何!? 俺の知っている遊戯王の世界ではないのか!? 作:やーなん
ただ、長くなるので切りがいい前半だけですが。後半は後程。
この世界は俺の前世と似ているが、色々なところで違いが見受けられる。
俺に前世があると自覚し、この世界の歴史なんてどうせ、イエス様がシャイニングドローして奇跡を起こしたり、お釈迦様が某先生みたいにカウンセリングフェイズで人々を救ったり、ニュートンはリンゴではなくカードが落ちるのを見て万有引力を発見したり、ジャンヌダルクは旗ではなくデッキを掲げて戦いに赴いたり、エジソンがカードを用いて電球を発明したり、憲法九条に戦争はしないがデュエルはするとか書かれてたり、とかそんなもんだろうと冗談っぽく考えていたら、だいたいそんな感じで心折れ掛けたのは良い思い出だ。
つまるところ、俺はもう気にすることはやめたのだ。
この世界の常識について異物なのは明らかに俺であり、正しいのはこれらの事実なのだから。
だから初対面でも「おい、デュエルしろよ」で話が通じるこの世界の文化は、まあ、原作みたいにやたらめったら悪の組織だの神のカードだの世界の危機だのがあるわけでもないので、いささか刺激が足りないが概ね満足に過ごせている。
実際のところ、死後の天国がここだというのなら信じてしまいそうになるね。
それくらい平和なのだ。少なくとも俺が知る限りは。
けれど、どうせ、と俺はどこかで諦念を抱いている。
きっとそのうち異世界に飛ばされてカードの精霊に襲われたり、半年かけて友情を育んだ友達が顔芸を披露して裏切ったり、次回予告あたりで死すってネタバレされるに決まっているのだ。
常に他人との距離を置いているからか、俺は深く付き合った友達はいない。
翔子は別だ、あいつは俺が前世を思い出す前からの顔見知りだったし。
だから、他人にデュエルの事で相談を受けたのなんて、実質初めてのことだった。
俺も、翔子のお節介やきが移ったのかもしれないな……。
「まあ、そこに座りなよ」
俺はそう言って、木村くんに席に座るように促した。
「う、うん」
彼はおずおずと席に座ってそわそわしている。
先ほどから時間は経過し、現在放課後。
俺達が居るのはデュエルスペースに併設されている戦術研究室だ。
デュエルの資料などが置いてある小さな図書館といった趣の場所だが、最大の違いはここは個室であり、申請をしないと使用できないということだ。
この部屋は主にデッキを構築に用いられる。
デッキの構築作業は他人に見られたくないものだし、デッキの内容を軽々しく知られてはいけないものだ。
とは言え、ここは多人数で使用されることが想定されている。
部活の大会などの団体戦を想定して、デッキを調整したりするのだ。
「まずお互いの自己紹介からしよう。俺は須田遊助。二年の三組だ」
「僕は木村伸也と言います。
一年の二組です。突然あんなことを言ってすみません」
「いいのよ、遊助はいつだってヒマしてるし。
あ、私は真辺翔子って言うの。遊助と同じクラスね」
そしてなぜおまえが居る翔子。
「デュエルの相談って言ってもいろいろあるよね。
何かの授業が分からなかったりするのかな?」
「なぜお前は俺を差し置いて彼に訊くんだ……」
「ルールがわかんなかったりとか?」
「無視かよ」
このお節介やきは俺の抗議を聞く気は無いらしい。
「えっと、それもあるのですが……」
「ルール以外にも何かあるのか?」
前世でコンマイ語と称されるデュエルモンスターズのルールは、将棋やオセロのように単純ではない。
俺たちは小学生の頃に大まかに教わり、中学の頃で具体的なことに触れる、そして高校で細かいところに入っていく。
タイミングを逃す、などのルールは中学生で学ぶのだが、いざデュエルするとデュエルディスクが自動的に処理してくれるので俺のクラスでもその辺りをわかってない奴が散見されるほどである。
「僕の持っているデッキが弱くて……」
木村くんはポツリとそう吐き出した。
俺と翔子は思わず顔を見合わせた。
デッキが弱いというより、それは構築が悪いんじゃないんだろうか?
「僕、体が弱くて休みがちだったから、勉強が遅れてて……それに、経験が足らないから、あまりいいカードを手に入れられなかったんです」
「ああ……なるほどなぁ」
俺は木村くんの言葉に納得した。
この世界でカードを手に入れるにはどこからか買ってくる必要はない。
理屈? 知らん、俺の管轄外だ。
ちなみに、そうして得たカードは、当人しか扱えない。
勝手に他人のカードを奪って使っても、デュエルディスクがエラーを起こすのだ。
一人につき専用の一テーマ、といった具合だ。
例外として、お互いの同意があれば一時的に貸したりすることはできる。(じゃないとデッキを交換するかなんて軽口はできない。)
「わかった、経験が足らないっていうのなら、デュエルして経験を積めばいい」
「で、でも、僕へたくそで……それでクラスのみんなにもバカにされてて……」
「誰だって最初はそんなもんだ。
それに、他人が困っているっていうのに笑ってるばかりの奴らなんか気にするなよ。
そういうわけで、テーブルデュエルやろうぜ。授業でやってるからわかるよな。
ルールや処理を一つずつ確認できるからこっちの方が分かりやすいし、スタンドデュエルは楽しいが疲れるからな」
そう言って俺はデュエルディスクを展開して、そこからデッキを取り出した。
「翔子はもう帰ってくれ、今日は俺が見てみるから。
そんで、試しに明日お前と対戦してもらう方が得られるものが多いはずだ」
このお節介やきは不満そうだが、こいつを追い払える体の良い理由をでっち上げた俺はしたり顔でそう言ったのだ。
「…………まあ、私だけ彼のデッキの内容を知るのは不公平よね」
「え……僕は構わないですけれど……」
「どうせ二回目以降はお互いの手の内が知れるんだから、初見の時のハラハラ感を失うのは勿体ないだろう?」
「……ええ、全くその通りだわ」
なんといっても、俺もお前も
この世界ではデュエルは教育に取り入れられているが、俺たちは義務教育だからこれをやっているんじゃない。
毎日毎日デュエル漬けで、それでもなお楽しいから続けているのだ。
そうして翔子を追い出し、俺は木村くんとデュエルすることと相成った。
そして、俺が彼とのデュエルで得た感想はこうだった。
「……このデッキが弱いとかありえねぇよ」
彼の持つカード群は、俺の度肝を抜かすのに十分な物であった。
そして翌日の放課後。
デュエルスペースの一角で翔子と木村くんは対峙していた。
「木村くん、遊助の奴の教え方大丈夫だった?
遊助はガサツで人見知りが激しいから心配だったんだよ」
「いえ、遊助先輩はとてもよくしてくれました!!」
昨日の気弱そうな雰囲気は一転、とてもハキハキと木村くんは答えた。
「ホントぉ?」
「本当だとも、デッキ構築まで手伝ったくらいだ。九時前まで掛かって警備員に追い出されたくらいだぜ」
「デッキの構築まで手伝ったの!?」
翔子が驚くのも無理はないだろう。
始めたての小学生ならまだしも、デッキの内容を他人に左右されるというのは
身内以外でそれが許されるのは、よほど親しい友人くらいなものだ。
ほぼ初対面の俺と木村くんでデッキ構築のレクチャーだけでなく、その内容にまで俺の意見が及ぶというのは珍しいことである。
「俺もそこまでするつもりは無かったんだが、木村くんの使うカード群ってのが、俺からしても特殊だったもんでな。
どういう性質を持っているか分からないんじゃアドバイスのしようもない。
だからせめてデッキを見せてくれ、と言ったところからずるずると……」
「私にはデッキを見せてなんて一度も言わないくせに!!」
はて、何やら翔子は憤っているようだ。
俺が他人のデッキに口を出すのはそんなに気に食わなかったのだろうか。
「お前の言いたいことは分かるさ。
俺だって初対面の奴にデッキの内容うんぬん口に出されるのは嫌だぜ。
その代り完成度はかなり上がった。お前だって油断するとやられるぜ?」
「もういいッ」
「なんだよ……」
釈然としない気分だが、いつまでもこうくっちゃっべっていても仕方がない。
「そんじゃ、お二人さん。正々堂々、悔いのないデュエルを。
両者、デュエルディスクを構え」
ジャッジ役の俺がそう指示すると、二人ともデュエルディスクを前に構えた。
「「デュエル!!」」
木村伸也VS真辺翔子
LP4000
二人のフィールドはジャッジ用のモニターから監視できる。
今回の先攻は……木村くんか。これは木村くんには厳しい戦いになりそうだ。
翔子のデッキは多少罠を張られても、後攻の方が断然有利だからだ。
「先攻は僕ですね。僕のターン。
僕は
永続魔法
(1)自分のメインフェイズ時に発動できる。
自分はデッキから三枚
相手はその中からランダムに一枚選び、それが公開した名前のカードならそれを手札に加える。
違った場合、そのカードを手札に加える。
その後、残りのカードをデッキに戻す。
「まずはアドバンテージ源を確保、と」
世界で一番有名だろう白い半月型のポケットが出てきた時点でお分かりだろうが、木村くんの使うデッキは前世で三十年以上放映されている国民的某猫型ロボットのアレだ。
奴のチート具合を思えば彼のデッキが弱いわけがない。
何とはさみは使いようと言うが、まさしく使い手に左右されるデッキなのだ。
「僕が公開するのは、
さあ、先輩、選んでください」
公開したカードを残りのデッキから取り出したカードに加えて混ぜ、裏返したまま木村くんは三枚のカードを差し出す。
「どうせ全部同じカードでしょうに……私は真ん中を選ぶよ」
「真ん中のカードは、
ほら見たことか、と言った表情の翔子。
ちなみにテキストには書かれてないが、ここで選ばれたカードは公開して手札に加えなければならない。
じゃないと『強烈なはたき落とし』みたいなジャッジキルを食らう羽目になる。
なぜそれを今言うかと言うと、俺とのデュエル中に木村くんはそれをやらかしたからだ。
この劣化パワーツールみたいな効果はやっぱり、某ドラがあのポケットから何かを取り出す時は道具の名前を言うからなのだろうか。
「僕は魔法カード
このカードは発動後、効果モンスターとしてモンスターゾーンに特殊召喚される。
僕は守備表示で特殊召喚する」
そして満を持して我らの青タヌキがフィールドに召喚された。
翔子は、どの辺が猫なんだ、なんて思っているのだろう。訝しげな表情だったが、俺はそれに答える権利は無い……。
通常魔法
(1)このカードは発動後、モンスターカード(機械族・地・星4・攻1250/守1250)となり、モンスターゾーンに特殊召喚する。
(2)モンスターゾーンに存在するこのカードが破壊され、墓地に送られた時に発動する。
このカードをデッキに戻す。その後、デッキから
と言うか、モンスター化する魔法カードは非常に珍しい。
遊戯王OCGですら、ルールの複雑化の懸念からか後に罠カードに変更されるくらいだ。
「木村くん、そのカードの二つ目の効果はタイミングを逃すと思うから、十分気を付けなよ」
「はい、大丈夫です。時と場合の違いですよね」
とは言え、モンスター化する通常魔法の裁定なんて俺ですら未知の領域だ。
よほど特異なプレイングをしなければ、そんなことは起こらないだろうが……。
正直ネタバレはあんまりよくないが、あの猫型ロボが魔法扱いで出てきた時点で察しも付くだろう。
そうなのだ、木村くんのデッキはモンスターや罠カードが一切入っていない。
フルモンならぬ、フルマジック、所謂緑一色ってやつだ。
そんなのタッグフォースで稼ぎの時に使った『大逆転クイズ』ワンキルくらいでしかみたことないぞ!?
なぜそうなったかと言うと、彼の持っていたモンスターも罠カードも殆どがクセが強すぎて安定性の為に抜かざるを得なかったのだ。
デッキのカードの種類の比率はモンスター20、魔法10、罠10が模範的であるが、木村くんはそれを忠実に守っていたせいで、自分のデッキを弱いと称したのである。
そのあまりにも特異なカード群に困惑し、使いこなせなかった木村くんを責めることは出来まい。
しかし、全部魔法で構築して最も安定するデッキってなんなのよ。
速攻魔法が20枚以上入っているデッキとか訳わかんないわ!!
「僕はカードを二枚伏せて、ターンエンドします」
俺はデュエルの行く末をハラハラと眺めていくことしかできないのだった。
必然的に説明と分量が大きくなりがちになるだろうこの小説ですが、基本的にフィールドの状況は簡略化しているので伝わりにくかったりしたら言ってください。
改善する努力は致します。このままでいいのなら、今まで通りの描写での感じで書き続けます。