥底に沈めた。
「そうだよ! どんな敵でも、
頑張ればなんとかなるかもしれない!
勝とう!」
えいえいおー。
全員の心が一つになる。
もう、怖いものなどない。
そんな気がした。
「……でも、吹雪ちゃん。
それって負けフラグよ?」
心の底に、如月は発言を沈めたのであった。
演習です。
今回は2-4までを予定。
2-2は金剛。
2-3は那珂ちゃんで。
頑張っていきましょー!