白雪、改め羽黒。それが私と共に、全身水浸しになって訓練埠頭に佇む少女の名前だ 。
二十代で少女は無い?大丈夫 、三十代になった私達ですら 、人によっては少女とされるのだから。
…言ってて、何だか悲しくなってきた
ここで判明した私達にとって衝撃の事実。
艤装との適合率が100%の場合、もれなく素敵な海底散歩がついてくる。
艤装妖精さんの言葉を借りれば、通常の艤装が遊園地のゴーカート並みの操作難易度だとすれば、コンピューターと管制室の支援無しで飛ばすスペースシャトル並みの操作難易度が今の私達の艤装らしい。
どんな無理ゲーよ。
その証拠に雪風だった時には、最初から軽々と洋上を疾駆出来ていた筈の羽黒が、私と同様に沈没の憂き目にあっているのだ。
ちょっとだけ、仲間が出来て安心したことは内緒だ。
それにしても良かった、やっぱりこんなの出来る訳が無いのよ…?
目を輝かせ何度も洋上に出る羽黒。ひっくり返り、沈み、溺れかける…何十回目かの挑戦。
…羽黒が立った?
産まれたばかりの小鹿が、脚を震わせ立ち上がるように洋上にすっくと立つ少女は満面の笑みを私に向けてくれる 。
「大丈夫、難しくても出来ますから」
訓練に付き合ってくれている長門がポツリとこぼす。
「いつまでそうしているつもりだ?」
たかだか、三回沈んだ位で諦めかけていた私に二人の視線は眩しすぎた。
「判ったわよ!!私もやればいいんでしょう!?その代わり沈む前に助けてよっ!」
まあ、やる気になったからと言って、そんなに上手く行かない事は最初から判っていた。
長門に二回、羽黒に三回、口付けされる(人工呼吸される)という屈辱の後、私はようやく洋上に一人で立つ事が出来たのだ。
沈みかける夕陽に照らされて海の上に一人佇む私。
ちょっとだけ冷たく感じる海風さえ体と心の火照りを冷ますかのようで、気持ち良く感じる。
海に沈みこむたびに、悔しくて、恐くて何回も流した涙。気を抜くとまだひっくり返りそうになるけど、艦娘であると言う事、神通であるというが少しだけ理解出来た気がした。
「悪くないだろう?」
いつでも手助けできるようにか、後ろに立っていた長門と羽黒に答える。
「そうね。確かに悪くない。いつの間にか私も貴女達に毒されてしまったみたいね。本来、こうゆう体育会系のキャラじゃ無いはずなんだけど」
羽黒と長門が驚いたような顔で私を見つめる。
「いや、第2水雷戦隊の神通と言えば鬼の訓練で有名な」
「何も覚えてはいないのですか?」
そんな事言われても、私ではない私の事なんて知らんがな。