「神薙、お前は明日から実戦配備になる。今日はその仕上げをするぞ」
心を新たにした日から数日が過ぎ去ったある日の訓練の始めに、賜ったツバキ教官の第一声はそんな言葉だった。
「……もう、ですか? 早いですね」
「お前の訓練結果からもう十分やれると判断したし、上も許可を出したからな」
どうやら俺はついに戦場デビューを果たすことになるようだ。とうとう俺もアラガミとドンパチやらかすことになるのだと思うと少し感慨深いものがあった。
「……特に緊張などはしていないのか、図太い神経をしているヤツだ」
ツバキ教官は呆れ気味だ。この数日ですっかり見慣れた表情になってしまったが、自分でも呆れていたから仕方ないと思う。もう俺は諦めたがな、考えることを。
しかし、精神性は大して変っていないつもりなのだが……
「いけませんか?」
「構わない、どうせ明日のことだからな。今は訓練に取り掛かるぞ」
俺のほんのちょっとした心配はツバキ教官にバッサリと両断された。
そして俺は訓練室へと移動し、アナウンスでツバキ教官の指示が飛ぶ。
「今日は実戦に近い形態で訓練を行う。ダミーアラガミを複数展開しお前にけしかける、好きに戦ってみろ」
好きに、か。
相変わらず最重量級構成の神機を右手一本に下げ、左足と左手を前に出し正面に対して横向きに構える。
ツバキ教官にはバスターでそんな構えはしないし出来ないと言われたが、俺にとってはこう構えるのが一番楽だった。
「では始めるぞ、くれぐれも全力を尽くすように!」
ツバキ教官からの激が飛んだ瞬間にオウガテイルを模した水銀色のダミーアラガミが俺の前に形成される。
出現数は三体で、三体ともこちらを認識して威嚇のポーズをとろうとしていた。
――だが、それでは遅すぎる。
既に俺は動いていた。
勢いよく踏み込み一番近くにいたオウガテイルの目の前で神機を横に薙ぐ。その結果、ダミーアラガミは神機の軌跡の上と下とで両断され、ぐしゃりと地面に横たわり、形状を保てなくなったのか霧散した
だが、俺はその様を確認していない。
なぜなら俺はダミーアラガミをぶった切った直後に、仲良く横並びしている残り二体のダミーアラガミの前に立っていたからだ。
――アドバンスドステップ。一般にショートと呼ばれる一番軽量な刀身の神機でのみ可能な行動で、自身の斬撃の直後にステップと呼ばれるゴッドイーターの短距離高速移動法を行うことだ。
俺の怪物的身体能力を持ってすればこんな真似が可能なのである。
自身がゴッドイーターのアベレージを大きく超えていると言われたのが納得できる事実の一つだ。
つまり、一体目を切り捨てた俺はアドバンスドステップを使用して残り二体の前に躍り出たわけだ。
横薙を振り切った態勢のままこいつらの前にいるわけだが、欠片の問題も無い。
鉄パイプ程度の重さの代物を右から左へ、左から右へ切り返すなんて――訳無いだろう?
――結果、上下分断死体が三つ作られたわけである。
すぐに霧散したから並んだわけではないがな!
「ふむ、良い調子だな。だが調子に乗るなよ、もっと無駄のない動きを心掛けろ。貴様はアドバンスドステップなんてものを使ったが使わなくとも殲滅出来た筈だ。貴様は何のための新型だ」
勝ったはずなのにツバキ教官に改善点を指摘されてしまった。悔しいが指摘は正しかった。
俺が新型神機使いである強み、つまりは銃型神機も使うことが出来るという点だ。
一体目を切り捨てたあと俺は無理な態勢となるステップをするのではなく、ブラストに切り替えてモルター弾でも撃ってやつらを爆砕すれば良かったわけだ。
確かにそちらの方が隙の少ない立ち回りと言えよう。
当然のことだが俺にはまだまだ改善の余地があるということだった。
だが、改善の余地があることは俺が未熟で良い理由ではない。
自身の未熟というものは無性に腹が立つものだった。俺はつい歯を食いしばってしまっていた。
「くくく。神薙、悔しいか? 確かにベストでは無かったとはいえ決して悪いものではなかったぞ?」
「わかってて言ってますよね、それ。すでに滅茶苦茶悔しいので別にいいんですよ?」
「馬鹿ものが、上官の意図を汲んでいるなら黙って取りかからないか、次の訓練の催促でも構わないぞ?」
「じゃあ、早速次に移ってもらって良いですかね? 絶対に次はベストな結果出してやりますからっ」
わざと慰めるようなこと言って俺のプライド刺激しに来るとか意外に性格悪いことするな、あの人。
だがあとで指摘したら訓練には必要だろう?とか涼しい顔で言いそうだ。
ともかく次の訓練に集中しよう。次は絶対にミスしねぇっ!!
新たに構成された十体のダミーどもに俺は引導を渡しにかかった。
訓練後の夕食は美味い。
そう感じるのは俺だけではあるまい、どんな人でも身体を動かし頭を使った後のご飯は最高だ。
そう思わないか? コウタ。
コウタは 机に 突っ伏して 精魂尽き果てている。 起こしますか?
はい
いいえ
→脇腹にフック
「起きろコウタ」
「ぐはぁっ!?」
うむ彼を起こすには十分な一撃だったようだ。ぬおお、なんて呻きながら元気に騒いでいる。
「なにすんだよクウっ! 俺にとどめを刺す気かっ!!」
「いや、とりあえず飯食わないと元気出ないからな手荒く起こしただけ」
「……優しく起こしてくれても良いじゃんかよ」
「いや、地味に俺何回か話しかけてたからな?」
「え゛っ……それマジ?」
「マジ」
実はご飯云々の下りはちゃんと発声しているがコウタの反応は無かった。
それ以前にも話しかけていたのだが全て俺の悲しい独り言になっていた。
「うわあああ、ごめんっ」
「構わないよ、いいからご飯食べよう。不味くなるぞ?」
そうして食事に取り掛かる俺たち。
食べる合間合間の会話で明日俺がついに戦場に立つことを話した。
「マジでっ!? クウもう実戦なのかよっ」
コウタの驚きは妥当だろう、何せコウタもかなり優秀な結果を出しているとはいえまだ訓練期間は十日以上ある。そのコウタもゴッドイーターの平均期間より短いのである。
俺の訓練が如何に短いかよくわかるというものだ。
コウタのリアクションに肯定しようとすると……
「ええっ! クウさんもう訓練終わっちゃったんですか!?」
意外なことに俺の後ろから声がかけられた。
振り向くとそこには初日にラボラトリに案内してくれたカノンさんが驚きを顔に貼り付けて立っていた。
あと他にも二人、俺の見知らぬ二人がカノンさんの後ろにいた。赤い服に黒髪の男性と、青い服に銀髪の男性だ。前者からは明るい、そして後者からは真面目そうな印象を受けた。
「ええと、そうですけどカノンさん。後ろの方々はどちらさまでしょうか?」
とりあえず肯定するとともに気になった知らない人たちのことを聞く。
すると赤い服の男が自己紹介するから食事の相席をいいかと切り出してきた。
どうやら彼らはまだ食事を取っていないようだった。当然断わる理由も無い、俺は一応コウタに確認をとってから相席を承諾した。
「いやいや、悪いね。俺は大森タツミ、カノンとそこの青いブレンダンと一緒の防衛班なんだ、ちなみに俺そこの隊長ね」
「青いのとはずいぶんな言い方だが、俺はブレンダン・バーデルという。防衛班のメンバーの一人だ。二人は任務の仲間だな。よろしく」
「ええと、そちらの方とは初対面ですよね。台場カノンといいます。私も防衛班でお仕事をやらせて頂いているんです。よ、よろしくお願いしますねっ」
どうやら防衛班の面々の様だ。このあと俺とコウタも自己紹介をして、話は明日の戦場デビューについてになった。
「訓練始めて五日ぁ!? 何だそれ早すぎるだろ。担当教官誰だよ!」
「雨宮ツバキ教官ですよ」
「ツバキ、さんが? じゃあ本当に大丈夫なのかもな。あの人メッチャ訓練厳しいけど教官としての腕は確かだし」
「しかし、それにしても早い。新型とはそんなにすごいのか、頼もしい限りだな」
「だ、駄目ですよブレンダンさんプレッシャーかけるようなこと言ったらっ。」
「いやカノンさん、大丈夫だと思いますよ。クウの奴今日も元気にダミー殲滅してたみたいですし、気にするほど繊細な性格してないですから」
「……おい、コウタ。ちょっと組手しないか? 食後の運動がてらさ」
「やめてください、死んでしまいます」
ぎゃいぎゃいと騒ぎ、いらんことを言うコウタをいじりつつも楽しく会話が出来た。
タツミさんは明るい性格でコウタと似ているが、コウタよりも包容力を感じられる人だった。重ねた年齢分の差なのかもしれない。
ブレンダンさんは生真面目な人みたいだった。タツミさん曰く堅物だそうだが、良い人であることに違いはなさそうだった。
カノンさんは丁寧な人だが天然らしいことが今回の席でわかった。あと先日の俺の第六感は正しい事が二人の証言から得ることが出来た。
カノンさんと任務に行くことがあれば重々に気をつけるべきだと俺の脳髄にはっきりと焼きつけられた。
「ああ、そうだ聞いてなかった。明日の同行者は一体誰になるんだい?」
タツミさんの何気ない質問に、ええーと、とツバキ教官が言っていた名前を思い出した。
「――リンドウさんですよ」
本当は最初のオウガテイル戦まで行くつもりだったんですが、防衛班出したら意外と長くなってしまった。
何故だー。
カノン出したのにイチャイチャ出来ていない。
いつになったら主人公はイチャイチャを見せつけられるのか。はぁ。
多分いつかはしますよ(白目)