適性試験が終わり、メディカルチェックを待つようにと言われ向かった部屋には試験を受ける前に話した受付に立っている赤毛の人と黄色いニット帽が特徴的な俺と年の変わらなそうな少年がベンチに座っていた。
……とりあえず疲れたし座ろう。
「やあ、こんにちは。ベンチの隣良いかな?」
「ん? ああ、どうぞどうぞ全然いーよ」
着ている黄色い服のイメージに違わず明るそうな少年だった。話しやすそうな相手で実に助かる。
「あ、そうだガム食べる?」
しかも、彼はこちらと親睦を深めるつもりがあるのかいきなり貢物を差し出してくれるようだ。
たかがガムに釣られる程安いつもりはないが、こちらも親睦を深めたいし、正直嬉しいのでありがたく受け取ろうとすると、
「あ、ごめん切れてた。今食べてるのが最後だったみたい。ごめんごめん」
――――とんだガム野郎である。いや待て俺。
……疲れているな、流石にその感想はない。
「いやいや、切れてたなら仕方ないよ。わざわざありがとな」
とりあえずお礼を述べておいた。物資が貴重な現代において物を分け与えようとする人はかなり珍しい。間違いなく彼は良い人だろうから。
ただ、残り個数の把握が甘いまま人にあげようとするぐらいにはうっかりマンであることは俺の脳髄に焼きついた。
「君も試験受けたの?」
「到底アルコールパッチテスト程度とは思えないあの詐欺試験のことか?」
「ぶはっ、確かに詐欺並みだよなー、そうそうその試験。てことは君も新人さんか」
どうやら彼も俺と同じくあの試験を先ほど受けた新人の様だ。
「そうだよ。新人ゴッドイーターの神薙クウ。よろしくな」
「俺は藤木コウタ、よろしくな! ちなみに歳は15で、銃型の神機使いなんだ。クウは剣と銃どっちなんだ?」
「えーとな、どうも俺は”新型”らしいんだよ、よく知らないけど。あと歳は16になる」
「新型ぁ? なんだ、それ? 聞いたこと無いなぁ」
「俺もよくわからなくて困惑してる。なんなんだろうな、説明は後であるだろうけど、気になって仕方ない」
本当に説明不足にも程がある。働きだしても同じような対応なら簡単に死ねそうだ。
考えてて不穏にも程があって全く笑えなかった。
「ふーん、まあでも新型ってことは強いんじゃないか? いいじゃん。……むしろ羨ましいかも」
「そうであることを祈ってるよ」
と、同期のコウタと親睦を深めていると、部屋の扉が開き一人の女性が入ってきた。
第一印象はキツめの美人だ。黒髪の長髪、やや釣り目だが整った容姿をしていた。
……ただその強いまなざしから厳しい人物であろうことが予測できた。あと露出スゴイ。
「立て」
この一言は一体何であろうか、そう。俺とコウタの前に立った美人さんの第一声である。
正直意味がわからない。俺たちは揃って困惑していたがそれを許してくれるほど女性は優しくなかった。
「立てと言ったんだ。さっさと、立たんかっっ!」
あまりの剣幕にコンマ秒レベルの反応で俺達は立ち上がった。
その様子に満足したのか、うむ。とひとつ頷くと彼女は口を開いた。
「私は貴様らの訓練教官になる雨宮ツバキだ。貴様らをアラガミとの戦いで使い物になるようにするのが私の仕事だ」
どうやら美人さん――ツバキさんは教官であるようだ。諸々の説明は雨宮教官がしてくれるのだろう。
説明のアテが出来て一安心である。
「そして、貴様らが実戦で死にたくなければ、私の言葉には全て――YESで答えろ」
「」
「返事は?」
「「はいっ!」」
「……よろしい」
説明のアテが出来たはいいが訓練で俺は死ぬのではないだろうか。
「ではまず神薙、貴様のメディカルチェックが先となる。一五○○にラボラトリにて榊博士のメディカルチェックを受けること、藤木はその三十分後だ。何か質問があるならば今聞こう」
「では、質問があります雨宮教官」
「ふむ、構わないが神薙、次から私のことはツバキ教官と呼べ。雨宮では被る奴がいるからな」
姓が被るということは兄弟か姉妹でもいるのだろうか? まあそれはいつかわかるだろう、今はそれよりも聞きたいことがある。
「わかりましたツバキ教官。そして、質問ですが俺はどうやら新型神機使いだそうですが新型とは一体何なのでしょうか?」
「あぁ、一般にはまだほぼ公開されていないから当然の疑問だな。詳しく話すと長くなるから要点だけ話すが、従来の剣型、銃型の旧型神機とは異なり、剣型と銃型どちらにも可変する新しいタイプの神機のことだ。これを我々は新型と呼んでいる」
「両方に……可変?」
確かにそんな神機は聞いたこともないし、見たこともなかった。
「そうだ。詳しいことは訓練と座学で行うので今は得した程度に考えておけ」
「……わかりました」
「では、以上だ。他に質問は――――無いようだな。では、二人共メディカルチェックに遅れず行くように、いいな!」
「「はい!」」
元気よく返事を返すとツバキ教官は特に振り返ることもなく颯爽と去っていった。
できる女は斯くあるべき。と言った風情だった。
「っはーー! お前すげぇな!!」
「は?」
唐突に大声で俺を讃えるコウタだが、褒められる理由がわからない俺は少々面食らっていた。
「は? って、あんな空気の中ツバキさん? ツバキ教官の方がいいか。その、ツバキ教官の前でいきなり質問できるなんて度胸あるな。って思ってさ」
「あー」
確かに独特の圧迫感を発する人ではあったが同時に自分で質問を許可しておきながらちゃぶ台返しするような人でもなさそうだったからというのが大きい。
という旨を話すと、
「いや、そんなふうに観察できないって。やっぱクウは度胸あるよ!」
との返答である。どうもコウタは俺を持ち上げたいらしかった。
……悪い気分ではなかったのでそのまま新型についてもスゲースゲー言ってもらってから一旦コウタとは別れた。
十五時のメディカルチェックまでに一通り回れるところを回っておきたかったからだ。
受付では、
「こんにちは、本日よりお世話になる神薙クウです。よろしくお願いします」
「はい、こんにちはオペレーターを務める竹田ヒバリです。新型神機の適合者の神薙クウさんですね。ミッションの受注等は私を通して行われるので、よく顔を合わせることになると思うのでよろしくお願いしますね?」
という、当たり障りのない挨拶をしたり。
よろず屋では、
「こんにちは、なんかスゴイ色々置いてますね……」
「うん? あぁ新人さんか、そうだね品揃えの良さは自慢だよ。回復錠類にデトックス剤とかスタングレネードとかゴッドイーターにはあんまり関係ないけどRPG弾薬とかショットガン・サブマシンガン・アサルトライフル等の格銃器類にそのマガジンから、繊維類に娯楽物品嗜好品になんでもござれさ」
よろず屋と言っても余りに物騒かつ節操のない品揃えだった。
とりあえず食べたくなったのでガムを買った。
そろそろ時間に余裕がなくなってきたのでラボラトリを目指して移動を始めた。
その途中台場カノンというピンクの髪の女の子に道案内をしてもらった。彼女もゴッドイーターのようだが正直戦っている姿が想像できないタイプの人柄をしていた。
顔に出ていたのか、衛生兵なんです。との補足を頂きなるほどそれなら合点がいく、と解決した筈なのだが、なぜだかは知らないがそれは違うと第六感が囁いていた。
理性面では全面肯定だというのに。
…………何故だ?
カノンさんに見送られながら俺はラボラトリと書かれている扉をノックした。
「入りたまえ」
適性試験の時にも聞いた声で入室の許可が降りたので、一言失礼しますと言って扉を開けると、
中には立ってこちらを向いている金髪の美丈夫と、椅子に座りいくつものコンピュータを操っている白髪の男性がいた。
「予想よりも325秒も早い。申し訳ないが、神薙クウ君。見ての通り、準備がまだ出来ていないんだ。だから先にヨハンの話でも聞いていてくれたまえ」
「博士。いい加減公私の区別はつけて頂きたい」
このやり取りを見る限り白髪のほうが博士らしく、少々ズボラながらも研究者っぽい発言をしているなぁと脳に情報が書き込まれた。役に立たなそうな情報だった。
「あなたに研究は任せたからこそ私はその分野からは手を引いたのだから」
美丈夫――ヨハンと呼ばれた男は元研究者だったらしいという、役に立ちそうな情報が脳に書き込まれた。
……できる男はくれる情報も役に立つものらしい。
しかしその発言に何か含みがあるのか博士は細い目をスッと開き、
「本当に手を引いたのかな?」
と、疑いの眼差しを向けた。
それに対して不敵な笑みを浮かべて答えないのは明らかになにかあると言っているようだった。
…………いや、新人の前で何やってんだあんたら。
怪しすぎて踏み入りたくないわ。
等と考えていることが表情に出たのか、それとも胡乱な視線を向けられていることに気づいたのか、俺を無視したやり取りはここで終わるようだった。
「いや、すまない。説明を忘れていたな。まずは自己紹介からといこうか。私はヨハネス・フォン・シックザール、このフェンリル極東支部の支部長を務めている。そして彼はペイラー榊博士だ。極めて優――「おおっ、この数値はぁぁ!!」
支部長の説明の途中でぶった切ったのは博士の奇声だった。しかしすごい驚きようだ、目玉飛び出るんじゃないかあの人。
「……極めて優秀な研究者だ」
静かに言い直す支部長は少し哀愁が漂って見えた。
「そして君にはこの支部初の新型ゴッドイーターとして働いてもらうことになる。まだ世界的にも数の少ない新型には期待をしているので、是非とも頑張って――「こ、この適合率はぁぁぁ、スゴイっ! これが新型!! いや、新型にしてもこの数値の高さはっ!!」
「ペイラーっ! 騒ぎすぎだ!」
又しても説明は博士のリアクションによって粉砕されたわけだが、しかし博士の表情は驚愕と興奮に彩られており、非っっ常ーーに嫌な予感がする。
さっきから騒がれてる新型って俺のことだよね。なに? そんなに驚きの結果なの? 俺。
というか支部長も止めてくれるかと思いきや画面見た瞬間に顔がマッドっぽいそれになっているけれど大丈夫なのだろうか。
――主に俺の身の安全が。
とりあえず、二人をマッドネスな研究界から引き戻さなくては。
「えーと、シックザール支部長に榊博士。興奮しているところ申し訳ないのですがメディカルチェックはよろしいんですか?」
俺の申し出は二人を我に返すことが出来たようで、榊博士は眼鏡を直しながら、シックザール支部長は咳払いなんかをして佇まいを直した。
「すまなかった、驚いただろうクウ君。このあとは博士にメディカルチェックをしてもらってくれ。私はこれで失礼する。クウ君、君には期待している。ぜひ頑張ってくれたまえ」
そう言い残すとシックザール支部長はラボラトリを出ていった。
「やあ、新型くん。先程も紹介があったが私はペイラー・榊。この極東支部での研究者のまとめ役をやらせてもらっているよ」
「こんにちは、榊博士。俺は神薙クウといいます。よろしくお願いします」
「ふむ。よろしくねクウ君。さて、早速だがメディカルチェックを行わせてもらうよ。そこのベッドに横になってくれ」
そう言われて俺はベッドに横になる。
うん、安眠を約束する類ではないんだろうけど外部居住区だったら望めないレベルの感触だ。
ベッドの寝心地に気を取られていると気づいたら榊博士が注射器を持ってベッドの横に立っていた。
「あ、あの、その注射器はなんなんでしょうか?」
先ほどの支部長とのやり取りもあり警戒心あらわに尋ねる。恐怖からかやや怪しい言葉遣いになってしまった。
「うん? ああ、心配しなくてもいい。身体に害はないよ。さっきは悪かったね少し予想以上の適合率だったから驚いてしまったんだ」
榊博士の様子から本当に害はないだろうとわかり、注射をしてもらった。
……すると、段々、眠く、な……って、きた…………
「ゆっくり眠っててくれて構わないよ。つかの間の戦士の休息というやつだ。目覚めは予定では10800秒後だ」
流石に、3、時間と……言い、ません……か?
てか、寝てる、間に、何、されるか……わからな…………
眠りに落ちる俺の頭の中は次の目覚めがちゃんとやってくるかの心配だった。