何!? 俺の知っている遊戯王の世界ではないのか!?   作:やーなん

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最終鬼畜元ネタ:現実
引き続きカオスな世界観をお楽しみください。
需要があれば続きます。


第十九話 大捕り物

 

 その日の四時限目の授業は数学だったが、教師の急な出張により自習となった。

 

 各々教科書を見たり、真面目な者は適当な問題を解いている。

 そして勉学に真面目ではない大半の生徒は、持参したマンガや小説を読んでいたり、周囲の席の友人たちと駄弁っていた。

 自習が終わればそのまま昼休みなので早弁している者もいた。

 

 ちなみに俺はデッキの調整をしていた。

 これは比較的に真面目な部類である。

 デュエルディスク内に収納されているカード一覧と睨めっこしていた。

 そんな時である。

 

「おい、国会中継でもうすぐ採決するみたいだぜ!!」

 一人の男子生徒が声を挙げて興奮気味にそう言った。

 

 それを聞いたクラスの連中は、お、マジかよ、見ようぜ見ようぜ、とアタッチメントのテレビ機能を使って中継を見始めた。

 テレビ機能は重めのアタッチメントなので、登校中に持ってくる奴は少ないので、何人かの集団ができた。

 

 彼らはこの国の法案や政治に興味があるのではない。

 強行採決になった場合の乱闘デュエルを見たがっているのだ。

 

 俺が転生する前では考えられない話である。

 学生が国会中継を見て乱闘を期待しているなんて。軽いカルチャーショックの一つだ。

 しかもそれでいて、この政治家は面白い戦術を使うとか、この政治家の街頭演説デュエルみたことあるぜ、とか皆がそれなりに関心があるのが何とも言えない気分なのだ。

 この世界では政治家は失言などよりも、プレイミスを指摘されて失脚したりするんだからよく分からない。

 

 記者会見でプレイミスを謝罪して記者から責められている政治家を初めてテレビで見た時の俺の気持ちは、きっと『遊戯王』のメンツしか分からないだろう。

 カルチャーショックと言えば、以前こんな会話があった。

 

 

「うちの学校、身体測定で持久デュエルとかあるのよ。

 わざわざ三時限分使ってさ。そもそもなんで身体測定でデュエルするわけ?

 そりゃあ持久走するよりずっとマシだけどさ」

 と、ユリちゃんがこの世の不条理を嘆いていた。

 

「俺ん所もあったなぁ、持久デュエル。

 前世の俺も運動苦手だったから、前世でそうだったらよかったのによ」

「そもそもこの世界じゃデュエルは決して頭脳労働ではないのがなぁ……」

 俺とスズナさんも混じってこの世界のカルチャーショックについて話を咲かせていた。

 

「みんな汗臭い顔してデュエルしまくってさ。

 私思わず言っちゃったわけよ、そんなにずっとデュエルしてて飽きないのかって?

 そしたらさ、すごい心配そうな顔されたわけよ。

 そう言っただけで保健室直行だったから、私が飽きたからデュエルしたくない、なんて言ったら精神病院行きだったかもね」

 と、嫌味っぽく無常な世界を皮肉るユリちゃん。

 

「確かに、この世界の人たちがデュエルに飽きたなんて話、聞いたことないね」

 塾の経理作業をしていた塾長がふと顔を上げてそう言った。

 

 

「ふむ、興味深い話だな」

 たまたまコーヒーを飲んでいた博士が顎に手を当てて思案顔になった。

 

「私も自分がデュエルに飽きるとは考えたことも無かった。

 人間の生理現象に組み込まれているから、とは考えられないかな?」

「その可能性は高いかもしれないね」

「この世界の住人はデュエルすると謎エネルギーが発生するしな」

 塾長とスズナさんの同意を得ても博士は納得いかない様子だった。

 

「人間は歩く事と走る事を使い分けることができる。

 我々人類にとって、走る事は疲れはしても飽きるものではない。

 なぜならば走る事は必要な機能だからだ。

 つまりはそういうことなのではないだろうか?」

「この世界の人間にとってデュエルとは走る事と同じことだってことですか?」

「だとすれば、同じこの世界の人間となった君たちに“飽き”がくることが説明できないがね」

 確かにその通りだった。

 

「或いは……」

 博士のメガネがきらりと光った気がした。

 あ、これはまた始まる。

 

「人間の精神性は肉体に依存するのではなく、魂に依るものなのか?

 だがそれでは彼らが肉体と共に思春期が訪れた理由と矛盾する。

 肉体か、魂か、どちらに強く曳かれるのかは個人差が存在するのか?

 もしかすれば君たちの世界の魂とこの世界の肉体は表面的に問題なくても互換性が無く、微妙な齟齬が存在しているのかもしれない。

 君らの“飽き”や常識への不適合性は、ある種のバグやエラーの類なのか?

 もし神が存在し、君らをこの世界に導いたのだとしたら杜撰な仕事だと言わざるを得ないな。

 それを神と呼べるのならば、神とは人間と大して変わらないのだろう」

 と、まくしたて始める博士。

 次元をも穿つ知性は俺たち常人には理解できず、なんだかよく分からないオカルトの話をしているとしか思えないのだ。

 これが博士の変人というか狂人たる所以である。

 

 俺たちは顔を見合わせ、博士の話に辟易しながら聞き流すのであった。

 

 

 

「俺にも見せてくれよ」

「お、いいぜ」

 そんなことを思い出していると、俺も気になったので近くの男子集団に近づいて国会中継を見せてもらう。

 

 だが、どうやら強行採決という雰囲気ではなさそうだ。

 議員のボイコットも牛歩戦術も無いし、恙なく圧倒的賛成多数で法案は可決、即日施行の旨を議長は告げた。

 

「なんだ、つまらないな……」。

「解散解散!! ちぇ、乱闘は無しか」

 そうして散っていくクラスメイト達。

 

「この法案って……」

 俺は気になったので、デュエルディスクを起動してインターネットを立ち上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほぼ同時刻、場所は変わって東京都の警視庁。

 組織対策部デュエル係の刑事たちが詰める一室は物々しい雰囲気に包まれていた。

 

 彼らの視線は備え付けの古びたテレビに向けられ、国会中継の採決の様子が映し出されていた。

 

「法案が無事可決したぞ!!」

「よし、施行直後の12時に令状を申請だ!!」

「忙しくなるぞ!!」

 一斉に静寂を保っていた刑事たちは慌ただしく動き始めた。

 ある者は令状の為に書類を、ある者は装備の申請の為に別の係へと、ある者は手の空いている他部署に応援の連絡をと、各々が各々の役割を果たしていく。

 

 

「せ、先輩、俺たちは何もしなくていいんですか?」

「良いんだよ、俺たちは」

 いかにも新人といった刑事に、いかにもベテランという中年刑事が雑誌を読みながら応じた。

 

「自分、特例か何とかで入庁二年目でこの係に配属されたんすけど、よくあるんですか?」

「まぁな、この係はいつも人手不足だ。

 お前も早く刑事になりたいってんだから、ここにきたんだろ?」

「それはまあ、そうですが」

 新人刑事は不安げに頷いた。

 

「自分、知らなかったんですよ。

 すぐに刑事に成れて、すぐに刑事じゃなくなる係って。

 それってまさか……」

「そのまさかだよ。毎回のように病院送り、辞めたいですって移動願いが出されるんだ」

 ベテラン刑事の言葉に、新人刑事の顔は青くなる。

 

「みなさん、戦争の準備しているようにしか見えないんですけど……」

「同じようなもんだ。準備を怠れば晴れて二階級特進だ。

 お前もそうなりたくなかったら、ちゃんと防具を着込めよ」

「…………」

 ついに新人は何も言わなくなった。

 対してベテラン刑事は雑誌を広げたままである。

 

 そうこうしているうちに、「令状カードが下りたぞ!!」とカード化された令状を掲げ同僚の刑事が戻ってきた。

 

「よし、他の部署と連携して迅速に連中を追い詰めるぞ!!」

 係長の気炎を上げて立ち上がり、刑事たちもそれに応じた。

 

「専用アタッチメント、装着!!」

「装着!!」

「装着!!」

「装着!!」

「そ、装着!!」

 それぞれがテーブルに置かれていた桜の大門が刻まれた腕輪型のアタッチメントを利き腕に装着した。

 

「各自支給された専用デッキまたは認可されたデッキのみを使用許可される。

 この場で確認せよ」

「確認完了!!」

「確認完了!!」

「確認完了!!」

「か、確認完了!!」

 係長の号令に刑事たちは淀みない動きで返す。

 新人一名は別だったが。

 

「各員は防具を装着したのち、車両にて移動し、配置に付け。以上だ!!」

「「「「はい!!!」」」」

 そして刑事たちは訓練された兵士の如く部屋から消えていく。

 

 

「俺、この専用デッキに憧れて刑事に成りたかったんですけど……早まったかなぁ」

「ああ、早まったなぁ」

 バディであるベテラン刑事に断言され、新人刑事はガクッと肩を落とした。

 

 この日本で、少なくともこの世界の地球の法治国家で最も人工カードを実用的に運用している組織はどこかと聞かれれば、それは誰もが警察機構だと答えるだろう。

 彼らのような治安維持の組織に必要なのは銃器のように等しい効力を発揮する武器であり、この世界では統一された効果を持つデッキだったというわけだ。

 

「一応デッキの確認だけはしておけ」

「はい……」

 二人は覆面パトカーに乗り込み、現場へと向かう。

 

 

「……・先輩、閻魔堂先輩。

 あの、これ、なんすか? モンスターが一枚も入ってないんですけど……」

 道中、助手席に座る新人は支給されたデッキの内容を見て唖然としていた。

 

「そりゃあな。今どきの意識高いの団体や世間様は、デュエル中の止むを得ない相手の負傷も声高らかに批判なさる。

 おかげでクソ犯罪者どもを昔みたいに徹底的にボコボコにできなくなったわけだ」

 閻魔堂と呼ばれた中年の刑事は忌々しげにそう言った。

 少なくとも彼もその奇妙なデッキ構成の原因になった一人だったようである。

 

「でもアメリカじゃ今でも普通にモンスターを召喚して犯人と激突したりするんでしょう?」

「そりゃあアメリカさんはな。

 あっちは法律でアタッチメントで制限される力が緩いかんな」

「でもこっちの犯罪者もアタッチメントの違法改造でモンスターとかの物理干渉力をあげたりするじゃないですか!!」

「自衛隊と一緒だよ。

 ……死ぬまで反撃するな。以上」

 その時新人は、どうして同僚たちが熱烈にこの係に送り出してくれて、特例とかでいやに簡単に刑事に成れたのか悟った。

 毎月のように負傷者がでるこの係は、人手が何人居ても足りないのだ。

 新人の脳裏には、生活感があるのに一度もその持ち主を見たことがない机がある理由に思い当たったのだ。

 

 

「安心しろ、新垣。お前も初戦ぐらいは守ってやるよ。

 まずは現場の空気に慣れて、行けそうになったら行けばいい」

「頼りにしてますよ、先輩……」

 新人刑事の新垣は涙目になって閻魔堂にそう言った。

 

 

「新垣、お前は何で俺たち人間は能力を制限するアタッチメントを付けるか分かるか?」

「小学生の問題っすか?

 まあ警察学校でもやりましたけど。危険だからですよね」

「そうだ。たとえば『天使の祝福』なんてカードがあったとする。

 アタッチメント無しで人間がこれを使うとどうなると思う?」

「さぁ……天使が出てきて祝福してくれるんじゃないですか?」

「つまり、ソドムとゴモラみたいに町一つ消し飛ばされる、なんてことも起こらないとも限らないわけだ。

 分かるか? 何が危険なのか、それは何が起こるか分からないからだ。

 それは当のカードの持ち主さえも、だ」

 たとえば五歳、六歳くらいの子供が、好奇心でそれをやってしまうことがあるかもしれない。

 そしてそれは現実に起こっている社会問題でもあるのだ。

 

「勿論そんな極端な例なんざ歴史に一度あるか無いかだ。

 だが家一軒くらい吹き飛ばすような事例なら、毎月……いや毎週のように起こっている。

 アタッチメントは精密機械だ。風呂の中にまで持ってけねぇし、最終的に使い手の良心や理性に委ねるのは人間として仕方がねぇのだろうさ。

 そして欲望の為に良心や理性を捨てるのも、人間なんだよ」

 人類は確実に、自分たちの力を持て余していた。

 

 

「そうならない為に、“ルール”があるんですよね」

「そうだ。古代の人間は自分たちが決めたルールのうちならば、自分たちの力をある程度制御下におけることを知った。

 人間の野蛮な歴史の始まりってわけだ」

 そうやって、人類は能力を制限するアタッチメントが発明される近代までその身に余る力をコントロールしてきたのだ。

 

「つまり、“ルール”は人間の理性の象徴というわけだ。

 ここからはその理性なんてものは無くなる戦いが待っている。覚悟しておけよ」

「……うっす」

 そうした雑談が終わる頃には、二人の乗る車両は現場にたどり着いた。

 

 目的地はとある三階建ての雑居ビル一棟。

 ここが犯罪者の根城だった。

 

「全員揃ったな、行くぞ」

 係長の号令に、二十人以上の刑事たちが一斉に車両から下車して雑居ビルに押し寄せていった。

 

 

「警察だ、全員そこを動くな!!」

 刑事たちが雑居ビルのドアを開け、中へと雪崩れ込む。

 閻魔堂と新垣の担当は一階で、そこには数人の男たちが段ボールに何かを詰め込んでいる最中だった。

 

「さ、サツだと!?」

「慌てるんじゃねぇよ。

 ……俺たちが何したって言うんですかねぇ」

 上司らしい男が部下を制すると、白々しい態度で刑事たちにそう言った。

 

「本日十二時に新たなカード保護法が施行された。

 内容は、元々の持ち主が存命のカードは当人の許可なく取引または譲渡することを禁ずるというものだ」

 この法律が施行されたのは、アメリカやドイツなどが一定量のカードが持ち主から隔離され場合、健康を害するという発表がなされたからだ。

 外国で似たような法律が次々と施行され、この度日本もその影響を受けたというわけである。

 

「そしてこれを犯した者には傷害罪が適用される。

 ここにはそう言ったカードが大量に保管されていると調べがついている。

 そして、これが捜査令状だ!!」

「ちょっと待ってくださいよ、うちにあるのは全部担保として預かってるものばかりですってば!!」

「そんな言い訳が通用すると思っているのか!!

 フィールド魔法『大捕り物』を発動!! 一斉検挙だ!!」

 刑事たちが一斉にデュエルディスクを構えた。

 

 その直後である。

 ずしゃあ、という轟音と共に天井を突き破って何者かが現れた。

 それは到底人は思えない醜悪で邪悪に満ちた怪物の姿だった。

 

 それは、『BS(バイオショック) 戦慄の暴君』そのものだった。

 

 

「ひ、ひぃい!?」

「上の連中は何やってやがんだ」

 実体をもった凶暴な怪物の姿に恐れ戦く新垣と裏腹に、閻魔堂は呆れた様子だった。

 

「くそッ、おめぇらもやっちまえ!!」

 ヤクザとしての本性を現した闇金業者たちも、デュエルディスクを構えて次々とカードを置いていく。

 闇金の事務所内はあっという間にゾンビの集団が実体化し、埋め尽くされた。

 

「確保ーーー!!」

「「「うおぉらああぁぁ!!」」」

 だが、百戦錬磨の刑事たちはその程度で怯みはしなかった。

 彼も次々とカードを発動し、ゾンビの群れを対処していく。

 

「せ、先輩ぃーー!!」

「とにかく一対一を作れ、デュエルで奴らを拘束しろ!!」

「む、無理ですぅ!!!」

「何とかしろ!! よし、捕まえた!!」

 ゾンビの群れに纏わり付かれそうな新垣を無視し、閻魔堂はヤクザの上司と思われる男を強制デュエルモードに持ち込むことに成功した。

 

「くそッ、この野郎!!」

「いいか新人、俺の後ろは任せたぞ。死ぬ気で対処しろ!!」

「話が違うっすよぉ!!」

 情けない新垣の声は喧噪の中に消えて言った。

 そしてデュエルはもう始まっていた。

 

 

「俺のフィールドには既にフィールド魔法『大捕り物』と永続魔法『捜査令状』が発動している。

『大捕り物』の効果により、俺は必ず後攻になる。

 そしてデュエル開始時、『捜査令状』効果により相手はデッキを全て墓地に送り、カードを一枚ドローできる。

 つまり自主的に負けろってことだな、これを拒否したら裁判で情状酌量の余地は無くなるわけだ」

「誰がするかおんどれが!!」

「おとなしくお縄に付いた方がよかったと思うんだがなぁ」

 だが、そういう閻魔堂の表情は心底楽しそうだった。

 

 

『捜査令状』

 永続魔法

 デュエル開始時、相手はデッキを全て墓地に送り、カードを一枚ドローできる。

(1)このカードは他のカードの効果を受けず、効果の対象にもならない。

(2)このカードを発動条件とするカードの発動と効果は無効にならず、相手のターンに手札から発動できる。

 

 

「サツが怖くて商売ができるか!!

 俺のターン、魔法カード『暴君の襲来』を発動!!

 自分フィールドにモンスターが存在しない場合、デッキからレベル8以下の『BS(バイオショック)』モンスターを召喚条件を無視して特殊召喚する!!

 俺は『BS(バイオショック) 戦慄の暴君』をデッキから特殊召喚だおらぁ!!」

 ヤクザのフィールドにいとも簡単に登場する不滅の怪物。

 

「捜査資料には無かったカードだな。

 連中、特に強力なカードは流してなかったと見える」

「せ、先輩ぃ、こいつ除外しても戻ってきたんですけどぉ!!」

「お前、ちゃんと捜査資料みてたのかよ……」

 何とかヤクザのひとりを相手取っている新垣の情けない声に、閻魔堂も溜息を吐いた。

 

「ふん、サツも大したことないのう。

 これで俺はターンエンドじゃあ」

 その様子を見たヤクザは鼻で笑った。

 

「はいはい。新垣、俺が手本を見せてやるよ。

 俺のターン、ドロー。この時、『大捕り物』の効果により、自分フィールドにモンスターが存在しない時に通常ドローした場合、もう一枚カードをドローできる。

 そしてそのカードをお互いに確認し、モンスターカードなら墓地へと捨てる。

 ドローしたカードは『捜査検問』の為、手札に加える。

 そして俺は手札から、装備魔法カード『裏司法取引』を発動。

 そのカードを装備したモンスターのコントロールを得る。そしてこの効果でコントロールを得たモンスターの元々の攻撃力の分だけ、相手はライフを回復する」

「な、なんだと、サツのくせして裏取引だと!?」

「俺は人情派の刑事じゃないんだよ。勿論断ることもできるぞ。

 選択したモンスターの元々のレベルと同じ枚数をデッキから墓地に送ればな」

 閻魔堂はにやにやと笑いながら言った。

 

 

『裏司法取引』

 装備魔法

(1)このカードを装備した相手モンスター1体のコントロールを得る。

 その後、コントロールを得たモンスターの元々の攻撃力分のライフを相手は回復する。

(2)(1)の効果処理後、相手は装備したモンスターの元々のレベルと同じ枚数のカードをデッキから墓地に送ることで、このカードを破壊できる。

 

 

 ちなみに、この効果と似たカードが別の世界で『強奪』の名前で禁止カードに指定されていることなど、彼らは知る由もない。

 

「くそ、背に腹は代えられねぇ、デッキからカードを墓地に送る」

 とは言え、ヤクザは内心ほくそ笑んでいた。

 アンデッドデッキに墓地肥やしとはいい手助けだからだ。

 

「残り26枚、と。

 じゃあ次は魔法カード『強制捜査』発動な。

 このカードは『捜査令状』が存在する場合に発動できる。

 まず、俺が相手のデッキを確認してモンスター1体を選ぶ、

 そんでそのカードをあんたは手札に加えられるわけだな。

 ……ほうほう、レベル10の強そうなカードがあるじゃないか。

 そいつを手札に加えな、そのあとに手札に加えたモンスターの元々のレベルの枚数だけデッキからカードを墓地に送れ。これで残り15枚、と」

 そこまで言って、ああ、と閻魔堂は手を打った。

 

「フィールド魔法『大捕り物』の効果で、墓地で発動するカードや墓地のカードを手札に加えたりデッキに戻したりする効果は無効だからよろしくな」

「なにッ!?」

「証拠物件ってやつだよ。持ち出し禁止だ。

 カードを二枚セット、ターンエンドだ」

 

 

『大捕り物』

 フィールド魔法

 このカードの元々の持ち主は、必ず後攻になる。

(1)このカードが存在する限り、お互いにフィールド魔法を発動できない。

(2)このカードはフィールド上に『捜査令状』が存在する限り、効果の対象にならず、カードの効果を受けない。

(3)自分フィールドにモンスターが存在しないプレイヤーは通常ドローに加えてもう一枚カードをドローできる。

 そのカードがモンスターカードなら、そのカードを墓地に送る。

(4)お互いに墓地で発動するカードの効果は無効になり、墓地からカードを手札に加えることもデッキにカードを戻すこともできない。

 

 

「お、おれのターン、ドロー!!」

「スタンバイフェイズに、永続罠『捜査検問』を発動。

 発動時にレベルを宣言し、そのレベルのモンスターは召喚・特殊召喚はできない。

 ……俺はレベル10を宣言する。

 そしてお互いにモンスターが攻撃する場合、そのレベルの数のカードをデッキから墓地に送らねばならない」

「くそ、俺は『生ける屍』を召喚!!

 これで合計攻撃力は4000!! これでライフをゼロにしちまえばデッキがゼロ枚だろうが関係ねぇ!!

 まずは『生ける屍』でダイレクトアタックだ!!」

「ではカードを四枚墓地に送れ。これで残り10枚だ」

 

 閻魔堂 LP4000→2800

 

「先輩!!!」

 ゾンビの攻撃をデュエルディスクで防ぐ閻魔堂の姿に、背後から後輩の悲鳴が上がった。

 

「ッ、自分が戦闘ダメージを受けた場合に、『緊急逮捕・公務執行妨害』は発動できる。

 戦闘ダメージを与えたモンスターのコントロールを得る。

『生ける屍』は逮捕だ」

「ちッ、『戦慄の暴君』で『生ける屍』を攻撃!!」

 暴君の剛腕に、ゾンビは簡単に吹っ飛ばされた。

 

 閻魔堂 LP2800→1200

 

「命拾いしたな、ターンエンドだ」

 だが、ヤクザのデッキにはもうカードが二枚しかない。

 

「俺のターン、ドロー。

『大捕り物』の効果で、自分フィールドにモンスターが居ない為、もう一枚ドロー。

 ドローしたカードは……『裏司法取引』だ。

 勿論、発動する。『戦慄の暴君』のコントロールを得て、その攻撃力分お前を回復させる。

 そしてお前はもう、このカードを破壊することはできない!!」

「く、くそぉ!!」

「更に、魔法カード『おとり捜査』を発動!!

 元々の持ち主が相手となるモンスターのコントロールを全て戻し、戻したモンスターのレベルの合計分だけ、相手はデッキからカードを墓地に送る!!

 さあ、最後の二枚を墓地に送れ!! 俺はこれでターンエンドだ!!」

 ヤクザはカードを引けない!!

 奴の敗北は確定したのだ!!

 

 

「これが権力だ!!

 さぁ、刑務所(ブタばこ)行き確定だ、クソ犯罪者!!」

 閻魔堂は特殊アタッチメントを敗者へと向けた。

 

「あ、あががぁっぁああ!!」

 そこから発する光に当てられた敗者のデュエルエナジーが特殊アタッチメントに吸収された。

 急激にエネルギーを抜き取られたヤクザは、白目を剥いて気絶した。

 

 

「……未だにこれが安全に対象を無力化する装置だなんて信じられねぇんだがなぁ」

 ぴくぴくと痙攣するヤクザを一瞥し、背後を振り返る。

 

「そっちはどうだ、新垣」

「な、なんとか勝ちました……」

 とは言うものの、新垣は息も絶え絶えでクリーニングに出したばかりのスーツはボロキレ同然だった。

 

 

「おい、閻魔堂さんが勝ったぞ!!」

「主犯格を逮捕したぞ!!流石は組対屈指のエースだ!!」

「相変わらず容赦ないぜ!!」

「いよッ、鬼、悪魔、閻魔堂!!」

 恐らく一番強いだろう相手を撃破したからか、刑事たちの士気も上がった。

 

 

 その後、カードを収容するケースも発見された。

 持ち主の手を離れても勝手に戻るカードだが、こういった特殊なケースの中に入れられればその限りではないのだ。

 

 こうして一斉検挙は負傷者を出しながらも大成功に終わったのだ。

 

 

 

 

 

 

「どうして内が必死になって捕まえたホシを、公安に持ってかれるんですか!!」

 数時間後、新垣は係長に食って掛かっていた。

 

 それは犯人確保後、所内で聴取を取っていた時である。

 公安を名乗る刑事に、主犯格を連れて行かれてしまったのだ。

 

「やめとけよ」

「ですけど、閻魔堂先輩!!」

「係長も困ってんだろ、ほら、ジュースおごってやっから落ち着け」

 そう言って、閻魔堂は喫煙室前の自販機にまで新垣を引っ張っていった。

 

「先輩は悔しくないんですか?

 こんなドラマみたいなこと、本当にあるなんて……」

「仕方ねぇだろ、お前、人工カードがヤクザ如きに量産できると思うか?

 カードを作るどの企業にも、厳格な監視体制を敷いているうちの会社が」

「それは……」

「だっつうのに、それが頭の悪いガキどもにまで景気よくばらまかれた。

 元締めが欲してるのは利益じゃなくてデータだろうよ。

 あの人工カードを使った結果、どういう悪影響が出るかのデータをな。

 そしてそんなアホなことを国内でする輩が、いるとは思えねぇ」

 そこまで言われて、新垣もはっとした。

 

「まさかそれって……」

「どこぞの某国とやらの陰謀か、はたまたテロの一種か……。

 集めたカードも、国内だと足が付く可能性もある。

 公安が動くのも仕方がねぇだろう」

「…………」

 猛る気持ちも、冷や水をぶっかけられた思いなのだろう。

 新垣は意気消沈となり、肩を落としていた。

 

 すると、その時、彼のアタッチメントに着信があった。

 

 

「……え?」

 発信側に登録されている名前を見て、新垣は目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少し巻き戻る。

 

「つーかさ、なんで失言とかじゃなくてプレイミスで失脚とかするんだろうな」

「なに、政治家の話?」

 遊助と翔子は屋上で弁当を食べていた。

 他にも数組ほどカップルが見受けられるが、この二人浮いている様子はない。

 

「今日の国会放送、ちょっと見てそう思ったんだよ」

「なんでいちいち失言如きで失脚しないといけないの?

 それじゃあ政治家なんて職業成り立たないじゃない。アイドルやニュースキャスターやコメンテーターじゃないんだし。

 彼らは人前で日本のこれからを示してデュエルするのが仕事でしょ?

 それより、デュエルでプレイミスするようなら、人を使う能力が土壇場で欠けることの証明じゃない。

 そっちの方がよほど問題だともうのだけど。

 遊助はどの政治家がいいと思う? 私は何人かいるんだけど」

 遊助は何も言い返せなかった。

 デュエルを抜きにしてもそれなりに理に適っていたからである。

 

 そして翔子にしても政治に関心がある事実に自分が恥ずかしくなったのだ。

 

「選挙行ける年になったら一緒に行こうな……」

「そうね、そうしましょう」

 なんて雑談を繰り広げていた時のことである。

 

 

「あ、いた、お二人とも、探しましたよ!!」

「木村君? どうしたんだ、慌てて」

 屋上の階段を駆け上ってきたのか、木村君はぜぇぜぇと息を整えてから言った。

 

 

「坂間君のお姉さんのデッキが、不良たちに奪われたそうなんです!!」

 

 その言葉に、二人は顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




閻魔堂さんは何気に牛尾さんのオマージュです。
あの人のキャラ好きなんですよね。

※すでに発動している、は警察だからできるのです。
権力がない人はマネしないでください。
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