お風呂の(正確には艦娘専用、治癒浴槽と呼ばれる物の)中で目を覚ますのも、さすがに2度目となれば、慣れてくる。
私だって正直、こんな事、慣れたくなんてないんだけど…
例によって看護婦姿の妖精さんが、甲斐甲斐しく働く中で、お母さんの姿を探していた私は意外な人物を目にして首をかしげた。
「長門?」
「約束を守れず済まない」
深く、ほとんど90度近い前傾姿勢。
「ごめん。何で謝られるのか、良く判らない」
「皆を傷一つつけずに連れ帰ると約束した」
「 お母さんが怪我をしたの?」
「いや、あの方を、傷つけられる存在があるなんて考えられない」
何を思い出しているのか、身震いしながら答える長門。心の中で激しく私は同意する。そんな私に想像外の言葉が帰ってくる。
「雪風がそなたに主砲を発砲した。妖精の言葉では、艦娘でなければ、間違いなく死んでいたとの事だ」
「誤射?」
「恐らく違う」
長門は彼女自身が見たこと、お母さんから聞いたことを要領良くまとめて話してくれた。
最後、ふと思い出したかのように、特大の爆弾を投下してくれる。
「本人を呼んである 。残りは直接聞いてくれ」
「おいっ!?」
やっぱり長門とは友達になれない気がする。
海上自衛隊、2尉、三雲 白雪、それが私を殺しかけた人物の名前である。
「ごめんなさい」
どんなサイコさんが現れるのかと思っていた私の期待(一般的には恐怖ともいう)は良い意味で裏切られた。
楚々とした虫も殺せないような美人さん。それが私の彼女に対して抱いた最初の印象だった。
「騙したわね?」
「何がだ?」
「彼女の何処が狂乱して私を殺しかけた人物なのよ?」
長門ではなく白雪がガックリと膝をついてうなだれた。
「止めを刺したな」
長門が私に向かって冷静に指摘する。
「とどめなんかさして無いし、刺す気もない!」
うなだれる白雪が呟いた。
「やっぱり、いきなり謝られても、わけ判らないですよね。だから、後日改めてお詫びにと言ったのに、鳳翔副指令が絶対に今日中に仲直りしてこいだなんて」
長門と私がまるで出来の悪いブリキの玩具のようなギクシャクとした動きで白雪を見つめる。
「長門?聞きたくない言葉を聞いた気がするんだけど?」
「奇遇だな私にも聞こえた」
「つまり、お母さんの言葉って、言葉通り、文字通りの意味よね?」
「恐らく、神通、お前の推測は間違っていまい。白雪。鳳翔の言葉を正確に、思い出して欲しい 我々と貴様の運命がそこにかかっている」
「とは言っても仲直りしてこいとしか」
私は、戸惑いを浮かべて口ごもっている白雪に聞いた。
「貴女と私は初対面で間違って無いよね?」
「そうだと思います」
「普通、初対面同士に仲直りって言葉は使わないと思わない?」
顔一杯に疑問符を白雪は浮かべる。
「そして、ここからは、私たちの推測でしか無いけど、謝ってこいと言われた訳じゃないのでしょう?」
「そう言えば、どうして謝ってこいと言われ無かったのでしょう?」
付き合いの長い私達だからこそ、裏の意味に気づく事が出来る。
仲直りする為には、先ず仲が良くなければならない。つまり、お母さんは、白雪を謝らせる為に私の元に寄越したのではない、私達に白雪を慰めて友達になれと言っているのだ。