「…私は、私。私が…」
ブツブツと意味の無い言葉を垂れ流す雪風。
鳳翔と長門は、学園に近付くにつれその精神状態を加速度的に悪化させていく雪風を心配そうに見つめていた。
「艤装妖精さんが怖がっている?」
「どうゆうこと?雪風の艤装側の記憶がオーバーフローして、人としての記憶域に流入してる?」
「艤装の問題なら、強制パージすればいいのではないか?」
「ここが陸上なら、今すぐにそうするわ」
艦娘が持つ艦娘としての力ゆえ、艤装を完全展開した状態の艦娘は、他の艦娘(艤装の完全展開、展開なしを問わず)の側に長時間、居続ける事ができない。磁石のS極、N極が反発するように心理的に排斥されるのだ。だからこそ、艤装を強制排除した雪風を直接、鳳翔、長門が運ぶという選択肢は考慮もされなかった。
そして、この時の反省から、後に妖精印の救命筏、救命艇が開発され、艦娘に搭載される事になる。
「医療妖精を正門に集結したとの連絡があったわ、少しでも急ぎましょう」
鳳翔の声に長門はうなずき、言葉を返す。
「先行してくれ、鳳翔、そなたの方が足が早い」
海軍兵学校、江田島にあった、それと同じように今の学園の正門は洋上にある(3月までは普通に地上に合ったのだが)
正門前の校庭で即席の歓迎会が行われようとしていた。
正門から入ってきた鳳翔と雪風を迎え、管弦楽団がわりの吹奏楽部が澄んだ音を洋上に響かせる。
二人に群がり歓声を上げる生徒逹、教職員達を鳳翔の怒声が一瞬で吹き飛ばした。
「下がりなさいっ!!」
お母さんの本気の怒りに抵抗出来る人を私は知らない。
人混みに大きく誰もいない場所が出来た。
「妖精さん!雪風の艤装を強制パージ!!直ぐに入渠させて」
妖精さんから返された言葉にお母さんが慌てる
「出来ない!?」
「…見つけた」
雪風がその主砲を学園の校舎に向け発砲する。
流れるような動きで、ためらい一つなく行われた行動は、異変に気付いていた鳳翔にさえ、予想外の物だった。
新しく出来た建物の一角が、消し飛ぶ。
「雪風!?」
悲鳴を上げて鳳翔と雪風の回りから我がちに逃げ出す群衆。
「まだ生きている?」
雪風がゆっくりと校舎に向かって歩き出す。
「鳳翔!これを使え!」
医療妖精と供に鳳翔達を迎えに出ていた父が投げ渡した物を見てお母さんの顔から表情が抜け落ちる。
2尺3寸、ほぼ70センチの日本刀。
「これで…どうしろと言うの?」
「殺さずに止められるのは、お前だけだ」
「無茶を言っていると言う自覚はあるのね?」
「お前の事を信じている」
父の言葉に奮起したお母さんによって雪風の艤装(兵装、服)が切りすてられ、三分後には、丸裸の雪風が作り上げられていた。
途中から変なスイッチが入ってしまったようで、傍目からは嬉々として雪風を傷一つつけずに丸裸にした母親の二つ名に、切り裂き痴女の名前がたてまつられたのは自業自得だろう。
ドッペルゲンガーシンドローム、それが雪風を襲った症状の公式名になる。
同一の艤装を持つ艦娘同士が近付くとある特定の条件時に起こる現象。
起こる条件は以下の通り。
艤装との適合率が低めである(80%を越えるとある程度の耐性が着いてきて、症状の進行がゆっくりになる、100%でほぼ、何の影響も見られなくなる)
症状は自己の存在に対しての不安感。同一存在である相手に対しての恐怖から、時に譫妄状態になり、相手に対して殺意を抱き、場合によっては行動に起こしてしまう。
この事件を期に、同じ艦娘が同一の場所に集められる事は厳に戒められる事になった。
砲撃で吹き飛ばされ目を回している血まみれの私を雪風の側に入渠させようとした時、拘束されている雪風が暴れ回った事でこの事件の真相が判明したと説明するのは蛇足だろうか。