その時に行われた深海棲艦との戦いは一方的だったと後に私は、治癒浴槽の中で聞かされた。
鳳翔が行った最初の空襲で二体が沈み、残された四体の深海棲艦いずれもが傷付き、その動きを鈍くする。そこに長門の41センチ連装砲四基、八門から発砲された巨弾が降り注ぎ止めをさす。
初弾命中、しかもその長門のたった一回の斉射で四体の深海棲艦が沈む。過去の艦船だったなら、夾叉から命中まで確率論的に行われた主砲射撃を、長門は狙撃にかえてしまったのだ。
しかも四基の砲塔を別々の目標に向けるという離れ技まで駆使して。
それまでも鳳翔の艦載機を試験的に使い、単独行動をとる深海棲艦を何体か秘密裏に撃破してはいたが、艦隊行動をとる深海棲艦と戦い、それに勝つことが出来たのは人類にとってこれが初めての事だった。
深海棲艦が撃破された事を、放送で伝えられた瞬間、シェルターの中で喜びの声が爆発する。この光景は恐らく世界中でみられた物だろう。
だからこそ、この後に起こる悪夢のような事件を誰も予想だにしてはいなかったのだ。
一方の当事者である、私を含めて。
幸か不幸か、その時の記憶は、私にはほとんど残っていない。
だから、以下の話しは長門やお母さんが私に語ってくれた言葉を整理し、時系列で並べ替えた物になる。
雪風が行っていた哨戒を舞風が引き継ぎ、雪風は第一戦隊の長門、一航戦の鳳翔と合流し、学園までの護衛任務に就いた。
この時は、いつも通りの雪風だったらしい、 最近の雪風逹しか、しかも間接的にという程度にしか知らない私には、ちょっとだけ異次元の話しであるが、二十代後半の自衛官が艤装と適合して艦娘となったのが初代雪風なのだと聞いた。
そんな彼女が、少しおかしな言動をとり始めたのは、学園に帰投する直前の事だったという。
「…何かおかしなものが前方に居ます」
深海棲艦を見つけたのかと誰もが思うなか、鳳翔だけは、雪風の変調に気付きつつあった。
思い詰めたような表情、落ち着かない眼球の動き、この一年、譲の周囲にいた自衛官達の中で、この鳳翔が嫌というほどに見てきた。薬物に手を出して壊れかけた人の姿を思わせる物だった。
だが、そこでお母さんの頭に当然の疑問が浮かび上がる。
艦娘の艤装は貴重でかけ換えがなく、また選ばれる人物も、極少数でしかないことから、艤装を受け入れる前の総合医療チェックは勿論、受け入れた後も体調管理を兼ねて毎日の検尿が義務づけられている。
そんな中で薬物に手を出す?ほとんど不可能としか彼女には思えなかったのだ。
それでも念には念を入れ鳳翔は実戦後のメディカルチェックを名目に、司令部に対して医療妖精の集合を命じていた。
シェルターから出た生徒、教職員が正門(海に面した新しい物)に勢い良く向かっている中で、私は後回しになっていたメディカルチェックを受ける為に、医務棟に足を向け妹と別れた。
雪風が顔を歪め、その主砲を学園、より正確には、私に向け発砲した時、私の周囲に他の人物がだれもいなかったのはこの為だ。