何!? 俺の知っている遊戯王の世界ではないのか!?   作:やーなん

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今回は、デュエルはありません。
この世界の設定だとか、主人公の転生者仲間とかが出てきて駄弁るだけです。
今回はデュエルはありませんが、次は出来るだけ早く書くので、許してください。
それにしても、お気に入りがいつの間にか50件超えていましたね。こんなイロモノ小説に需要があればもっと早くなります。

それでは、本編になります。









第十三話 青春少年少女

 今日は休日。

 俺は朝から家を出ると、最寄の駅へと向かった。

 

 鈍行電車に揺られること一時間足らず。

 東京の秋葉原にある電気街を抜けて、程なくしたところにそれはある。

 

 

 デュエルスクール「遊戯王」。

 俺のような前世を知るものが見れば一発でそこがどういうところか分かるだろう看板を掲げているのは、俺のような境遇の人間が向こうから見つけてくれることを期待してのことだった。

 

 平日は子供たちに向けてデュエルを教えながら、休日はこうして俺のような前世の記憶を持つ人間が集まるのだ。

 

 

「お邪魔しまーす」

「やあ、遊助くん」

 扉を開けると、やせ細った中年の男性が出迎えてくれた。

 彼がこのデュエルスクールのオーナー、椎名さんである。皆からは塾長と呼ばれている。

 

「今日は誰が来てますか?」

 俺は靴を脱ぎながら教室スペースに上がりこんで彼にそう尋ねた。

 

「茂樹くん以外は皆来ているよ」

「あ、やっぱり茂樹さんはお忙しいんですか」

「仮にもプロデュエリストだからね。

 今は全日本の試合で全国を飛び回って試合の毎日だそうだ」

「もうそんな季節ですか」

「今年は誰が日本代表になるんだろうね」

「そうですねぇ」

 そんな雑談を交わしながら、俺たちは奥の部屋へと入って行った。

 

 

「なんだぁ、ユリっちまだ家に戻ってないのか」

「あなたには関係の無いことでしょ」

「いやでもさ、親御さんも心配してんだろ? せめて連絡したらどうなんだ?」

「私のことはほっといてよ」

 俺が中に入るなり、そんな会話が聞こえた。

 

 中にいる居たのは、今風に制服を着崩した女子高生と、おとなしそうな女子中学生だ。

 前者がスズナさんで、後者が新入りのユリちゃんだ。

 

 これに今居ない茂樹さんと、協力者一名がこのデュエルスクールに出入りするメンバーである。

 

 

「塾長。ユリちゃん、まだこの調子なんですか?」

「うん、まあ、彼女の事情も分からなくは無いんだ。

 良くないことだとはわかっているんだけど、他に頼れるところもないだろうし」

 塾長も頭を掻いて、複雑そうな心境を吐露した。

 

「でも、今日で三週間でしょう? 流石にそろそろまずいのでは?」

 ユリちゃんを塾長が拾ってきたのは、確かそれくらい前の話だ。

 

 ここに居る面々は、一人を除いて全員が前世の記憶を持っている。

 当然ながら、皆が皆、二度目の人生を謳歌しているわけではない。

 

 ユリちゃんはその典型だ。

 あまり詳しいことを話してはくれなかったが、家族と上手くいかないらしい。

 

 俺は上手くやったが、彼女の場合子供の頃にやりすぎたらしい。

 まあ、転生モノだとよくある話だろう。年齢不相応なことをやらかしてしまうという奴だ。

 

 彼女の場合、なまじ幼少期が優秀だっただけに、親の期待が重すぎて逃げ出してしまったということだ。

 

 

「俺たちは帰りたくないのなら好きなだけ居れば良いとは言った。

 でもそれで人生を棒に振るのは間違ってるぜ、ユリちゃん」

「その時は三度目の人生に行けばいいじゃない」

 そんな身も蓋も無い物言いに、俺たち三人は顔を見合わせてため息を吐いた。

 

「んま、あたしの人生じゃねーしな。

 ユリっちの好きにすればいいさ。死にたいのなら、勝手に死ねばいい」

 スズナさんはテーブルに足を投げ出して足を組みながらそう言った。

 太ももが露になり、かなりきわどい。

 

「スズナちゃん、それはお行儀が悪いからやめなさい」

「あ、悪い悪い、ついな」

 塾長に窘められ、スズナさんは笑いながら足を引っ込めた。

 この人、前世の性別が男だったらしく、今生をこれでもかというほど楽しむつもりのようだった。

 男の頃のくせが抜けないのは勘弁して欲しいが。

 

 

「スズナさん、でもそう言う言い方は無いんじゃないのか」

「同情してどうすんのさ。あたしらがどうにかできるとでも?

 来世に期待して首を括るのもひとつの選択だろうさ。

 尤も、そんな奴は何度生まれ変わろうが同じだろうが」

 スズナさんの言うことは正論なので、俺も塾長も何も言えなかった。

 

「スズナさんには私の気持ちなんて分からないわよ」

「あのな、あたしはユリっちが来る前のここのゆるーい雰囲気が好きだったんだよ。

 そりゃあ、あたしは恵まれてるよ。

 家はそこそこ裕福だし、この身体と頭は前世よりずっと優秀で、運動や勉強に困ったことも無い。

 友達だって何人も居るし、両親も良い人だ。

 だけどな、ユリっちの気持ちが分からないなんてことは無いんだよ。

 ……どんな友達にも両親にも、言えない事はある。そうだろう?」

「……・」

 ユリちゃんは何も答えなかった。

 

「そうだね、ここは誰にも言えない秘密を抱えた者が来る場所だ。

 流石にずっと、というわけには行かないが、踏ん切りがつくまでここに居るといい」

 塾長がそう締めて、重苦しい空気を振り払った。

 

 

「そういや塾長、『テレビ』の調子はどうですか?」

 俺も話題を変える為、塾長に乗っかってそう言った。

 

「ああ、そうだね。皆、地下室に向かおうか」

「お、もうそんな時間か」

 スズナさんは椅子から立ち上がると、更に奥にあるドアを開け放った。

 その先には、地下へと続く階段がある。

 彼女はさっさとその奥へと行ってしまった。

 

「ユリちゃん、君はどうするのかい?」

「私はいいです。今更前世に執着してどうするんですか」

 ユリちゃんを気に掛けて塾長はそう言ったが、彼女は素っ気無くそう言った。

 

「おい」

「良いんだ、遊助くん。彼女も傷ついている」

「……・」

 俺は喉元まで出掛かった言葉を飲み込んだ。

 そしてそのまま、地下への階段へと足を踏み入れた。

 

 十数段の階段の先には、また扉がついている。

 それを開けたところにある部屋は、一言で言えば研究室だった。

 

 無数の機材や薬品などが棚に並べられた、白い部屋。

 そして、この部屋の主たる白衣の男がゴテゴテに肥大化した液晶テレビを弄繰り回していた。

 

 

「博士、『テレビ』はどんな感じだい?」

「うーん、どうやら時空間の歪みが発生しているのか、ここのところ繋がり難いんだよなぁ」

 スズナさんの声に、白衣の男はそんな突拍子の無いことを口にした。

 

 彼は通称、博士。本名は知らないが、塾長と大学で同期だったらしい。

 彼の人となりは端的に言って、狂人だ。

 具体的には、俺たちの前世の記憶があるといってそれを受け入れる程度には。

 口を開けば意味不明なことばかりを言う人だが、悪い人ではない。

 しかし、得てして狂人というのはそれだけ世界の真理に近づいているとも言える。

 

 彼は狂人だが、天才だった。

 この私塾を始める前は電気関係の技師をしていた塾長と共に、異世界の電波を拾うテレビを作ってしまうくらいには。

 最終的には異世界間の移動を目的とした研究をしているのだという。

 

 そんなものを開発できる程度には、この塾の資金は潤沢だ。

 スポンサーが居るわけではない。そんな荒唐無稽なことに金を出す資産家も居ないだろう。

 

 この塾に出入りする俺たち前世持ちの人間は、基本的に前世の知識を有効活用しようというスタンスを取っている。

 つまり、この世界には無くて、前世にはあった代物を再現して売ったり、アイディアとして企業に売ってりして収入を得ている。

 

 こうして得た資金は、各々申告した上である程度は自由に使っていいことになっている。

 俺の場合、ここまでの交通費とかに使わせてもらっている。

 

 

「なんだ、じゃあ、最新話は見れねぇのか」

 スズナさんはつまらなそうにそう言った。

 ここではどこぞの世界で放映されている遊戯王の最新話の電波を拾ったりして見たりしている。

 たまに再放送が流れたりしてがっかりしたりするが、俺が今のアニメのネタに精通しているのはその為である。

 

「悪いがそう言うことになるな」

「しょうがないよ、博士。そう言うこともある」

「うーむ……今日はこれ以上は無理か。椎名、自分も上に行くのでコーヒーを入れてくれ。昨日から調整を続けていたので疲れた」

「わかったよ。いつも悪いね」

 塾長が博士を労ってそう言った。

 

 そう、博士が悪い人では無いと確信している理由が、毎回毎回遊戯王の最新話を見るために半日かけて『テレビ』の調整をしてくれるからだった。

 

 

「おや、三門くん、まだ居たのかい」

「こんにちは博士。一週間振りです」

 ユリちゃんと博士が顔を合わせて挨拶を交わした。

 ってか、博士、あんた一週間ずっと地下に篭ってたのかよ。

 

「博士、たまには外に出たらどうだ?

 流石にずっと地下じゃ不健康だろ」

「この程度で健康に害をなすほど軟ではない」

 スズナさんに苦言を呈されてもこの調子である。

 

「ところで諸君、なにか新しいアイディアはあるかね。

 異世界関係の研究が手詰まりでね、私としても新しい研究をして息抜きをしたい」

 研究の息抜きに研究をするというのが、なんとも博士らしかった。

 

 あくまで博士は技術屋、元になるものが無ければ作れないが、概要だけでこの人は色々なものを形にしてきた正真正銘の天才である。

 

「この世界に無くて、前世にあったものだろ、何か有ったっけ?」

「スマフォとかどうだ?」

「このデュエルディスク関連が異様に発達した世界に必要か、それ」

「だよなぁ。でも使うとなると嵩張るんだよな、デュエルディスクって」

 スズナさんはため息を吐いた。

 

 

「ある程度不便でなければいけないのだよ。

 改良しようと思えば、今の技術で重量をあと40%は軽減できるだろう」

「そんなに軽く出来るんですか!?」

 俺も若干嵩張るとは常々思っていたので、その博士の言葉には驚いた。

 

「デュエルディスクのアタッチメントは高性能な電子機器であるのと同時に、持ち主を縛る枷だからねぇ」

「ああ、忘れてた、この世界の人間って闇のデュエルもどきみたいなのが標準装備だったっけな」

「闇のデュエルもどきって……」

「どちらかというとサイコデュエリストでしょう。アキさんみたいな」

「あはは、そうだな。どうにも初代の方が印象強くて」

 スズナさんはユリちゃんにつっこまれ、はにかんで頬を掻いた。

 

 しかし、この世界の人間が全員、ブラロでぶっぱできると考えれば当然の枷だろう。

 大昔、それで人間同士でやりすぎてしまった歴史がある。

 

 

「それにしても、デュエルエナジーだっけ?

 よく、そんなよく分からないので動いているよな、これ」

 スズナさんはデュエルディスクを展開してそう言った。

 

「デュエルエナジーは、一般的に生体電気の一種だと考えられている。

 勿論、それだけでは説明できないがね。

 我々人類はそれを用いて発展してきたのは事実だ」

「私としては、そんなよく分からないエネルギーよりも、普通に電気で動く機械のほうがいいよ」

「お前らしいな、椎名」

 博士は人数分のコーヒーを入れてきた塾長に礼を言って、カップを受け取る。

 

「私も技術屋の端くれとしては、ね。

 デュエルエナジーの暴走事故とか、たまに聞くじゃないか」

「それを言ったら、我々人類は電気のどれだけのことを理解しているというのか。

 火や光についてだって、完全に理解しているわけではないのだから。

 文明の発展と事故の多発、そして公害は切っても切り離せない関係にある」

 悲しいことだがね、と博士は締めくくる。

 

 

「カードがデュエルディスクから出てくる理屈って、そういや解明されてたっけ?」

「いや、まだだね。

 ここからは科学というより、オカルトの話になるのだが……まあ、人知を超えたオカルトを経験してきた君らなら信じられるかもしれないが」

 博士は急に機嫌がよさそうになって話し出した。

 

「スズナさん、博士のスイッチ入れるなよ」

「ごめん……」

 こうなった博士はそう簡単に止まらないため、皆気をつけていたのだが。

 

 

「カードは、持ち主の魂の具現であるという説がある。

 そして私はこの説を支持しているんだ。

 かつて敵に捕まったデュエリストがカードを全て敵に没収されたところ、程なくして原因不明の衰弱死をしたという記録がある」

「それは、本当ですか!?」

 それは身の毛もよだつ話であった。

 

「ああ、死後には燃えるはずの無いカードが焚き上げられる文化が日本にもかつて存在したが、持ち主の死後には簡単に燃えてしまうというのは有名なはずだ。

 万物には魂が宿る、というのは日本の信仰だが、カードには間違いなく魂が宿っていると思うよ。

 私には時々、このカードたちが生きているようにも感じることもある」

 博士は自身のデュエルディスクにセットされたデッキからカードを一枚引いて、それを眺めながらそう言った。

 

 

「馬鹿馬鹿しい、カードに魂が宿ってるだの、異世界だの。

 この世界の連中は皆、デュエルデュエル、そればっかり。こんな狂った世界、私まで毒されてたまるもんですか」

 だが、ユリちゃんは首を振ってそう吐き捨てた。

 

「俺たちの前世の世界も、大概狂ってたと思うけどな」

「だよな。むしろ、この広い地球で、二度も日本に生れ落ちたことを神様に感謝するべきだろうぜ。

 あたしが神様に何か転生特典を貰うなら、もう一度現代日本に産まれさせてくださいって、言ったと思うわ」

 俺もスズナさんも、そして塾長も、ユリちゃんの癇癪について言えることはないのだ。

 なぜなら、彼女のそれは自分たちも覚えがあるからである。

 この世界に嫌気が刺すのは、誰もが通った道だった。

 

「大体、博士も博士ですよ。貴方は私たちみたいに前世の記憶があるわけでもないのに、どうして私たちの言っていることを理解できるんですか。

 貴方が頭のネジが外れた人間なら、私達は頭のおかしい電波ですよ?」

「私はただ、そうであったら面白いな、ということを一つずつ証明しようとしているだけだ。

 最初こそ、私だって椎名を疑ったさ。だがこいつの語るモノを見たくなった。ただそれだけのことなのだよ」

 ユリちゃんに辛辣な言葉を投げかけられても、博士は大人の余裕を見せてそう答えた。

 

 

「お陰で、異世界のカード事情などをこの目でうかがい知ることが出来るようになった。

 楽しい、ああ楽しいとも。会社に馴染めず仕事を辞めた椎名に声を掛けられなければ、私も社会の片隅で腐っていただろう。

 だから私は、君ら前世持ちにとても感謝しているのだ」

 博士も、ユリちゃんを気遣っているのだろう。

 一人でも自分を理解してくれる大人が居てくれるのは、本当に救いなのだ。

 

「ユリちゃん、君はまだ若いんだ。無理をする必要はないんだよ」

 塾長もそれを察してか彼女にそう言ったのだが。

 

 

「子ども扱いしないでください。これでも前世を含めれば40歳越えてるんですから!!」

「前世とあわせて二度目の思春期に困惑してるのは分かるけど、少し落ち着こうよ」

 よく転生モノの小説では前世を合わせて三十歳だの四十歳だの言ったりするが、精神年齢は思いっきり肉体の年齢に引っ張られる。

 

「前世と今生の年齢なんて、突然蜂のダンスのことを語りだす下っ端ぐらいにどうでもいいことだ。

 俺も一時期無性にイライラして、それが思春期であることを自覚して愕然としたもんだぜ」

「人間は前世があろうとなかろうと、思春期は来るものだからねぇ。

 ……私にも覚えがある」

 笑いを取るつもりで妙な例えを言ったのだが、見事に塾長に掻っ攫われた。

 

「あっはははは、違いない」

 俺たちの意図せぬ連携に、スズナさんは腹を抱えて笑い出した。

 

 

 

「……・すこし、散歩してきます」

 だが、ユリちゃんはからかわれたと思ったのか、憮然とした表情で部屋から出て行った。

 

「……ちょっと、無神経過ぎたか?」

 俺も思春期の悩みを蜂のダンスと同じくらいどうでもいいと言われたら、怒らないとは言えない。

 

「しゃーないだろ、あの年頃は複雑で、感情の制御がきかないんだから」

「結局のところ、自分たちに出来ることは、彼女が納得できるまで見守ってあげることだけなのかもね。

 後で、連絡先を聞き出して、それとなくご両親に連絡するよ」

「……そうですよね、」

 俺は、スズナさんと塾長の意見に流されることにした。

 この間のことを思い出して、自信をなくしてしまったのだ。

 

 

「もう十一時ですし、ちょっと早いですけどメシにしません?」

 他の三人の同意を得て、俺たちは近くのファミレスへと移動した。

 

 

 

 高校生の男女二人と、中年のおっさん二人という珍妙な組み合わせの俺たちは、しかしお昼時の喧騒に掻き消されて目立つことは無かった。

 

 ちなみに俺たちがそれぞれ頼んだメニューは以下の通り。

 スズナさん、ハンバーグランチ。

 俺、チキンステーキランチ。

 塾長、ドリアとサラダセット。

 博士、サンドイッチ。

 

 見事に性格が出る注文だった。

 

 

「すこし、相談があるんですが」

 頃合を見計らって、俺は話を切り出した。

 

「ん? ここで話せる話か?」

「ええ、ちょっと後輩に辛く当たってしまいまして」

「どれ、話してみなさい」

 俺は彼らに先日の坂間姉弟の件について話した。

 

 俺は自分が子供だということをイヤと言うほど自覚している。

 二度目の人生で他人に悩みを聞いてもらう転生者も珍しいと思うが、意地を張って一度失敗しているので、何かあれば気の置けない仲間に相談することにしている。

 少なくとも、偏見の無い意見を言ってくれる、信頼の出来る自分の生活圏にない大人たちという意味では頼れる存在だった。

 

 

「別に遊助が心配することじゃなくね?

 好きに挑んで好きに玉砕させればいいんだよ。

 一度挫折したからこそ、前を向いて切り開ける道もある」

 スズナさんは何でもない風に切り分けたハンバーグを頬張りながらそう言った。

 

「わたしにも前世には姉貴が居たから分かるんだが、姉貴とは最後まで反りが合わなかった。

 いつも喧嘩ばかりしたよ。だけど仲は悪くなかったし、けっして嫌いあってはなかった。

 きっと、自分の意見を言い合える関係だったからだと思う。

 思うにその姉妹って、決定的に衝突したことがないんじゃねーのか?

 人間ってのは真っ直ぐ伸びるだけで成長は出来ないし、たまにはバキバキへし折られないと覚えないこともあんのさ」

 スズナさんの人生経験と人生観が垣間見える意見だった。

 

「私もスズナちゃんに概ね同意見だ。

 当人たちのやりたいことは好きにやらせればいいと思う。

 でも、よりにもよってプロを目指すか。アレは特殊な場所だからなぁ」

 小食だが早食いの塾長はスプーンを置いてそう答えた。

 

「自分も茂樹さんからプロがどんな世界か聞いてなければ、こんなことはしませんでした。

 実力主義で上下関係に厳しい上に、ただ強いだけでは認められない世界」

「プロデュエリストはエンターテイナーでなければならないからな。

 プロレスラーと同じだよ。観客に飽きられるような試合をすれば、トップだろうが半年も持たない」

 流石にプロレスほど劇場的ではないが、概ね博士の言うとおりなのだ。

 

 

「実力を磨き、その腕を知らしめたいのなら賞金稼ぎにでもなればいい。

 だが彼らはプロも目指していると言ったのだろう?

 いささか現実的ではないと言わざるをえない」

「やっぱり、両立は無理でしょうか」

「それが個人で、よほど型破りな人物ならば可能だろう。

 しかし、彼らは二人で、しかもタッグデュエルを専門としたいと言っているのなら、無理だ。手が回らないだろう。

 全日本のようなプロリーグに出るにしても、タッグ専門というのが必ず足を引っ張る」

 博士は極めて現実的な意見を述べた。

 この人は狂人じみた発想と行動力があるが、その根底にあるのは深い現実主義と常識的な理論の積み重ねにある。

 

「人間は万能ではない。一人が二人に増えたところで、余計なしがらみが増えるだけだ。

 だから私は生涯結婚をしない」

「ははは、博士らしいね。確かに、君に結婚は無理かな」

「前世の妻に操を立てているお前が言うか、椎名。

 須田も飯島も私を狂人呼ばわりするが、お前も大概だぞ、椎名。

 異世界に行きたい理由が、前世の妻の墓参りをしたい、などと、どちらの発想が狂っているか、よく考えることだ」

「おい、博士。ここはファミレスだぞ」

 スズナさんが、テーブルをフォークの先でコンコンと叩きながらそう言った。

 お行儀が悪いよ、と塾長に指摘されて止めたが。

 

「おっと、すまない。久しぶりに外に出たものだからな」

「分かってくれればそれでいいんだ。

 あたしたちは誰かの好奇の視線を浴びたくない、本当にただそれだけなんだ」

 基本的に、前世の話はあの狭いデュエル塾以外では厳禁。

 数少ない俺たちのルールがそれだった。

 

 

「つーかさ、どうしてもダメなら先生に頼めばよくない?

 真剣な悩みなら塾長も経費で落としてくれるだろ?」

「うーむ、安易に先生に頼むのもなぁ。

 確かに彼女は本物だが、不確かな力に頼るのはあまり歓迎できないなぁ」

 スズナさんも塾長も頭を捻る。

 俺たちが敬意を持って「先生」と呼ぶ人間は一人しか居ない。

 

 俺やスズナさん、茂樹さんをあの場所に導いてくれたあの人だ。

 ちなみに、彼女は博士の人脈で塾長と知り合ったらしい。

 博士は科学よりオカルト話のほうが生き生きするから、なんか納得だ。

 

 

「先生も政治家や資産家の相手で予約がいっぱいだろうから、また今度にするよ」

「うん、それがいい。さて、そろそろ戻ろうか」

 そんな感じで、俺たちは「遊戯王」に帰った。

 

 塾長の車から空を見上げると、今にも振り出しそうな雨雲が空を覆っていた。

 

 

 

 

「失礼します、こちらのデュエル塾の方ですか?」

 塾に戻ると、警察官が一人、自転車と共に扉の前に立っていた。

 

「私がこの塾の責任者ですが、どうかしましたか?」

「はい、実は付近を巡回中に捜索願が出ていた少女に似た人物を発見したので、本部で照会したところ、本人である可能性が高いという結果が出たので声を掛けたのですが」

 お巡りさんはデュエルディスクを操作して、モニターの画像をこちらに見せてきた。

 幾分幼いが、それは間違いなくユリちゃんだった。

 

「本官が話しかけるなりここに、逃げ込まれました。

 途方にくれていたのですが、助かりました。できれば、事情を話してくださいませんでしょうか」

「……仕方がありませんね」

 塾長は観念してユリちゃんを拾った経緯をお巡りさんに話した。

 

「なるほど、そちらの言い分は理解できました。

 しかしながら、こちらにも一報くだされば、本部のデュエリストリストから彼女のご両親の連絡先を照会し、こちらから連絡することも出来たのです。

 勿論、未成年とはいえこちらが無理に連れ戻すような真似は出来ませんので、安否だけでも把握し、親御さんに連絡しておきたかったのです。

 もう少し警察を信用してほしかったですな。いろいろと疑われても仕方が無いのですぞ?」

 物腰の柔らかそうなお巡りさんだったが、流石に腕を組んで顔を顰めた。

 

 この世界の日本警察は、デュエリストの管理を担っているためかすごく優秀だ。

 デュエルディスクから出る波長は個別に記録されており、顔写真から指紋、住所や連絡先まで一発で分かってしまう。

 

 

「すみませんでした。

 彼女の意志を尊重したかったのですが、ご迷惑をお掛けしました」

「いいえ、本官にも年頃の娘が居ますので。

 とりあえず、当人と話をさせて貰えませんか?

 その後、親御さんに連絡させてもらいますが、ご了承ください」

「私の方からも、彼女のご両親には一度会って話をしたいと思っていましたので、お願いしてもよろしいでしょうか」

「はい、それが本官の仕事なので」

 だが、塾の中には誰も居なかった。

 

 やましいことなど無いのでお巡りさんも中に入れて探したが、半開きになっていた裏口の扉が全てを物語っていた。

 結局、彼女が戻ってきたら必ず連絡することを約束して、お巡りさんは帰っていった。

 

 彼女のデュエルディスクに連絡をしようとも、全て通じなかった。

 周囲を探してみたが、雨が降り出してそれもすぐに断念。

 

 夕方になってもユリちゃんは帰らず、俺たちも家に帰る時間になった。

 雨の中、電車に揺られて最寄の駅へと乗り継ぎ、家に帰ると、家の前に門下生たちが何人も突っ立っているのを見つけた。

 

 

「お前ら、どうしたんだ。こんな雨の中で」

「あ、師範代、お帰りなさいっす!!」

「「「お帰りなさいっす!!」」」

 星井を筆頭に門下生たちが一斉に俺に一礼した。

 

 彼らは家の門の内側に居たので濡れてこそいなかったが、それでも道場ではなく家の門の前に突っ立っている理由にはならない。

 

「それが……」

 星井は言いにくそうに、家の方を見やった。

 

「……何があったんだ?」

 俺も門まで脚を運び、玄関の扉の方を見た。

 玄関の扉は開け放たれ、家の廊下まで良く見える。

 

 

「遊助、丁度良かった。お前さんのお友達なんだろう?」

 お袋が困ったように、俺の方を向いた。

 

 玄関入り口には、見覚えのある人影がびしょ濡れのまま座り込んでいた。

 

 

「ユリちゃん……? どうして、ここに?」

「やっぱりお友達かい、ずっと黙り込んで、何も言わないから困っていたんだよ」

「とりあえず、お風呂沸かしてくれ。このままじゃ風邪引いちまう」

「……ええ、そうね」

 お袋は頷いて、風呂場へと走っていった。

 

 

「……とりあえず、今日はうちに泊まっていきなよ。家に帰りたくないんだろう?」

「…………うん」

 こうして、家出少女が俺ん家に転がりこんだことを、俺は皆に報告する羽目になった。

 

 

 

 

 




デュエルは次回になります。
具体的には、翔子ちゃんVSユリちゃんです。
女同士の戦いですね。そろそろ翔子ちゃんの言動が危なくなってきます。
主人公の仲間たちの使うデッキは、今のところ決まっているのはユリちゃんとスズナさんくらいで、博士と塾長はまだ決まってません。
そのうちデュエル描写入れたいので、決めておかないと。

それでは、また次回をお楽しみに。


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