何!? 俺の知っている遊戯王の世界ではないのか!?   作:やーなん

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思ったより長くなったので、残念ながら今回はデュエルはありません。
ご了承ください。
需要があれば続きます。



第二十話 正義の理由

 私は幼い頃、家族は遠い存在だった。

 

 祖父、父は警察のお偉いさん、一番上の兄は自衛隊の士官学校に在学。

 受験勉強中の二番目の兄に母は掛かりきりであり、余り家族に構ってもらえていなかったのだ。

 

「ほら、こっちへおいで、武之」

 そんな中で、曽祖父は私の身近にいる人物だった。

 齢90歳を超える高齢ながら介護を必要としておらず、我が家に一緒に住んでいたのだ。

 

 曽祖父は第二次世界大戦を戦い抜いた勇士の一人であり、居間の上窓の淵には幾つもの賞状と勲章、当時の曽祖父の写真が飾られている尊敬できる御仁でもあった。

 

 曽祖父は不思議な人だった。

 いつも縁側に腰掛け、外ではないどこかを見ていた。

 時々カードに話しかけるような姿も見受けられ、家族からは痴呆気味と思われていた。

 私は曽祖父が痴呆などではないのはわかっていたが、それを訂正する気は起きなかった。

 

 私は曽祖父を慕っていたが、彼を理解できたつもりはなかったからだ。

 

 

「曾爺さま、どうしていつもカードに話しかけていたりするんですか?」

 当時の私は…………いや、今でもそうだが、この頃は輪にかけて可愛げの無い子供だった。

 無遠慮にそんなことを聞いてしまうくらいには。

 

「ううん? そうさなぁ、こうしてカードを見ているとな、もしかしたら自分の中を覗けるかもしれないからだな」

「曾爺さまが何を言っているのかわかりません」

「どれ、試しにお前のデッキを見せてみな」

 曽祖父は昔の話を全くしない。

 だからだろうか、私のカードの話をしたのも、自分のデッキを見せろと言ったのも初めてのことだった。

 

「はい」

 私は幼ながらに自分で組んだデッキを曽祖父に渡した。

 カードをを一枚一枚見ながら、曽祖父はデッキの中身を吟味する。

 

「あぁ…………これは…………」

 一瞬、曽祖父の体が震えた。

 

「曾爺さま…………?」

「いや、なに、ちょっと昔のことを思い出してな。

 武之、お前はいずれ人の上に立つだろう人間になることを仕方ないと思ってるだろう?」

 その言葉に、私は驚いた。

 曽祖父は私のデッキを見ただけで、私の心の内を見透かしたのだ。

 

「…………どうして」

「お前のカードたちが教えてくれるんだ。

 お前は周りに流されて道を選び、そしてそれを受け入れてしまうってな」

 どうだ、という表情で曽祖父は笑った。

 子どもというのは図星を突かれるのは嫌いなものだ。私は憮然とした態度で曽祖父を見つめた。

 

「召喚法占いの類でしょうか?」

 私は得意とする召喚方法で性格が分かれるという一昔前に流行った下らない占いを挙げた。

 はたして血液型占いと、どちらが胡散臭さは上だろうか。

 

「ま、そんなもんだ」

 曽祖父は私の態度を可笑しそうに笑っていた。

 

 

「なぁ、武之よぉ。お前は生まれる前のことを覚えているか?」

 ふと、曽祖父はそんなことを言い出した。

 

「母さんのお腹の中の記憶があるか、ですか?

 私の年齢じゃ無理ですよ」

 人間は母親の胎内にいたころの記憶を三歳四歳ぐらいまでは覚えているという。

 残念ながらとっくにそんな年齢は過ぎていた。

 

「違うさね、あぁ、なんつーか…………前世の記憶とかそういうのだ」

「あるわけないじゃないですか。そんなの」

「そうかな。俺は人間はみんな、思い出せないだけで前世の記憶を持っていると思う。

 そして前世で悪いことをした人間は、今生でその罪を償う為に生きるんだ」

「うちは神道ですよ、曾爺さま」

「そうだな」

 私の歯に衣着せぬ物言いも、曽祖父は笑って頷いた。

 

「爺さんはな、今生でもいっぱい悪いことをしちまった。

 来世があるんなら、前世よりいっぱい罪を償わないとなぁ」

「罪を犯さない人間など、いるのでしょうか」

「罪ってのは大抵したくないのにしちまうもんだ。

 本当に悪いのは、悪いとわかっててしちまうことだよ。

 俺なんかそうさ。いっぱい、いっぱい、部下に殺せと命令した。

 もうちょっと、上手くやれると思ったんだがなぁ…………」

 それは、私が聞く初めての弱音だった。

 

 私の知る曽祖父は、居間にある栄誉に満ちた姿ばかりだったから、そんな姿は心底驚いた覚えがある。

 そして、曽祖父は私のデッキにある一枚のカードを見下ろした。

 

「どうすれば償えるか、ずっと考えてた。

 だが、お前のカードが教えてくれたよ。もう、その必要はないってな」

 そう言って、私のデッキを脇に置くと、曽祖父は遠くの空を眺めた。

 

「そうか、もうとっくに終わっていたのか…………」

「曾爺さま?」

「武之。お前はお前が好きなことをやればいい。

 親父が気に入らないこといいだしやがったら、家出しちまったっていいさ」

 すっ、と曽祖父は立ち上がる。

 

「わかったな?」

 曽祖父は縁側を立ち上がると家の中へと入り、部屋の奥の襖を開けた。

 

 その瞬間、言いようのない寒気を覚えた気がした。

 襖の奥は見知った自分の家の中である筈なのに、別の得体の知れないどこかに通じているように思えたのだ。

 

 ともすればそれは、子供故の感性だったのかもしれなかった。

 

 

「曾爺さま、僕は僕の正しいと思ったことをします」

 何とか引き留めようとして、私は先ほどの質問に答えた。

 

「そうか、安心したぜ」

 そして、曽祖父は襖を通り過ぎた。

 その直後だった、曽祖父が崩れ落ちたのは。

 

 曽祖父は病院に搬送され、その日のうちに亡くなった。

 死因は老衰と判断された。

 

 曽祖父は眠るように、静かに息を引き取ったそうだった。

 

 

 私はオカルトなど信じない人間だが、世の中不思議なことがあるというのはわかっていた。

 人間が知りえる知識など砂漠の砂を匙で救った程度に過ぎないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その二人が私の元にやってきたのは、生徒会の引き継ぎ作業が終わり、あとは任期の間を生徒会長の椅子の上でふんぞり返っているだけとなった昼休みのことだった。

 

「我が校の女子生徒が、不良に絡まれデッキを奪われただと!!」

 私が思わず義憤に駆られ、備品の椅子を押しのけ立ち上がったのは仕方がないことだろう。

 このことを伝えに来てくれた二人とは、言うまでも無く須田 遊助くんと真辺 翔子くんの校内では有名な二人のカップルだった。

 

「……失礼した。詳しい状況を聞かせて貰えるかな」

 倒れた椅子を元に戻し、二人に話の続きを促した。

 

「ええと、俺たちも木村君に聞いただけなので詳しいことは…………。

 ですが、こういうことはまず、生徒会長の耳に入れといた方がいいと思いまして」

「そうか。まず私に相談しに来てくれたことを感謝する」

 報告、ではなく相談という言葉を使ったのは、この二人がこのまま黙っているとは思えなかったからだ。

 だが、

 

「よし、翔子。あとは生徒会長に任せようぜ」

「えッ」

 真辺くんは何か聞き間違いを探すように、須田くんを見た。

 

「えっ、て……。これ以上俺らができることなんてないだろ?

 まさかお前、不良どもを片っ端から問い詰めに行く気か?

 確かに木村君は大事な後輩だけどさ、一度デュエルしただけの顔見知りにそこまでする必要なんて…………」

 須田くんは、なぜか以前よりも姿勢が真っ直ぐではなく、視線も顎が引き気味で足元に行きがちだった。

 

 こういう傾向は自分に自信の持てない人間に有りがちなものだ。

 以前までの彼は特別自分に自信があった訳ではないが、それとは違う別の…………そう、何かが欠けているように感じた。

 

「遊助はそれでいいの?」

 真辺くんは確認するように、彼に問うた。

 それに、びくりと彼は反応してぼそぼそとこう言った。

 

「翔子がそうしてほしいなら…………。

 でも、お前は家に居ろよ。他の誰が泣こうが傷つこうが構わないが、お前がそうなったら俺は俺を許せない」

「私じゃなくて、自分で決めてって言っているのよ」

「俺はもう俺の考えを言っただろ!!

 自分が納得できないからって俺に選択を押し付けるなよ!!」

「まあ待て、喧嘩をするな二人とも。

 私も意見を言わせてほしい」

 声を荒げ始めた須田くんを宥め、そう述べた私に二人の視線が向けられる。

 

「私も大人たちに任せた方が良いとは思う。

 私たちのできることなど限られているのだからね。もちろんこれは一般論だ。

 まずは真辺くんも冷静に、行動する前に考えてみようか」

「…………はい」

 私がそう言い含めると、彼女もひとまず納得してくれたのか頷いた。

 

 

「まず、木村君はどこかね。当事者である女子生徒に話を聞かねば何も判断できない」

「保健室です」

 私の問いに、真辺君は端的に答えた。

 

「まさか、暴力を振るわれたのか!!」

「いいえ、そうではないんですが…………とりあえず、一緒に保健室に行きませんか?

 私たちも詳しい話を聞いたわけではないので」

「うむ、そうしようか」

 私たちは生徒会室を後にして、すぐに保健室へと急いだ。

 

 

 保健室の中には木村君と、椅子に座って俯いている男子生徒が一人。

 そしてベッドで眠っている女子生徒がいた。

 保険医は現在席を外しているようだ。

 

「生徒会長!!」

 木村くんが私を見るなり、驚いたように声を挙げた。

 

「詳しい事情を聞かせてくれないだろうか」

 私がそう言うと、彼はもう一人の男子生徒の方へと目を向けた。

 

「君は…………一年生だね、話せるかい?」

「……はい、全部僕が悪いんです」

 ぼそぼそと切り出した彼は、詳しい話をしてくれた。

 要点をまとめると、このようになる。

 

 ここ最近、姉と衝突するようになった。

 少し前に将来のことで大喧嘩し、それ以来些細なことでも言い合いになるようになったそうだ。

 今日も、些細な口喧嘩が原因で別々に登校したのだという。

 と言っても、姉の方が先を行き、彼が少し遅れて家を出た形らしかったが。

 そこで姉が不運にも不良達に絡まれ、散々脅された挙句デッキを奪われてしまったのだという。

 

 彼はそれを、見ていることしかできなかったと語った。

 

 

「なるほどな。それでショックで彼女はこの通りと」

 むしろよく今まで自宅へ帰らなかったものだと思ったが、どうやら二人の両親は共働きらしく、今は迎えに来てもらうことも難しいらしかった。

 

「姉さん、今は眠ってますけどさっきまでずっと体調が悪そうで…………。

 僕が…………僕がもっと強ければ…………!!」

「君が気に病むことじゃないさ。

 それにしても、全く関係のない女子生徒まで…………。

 不良同士の縄張り争いにしては行き過ぎている」

「あ、…………そう言えば、あいつらノルマがどうとか、早く誰かの所に持っていかないととか話していました」

「もしかすれば縄張り争いは、結果でしかないということか」

 私たちは他の三人に目配せして、一旦保健室を後にした。

 

 

「マズイな。連中は元締めに巻き上げたデッキを納入を急いでる」

「デュエルヤクザ、ですか?」

 私はそれを須田くんが知っていることに驚きを隠せなかった。

 

「知っていたのか?」

「ええ、翔子が…………最近うちの道場に入った元不良からそう聞いたと」

「連中は巻き上げたカードを好事家やコレクターに売りさばいているそうだ」

 別にカードをコレクションすること自体はいい趣味だ。

 それ自体は犯罪ではないし、カードのコレクターなど星の数ほどいる。

 

「あれ、でも、カードって無くしても戻って来ますよね?」

「デュエルディスクの中に入れられたり、特殊な処理をされたケースの内部に保管されればその限りじゃないんだよ。

 警察に密着取材した番組とかでよく見かける」

 そうなんですか、と木村くんは須田くんの説明に驚愕した様子だった。

 

「さて、ここで問題なのは、ここで大人たちに丸投げしてしまえば、彼女のカードが戻ってこなくなる可能性が高いということだ」

 そして我々にとって取り返しのつかない問題とはそれのことだろう。

 

 

「それを踏まえたうえで諸君はどうしたい?」

「仮にですよ」

 須田くんは手を上げて、発言する。

 

「俺たち個人が彼女にしてあげられることってなんです?

 不良どもを見つけ次第デュエルを挑んで、片っ端から倒していくぐらいでしょう。

 でもそれは現実的じゃない。連中の数も場所もわかっていないんだから。

 まさか皆散って一人ずつ当たるなんて馬鹿なことです。最強のデュエリストは存在しても、無敗のデュエリストは存在しない。

 ミイラ取りがミイラになったらそれこそだれが責任を取るんだって話です」

 須田くんからは、深入りしたくない、と言外にこれでもかと主張していた。

 

「でも遊助、多分二人が喧嘩した原因って、大本を辿ればあなたじゃないの?」

「そりゃあ罪悪感は感じてるさ。

 だけどそれで被害者を増やす可能性を、それこそお前や木村くんを巻き込んでどうするんだって話だよ。

 泣いてごめんなさい、で済むなら単身だって行ってやるよ」

 須田くんは、良い意味でも悪い意味でも身の程を弁えていた。

 若干の卑屈さを感じるものの、彼の言い方は間違ってはいなかった。

 

「翔子、お前はデュエルする時、自分の召喚したモンスターが一体も相手によって破壊されないと想定するのか? 違うだろ?

 戦うということは損害が発生するってことだ」

「だったら蘇生カードを使えばいいじゃない!!」

「馬鹿にしてんのかお前は!!」

 真剣に話しているのに茶化された須田くんは激昂しかけたが、私や木村くんの前だと意識したのか、それ以上の言いたいことは飲み込んだようだ。

 

 

「ふむ、木村くん、君の意見を聞かせて貰いたい」

「えっと、僕はその……」

 木村くんは須田くんほど明瞭な意見を持っていないようだ。

 

「僕は、できれば二人の力になりたいです。

 二人はその、友達だから…………」

 おずおず、と儚げながらも確かな意思を彼は示した。

 

「真辺君は?」

「デュエリストが売られたデュエルから逃げるなんて、恥ずべきことです」

「おまえなぁ…………」

 真辺くんに、お守りをする身にもなれ、という視線を向ける須田くん。

 

 

「私の意見を述べてもいいかね?」

 私は三人の仲間の表情を見回し、了承の意を受けた。

 

「私個人としては、今すぐにでも悪漢どもをなぎ倒しに行きたい。

 だが、それは一般的に許されることではない。

 それは責任だったり、世間体であったり、守るべき者の為だったりする。

 私は生徒会長として、君たちを危険な目に遭わせるような軽挙な言動は慎むべきだ」

 曽祖父は私に好きなことをすればいいと言った。

 だがそれは、好き勝手に振る舞っていいということではない。

 

「だがしかし、やはり私は一人の人間として、連中をのさばらせていたことを許せない。

 私の答えは出ている。それは危険で、やはり責任ある立場としては許されないことだ」

 マンガやアニメの主人公ならば、こんなに悩む必要はないのだろう。

 義憤を抱いたのなら、すぐにでも敵の本拠地に赴き、憎き敵に挑み、勝って凱旋するのだろう。

 だがそれは、全て丸く収まるから許されるのだ。

 

「私は決めかねている。

 一人の少女が恐ろしい目に遭い、その家族が悲しみ、己を責めているというのに。

 私の立場がそれをすることを許さないのだ」

 これほど悔しいことは無いだろう。

 

「……俺は生徒会長の判断に従います。

 翔子、お前もそれでいいな」

「うん」

 それは私が自分の望む判断を下すと期待して言葉ではなく、この人になら自分の判断をゆだねられるという信頼からの言葉だった。

 

「僕も、生徒会長の意思を尊重します」

 木村くんもそういって、己の意思を固めたようだ。

 

 

「……曾爺さま、私は…………」

 そこで私は、ふと頭に過った。

 曽祖父がいつも、カードに話しかけていたことを。

 

 

 

 

「……我が魂に問う、この引きにより我が意思を示せ!!」

 私はデュエルディスクを出すと、デッキをシャッフルさせ、一番上のカードを引いた。

 

 引いたカードは、『剣の英霊 白百合の騎士姫』。

 あの日、曽祖父が見下ろしていたカードだった。

 

「そのカードは……」

 須田くんは私の引いたカードを見て、息を飲んだ。

 

 

「……そうか、やはり私はただのデュエリストに過ぎないらしい。

 引いたカードに逆らうことはできないのだから。

 ……ふふ、私は存外に堅物ではなかったらしい」

「そうみたいですね」

 須田くんも、すっかり態度を軟化させてしまった。

 彼もこのカードから何かしらのシンパシーを感じたのかもしれない。

 

 

「生徒会長、実は作戦があります」

「ほう、言ってみたまえ」

「兵法の基本です。数が足りないなら、補えばいいんです。

 可能な限りの伝手を使って、協力を要請します」

「名案だな。どれくらいの人数を用意できそうだ」

「それはわかりませんが、少なくとも軽く十人以上は」

 須田くんは或いは、こうなることを予見していたのかもしれない。

 

「ついでにうちの道場で暇している連中にも声を掛けましょう。

 掛かる時間は少なく、人手は多い方が良い」

「では私は我々の早退届の準備をしよう。

 理由もこちらで考えておくよ。そして私も可能な限りの人手を用意しておく。

 後はこの件が校内で問題にならなように手回しをしなければなるまい。

 では三十分後、校門前に集合だ」

 決まるとなればとんとん拍子でことが進む。

 案外、我々は乗り気なのかもしれなかった。

 

「木村くん、君も来るなとは言わないし、来てほしいとも頼まない。

 君の自分の魂に従えばいい」

「……はい」

 そう須田くんに言われた木村くんは、デュエルディスクを取り出し、デッキをシャッフルしてカードを一枚引いた。

 

 ドローしたカードは、『いつか帰るその日まで』。

 木村くんはどこか確信していたのか、その自分の性に曖昧に苦笑していた。

 

 最早我々に解散の合図は必要なかった。

 

 

 

 

 

 

「僕も行きます」

 三十分後、木村くんと共に先の男子生徒…………坂間 彩貴くんが校門に現れた。

 

「責任感や罪悪感だけでついて来られても邪魔なだけだぞ」

 須田くんの物言いは辛辣だったが、ここからの戦いを思えば彼のことを思っての言葉だった。

 

「……僕は、何もできなかったんです。

 不良達に脅されて、泣いている姉を前にして」

「……」

「これは僕の戦いです。

 都合のいいヒーローが現れて都合よく丸く収まるなんてこと、無いんですから。

 だから、だから、僕が立ち向かわないと!!」

 そう言う彼は震えていた。

 それでも、地に足をついて立っていた。

 

 

「全員で単独行動するわけではない。

 我々がフォローすればいいさ」

「そうですね。ではまず、こちらの待ち合わせ場所に移動したい思いますが、生徒会長そちらの人員は?」

「もう既に行動させている。

 そちらの都合に合わせよう」

「わかりました」

「あの人たちに頼むなんて、遊助も無茶よね」

 彼を半眼でみやる真辺くんの視線の意味が気になるが、わざわざ問うのも野暮なのだろう。

 

 私たちは待ち合わせ場所だという、最寄りの公園へと足を運んだ。

 敷地は家数軒分の小さな、遊具のない無人のどこにでもある公園だ。

 

 そこで待っていると、すぐに異音に気付いた。

 

 

 ぶぉんぶぉん、とバイク音が周囲から鳴り響く。

 その直後、無数のバイクに乗ったヘルメットの集団が現れ、我々の周囲に停止した。

 その数は軽く数十人は居るだろう。

 その全員が、『決闘上等!!』と金糸で刺繍がされたジャケットを着ていた。

 

 驚き戸惑う我々の前に一人の男がヘルメットを取った。

 

「師範代、とりあえずこれだけは集められましたぜ!!」

「星井、無理して呼んだんじゃないだろうな?

 こいつらはもう定職とか家庭とかあるんだろ」

 星井と呼ばれた男に問う須田くん。

 

「いや、暇している奴だけ呼んだんすよ。

 学生やバイト生活の奴も多いですし、さすがに妻子持ちや仕事中の奴は呼んでませんってば」

「須田くん、彼らは…………」

「ええ、元暴走族ですよ。今は足を洗っていますがね。

 星井は当時の総長だったんですよ。こいつに頼んで人手を集めさせました」

 ことここに至って、最早手段を選ぶつもりはないらしい。

 

「一体どういう関係なんだね?」

「昔ちょっとした縁があって、行きがかり上こいつらを壊滅させちまったんですよ。

 以来、星井はうちの道場で門下生をしてるんです」

 あまりその内容を言いたくないのか、目をそらして須田くんは言った。

 傍から聞いてもむちゃくちゃな話である。

 

 

「おう、遊助。話は聞いたぜ!!」

 元暴走族のバイクの後部座席に乗っていた女の子が、ヘルメットを外してこちらに笑いかけた。

 

「スズナさん、巻き込んで申し訳ありません」

「ユリちゃんや亀谷も連れてきたぜ!!

 なぁに、水臭いこと言うなよ。女の子が泣いてるんだろう?

 だったらそれを安心させてやるのも私の使命みたいなもんだ。

 昔読んだやたら分厚いラノベの主人公も、女の子一人の心動かせない世界なら滅んでしまえばいい、と言っていたしな!!」

「あはははは……あれね…………」

 須田くんは乾いた笑いを見せた後、咳払いをしてこちらを向いた。

 

 

「生徒会長、指示をお願いします」

「ああ」

 予想外のことをしでかす須田くんに、私は笑みを隠せなかった。

 何だかんだ行ったところで、私もただ一人の男らしい。

 

 

「これより、一人の少女の笑顔を取り戻す戦いをする!!

 素直に情報を吐くなら良し、そうでないならデュエルで聞き出すぞ!!」

「「「「「「応!!!」」」」」」

 その場にいる全員が、私の声に応じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに冒頭の二人のシーン、型月でも有名なあのシーンのパロディというかオマージュです。
最近はアニメとかやってたからピンとくる方も多いでしょう。

とりあえずボス格のデッキ考えたらどう見てもラスボスになった件について。
これは没ですなぁ。普通にBSのガチデッキにしましょ。

次回からは不良達がオベフォ並に蹴散らされる作業が始まります。
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