比叡「比叡カレーの宣伝を」
CM、デッドエンド。
旗艦、軽巡洋艦『那珂』。
オレンジ色の衣装で、神通の妹。
川内型の三女にあたる。
凛々しく物静かな姉と違い、
常に笑顔を忘れないアイドルの才覚を持ち合わせている。
もしも艦娘の適正が全くなければ、
アイドルの道を行き、
素敵な笑顔を求めるプロデューサーに、
スカウトされていたかもしれない。
しかしこの世界においては、
アイドル以上に艦娘であることの方が、
社会的ステータスも知名度も高い。
「みんなー!
相手はどうやら旗艦を変えたみたいだけど、
慌てずがっつり勝とう!」
「了解那珂ちゃん!
阿賀野も頑張るんだからね!」
僚艦は軽巡洋艦『阿賀野』。
長く艶のある黒髪が印象的で、
全体的に肉感のある抜群のプロポーションをしている。
旗艦は那珂であるが、
その補佐は2人。
1人は阿賀野。もう一人は、
「那珂。とりあえず敵をやっつけるけど、
夜戦も忘れずに」
「えー? この間奇襲作戦したばっかじゃーん?
川内ちゃん演習で夜戦って何時間かけるつもり―?」
川内型ネームシップ、
軽巡洋艦『川内』。
夜間戦闘を最も得意とし、
昼間戦闘もそつなくこなす、
那珂の頼れるお姉さんである。
「まま、戦闘もいいけど、
相手の旗艦は駆逐艦でしょう?
神通さんの考えは読めないけど、
楽勝っしょー」
「ふふ。そうやって油断していると、
足元を掬われますわよ鈴谷」
軽巡洋艦よりも堅牢で、
それなりに快速の航空巡洋艦。
最上型の姉妹艦である、
『鈴谷』と『熊野』。
2人共、瑞雲を装備しており、
航空機の展開が可能である。
「さぁて。こっちは5人。相手は6人。
神通がいないから誰かが補充に回されたようだけど、
誰が来たんだ?」
陣頭指揮に立つ神通を奇襲奇策でかき回すのは、
川内の得意分野である。
もっとも、さしたる効果はないのだが。
「駆逐艦を旗艦だなんてありえませんわ。
どなたですの?」
「なーんか最近入った子らしいよ。
阿賀野っち、そこんとこどうなってる―?」
「ええ?! 私に聞かれてもわからない!
能代に聞いてよー」
「まったく駄目なお姉ちゃんだね阿賀野ちゃん」
「私から見たら那珂もそうとう困った妹だけどね」
演習の予定時間がきた。
鈴谷と熊野は、瑞雲による索敵を行う。
先んじて敵の位置を知ることが出来れば、
展開が有利になる。
「前方に敵、5隻!
……うん? 本当に5隻?」
「ええ、わたくしの瑞雲も、
5隻だとおっしゃってますわ。
しかも駆逐艦の」
「へぇー。頑張ることにしたんだ。
じゃあ、こっちも遠慮なくいこうか!」
神通たちが目視できる距離まで接近する。
「き、きた!!
どうしよう、どうしよう!」
旗艦は急遽、吹雪になった。
他の面々がやりたがらなかったことと、
一番常識的な判断ができそうだということ、
そしてじゃんけんに負けた結果である。
「落ち着いて吹雪ちゃん!
あの人も言ってた、落ち着けば、
吹雪ちゃんは一番冴えているって!」
「座学で培ったその知識、
あてにしてるわよぉ」
「ねえまだぁ? またさっきみたいに、
何にもしないで負けちゃうのヤダからね!」
「なんだか無性に戦いたいっぽい……」
「う、うん。わかった。
……島風ちゃんと夕立ちゃんは、
撹乱しながら左右に展開。
余裕があったら攻撃して、
そうでなかったら回避と撹乱だけ」
「了解っぽい!」
「おっおー!」
「如月ちゃんと睦月ちゃんは、私と一緒に行動。
あの人の指示通りの速度で前進。
相手に、私達の偽の作戦を勘違いさせる」
「了解!」
「わかったわ!」
「では、神通さんのために、
第三水雷戦隊、出撃!」
「急接近してきますわ!?」
「駆逐艦2隻で来るなんて、
このメンツに。勇気あるじゃん!」
川内の闘志に火がついた。
「那珂! あの2人は私に任せて!
いいだろ!?」
「え? おっけー☆
川内ちゃん頑張ってね!
じゃあ私は新曲行っちゃうよ!」
「いよいよ阿賀野の出番ね!
ふふ、待ってたんだから!」
「なーんかユニットデビュー?
いいねいいね、私も熊野とデビューする?」
「あ、握手会とか私には無理ですわ!?
それより鈴谷、瑞雲を発艦させますわよ」
「あいさー」
瑞雲を再び飛ばし、
爆撃をお見舞いしようとする。
……が。
「ぅえ?」
鈴谷の足元で何かが炸裂した。
何かとは、魚雷だ。
的確に足の艤装に当たってしまい、
航行不可能になってしまう。
炸薬量は少ないが、
脚部艤装の損傷は行動力を著しく損なう。
「わ、え!?
なになに?! どこから来たの!?」
「どうかしましたの鈴谷?」
「いやあの、マジ恥ずかしいんだけど……、
脚、壊されちゃったみたいで……」
「ええ?! だって駆逐艦の魚雷なんてここには」
はっと思い当たるものを感じた時、
既に遅かった。
熊野の足元にも着弾。
魚雷が炸裂し、航行不能になる。
「そ、そんな!?」
「熊野!」
「どうしたの2人共?」
通信で那珂が熊野と鈴谷に呼びかける。
手で耳を塞ぐと、近くの仲間と通信ができるのだ。
「油断した! 敵は近くにいて、
私達を狙撃できる状態にいる。
でも一体誰が……。
相手の助っ人は誰?!」
「鈴谷。大井さんや北上さん。
面倒見のいい木曽さんでもありませんわ。
……目視できる距離にいなければ、
こんなピンポイント射撃出来るわけないですもの」
「じゃあいったい……」
「決まってますわ。
今日はもう非番でしたものね……。
オリョールの英傑。
まさか……貴女が相手でしたとはね……」
憎々しげに海面を見下ろす熊野。
否。熊野は海面ではない、
海中に目を向けていた。
機能性重視の、提督指定の水着を着用し、
海面を仰ぎ見る艦娘。
潜水艦『伊58』。
オリョール海での戦闘が終了し、
これから休みだという時、
吹雪たちの話を聞いて乗ったのである。
「目標2つ。上々でち」
海中で移動をし、
主砲も魚雷も届かない。
一方的に海面上の敵を攻撃できる、
潜水艦は極めて有力な艦種である。
しかし、潜水艦にも弱点がある。
それは航行速度の遅さ。
爆雷に滅法弱いということ。
演習場は遠浅のため、
思うようには動けない。
それでも身を潜めて動けば、
十分狙える。
問題は彼女(伊58)が、
如何に気付かれず、
多くの敵を行動不能に追いやれるかである。
第一目標は航空機。
その時点で目的の大半は片付いたと言ってもいい。
残るは練度が高いとはいえ、
駆逐艦でもなんとかなるであろう、
軽巡洋艦3隻だけ。
「熊野、駆逐艦への援護をする?」
「そんなことしたら丸腰の私達に魚雷が当たりますわよ!?」
潜水艦の利点は、
相手の注意を大きく引きつけること。
囮として活躍できる事にある。
どんなに貧弱な潜水艦でも、
無視していれば轟沈(今はないが)などの危険がある。
警戒をしなければならない。
「了解。瑞雲、爆雷で海中攻撃、行って!」
瑞雲の積む爆雷は弱いが、
ないよりはマシ程度の効果はある。
それは伊58にもわかっていた。
距離をとって、軽巡洋艦の位置へと転進。
軽巡洋艦は左右に展開する夕立と島風に翻弄され、
当たらない弾と、潜水艦の威圧感に後手に回っている。
「くそっ! そういう忍者っぽいのは、
私のポリシーなのにな!
熊野! 鈴谷!
さっきの索敵、何で引っかからなかったの?!」
「知りませんわよ!」
潜水艦は微量の泡を常に出している。
練度の高い索敵機であれば、
海面のそれを見逃さない。
オリョール海は孤独の戦いだ。
潜水艦数隻で向かい、
並み居る敵を先制魚雷で倒していき、
時に大きな損傷を被ることもある。
週に5日。幾度もオリョール海を攻め、
敵の補給線を逐一潰すこと。
潜水艦娘たちが行う作戦は、
鎮守府近海を安全にするために必要な任務。
いわば死活問題だ。
故に彼女たちは、
自分たちが如何に察知されず、
如何に効率的に倒すか。
その考えを常日頃考えていた。
伊58は隠れたのだ。
索敵が来て引き返すまで、
吹雪の真下を泳いでいた。
波飛沫に泡は霞消え、
索敵を完全に逃れた。
駆逐艦への損傷を避けるには、
航空爆撃も、軽巡洋艦の攻撃も、
全て最低限に抑える必要がある。
察しのいい連中であれば、
潜水艦の存在はすぐに割れる。
当然第一目標になる。
その時間を、
夕立と島風は撹乱で延長し続けた。
快速を誇る島風には、
夾叉も置き撃ちも決まらない。
夕立の第六感と技術力は、
魚雷を魚雷で相殺したり、
砲撃して足元を掬おうなどというトリッキーなプレイ。
潜水艦に集中したいのにそれが出来ない焦りは、
まずは阿賀野、次いで川内と伝播し、
鈴谷と熊野も躍起になって潜水艦に爆雷を落としにかかる。
「皆落ち着いて!
混乱させるだけさせて、
潜水艦さんが各個撃破が作戦なんだから!
落ち着いて全機で、
島風ちゃんと夕立ちゃんを」
鼓舞する那珂は、こんな状況でも落ち着き払っていた。
よく通る声が、艦隊に響く。
「阿賀野ちゃんと川内ちゃんは、
夕立ちゃんを倒しちゃって!
瑞雲を一時的に島風ちゃんに!
私は……目の前の3隻行くから!」
吹雪たちの作戦は2段構えである。
伊58の強襲と、夕立,島風の撹乱。
混乱した相手が躍起になっている内に、
吹雪たちが3人がかりで各個撃破。
その第一目標に、旗艦の那珂。
軽巡洋艦とはいえ、
3体1であれば動揺も誘えるだろう。
「混乱しきった今、一気に行きます!」
「おっけー」「にゃい!」
吹雪を戦闘に、
後方サイドを如月と睦月が付く。
「アイドルはこうやって、
真ん中で堂々と、
敵を倒すんだからね!」
吹雪が構える。まず一射。
これは当たらない。だがてんで出鱈目ではない。
朝の練習のお陰で、
多少はマシになっている。
「魚雷、」「発射ぁ!」
脚部についた魚雷を発射する装置から、
睦月と如月は2本、電車のレールを敷くように撃つ。
那珂に当てる弾道ではなく、
那珂の行動範囲を制限する魚雷だ。
大きく速度を上げて前進し、
睦月と如月は両サイドから交互に艦砲射撃。
これもまた制限のため。
「うぉおおおおお!!」
本命は吹雪の吶喊による、
畳み掛けである。
本当にブチかますような速度で、
正面激突もありうるほどの速度で、
吹雪は急加速した。
「いっくよー!」
あろうことか、
正面から激突する吹雪。
その気がなかったためにガードはしていなかった。
寸前で急停止して、那珂に近距離射撃をお見舞いする。
その算段は看破されていた。
この混戦の中でも、
那珂は要所を探りぬいたのだ。
いつもと変わらぬ笑顔で。
気の抜けるような声と、
激しい急加速のミスマッチは、
吹雪を動揺させて動きを一瞬にぶらせた。
速度に勝り、排水量に勝る那珂に、
吹雪は後方にふっとばされる。
「「吹雪ちゃん!?」」
何が起こったのかわからない睦月と如月。
強烈なぶちかましを受けてしまった吹雪は、
海面に仰向けになっている。
視界には青空。
そして、那珂の笑顔がきた。
「センター争いはやっぱり、
ガチンコ勝負でしょ☆」
ガチャリと構えたのは、
神通も使っていた14cm単装砲。
吹雪のお腹に狙いを定めている。
「……なのにそんな顔しちゃ駄~目」
那珂はくるりと狙いを、
近くの海中に定めて射撃。
那珂は吹雪の視線を見た。
目の前に敵がいながら、
目を逸らすという行為は、
助けを求めるか、そこに勝機を求めている。
目の強さはまだ勝負を諦めていない。
勝算がありながら、那珂にではなく他所に向ける。
その方向に、勝機がある。
「い!? いっつ……なんて勘の良さ出ち!?」
駆逐艦娘3人を相手取り、
それをかいくぐって勝利を手にした那珂。
その瞬間に魚雷を狙い撃とうとしていた伊58。
油断など微塵もない。
そしてこの時、第三水雷戦隊の視線は、
那珂に集まっていた。
吹雪は驚愕を。
睦月と如月は必死の目を、
島風と夕立は異変に気づき、
伊58は隙を見逃さないために。
「よそ見なんていい度胸ね!」
阿賀野の射撃が、夕立の足元に当たる。
動きが鈍ったところを川内が急接近し、
単装砲の餌食にした。
「いったいいっぽいいいい!!?」
「おまけですわよ!」
「ほいほ~い」
瑞雲の爆雷が夕立に集中。
戦闘不能な、大破状態になる。
「センター(旗艦)は任せてね。
コンビは任せるよ~☆」
「あいよ!」「了解那珂ちゃん~!」
士気が上がった。
「う、うげっ!?」
「センターアイドルは顔が命。
でも、たまにはバラエティとか撮影が色々あるからね。
それ以外は妥協しなきゃいけないの。
芸能界の怖いところなんだよ吹雪ちゃん☆」
砲を向けようとした吹雪に、
至近距離で肩を狙い撃って回避する那珂。
逃げないよう脚部を狙い撃ち、
片方だけ完全に艤装破壊した。
吹雪は恐ろしかった。
那珂の笑顔が、最初と今では全く印象が違う。
魚雷を撃とうにも、
こんなに接近した状態で撃てば、
自分の方に被害が及ぶ。
逃げなければならない。
まずは連携をとらねばならない。
が、全員それどころではない。
旗艦が大破しようものなら、
それだけで演習は敗北必至だ。
判定勝ちなど狙えない。
吹雪は片方だけでも逃げられると思い、
那珂に射撃後すぐにそこから離れようとした。
「駄目だな~吹雪ちゃん。
何で片方しか壊さなかったのか、
わからなきゃね」
速力など半分も出ようはずがない。
しかし、完全に残っていたがために、
万が一があるかもと錯覚してしまった。
逃走のために向けた背中を、
那珂は逃さず夾叉。
よろめいたところを魚雷5つ発射。
いい具合に距離を、とってしまった吹雪。
向きの異なる魚雷を避けるも、
その間に那珂に近づかれてしまう。
「いっくよ~吹雪ちゃん!
どっか~ん☆」
一射。
二射。
立て続けに放たれた至近弾。
駆逐艦の装甲では、
この連撃に耐えることが出来なかった。
吹雪は大破状態になり、
那珂は伊58の退治を優先する。
ほどなくして、
島風も、如月睦月も、伊58も集中砲火にあい、
第三水雷戦隊はこの日、
2度目の敗北を迎えたのであった。
2-4までといったな?
アレは嘘だ。