何!? 俺の知っている遊戯王の世界ではないのか!?   作:やーなん

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ここ暫くシリアスが続いておりますが、もう暫く続く模様。
緩い感じの内容を求めている人はごめんね。修羅場書くの思ったより楽しかったんだ。
こんな小説でも需要があるのなら続きます。

それでは、本編へ。







第十四話 少年少女の青春ラプソディ

 ユリちゃんをお風呂に入れさせた後、お袋が暖かい物を出して彼女に食べさせ、そのまま家族会議へと相成った。

 

 ユリちゃんが俺の家に訪ねてこれたのは、塾にある名簿を見たからだろう。

 俺はあそこのスタッフ扱いなので、住所や連絡先を名簿に記してある。

 

 そしてこの世界の警察は優秀で、行方不明者などの情報はすぐに周辺の警察官に情報共有される。

 

 ああなっては塾長には頼れず、スズナさんの家はあの近くで、茂樹さんは少し遠くだが恐らく不在。

 消去法で、俺の家に転がり込むという感じになったということを、ユリちゃんは白状した。

 

 

「つまり、この子は椎名さんが保護していたお子さんなわけですね」

『はい、そういうことになります。須田さん。』

 現在、俺への事情聴取を終え、大人たちに丸投げした段階である。

 

 俺の両親と塾長は、モニター越しであるが面識が会った。

 息子がお世話になっている自分たちの知らない大人を、俺は紹介しないわけが行かなかったのである。

 それぐらいには、自分が子供であることは理解していた。

 

『私の方も、このままではいけないとは思っていました。

 ですが、彼女の家庭環境を聞くと、どうにも同情してしまう。』

「虐待とかではないのですよね?」

 モニター越しにお袋が塾長に尋ねた。

 

『ええ、そう言う類のモノではないと聞いています。

 彼女に許可を取って女性スタッフが腕や背中などを見てもらいましたが、そのような形跡は無いようでしたし。』

「家庭内での重圧、ですか」

『はい、なまじ成績優秀で、将来を嘱望されているが故の大人の身勝手な期待……。

 私も曲りなりにも子供たちに教鞭を取る立場としては、耳が痛い話ではありますが。』

 ちなみに、俺の両親は塾長のことを全面的に信頼している。

 

 なぜなら塾長は発明で得た資金の一部を様々な施設に寄付しているかなりの名士だからだ。

 その金額はノーブレスオブリージュの域を超えている。それに加えて研究が出来るくらいには副業が儲かっているのだ。

 その上、近隣住民からも人格者として数多くの子供たちを預かっている。

 俺は彼とネット上で知り合い、社会勉強の一環で週一で手伝いをしているという設定である。

 実際、塾長は真の紳士であるので、何も問題はなかった。

 

 その後、家出少女が見つかったと塾長は警察に連絡。

 警察がユリちゃんの両親にそれを報告。

 彼女の両親がこっちに電話をかけてくる、という手順が執り行なわれた。

 

 その結果。

 

 

「あなた方が心配しているのは、自分の娘ではなく自分たちの体面と娘の成績ではないのですか!!」

 親父がそんな怒声を上げていた。

 

 身の竦むような覇気の声に、間近で聞いていた俺たち二人やユリちゃんを心配して居間で待機している門下生たちもビクリと震えた。

 親父のこんな怒声は、ガキの頃に一時の気の迷いで、お袋なんか死んじまえ、と口走ってしまった時以来である。

 

 唯一、お袋は涼しい顔をしていたが、子供に聞かせる話ではないと判断したのか、俺とユリちゃんを部屋から出て行くよう促した。

 

 親父もさっきの怒鳴り声で冷静さを取り戻したのか、それ以降は先ほどのような怒声は無かったが、ギリギリで怒鳴るのを堪えたような声は何度も隣の部屋まで聞こえた。

 

 

「どうなりそうっすか、師範代?」

「まだまだ掛かりそうだ。

 お前たち、この子の家は東京の方だから送ってのは無理だ。もう帰って良いと思うぞ」

「ああ、やっぱりそうなるっすか」

 星井たちはあからさまにがっかりしたように肩を落とした。

 彼らはお姫様を護衛するナイトになる名誉は得られなかったようだ。

 

「まあ、最初見たときは幽霊が立ってるかと思ったすけど、大丈夫そうで何よりってことですよね。

 んじゃ、俺たちは帰ります。師範代、何か有ったらいつでも呼びつけてくださいね」

「勿論だ、頼りにしてるぜ」

 ちょっと心配になるくらい人が良い連中なので、これ以上待たせるのはこっちの気分も悪い。

 

 彼らを玄関先まで見送った時であった。

 

 

「どうしたの遊助、おじさんの怒鳴り声が聞こえてきたけど」

 翔子だった。

 こいつの家が隣同士なのは知っての通りだ。

 そして大騒ぎすればすぐに隣に気づかれるくらいには家同士の距離も近い。

 

「ああ、ちょっとトラブってな」

「おじさんのあんな声、久しぶりに聞いたわよ。

 遊助、なんかやらかしたんじゃないの? 一緒に謝ってあげるわよ」

「あ、おい……」

 翔子にとって俺ん家は勝手知ったる他人の家。

 ずけずけと住人の許可を取らずに上がって行った。

 

 

「あ、俺たちはこれで……」

 妙にそそくさとした態度で、星井たちが言った。

 思えば、彼らはこれから起こる危険を察していたのかもしれない。

 

「ああ、じゃあな、気をつけて帰れよ」

 俺がそう言うと、彼らは蜘蛛の子を散らすように帰っていった。

 俺は玄関の扉を閉めて、踵を返したその時である。

 

 濃密な、殺気を感じたのだ。

 殺気だなんて非科学的なものを感じ取れるようになったのは、山で熊を一体伏せてターンエンドするような修練の成果なのか、俺は前世ではまず信じられないような鋭敏な感覚を会得していた。

 

 そしてその殺気は、ユリちゃんがいる部屋からだった。

 

 

「おい、翔子、どうしたんだ?」

 その殺気の発生源というのが、……別に引っ張るつもりは無いのだが、分かるだろう?

 言いにくいんだよ、俺は。

 

 そう、翔子なのだ。その殺気の発生源は。

 

 

「遊助、この女は誰なの?」

 妙にドスの聞いた声音で翔子は言った。

 

「ん? ああ、話せば長くなるんだが、とりあえず自己紹介しろよ」

 が、俺がそう言っても両者は一言も発さなかった。

 ユリちゃんは胡乱げな視線を翔子に向け、翔子は眼を鷹のように鋭くして彼女を見ている。

 

 

「えーと、こっちが翔子。

 ほら、話したことあるだろ? 俺の幼馴染だ」

「……どーも」

「こっちは三門 悠里ちゃん、俺たちはユリちゃんって呼んでる」

「ふーん」

 なぜだろうか、無性にこの場から逃げ出したくなったのは。

 

「ねぇ、何でこの子、遊助の服着てるわけ?」

「え?」

「この子の着てる服、小学六年生から中学二年の頃まで着ていた服だよね。

 どうしてこの子が着ているのか、って聞いているのよ」

「……お前、よくそんなこと覚えてるな」

 どこまで話したらいいのか、と俺は頭を掻いた。

 

「ほら、俺が週末に東京の方にある私塾の手伝いをしてるのは知ってるよな。

 そこの塾長が家出してるこの子を拾って世話してやってたんだが、警察に補導されかけてこっちに逃げ出してきたんだ。

 この雨の中でだ。びしょ濡れだったから仕方なく、風呂に入れて俺のお古を着せてるんだ」

「遊助がお風呂に入れたの!?」

「んなわけねぇだろ!!」

 何を馬鹿なことを言っているんだこいつは。

 

「んでまあ、この子にもいろいろと家庭の事情とかあるらしくてな。

 今、親父とお袋が話してるところだが、全く終わる気配が無い。これは夜半まで続くかもな」

「じゃあ、この子はどうするの?」

「少なくとも今日は泊めることになりそうだ。

 場合によっては、暫くの間泊めることになるかもしれない」

 あの親父の激昂振りからして、ありえない話ではない。

 親父は一昔前に不良少年を保護してきたこともあり、その更生にまで手を貸したこともある。

 今ではそいつも立派なうちの門下生である。

 

 その実績からか、親父は警察署に武術の指導に行ったりしたり、更生施設の空きが無い時に空き部屋を貸して面倒を見たりしている。

 そのお陰で、親父はかなり警察に顔が利く。警察庁のお偉いさんと食事に行ったりするくらいだ。

 

 

「そんなのダメッ!!」

「……は?」

 打てば響くようなタイミングの切り返しに、俺は面を喰らったように呆けてしまった。

 

「今すぐここから出て行って!!」

「おい、翔子、どうしたんだお前……」

「ここは遊助の家なんだからッ!!」

 翔子の怒声が、部屋の中の空気を波打たせる。

 

 

「……でも、あなたの家でもないでしょ?」

「ッ!?」

 ユリちゃんはただ一言、半笑いで嘲るようにそう言った。

 

 その表情を、俺は良く知っていた。

 誰よりもよく知っている。なぜならば、前世の俺が幾度となくパソコンの画面越しに見ていた自分の顔にそっくりだったからだ。

 顔の美醜ではない、本質が似ていた。

 

 俺は理解したのだ。

 ユリちゃんの前世はきっと、俺の前世と同類であったのだと。

 

 

「……止めてくれユリちゃん、俺は君のそんな顔見たくない」

 槍で突かれたかのように、胸が痛んだ。

 他人に無形の悪意を無差別に振りまくその姿は、無差別に他人を傷つけ、知らずの内に無尽蔵に己を傷つけていく。

 

「……なんで、そんなことを言うの、遊助……?」

「え?」

「私より、こんなぽっと出の女の方が良いっていうの!?」

「翔子、お前は何を言っているんだ!?」

「嘘だったの? あの時の約束は嘘だったの!?」

「いいから落ち着けッ!! 俺がお前を裏切るわけないだろうが!!」

 俺は無理やり翔子を座布団の上に座らせた。

 

「言っただろうが、お前が俺を裏切ったと思ったら、いつでも俺を殺して良いって。

 お前がそう思ったのなら、そうしろ。俺が信じられないのなら、そうしろ。俺たちの命はそれぞれお互いのモノ、そうだろう?」

 かつてその約束をした時のように、翔子の両肩を押さえ、彼女の両目を見てそう言った。

 

「……うん、そうだよね。ごめん、ごめんね。

 私が疑っちゃだめだよね。遊助が私を裏切ることなんてないもの」

「そうだ。だからいつもの翔子に戻ってくれ。

 お前なんかお呼びじゃない」

「うん、こんな私、お呼びじゃないよね」

 それっきり、翔子はすっかりと大人しくなった。

 

 

「馬鹿馬鹿しい、どいつもこいつも、この世界も、狂ってる」

「ねぇ、遊助。やっぱりこの女、気に入らない。遊助がダメなら私が追い出すけど?」

「もうなんか疲れたんだけど」

 皮肉げにこの世を嘆くユリちゃんに、攻撃性こそ薄まったが情緒不安定のままの翔子。

 俺としてはこのままベッドにダイブすることを選択したかった。

 

 

「だったら、デュエルで決めればいいじゃん」

 俺が思考を放棄しようとしたその時、この場には居ないはずの声が突然発せられた。

 

「す、スズナさん!?」

「よーう、遊助!! 勝手に上がらせて貰ったぜ!!

 心配だから来ちまったよ!! これ、土産な!!」

 私服姿のスズナさんが、安物の女性用下着の入ったビニール袋を押し付けてきた。

 そう言うところに気が回るのは嬉しいが、それを俺に押し付けないで欲しかった。

 

「スズナさぁん……」

「どうしたよ、そんな情けない声出して」

 情けない声も出したくなる。

 こんなギスギスした空間に女神が現われたのだから。

 

 

「遊助、この人は?」

「ああ、こちらは飯島 鈴奈さん。

 塾の仲間で、ひとつ年上だからお前も敬え」

「真辺 翔子です」

「おう、お前さんのことはよーく、遊助から聞いているよ。

 顔良し、器量よし、男を立てられる良い女だって」

「そ、そんなぁ~。いやですわ」

 スズナさんのあからさまな社交辞令に、翔子はくねくねと体を動かして喜んだ。アホか。

 

「なあ遊助、この子貰って良い? 彼女にしたい」

「そう言う発言は慎んでください。だから同性愛者扱いされるんですよ」

「なんでだよ、男のバイは許されないけど、女のバイは許されるだろぉ!!」

「そんな基準はありま、せん!!」

 馴れ馴れしく肩を抱いてくるスズナさんを押しのけるが、彼女の力は思ったより強い。

 がっしりと肩を抱かれてしまった。

 

 

「ほれほれユリっちもぉ、あたしら仲間だろぉ」

「酔ってるんですか、スズナさん」

「いやぁ、初めての他人の家に上がると、なんかテンション上がらない?」

「知りませんよ」

 が、成す術無くがっしりとユリちゃんももう片方の腕の餌食となった。

 

「ちょっと、遊助を放してください!!」

「オッケー、代わりに翔子ちゃんゲットー」

「きゃあ!?」

「ちゅーしようぜ、ちゅー」

「やめてください!!」

 ああ、そうだった、この人、見た目はともかく精神はおっさんだった。

 だからだろう、この人の仕草にドキッとすると負けた気がするのは。

 

 とりあえず、俺はこの三人がくんずほぐれずしている様をデュエルディスクで録画するのであった。

 

 

 

 

 

 

「んで、どいういう話だっけ?」

 暫くして、テンションが元に戻ったスズナさんが勝手に入れたお茶をすすりながらそう言った。

 

「デュエルがどうのこうの言ってませんでしたっけ?」

「そうだ!! デュエルだ!!

 揉め事をするなら何事もデュエルが一番だ」

「いや、やるなんて言ってないけど」

 俺とスズナさんの応答に、ウンザリした表情でユリちゃんは言った。

 

「私、成績の半分以上がデュエル、日常生活の八割がデュエルって生活に嫌気が刺してここにいるんだけど」

「それを言ったら、ここ、デュエル道場だぜ?

 転がり込むところを間違えたな、親父は不良少年とか捕まえては、んぅ熱血指導して更生させるのが生きがいみたいなもんだ。勿論、デュエルで」

 俺が巻き舌でそう言うと、ユリちゃんは心底嫌そうな表情になった。

 

「逃げ帰りたいのなら、どうぞご自由に。

 どうせ現実から目を逸らすのは一度や二度じゃないんでしょ。

 だったらまた、逃げれば良いじゃない」

「なん、ですって……?」

「おい翔子」

 翔子の挑発にみるみる顔を歪ませるユリちゃんに、俺は勇めようとしたのだが。

 

 

「いいじゃん、遊助」

「スズナさん……ですが……」

「ここはデュエルの世界だぜ? デュエルで解決できることは、デュエルで解決すれば良い。

 どうにもこの世界の人類は、何事もデュエルで解決できる人種みたいだし」

「…………」

 どうにも否定できない程度には、俺の脳みそもデュエル脳に染まっているのだった。

 

「あんた、負けるのが怖いんでしょ?

 この世に絶対の強者は居ない。肝心なところで負けて、周りに失望されたり笑われたりするのが怖いんでしょ?」

 翔子の言葉に、ぎりぎり、とユリちゃんの歯を噛み締める音が聞こえた。

 図星のようだった。そして、俺や彼女のような人種は、他人に図星を指摘されるのが何よりも嫌いな人種だった。

 

 

「だったら、やってみる?

 私が本気でやって、負けたことは無いんだから」

 あっさりと、ユリちゃんの攻撃的な性が露になった。

 その表情を見て俺は、ああ、と理解した。

 

 彼女にとって、その瞳に映るこの世界の現実はモニター越しの虚構か何かに過ぎないのだ。

 ユリちゃんのこの世界における現実は、ゲームか何かの延長に過ぎないのだろう。

 それに嫌になったから、投げ出そうとしている。彼女にとって、ただそれだけのことなのだ。

 

 だが結局はそれも、俺やスズナさんが通った道である。

 とても痛々しくて見ていられない、自分の姿がそこにはあった。

 

 だから俺やスズナさん、塾長たちも彼女を気に掛けている。

 決定的に道を踏み外すことだけはしないように、と。

 やり直しなど、いつでもできるのだから。

 

 

「最初からそう言えばいいのよ、まどろっこしい奴ね。

 遊助、道場借りるわよ」

 翔子は立ち上がると、道場の方へと歩いていった。

 

「翔子の奴、年下相手になにやってんだ」

「嫉妬だろ。可愛いじゃないか。

 男にとって女は一途で貞淑でいてほしいが、適度に嫉妬して貰いたい。何とも身勝手なものさ」

「嫉妬なんて……あいつ、馬鹿なんじゃないのか」

「女にとって男は束縛の対象だ。

 しかしその対象にも束縛されないと気がすまない。何とも身勝手なものさ」

 男女両性を経験したスズナさんは、そんなことをのたまった。

 

「つーか、翔子ってめっちゃ強いんだぜ、ユリちゃん。

 それに、なんだ、まあ、やめといた方がいいぞ」

「どうせ頭の緩いこの世界の住人なんでしょう?

 そんな相手に、私が負けるわけないのよ」

 すっかりユリちゃんも熱くなっているご様子だった。

 

 これを言うとフェアじゃないのだが、正直ユリちゃんのデッキは翔子と相性最悪なのだ。

 無論、彼女自身が弱いわけではないのだが、むしろ強いのだが……。

 

 心の乱れは、もろにプレイングに出るからなぁ。

 

 

「遊助さんもスズナさんも、私に余計なおせっかいをしないでよ。

 私に構ったって、何の特にもならないんだから」

 ユリちゃんはそう言って、翔子の後へと続いていった。

 

 

「いやぁ、これまでの面倒の対価は数年後にでも清算してもらうから気にすんなよ。

 むしろ、この程度安いもんさ。……ユリちゃんが己の言動を振り返って身悶えする姿を、生涯の肴にさせてもらうんだから、さ」

 楽しそうに笑うスズナさんを見て、俺はこの人に決して弱みを見せないことを誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

        「「デュエルッ!!」」

          翔子VS悠里

          LP4000

 

 

 俺とスズナさんが道場に辿りつくと、丁度二人がデュエルリングについてデュエルを始めたところであった。

 俺たちはデュエルディスクをオンラインにして、二人のデュエルを見守ることにした。

 先攻は、翔子だ。

 

「私のターン。

 手札から、『恋惑い背中追う少女』を特殊召喚する。このカードは攻撃表示で特殊召喚できる。

 この効果で特殊召喚した場合、デッキから『魂の宝玉』を一枚手札に加えることが出来る。

 このカードが特殊召喚に成功した場合、あなたは私にデッキから『少女』魔法使い族モンスターを墓地に送ることを許すことで、このカードを手札に戻せるのだけれど?」

「戻しなさい」

 ユリちゃんは間髪いれずに答えた。

 

「分かった。私はデッキから『悲壮なる決意秘める少女』を墓地に送り、『恋惑い背中追う少女』を手札に戻そう」

 翔子のプレイングを見ながら、俺ははらはらしていた。

 ユリちゃん、そのカードは墓地に送らせちゃダメなんだよ!!

 

 

「おー、すげー、あの子のデッキって本当にあれなのな。

 いいなぁ、可愛いなぁ、あたしあのアニメのファンなんだよ!!」

「落ち着いてくださいよスズナさん。それ、博士の時も言ってたじゃないですか」

「だって、博士のデッキってあれだぜ、人気の某錬金術ゲームシリーズのあれだぜ!!」

「俺、この間、世界一有名な猫型ロボのカテゴリーを使う後輩と、日本一有名なゲームシリーズ七作目なつんつん頭が出るカテゴリーの持ち主と知り合いましたよ」

「マジかよ、今度紹介してくれよ!!」

 基本的にあのデュエル塾以外で前世の話は厳禁なのでぼかしてお互いに言い合うので変な会話だが、スズナさんの前世は結構なアニメ好きらしいのだ。

 

 俺たちがそんな話をしている間に、翔子はシンクロ召喚を決めていた。

 シンクロ召喚されたのは、『銃砲のベテラン魔法少女』だ。

 横で、うおーあたしをマミらせてくれぇ、と言っている仲間を黙らせ、デュエルの進行を見守った。

 

 

「『銃砲のベテラン魔法少女』はシンクロ召喚に成功した時、このカードは次の相手のエンドフェイズまで相手の効果を受けなくなる。

 私はカードを二枚伏せて、ターンエンド」

 

 

 翔子 LP4000

 場  『銃砲のベテラン魔法少女』攻2800

 魔罠 □□■■■ 『魂の宝玉』 セット セット

 手札 □□□

 

 

「私のターン、ドロー。ふふ……」

「何か面白いところでも有ったのかい?」

「いえ、思い出し笑い……ふふ」

「変な子だね」

 そしてすぐにユリちゃんがプレイを再開した。

 

「私は手札から、『勇者を導く森の妖精』を捨てて発動する。

 デッキから『緑の衣』モンスターを一枚、手札に加える。

 私は『緑の衣の勇者』を手札に加え、召喚する」

 ユリちゃんのフィールドに、緑の衣を纏った少年剣士が現われた。

 そう、彼女のデッキは某伝説シリーズに登場する、緑の衣を纏った勇者をカテゴリー化したものなのだ。

 

 

『勇者を導く森の妖精』

 ☆1 光属性 天使族 攻守 0/0

(1)このカードを手札から捨てて発動する。

 デッキから『緑の衣』モンスター1体を手札に加える。

 

 

「私は装備魔法『勇者のパチンコ』を『緑の衣の勇者』に装備。

 更に、『緑の衣の勇者』の効果発動。

 このカードが装備している『勇者』カードの枚数によってそれぞれの効果を適用できる。

 一枚装備しているこのカードは、デッキから『勇者』装備魔法カードを一枚選んでセットできる。

 私は、『勇者の妖精弓』をセットし、そのまま発動して『緑の衣の勇者』に装備する。

 二枚装備しているこのカードの効果発動。相手の魔法・罠カードを一枚対象に選択し、破壊できる」

 

 

『緑の衣の勇者』

 ☆4 地属性 戦士族 攻守 1500/1200

『緑の衣』モンスターはフィールドに一枚しか存在できない。

(1)このカードが装備している『勇者』装備魔法の数によって以下の効果を得る。

 ●1枚以上:1ターンに一度、デッキから『勇者』装備魔法カードを一枚選んで自分フィールドにセットする。

 ●2枚以上:1ターンに一度、相手の魔法・罠カードを対象に選択し、発動する。

 そのカードを破壊する。

 ●3枚以上:このカードが装備しているカードが破壊される場合、一ターンに一度だけその破壊を無効に出来る。

 ●4枚以上:1ターンに一度、墓地の『勇者』装備魔法カードを選んで一枚手札に加える。

 ●5枚:1ターンに一度、このカードが装備している『勇者』カード一枚と相手フィールド上に存在するカード一枚を対象に選択してこの効果を発動できる。

 対象のカードを持ち主の手札に戻す。

 

 

「左のセットカードを破壊して」

「運が悪かったね。選択されたリバースカードオープン。

 トラップ発動、『不条理な対価』。このカードは自分フィールドに『魔法少女』シンクロモンスターが存在する場合に発動できる。

 フィールドに存在する『魂の宝玉』一枚を墓地に送り、カードを二枚ドローする」

 俺には分かる。運が悪かったとか言いながら、どちらもきっと様子見用のカードに違いない。

 翔子は初見の相手にはしたたかに立ち回る。

 そして、この時点で恐らく、ユリちゃんが自分の格好のカモであることに気づいているのだろう。

 

 ユリちゃんのデッキは、所謂『装備ビート』と呼ばれるタイプの奴なのだから。

 

 

「……私は更に装備魔法『勇者の爆弾袋』を『緑の衣の勇者』に装備。

 このカードの攻撃力は『勇者のパチンコ』で300ポイント、『妖精弓』で700ポイント、『爆弾袋』で800ポイントアップする」

 

『緑の衣の勇者』 攻1500→3300

 

「合計1800ポイント上昇か。私のカードを上回ったか」

「更に、『妖精弓』の効果発動。フィールドの『勇者』カードの枚数×200ポイントのダメージを与える。

 フィールドの『勇者』カードは4枚、よって800のダメージ」

 

 翔子 LP4000→3200

 

 

『勇者の妖精弓』

 装備魔法

 今カードはフィールドに一枚しか表側表示で存在できず、『緑の衣』戦士族モンスターのみに装備可能。

『勇者の妖精弓』の(3)の効果は一ターンに一度しか使用できない。

(1)装備モンスターの攻撃力は700アップする。

(2)1ターンに一度、自分のメインフェイズに一度だけ発動できる。

 自分フィールドの『勇者』カードの数×200ポイントのダメージを相手に与える。

(3)表側表示のこのカードがカードの効果以外でフィールドを離れた場合に発動する。

 このカードを手札に加える。

 

 

「バトルよ、『緑の衣の勇者』で、マ……『銃砲のベテラン魔法少女』を攻撃」

 緑の少年の爆弾攻撃で、魔法少女は敢え無く退場と相成った。

 

 翔子 LP3200→2800

 

「『勇者の爆弾袋』の効果発動。装備モンスターがあいてモンスターを破壊した場合、500ポイントのダメージを与える」

 

 翔子 LP2800→2300

 

 

『勇者の爆弾袋』

 装備魔法

 今カードはフィールドに一枚しか表側表示で存在できず、『緑の衣』戦士族モンスターのみに装備可能。

『勇者の爆弾袋』の(3)の効果は一ターンに一度しか使用できない。

(1)装備モンスターの攻撃力は800アップする。

(2)装備モンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した場合に発動できる。

 相手に500ポイントのダメージを与える。

(3)表側表示のこのカードがカードの効果以外でフィールドを離れた場合に発動する。

 このカードを手札に加える。

 

 

「破壊された『銃砲のベテラン魔法少女』はデッキから『魔法少女の先達』以外の『少女』モンスターを一枚選んで手札に加える。

 私は『諦念抱く孤高の少女』を手札に」

「最後に、私は『勇者の鏡面盾』を装備させる。

 私はこれで、ターンエンド」

 

 

『勇者の鏡面盾』

 装備魔法

 今カードはフィールドに一枚しか表側表示で存在できず、『緑の衣』戦士族モンスターのみに装備可能。

『勇者の鏡面盾』の(3)の効果は一ターンに一度しか使用できない。

(1)装備モンスターは一ターンに1度だけ、戦闘及びカードの効果では破壊されない。

(2)1ターンに一度、相手が自分フィールドのカードを対象とする効果を発動した場合に発動できる。

 その効果を無効にし、相手フィールドのカードを一枚選んで破壊する。

(3)表側表示のこのカードがカードの効果以外でフィールドを離れた場合に発動する。

 このカードを手札に加える。

 

 

 悠里 LP4000

 場  『緑の衣の勇者』攻3300

 魔罠 □■■■■ 『勇者のパチンコ』『勇者の妖精弓』『勇者の爆弾袋』『勇者の鏡面盾』

 手札 □

 

 

「私のターン、ドロー。

 私はカードを三枚伏せて、ターンエンド」

 

 翔子 LP2300

 場  

 魔罠 □■■■■ セット セット セット セット

 手札 □□□□

 

 翔子はセットだけを行い、ターンを終えた。

 

 

「私のターン……ドロー」

 あからさまな罠に、流石にユリちゃんの警戒心も最大限だ。

 

「『緑の衣の勇者』の効果発動。

 一番右の魔法・罠カードを破壊する」

「対象に選択されたリバースカードオープン。

 トラップ発動、『ヒロイン推参!!』。

 墓地に存在する『少女』魔法使い族モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚できる。

 私は『悲壮なる決意秘める少女』を特殊召喚。

 このカードが特殊召喚に成功した場合、あなたは次の自分のバトルフェイズをスキップすることで、このカードを手札に戻せるけれど?」

「スキップしない。あなたに次のターンは与えない。

 私は魔法カード『退魔の剣 マスターブレード』を発動。

 フィールドの『緑の衣』モンスターを墓地に送り、そのカードよりレベルの高い『緑の衣』モンスターを手札・デッキから特殊召喚する。

 その後、このカードはこの効果で特殊召喚したモンスターに攻撃力1000アップの装備カード扱いとして装備される」

 

 

『退魔の剣 マスターブレード』

 通常魔法

(1)自分フィールドに存在する『緑の衣』モンスターを墓地に送って発動する。

 そのカードよりレベルの高い『緑の衣』モンスターを、手札・デッキから特殊召喚する。

 その後、このカードはこの効果で特殊召喚したモンスターに攻撃力1000アップの装備カード扱いとして装備する。

(2)このカードが存在する限り、装備モンスターは効果の対象にならず、自分フィールドの『勇者』カードはカードの効果で破壊されない。

 

 

「私はデッキから『時超えし緑の衣の勇者』を特殊召喚。

 勇者の証たる『マスターブレード』は彼に装備される!!

 そして、装備対象を失い自壊した4枚の『勇者』装備魔法カードは自身の効果によって手札に戻る。

 当然、これらのカードは全て彼に装備する!!

 攻撃力は更に1800上昇する!!」

 

『時超えし緑の衣の勇者』 攻2500→5300

 

 少年の姿より成長した勇者は、数多の武装を身につけ、勇者の名にふさわしい強さを得た。

 

 

「このカードは装備したカードの数だけ攻撃できる、さあバトルよ!!

『悲壮なる決意秘める少女』を攻撃!!」

 これだけ耐性をガン積みした上、彼自身も耐性を持っている。

 罠が張られていようと、勝負を決める理由は十分すぎた。

 

「リバースカードオープン。トラップ発動!!」

「無駄よ、『時超えし緑の衣の勇者』はダメージステップ終了時まで、相手の魔法・罠の効果を受けない!!」

「でもあくまでそれは、そのカードの耐性でしょう?

 私が発動したカードは、『魔法少女の奇跡』」

 あ、やっぱり……。

 

 

 

「このカードは、『少女』魔法使い族モンスターが攻撃対象に選択された時、バトルフェイズを終了して発動できる。

 墓地または除外されている『魂の宝玉』一体を特殊召喚し、攻撃対象に選択されたカードとシンクロ召喚を行う。

 私はレベル4の『悲壮なる決意秘める少女』に、レベル4の『魂の宝玉』をチューニング」

 俺は思わず目を覆った。相変わらず、翔子は手加減や容赦を知らない。

 

 

「終わり見えぬ旅路を歩む、決意と覚悟が明日を信じる希望となるッ!!

 ―――シンクロ召喚、レベル8『時迷い運命抗う魔法少女』!!」

 黒髪を靡かせ、無力な少女は今、生まれ変わった。

 

「『時迷い運命抗う魔法少女』の効果発動!!

 このカードがシンクロ召喚に成功した時、相手フィールドの魔法・罠カードを全て、デッキに戻す!!」

「え……・」

 ユリちゃんが呆然とするのも、無理は無かった。

 彼女のフィールドを埋め尽くしていた装備魔法の数々は、ものの見事にデッキに逆戻りしたのだ。

 

 七年の時を経た勇者も、時間を巻き戻せる相手には流石に分が悪かったようだった。

 

 

「さあ、あなたのメインフェイズよ、続けなさい」

「……する……」

「え? 聞こえないわ」

「……サレンダー、する……」

「…………そのサレンダーを受け入れるよ」

 こうして、二人のデュエルはユリちゃんの戦意喪失という形で幕を閉じた。

 

 

「さあ、敗者はこれ以上の無様を晒す前に出て行くのね。

 さっさと遊助の家から出て行けメス猫め!!」

「翔子、お前、今日は帰ってくれ」

「遊助……?」

「お願いだから、俺を困らせないでくれ。

 ……・出来れば、俺をイラつかせないでくれると助かるんだが」

 実を言うと、翔子がこんな風に他人に攻撃的になるのは初めてではない。

 

 小三の頃に仲良くなった隣の席の女の子や、中一の頃に同じ委員会になった子にもこんな態度を示した。

 いやわかってるんだよ、俺も。翔子がこんな態度を取るのは、俺が不甲斐ない所為でもあるって。

 

「……でも、でも!!」

「彼女は俺の仲間で、そして何より深く傷ついている。

 分かるか? 幼稚園の頃のお前と同じなんだ」

「…………」

「お前がどうしても彼女を追い出したいって言うのなら、仕方ない。彼女を家族の下に送り返そう。

 だけどその代わり、明日からうちの敷居を跨ぐな。

 俺に冷酷に成れって言うのなら、お前に対してもそうする。あの時もお前を見捨てたことにする。

 ……これを言うのは、もう三度めだよな?」

 脅すのではなく、幼子をあやす様に俺は言った。

 翔子が聞き分けが無いときは、これを言うしかないのだ。

 

 案の定、翔子は顔面蒼白になって肩を落とした。

 そしてとぼとぼ、と踵を返して翔子は無言で去っていった。

 

 

「……胃が痛い」

 今の言葉がどれほどあいつにとって残酷なのか、俺は痛いほど知っているからだ。

 

「ぶちゅーってキスして一晩部屋に連れ込めばあっさりと解決するだろうに」

「下品ですよ、スズナさん」

「いやね、お互いを傷つけあって、その傷を舐めあうような関係を見せられると、ねえ?」

 青春だねー、とスズナさんは苦笑してそう言った。

 こちらの事情に踏み込んでくれないことが、何よりもありがたかった。

 

 

「ひっく、ひぐ、うッ、うえーん!!」

「こっちはこっちで大変だろうし」

 そう、ユリちゃんはユリちゃんで大泣きしていた。

 余程悔しかったのかもしれない。

 

「あたしはあっちのフォローしといてやるよ。あのままだと首吊りそうな雰囲気だし」

「ありがとうございます」

「別にいいってことよ、今から電車に乗ると十二時回るし。ついでに泊めてもらうからさ」

 それが目的だったらしく、じゃあね、と言ってスズナさんは翔子の後を追っていった。

 

 

「ぐす、ぎぐ、えぐ……」

「あー、もう、泣くな、泣かないでくれよユリちゃん」

 無論、この後俺は彼女を泣かしたと両親に勘違いされるのだが、それを語っても詮無き事である。

 

 

 

 

 

 




今回、翔子ちゃんの表情とか仕草とかの描写が少ないのは、主人公が彼女を直視しようとしていないからです。決して手抜きではないです。
彼女の依存は一種の逃避であり、主人公もまたそれから逃げているのです。
お互いがお互いに向き合えず、されど傷を舐めあう関係であるという。まさに青春ですね!! (なお、作者は青春の定義を理解していない模様

ユリちゃんの精神状態なども、全て今日のデュエルで表現し切れていると思っています。
ほぼ一人旅で世界を救った勇者、耐性ばかりの装備カード、プレイング・・・等々。
決して悪い子ではないので、これからもどうぞよろしくです。

それでは、また。次回で。


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