艦娘のみでの撤退、それが一番現実的な選択である事は誰もがわかっていた。
深海棲艦が跋扈するなかを雑多な漁船や貨物船を引き連れて護衛しつつ撤退する?
護衛艦一隻を守る作戦案でさえ、図上演習で何度も失敗し、往路をミサイルで行くという奇策に頼る事で作戦の成功率を現実的な値にまでもってきたのだ、それを護衛艦の半分程度の巡航速度で本土まで?
私は羽黒の表情を消した顔を横目に他の手段を必死に考え続けていた。
だから、その景色を危うく見過ごしかけた。
「…?」
「私が一番~」
駆けっこで大人気なく子供達を置き去りにしようとした島風。あれ?さっきまで島風の後ろにいた子供達はどこ?
「早いんだもん!」
ゴールに勢いよく駆け込んだ島風がそのままの勢いでターンする。
島風の影から妖精さんを頭に乗せた三人の子供達が突然、現れる。
「姉ちゃんたいしたことないな」
「私達、待ちくたびれてしまいましたわ」
驚愕の表情で島風は後ろにいつの間にか立った三人を見やった。
「そっそんな島風が負けるなんて」
ガックリと膝を落とし両手を地面につき項垂れる傷心の島風。
…何が起きた?私は一体、何を見た?よく考えろ。
「やはり、我々は一緒には行けないな、幸いにも君達が持ってきてくれた食料でもうしばらくは何とか出来る希望が持てた」
妖精さんが私達の艤装から運び出して村に積み上げた。山のような支援物資。
「海道艦長、もう少しだけ私達に時間を下さい。1ヶ月、いえ、二週間で必ず帰って来ます」
「…待っていよう」
「羽黒、諦めるのは早いかもしれない。もしかすると私達で何とかできるかもしれないわ」
「神通?」
「その前に、少しだけ確認させて」
私の推測は正しく、避難計画は完全に練り直しになった。
身の回りの品だけに制限されていた持ち出し制限が家財道具一式、自家用車、トラック、トラクター、要するに移動可能なすべての物に変更されたのだ。
村をあげてのお祭り騒ぎ、それが今の状況だった。
羽黒と海道に喧嘩を売り付けた男性が私の前に立ち、深く頭を下げる。
この村の村長だと名乗った男性はポツポツとその思いを私に向かって語りかけてきた。
「命さえあればやり直せる…それは正しい言葉かもしれん。だが今まで築き上げてきた、手に入れてきたもの全てを失って、やり直しをおこなうのは難しい物なのだよ。特にわしらのような年寄りにとってはな。先程は済まなかった。そして、ありがとう」
「羽黒と海道艦長には?」
「羽黒というのか、あの娘は、謝りに行ったら反対に頭を下げられたよ。今度は逃げない絶対に守ってみせるとな。海道の奴など、何の事でしょう?そんな事がありましたかだぞ?」
クックッと笑う男性、村の家財いっさいがっさいが私の艤装、正確には祥鳳の艤装に飲み込まれて行く
「君達、艦娘が来てくれて良かった」
プロローグで難民避難船に人が乗ってるのはなぜ?と疑問を持たれた方もあるかもしれませんが、彼女達が護衛を最初から行えていたのなら乗せていた筈です。敢えて描写はしませんでしたが、難民船から脱出した人達は艦娘達の妖精さん達に助けられ艤装に収容されています。