4月1日午前6時 始業式開始三時間前
「お姉ちゃん?眉間に皺がよってる」
私が二十歳の時、三十九才の母親から生まれた佐藤さんちの恵ちゃん。私の最愛の妹。
何度、彼女の母親に間違われた事やら。
だけど、恵の母親に間違われるのは、まだ許せる。私的に許せないのは、母と私が姉妹に間違われる事、しかも私の方が姉として。
ただ、今回の怒りは、家の妖怪母とは、直接の関係は無い。
資源節約の為に薄さの極限に挑戦するかのような新聞の一面トップの記事。それを私は読み上げた。
「七歳を越える全ての国民に徴兵制をしく事を閣議決定した」
十一才、今年、五年生になる恵は鳩が豆鉄砲を食らったような顔で私を見つめる。
「私も徴兵されちゃうの?」
私は妹の言葉を深く考えずに否定した。
「いくら何でもそれは、無いでしょう、あなた達を戦わせる前に、私達、大人が戦う事になるはずだしね。それだって先の話よ」
妹が不安そうな顔をするのを見て、私は妹の柔らかな髪を右手でかき回すようにして慰める。
「もうっ今日は始業式なんさだから、髪を乱さないでよっ!後、私も読むからかして」
恵は、私が読んでいた新聞を読みながらどこか困惑した表情になっていた。
「どうしたの?」
「うーん。この写真と記事」
青い空を背景に明るい灰色のプロペラ機が飛んでいる。
「何々?深海棲艦を沈めた新型兵器?」
二人揃って首をかしげる。
「確か、最新のジェット戦闘機でもまるで役にたたなかったのよね?」
何となく部屋を見回していた私の視線がカレンダーに止まった。
「あー、そうか、やられた」
私の口元がほころぶのを見て妹が不思議そうな顔をする。
「今日は4月1日、何の日だっけ?」
「エープリルフール?」
「そうゆう事、何の冗談かと思ったけど本当に冗談だったなんてね。徴兵制は笑えなかったけど、深海棲艦を沈めたっていうのは夢があるよね」
深海棲艦が地球の海に現れてから、約一年、人類は未だ一隻の深海棲艦も倒す事が出来ず、その制海権を失っていたのだから。
今でこそ、史上最強のプレゼント、人類を救った聖なる戦士とも呼ばれ、もてはやされる艦娘だが、最初から期待されていたわけではない。どちらかと言えば苦し紛れの一手だったはずだ。
小さな小指ほどの生き物が人類が手も足も出ない深海棲艦を倒す事が出切るなどと誰が信じよう
希望の細い糸、それがカンダタがよじ登ろうとした蜘蛛の糸よりも遥かに強靭で、人類の全てを救う可能性を持つものである事を人はまだ知らない。