何!? 俺の知っている遊戯王の世界ではないのか!?   作:やーなん

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今回は全体的にシリアスです。
そして肝心のデュエルシーンがありません。
え、下ではデュエルしてるじゃないかって? アレはソリティアです。
読まなくたって本編進行には全く大丈夫です。ヒロイン視点ですし。

皆さんに需要があるか分かりませんが、そんな感じで本編へ参ります。








幕間 少し前の話

 あれは、今から二年前の話だ。

 

 

 私たちは中学の頃はデュエル部に入部し、日々研鑽の日々を送っていた。

 それは三年に上がった頃に起こったことだった。

 

 

「おい、須田。お前勝率三割切ってるぜ。お前やる気あんのかよ」

「うちの部活に弱い奴は必要ないんだよ。分かってんのか」

「そんなんだから、地区大会にも出れねぇんだよ」

 最近部長へと就任した同級生とその取り巻きたちが、そんな事を言い出したのだ。

 

 確かに最近、遊助の成績は振るわない。

 三年生になってからここのところ勝っているところをあまり見なかった。

 

 

「あー、すんません。新しい型のデッキ構築を思いついたんで、試してたんですよ」

 遊助はいつも新しい戦術の探求に余念が無い。

 

「いつも同じ動きだけじゃ面白くないですからね。

 色々出来る風にして、遊びを入れてみたりして、見てて面白いデッキを作ろうと思いましてね」

 遊助が頻繁にデッキの内容を弄くっているのは、その為だった。

 色々なカードを眺めてあれこれ考えて悩む姿を見ているだけで、私も楽しくなってしまう。

 

 だけど、その人たちは。

 

 

「ふざけんな!! 俺たちは遊びでやってんじゃねーんだぞ!!」

「馬鹿かお前、勝てなきゃデュエルする意味なんてねーんだよ!!」

「やっぱりてめぇなんかがうちの部に居るのが気にくわねぇ」

 口々にそんなことをのたまった。

 

 彼らとは度々意見が衝突し、反りが合わない事も多かった。

 だが彼らが部長や副部長に納まると、このように喚くことが多くなった。

 

 他の善良な部員たちも、彼らに怯えて何も言えない。

 なぜなら、大会での選抜メンバーを決めるのは部長たちなのだから。

 

 

「……・分かりました。

 じゃあ部長たち三人とデュエルして、一度でも負ければ俺はこの部から去りましょう」

 遊助はそんな事をなんでもないようにそう言った。

 

「へぇ、吹かすじゃねぇか」

「その代わり、俺が作った中でもかなり強いデッキでやらせてもらいます」

「面白れぇ、やってみろよ!!」

 

 その結果。

 

 

 

「んなッ、そんな、馬鹿な!?」

「マグレだ、今のはマグレだ!!」

「今のはマッチ戦だ、もう一回勝負しやがれ!!」

 三人とも全員が、手札や場をボロボロにされ、完膚なきまでやられたというのにその言い草だった。

 

「わかりました。面倒なので三人纏めてで構いませんよ」

 遊助は笑いながらそう言った。

 その表情はさっさと負けてやるかという嘲りさえあった。

 そうして、その理不尽なデュエルは始まった。

 

 モンスターが遊助に攻撃を仕掛けるたびに、その身体が吹き飛んでいく。

 それは、法律で禁止されているはずの無制限デュエルだったのだ。

 

 私たちがデュエルディスクにアタッチメントを装着するのは、何も便利だからではない。

 かつてデュエルは殺し合いの道具だった。

 太古の昔から、デュエルディスクで実体化させたモンスターは物理的な質量を持つ。

 アタッチメントはそれらを抑制する効果を持つのだ。デュエリストはそれの装着を義務付けられる万国共通の国際ルールである。

 

 遊助は何度も何度も打ちのめされた。

 そのたびに他の部員たちからの悲鳴が上がった。

 

 そして三対一の一方的な戦いは、一巡で遊助のライフを200にまで削りきったのだ。

 

 

「俺のターン、ドロー。

 っふふ、くく・・」

 何体もの強力なモンスターに叩きのめされ、追い込まれているというのに、遊助は笑っていた。

 

「あんたたちは、十七枚も手札があってたった8000程度のライフも削りきれないのか。

 その程度でよくこの学校代表を名乗れたものだ」

「負け惜しみを」

「どうせお前は次のターンで負けるんだ」

「サレンダーは受け付けてねーぞ、ぎゃはは!!」

 そんな彼らに、遊助は冷笑し続けていた。

 

 

「あんた達からは、鉄の意志も鋼の強さも感じられない。

 底が浅く、厚みさえない。見せてやるよ、俺の最強のデッキの強さを。

 俺は手札から、『粘体配合(スライム・フュージョン)』を発動。

 手札・フィールド・デッキから『スライム』融合モンスターによって決められた融合素材モンスター2体を墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 俺はデッキから『スライム・リーダー』と『スライムズ・ドール』を墓地に送り、『スライムライドナイト』を融合召喚する」

 遊助のフィールドに、スライムの乗った騎士人形が現われた。

 

「墓地の『粘体配合(スライム・フュージョン)』の効果発動。

 デッキから『スライム』モンスター2体を墓地に送り、このカードを手札に加える。

 俺は『スライム・メイジ』と『スライム・ビースト』を墓地に送る。

『スライム』の効果で墓地に送られた『スライム・メイジ』の効果発動。

 デッキから『スライム』魔法・罠カードを一枚手札に加える。俺は二枚目の『粘体配合(スライム・フュージョン)』を手札に加える。

『スライム』の効果で墓地に送られた『スライム・ビースト』の効果発動。

『スライム・ビースト』以外の『スライム』モンスター1体を手札に加える。俺は『スライムの勇者 スラーリンベル』を手札に。

 そして、『スラーリンベル』を召喚。

 デッキから『スライム』カードを手札に加える。俺は『スライム王国(キングダム)』を手札に」

 おかしい、手札が減らない。こんなの知らない。

 遊助のこんなデッキ、私は知らない。

 

 さきほど彼らを一人ずつ相手にしたデッキとは構築がまるで違う。

 

 

「フィールド魔法、『スライム王国(キングダム)』発動。

 このカードが存在する限り、通常召喚に加えて一度だけ『スライム』モンスターを召喚できる。

 その際にリリースが必要な場合、リリースなしで召喚できる。

 レベル8の『マスター・スライム』を召喚。

 手札から、『粘体配合(スライム・フュージョン)』を発動。

 このカードは『スライム』融合モンスターを融合素材とする場合、エクストラデッキの『スライム』融合モンスターを素材にすることが可能。

 ただし、この効果で融合召喚した場合、このカードは除外される。

 俺はフィールドの『スライムライドナイト』と、エクストラデッキの『キング・オブ・メタリック』を融合素材とし、『キング・オブ・レッド』を融合召喚」

 真っ赤な『キング・オブ・スライム』といった体のスライムが身体を波打ち登場した。

 

 たった一枚でエクストラデッキから三枚も融合モンスターを引っ張り出した。

 あっという間に墓地が肥えていく。いつもは苦労して墓地へ落としているのに。

 あんなカード、私は使ってるところなんて見たことが無い。

 

 

 

粘体配合(スライム・フュージョン)

 通常魔法

粘体配合(スライム・フュージョン)』の(2)の効果は1ターンに一度しか使用できない。

(1)手札・フィールド・デッキから『スライム』融合モンスターによって決められた融合素材モンスター2体を墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚できる。

 また、自分フィールドの『スライム』融合モンスターを融合素材にする場合、エクストラデッキの『スライム』融合モンスターを融合素材にしてもよい。

 この方法で融合召喚を行った場合、このカードは除外される。

(2)このカードが墓地に存在する場合に発動できる。

 デッキから『スライム』モンスター二枚を墓地に送ることで、墓地のこのカードを手札に加える。

(3)このカードの効果で融合召喚した融合モンスターと同名のカードは、次の相手のエンドフェイズまで特殊召喚できない。

 

 

 スライム二体で融合できるモンスターは少なく、そのどれもが状況を一変させる力が無いからこそ許される強力な専用融合カードだった。

 だが、そんなことは遊助のプレイングセンスを知っている私からすれば、鬼に金棒でしかなかった。

 

「墓地に送られた『スライムライドナイト』の効果により、『ウルトラスライム・フュージョン』を手札に。

『キング・オブ・レッド』の効果発動。

 1ターンに一度、デッキからスライムを特殊召喚できる。

 俺は『スライム・ブルー』を守備表示で特殊召喚。

 俺は二枚目の『粘体配合(スライム・フュージョン)』を発動。

 デッキから『スライムズ・ドール』と『メタリック・スライム』を墓地に送り、エクストラデッキから『メタリックライドナイト』を融合召喚。

 ここで、『マスター・スライム』の効果発動。

 手札・フィールドからの融合召喚・このカードをチューナーにする・このカード以外の『スライム』と同じレベルになる効果のうち、融合召喚する効果を選択。

 俺はフィールドの『スライム・ブルー』、『マスター・スライム』、『スラーリンベル』、『キング・オブ・レッド』を素材として、『キング・オブ・スライム』を融合召喚する。

 ……これで、準備は整った」

 遊助は酷薄な笑みを浮かべて、手札のカードをデュエルディスクに置いた。

 私が見たことの無い、ゾッとするような笑みだった。

 

 

「俺は手札から、『ウルトラスライム・フュージョン』を発動。

 自分のフィールド・墓地から『スライム』融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚できる。

 俺はフィールドの『キング・オブ・スライム』、墓地の『スライムライドナイト』、『キング・オブ・レッド』、『メタリックライドナイト』、『メタリックボディ・スライムキング』を融合素材として除外し、その五体のモンスターで融合召喚する!!」

 五体のスライムたちが混ざり合い、フィールドにまばゆい輝きを齎した!!

 

「現われ出でよ、全てのスライムの最終最強の進化形。

 魔王をも超越する白銀の輝きを放つ究極の姿!!

 レベル12、『プラチナボディ・スライムキング』!!!」

 白銀の身体を持つスライム、それが遊助の最強の切り札だった。

 

「『プラチナボディ・スライムキング』の効果発動。

 融合素材となった『スライム』融合モンスターのレベルの合計によって、効果が発動する!!

 まずはレベル20以上の効果。

 相手フィールドのカードを全て墓地に送る。

 次にレベル25以上の効果。

 相手はこのカードの効果に対してカードを発動できず、このカードの発動と効果は無効に出来ない。

 そしてレベル30以上の効果。

 デッキからカードを一枚選んで手札に加える。

 俺が加えるのは『究極呪文 全魔力開放』だ」

 白銀のスライムが輝き始めると、一瞬にして、相手のフィールドが更地になった。

 

 

「お、俺たちのモンスターが・・!!」

「『プラチナボディ・スライムキング』は融合素材としたカードの枚数まで攻撃が出来る。

 よって、五回攻撃だ」

『マスター・オブ・プラチナ』の攻撃力は3500.

 取り巻き連中はその攻撃で消し飛び、残るはライフ500の部長を残すのみとなった。

 

 

「み、認めねぇぞ、こんなデュエル!! こんな負け方!!」

「手札から『究極呪文 全魔力開放』を発動。

 レベル10以上の『スライム』モンスターがフィールドに存在する場合に、ライフを100になるように減らして発動できる。

 お互いのプレイヤーの手札・フィールド・墓地のカードを全て除外し、その枚数までお互いのデッキを上から除外する。

 その後、除外した枚数×100ポイントのダメージを相手に与える。

 この効果で除外されるカードの枚数は36枚、よって3600ダメージです」

「う、うああああああ!!」

 大爆発に吹き飛ばされて、部長は部室の壁に叩きつけられた。

 

 

 ……その後のことは良く覚えていない。

 その後、当然のことながら先生たちが駆けつけてきたらしい。

 

 彼らは警察から連絡を受けて、駆けつけてきたのだ。

 アタッチメントを外し、デュエルをするとデュエルエナジーが観測される。

 それに目を光らせている警察が状況を確認し、飛んでくるのは当たり前だった。

 

 知らないうちに無制限デュエルに巻き込まれた被害者である遊助や部員みんなの証言の元に部長たちは長期の謹慎と退部になった。

 その後、学校中から白い目で見られた彼らはそれぞれ転校して言ったと聞く。

 

 

 遊助は事情を聞かれるとすぐに開放された。

 保健室で治療したあと、彼に付き添い帰ろうとするが、私は彼になんと言えばいいかわからなかった。

 

 そして、遊助は昇降口から出ると、なぜだか後者の裏手へと歩いていった。

 

「遊助、そっちになにか用でも……ッ!?」

 なんと、彼はデュエルディスクからデッキを取り外すと、それを焼却炉の中に投げ込もうとしたのである。

 私はすぐに彼の手を掴んで止めた。

 

 

「なにやってるのよ、遊助!!」

「・・翔子?」

 まるで、私が隣に居たことに気づかなかったような言い草だった。

 

「どけよ、翔子」

 何の感慨も感じられない、死んだような声音だった。

 

「火の中に入れたって、カードは燃えたりしないし、もし焼却炉の中に入れたら私は炎の中でも拾い集めるわよ!!」

 私は遊助の腕を掴む力を強めてそう言った。

 私は本気だった。遊助がそうすれば、私はきっとそうしただろう。

 

 

「やめてくれ、俺にお前を傷つけさせるなよ」

「だったら、お願い、やめて」

 私が何度も懇願して、漸く遊助は上げていた手を下ろした。

 その手からはらりとデッキが落ちて、カードが地面に散らばった。

 

「なんで、こんなことを・・?」

「なぁ、翔子。デュエルってこんなにもつまらないものだったのか?」

「え……?」

「俺は昔、ずっと昔、勝つためだけのデッキを何度も組んできた。

 出来るだけ一方的に、相手に何もさせず、自分だけ有利に事を運び、ただ勝つためのデュエルをし続けた。

 いつだったかな、それに飽きてデュエルから離れたのは」

 それは、初めて聞く話だった。

 私達は幼稚園の頃から一緒に居る。彼のデッキの変化ぐらい、その時々に察知してきた。

 それどころか、彼がデュエルから離れた期間など、一週間とて無かったはずである。

 

 

「そう言う遊びだと思ってた。

 それが全てだと思ってた。だけど、いざそんなデッキを組んでみたら、意外と悪くなかった。

 全国に通用するだろうレベルのデッキが出来た」

「じゃあ、それを使って皆に実力を示せばよかったじゃない、」

「つまらなかったんだよ。ほんの十回試行しただけで、飽きちまったんだ。

 やることが決まってて、勝ち筋はせいぜい一つか二つ。それに至るまでの過程を出来るだけ最適化し、機械のようにそれだけを繰り返す。

 違う、違うんだよ、こんなのは!!

 デュエルってのは、もっと楽しいもんだろう!!

 なぁ翔子、俺たちがガキの頃、もっともっとデュエルは楽しかったはずだ!!

 なのにどうしてだ、勝たなきゃ居場所は無いって? そんなのふざけてるだろう!!」

「遊助……」

 彼の言っていることはところどころ支離滅裂だったが、言いたいことは分かった。

 

 デュエルはコミュニケーションである、とある偉人は言い残した。

 彼の信じているデュエルは、決して一方的で暴力的なものでは無いのだろう。

 

 

「今日、意図せずとは言え初めてデュエルで他人を傷つけて分かった。

 ただ相手を一方的に蹂躙して、有無を言わさず叩きのめすようなデュエルなんか、俺の知ってるデュエルじゃなかった。

 そう、俺の知っているデュエルは、もっと、皆を、幸せに……」

 言いながら、言葉尻がすぼまって行くのを彼自身分かっていたのだろう。

 

「なあ、翔子」

「ん? なあに」

「お前はどんな俺が俺でも、見捨てたりしないよな・・?」

「それってどういう意味?」

 私は笑ってそう言った。

 

 何を当たり前のことを言っているんだろうか、遊助は。

 私が遊助を裏切るはずないじゃない。

 

 遊助は以前、私に言ってくれたじゃない。

 絶対に私を裏切ったりしないって。

 

 だから、私も遊助を裏切ったりしないのだ。

 

 そのためなら遊助は何でもするし、私もなんだって出来る。

 私と遊助は、一心同体なんだから。

 

 

「いいや、なんでもない。なんでもないんだ」

 だけど、私には彼が何を考えているのかわからなかった。

 

 

 

 

 

 それからである、遊助が荒れるようになったのは。

 不良と絡んでデュエルしたり、時々学校を休むようになったのだ。

 

 心配になって彼の部屋に尋ねていった時、部屋を開けたら驚いた。

 遊助の部屋は壁紙から天井、床まで真っ黒に染まっていた。

 室内にはピラミッドの模型や水晶などの怪しげな物品が置いてあったり、訳の分からぬことになっていた。

 

 更に遊助は堂々と黒魔術の本を読んでいたのだ。

 後日には、どこぞの新興宗教に出入りしていることが発覚し、家族間で騒ぎになったこともある。

 おじさんにエジプトに行きたいとせがんでいる場面も目撃したこともある。

 

 遊助の行動は中二病で片付けるには常軌を逸していた。

 

 

 ある日、私は荷物を持って出かける遊助をつけてみた。

 電車に揺られること一時間、たどり着いたのは東京の新宿区だった。

 

 華やかな町並みから離れた裏路地に、遊助は向かって行った。

 遊助の目的地は、その薄暗い奥にある店だった。

 

 その店の名前は、「占いの館」。

 なんの捻りも無いその場所は、オカルトに最近傾倒している遊助が目的地にするのは納得できるところだった。

 

 私は遊助が入って行った店内へのドアに耳を当てて、中の様子を伺った。

 壁が薄いのか、中での会話はかなり聞こえた。

 

 

「予約した須田です」

「どうぞ、こちらにお掛けになってください」

 遊助と、若い女の声が聞こえた。

 

「一体どのようなご相談でしょうか」

「貴女は人の前世が分かると伺いました。

 俺は前世の自分がどんな人物だったか覚えているんです。

 貴女のことを信じる前に、どうか俺の前世がどのような人間だったか、当ててみてください。

 俺は何人もの占い師や霊能者を当たりましたが、どれも偽者でした」

 どこか挑発的な物言いで、遊助は言った。

 どうせ貴女も他と同じだろう、という諦念があるような言い方だった。

 

「なるほど。わかりました」

 占い師らしき女の声は、それきり途絶えた。

 

 十分だろうか、二十分だろうか。

 沈黙が続いた。

 

 どうせ、この占い師も偽者だろう。

 そう、遊助は思ったことだろう。私もそう思ったからそう思ったはずだ。

 

 だが、

 

 

「見えました」

 ただ一言、静寂を切り裂く言葉が紡がれた。

 

「……前世の貴方は、酷く自分勝手な人物のようですね」

 遊助が息を呑んだような、気配がした。

 

「誰も信じず、信じようとせず、そのくせ簡単なことで他人を裏切ったと喚き立てる。

 狭く小さな部屋に閉じこもり、誰とも関わり合おうともしないくせに、他人に餓えていた。

 表面的なことを知っただけで全てを理解したつもりになる。

 よく知りもしない他人を簡単に罵り、そして傷付ける。

 ……これ以上は暴言になるので差し控えましょう。

 どうしても信じられないのならば、名前も言い当てましょうか」

「いや、いい。あんたは本物だ。信じる」

 遊助が出した結論はそうだった。

 その後、すすり泣くような声が聞こえた。

 

「・・やっと、見つけた……本物の、霊能者を……」

「話を伺いましょう」

 数分の時間を要した後、遊助は口を開いた。

 

 

「俺は、自分は、何ゆえにこの世界に生まれてきたのでしょうか。

 俺は前世の自分を自覚した時、この手のことはいくつかのパターンがあると知りました。

 俺は神様に会って転生の約束を取り付けたり、トラック事故で死んだわけでもない。

 使命を与えられたり、特別な力を受け取ったわけでもない。

 なのに俺はこうして生まれ変わった。仰るとおり、前世の俺は徳のある人物じゃ有りませんでした。

 本当なら煉獄辺りで今にも絞られている頃でしょう。

 教えてください。なぜ俺は、こんなにも苦しまないといけないのですか?」

 その言葉は淡々としていたが、魂の叫びだった。

 絶叫だった。

 

 誰にも理解し得ない苦悩を吐露した遊助に、占い師はこう言った。

 

 

「まず、貴方は勘違いをしている」

「勘違い?」

「人間が前世を自覚し、その記憶を持って生まれ変わることは、珍しいことですが全く無いわけではありません。

 私は貴方と同じ境遇の人間を、少なくとも3人は知っています。

 貴方のように心の中に秘めて押し殺している方を含めればもっと多い」

 っしゅっしゅ、とカードを切るような音が聞こえる。

 

「貴方には特別な使命や、ましてや何らかの理由があって前世の記憶があるわけではありません。私が保証しましょう。

 私は貴方の今後を占い、予言をします」

「はい」

 そして、彼女は言った。

 

「もし、今付き合っている女性が居るのならば縁を切りなさい。

 貴方は彼女を不幸にするし、彼女は貴方を不幸にするでしょう」

 心臓が、止まるかと思った。

 嫌な脂汗が流れ出る。

 

 まるで、ドア越しに見られているような感覚だった。

 

 

「ああ、そうですか。

 よかった、俺に今付き合っている女性は居ません」

「なるほど。わかりました」

 その後も、いくつかの予言と相談が続き。

 

「もし、貴方が心の安寧を求めるならば、この場所に赴きなさい。

 貴方と同じ境遇の人間が集まる場所となっています」

「今日はありがとうございました」

 私は慌てて近場の影に隠れた。

 

 遊助が通り過ぎて去っていくのを見届けると、私は店のドアを開けた。

 

 

「当店は完全予約制となっておりますが」

 中東の方のエキゾチックな格好をした美女が笑みを浮かべたまま私を出迎えた。

 

「遊助に何を吹き込んだの」

「全て、聞いていたのではないのですか?」

 すらりとした指を重ねあわせて腕を組み、彼女は笑みを深める。

 

「最近、遊助は傷ついておかしくなってるの。

 前世だのなんだの、余計なことしないで」

「私は占い師です。それ以外のことは出来ません。

 しかし、なぜ彼が私よりずっと親しいはずの貴女に相談しなかったかは分かります」

「…………」

「貴女はきっと、彼のことを信じない。

 彼がどれだけ悩み苦しんで、それを貴女に話したとしても、貴女はきっと話をあわせて慰めるだけで理解は示さない。

 それが彼にも分かっていたのでしょう」

 図星だった。私は今でも、遊助が思春期特有の病気を発症していることを疑っていなかった。

 

「貴女は本質に迫ろうとしていない。

 古錆びた鎖で繋がれていることに満足し、それが酷く脆い物であることから目を逸らしいる」

「私は……」

「予言しましょう。このままだと、きっと貴女は彼を苦しめるだけの存在と成り果てる。

 これは占いというより、女の勘ですので、料金は発生しません」

 そう言うと、彼女は一枚の名刺を置いた。

 

「彼にも同じものを渡しました。

 気になるのならあなたも追いかければいい」

 私は言い返すことも出来ずに、その名刺に目を落とした。

 

 

 そこに住所や電話番号と共にこう書かれていた。

 

『デュエルスクール 遊戯王』、と。

 

 

 

 

 

 そんな大層な名前の看板を掲げた私塾の前に、佇んでいた。

 時間はもう既に夜七時。

 

 名前の割りに個人経営らしく小さな私塾の中は、営業時間を過ぎているのに明るく、笑い声が絶えなかった。

 その中には、遊助らしき笑い声も聞こえる。

 

 遊助がそんなに笑った声を聞いたことが無かった。

 私がどうするべきか悩んでいると、デュエルディスクに着信があった。

 

 相手は遊助からだった。

 

 

「どうしたの?」

『ああ、翔子か。悪いけど今日は帰るのが遅れるって親父に伝えてくれ。

 どうしてか電話に出なくてな。そんじゃあな。』

 遊助はそれだけ言うと、私の返事を聞かずに通信を切った。

 

 

 

「……・・帰ろう」

 私は踵を返して、駅へと足を向ける。

 

 その日から毎週のように週末に一度はこの場所に遊助は通うようになった。

 それを見送るたびに、あの占い師の言葉を私は思い出す。

 

 

 私は、未だに一歩も踏み出せていなかった。

 

 

 

 




今回は重要だけどデュエル小説では蛇足な幕間の場面。
翔子ちゃんは軽度のヤンデレを患ってたりします。

それぞれのキャラが持つデッキのカテゴリーは、実はそのキャラの本質を現しています。
スライムデッキを持つ主人公は主体性が軟弱であったり、シップレディはその華やかさとその奥に潜む水底の闇を示しています。
翔子ちゃんは一見おとなしそうに見えて、全体の激しい表裏が見え隠れしています。
木村君はモンスターで殴れない臆病さと罠に掛けられない表裏の無さを現しています。
では生徒会長は、あの双子は? と考えてみると面白いかもしれません。

需要があれば続きます。それではまた。
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