夜の闇の中、花火を思わせる焼けた油脂が降りそそぐ。
黒く焦げた人型の炭。肉と髪の焼ける臭気、沈みゆく船と、そこからこぼれ落ちてくる黒い切り絵の人影。
海面に三角形の背鰭が背ビレが見えたと思うと、海面に浮き沈みする丸く黒いボールのような物が数を減らし、月の光できらめきを見せていた海面が黒く染まる。
いつか見た事がある夢、私の中にある神通の記憶と目の前にある現実がシンクロして口から悲鳴がこぼれかけた。
そんな情けない私を救ってくれたのは、幼い戦友達の声だった。
「このままじゃ間に合わないよ!」
雷の声に電が答える。
「泣き言は言わないのです!神通が何の為に私達を先行して向かわせてくれたかを良く考えるのです!」
そうよっ!電の言うとおりだわ。目の前で助けられない人がでたからといって、生き残った人を助ける事まで諦めてしまうのなんて間違っている。旗艦の私が弱気になってどうする!
「暁、雷、電は、そのまま救助に向かって、サメやシャチが溺者救助の邪魔をするようなら、主砲と機銃で殴りつけてやりなさい!発砲と、爆雷を使う以外なら何をしてもいいわ。響は雷撃してきた奴を押さえつけてこちらに近づけないで」
「それって、ようは素手で戦えってことじゃない!肉弾戦なんてレディのやることじゃないわ!」
「了解。響、対潜攻撃に移る」
抗議の言葉とは裏腹に、船員に噛みつこうとしたシャチを問答無用で殴りつけ、目をまわしたシャチを踏みつけながら暁は叫ぶ。
暁達に発砲を禁じたのは、少しでも新たな血の流出を避ける為、その理由は、私自身がこれから発砲する事でつまびらかにする。
両手の艤装に着いた玩具のようにも見える砲塔、右手3基、左手4基の単装砲が至近距離の海面に向かって火をふいた。
着弾の瞬間に起こったのは、過去の私、神通が14cm砲、7門を一斉射撃したのと同等以上の物。
砲弾が直撃したシャチやサメは紙細工で出来ていたかのように丸くえぐられ、爆発の至近距離にいたモノは、弾片に切り裂かれ、爆圧に内臓を痛めつけられ、物言わぬ骸となる。
一瞬にしてこの時にまで流された血を遥かに上回る血液が海中に撒かれる。
恐らく、あっという間にサメやシャチの群れがこの場所に殺到するはず、そうなれば、他の場所は相対的に安全になる。それが私の考えた事だ。
実際、結果は劇的な物になった。
私自身が驚くほどに。
「あっ?」
「えっ!?」
「うっ嘘よ!?」
「‥食べられた(^O^)」
何が起こったのかも分からず、洗濯機にでも放り込まれたように前後左右に現在進行形で振り回される私。そんな私のインカムに喉頭式マイクを通した暁達の声が途切れがちに届く。
なっなるほど、夜戦に慣れた視覚が一瞬で真っ暗になったのは、そうゆう事か。
それにしても、他の三姉妹は本気で心配そうなのに、最後に聞こえた響の声に、笑いの気配が色濃く漂っていたのは気のせいだろうか?まあ、確かに、サメやシャチが私達を噛んだところで、傷の一つもつかないけど。
私の抱いた疑惑は次に発せられた響の声で確信に変わる。
「神通を食べてしまうなんて、哀れなサメね。でも私達にとってはこれ以上にない幸運かも」
(あー本気でこの先は聞きたくない)
私の願望をよそに。容赦なく響の声が私の耳に届いた。
「神通を食べたサメ、この船団に雷撃を行った深海棲艦に向かっている。私がカウントする。神通、後は宜しく」
響のカウント0でサメのお腹を切り裂いた血塗れの私が、驚きのあまり硬直した深海棲艦カ級エリートにゼロ距離砲雷撃戦を行った。
本日の被害および戦果
戦没、難民避難船1(負傷者48名、戦死23名)
撃沈カ級エリート1(砲、雷撃戦による)
神通、暁、雷、電、響、損害なし
その日、お風呂に入るまで、私の半径10メートル以内に誰も近づいてはくれませんでした。