護衛開始地点までの移動は信じられないほどに順調で、誰一人として欠ける事も、傷つく事もなく到着した。
ミサイルで打ち上げられ、時速三百キロで地上に向けて落下する事を許容出来るならではあるが。
そして作戦が計画通りだったのは、そこまでだった。
私達が島民達を載せ、護衛する予定だった海上護衛艦白波が埠頭でどす黒い煙をあげて燃えている。
失火なのか、故意なのかは判らなかったが、機関室から火が回った白波は敵と戦う事も無くその生涯を終えたのだ。
島民110名、海上自衛官40名をその島にとり残されたままにして。
羽黒が海上自衛隊の最先任士官と善後策を講じているなか、私と不知火、妖精さんで島民からこの島の状況について聞き取りを行っていた。
島風、舞風、叢雲には、艤装に収容されている缶詰やレトルトパックを供出させ、炊き出しを島民の有志と行って貰っている。
暗く沈んだ表情でいた島民に微かな笑い声と笑みが戻ろうとした時、それは起こった。
「おまえら、本気でやる気はあるのか!?」
ドスのきいた声。
「海に化け物がいるから、島から出る事が出来ないが海道艦長さまのお言葉だったよな?だったら、このガキどもはどうやってここにやって来たんだ?本当は化け物なんか居ないんじゃないのか?お前達、自衛官は逃げていただけじゃないのか?」
パシッ
男の拳が羽黒の方に頬に音をたててうちつけられる。
一瞬だけ、狙った人物とは別の人物に当たった拳に怯んだもの、怯んだ事に怒りを掻き立てられた男が大声をだす。
「女、子供が大人の話をじゃまだてするんやない!」
その男が海道艦長を殴りつけようとした瞬間、羽黒は艦長の体と自分自身のそれを入れ替えていたのだ
「貴方は目の前で人が焼けながら死ぬのを見た事はありますか?」
ギラギラと輝く瞳。羽黒は男に視線を向けながら、男を見てはいなかった。自分自身の中にある闇の記憶に目をやるかのように、言葉を産み出していく。
「食い殺され、引きちぎられるのは?」
「そっそんな事されるわけが」
羽黒は静かに答える
「私は、そのすべてを見てきました。そして、彼ら死んでいく仲間達、上官の逃げろとの言葉に従いました」
「それでも逃げるのは、いけないことなんですか?銃も、大砲も効かない敵に?」
海道艦長が羽黒を見て目を見張った。
「白雪君なのか?」
「お久しぶりです。海道教官」
肘の張られない海上勤務者特有の綺麗な敬礼。
艦娘が今だ正式な軍隊に所属せず、何故か文部科学省が学園の上部組織であるが故に、学園内において、敬礼に類するものは滅多に見られない。
希に候補生になる前に、軍歴を持った事のある人物がそれを行うに限られるのだ。
海道がそういった事を知っていたのは、学園が出来る直前に、統括官の地位を譲に打診された事があったからだ。
だが、その時の海道は避難した島から出る手立てがなく、何より、小学生までを戦力としようという、譲のその思考と正気を疑ったが故に非公式な打診を断っていた。