「羽黒、長門さんって、とっても酷い人だとはおもいませんか?」
「酷いのは、神通の方だ、何だその他人行儀なしゃべり方は?」
羽黒が呆れた表情で私を見つめる。
「私にはなにも言わずに、あなたの事を心配しているなんて」
頭を抱えかけた長門は、ふと何かを思い出してニヤリと笑みを浮かべた。
「最初に、羽黒の事を心配して、私に相談したのはお前の方だ」
「へ?」
「前に羽黒が自衛隊には守る為にはいっていると言った事があったな」
えーと?
「私が雪風から白雪に戻っていた時の事です」
「鳳翔に三人揃って正座させられた時の事だ」
あ~そんな事もあったな。今日もそう言えば羽黒と二人でさせられたしな。
「その時、お前が私に言ったのではないか?」
長門が声色を使う。
「放っておいたら消えちゃいそうに見えるわ。長門、彼女を守ってあげてね」
羽黒が爆笑している。
「うっ上手すぎです。そっくり過ぎて神通がほんとうにしゃべっているみたいに聞こえます」
自分の耳ではそこまで似ているようには聞こえないんだけどなあ。
「私はお前に言われたとおり羽黒から目を放していないだけだ」
「まあ、長門が勘違いしてるのは、放っておいて」
羽黒が嬉しそうに口をはさむ。
「神通、顔が真っ赤です」
「うっ煩いわね!赤くなんてなって無いっあんたの見間違いよ!だいたいあんなの気の迷いでっ」
いや、お願いだから二人して、生暖かい視線で私の事を見るのはよして。
もう私、このまま帰ってもいいかな。
心が折れかけた私を見て、流石にまずいと思った長門は話を本題に戻してくれた。
「まあ、事の前後や是非はともかく、私も神通もお前の事を心配しているのは本当の事だ。話してはくれないだろうか?」
「楽しい話ではありませんよ」
「判っている」
「私を嫌いになるかも」
「それは、神通や私を馬鹿にする言葉だぞ?本気でそう思っているならな」
ポツポツと羽黒が語り始めたその物語は、崩壊していく世界の中でたった一人、生き残った女性の物語。
世界でも同じようにして生き残った人はいたかも知れない、けれども彼女のようにそれを何回も繰り返した人はいたのだろうか。
三雲 白雪が海上自衛隊幹部候補生学校、一般幹部候補生過程を卒業したのは、深海棲艦が姿を表す事になる、ほぼ一年前、彼女が24歳の時だった。
災害救助での活躍の方が、本来主任務とされる国防よりも大きく取り上げられる平和な時代。彼女自身、震災で派遣されてきた自衛隊の姿を見て一般大学卒業後にその道をえらんだ一人だった。
三等海尉としてその道を歩み始めた彼女は、深海棲艦の襲撃を、士官としては最下位の地位で経験する事になる。
最初の戦いで彼女が見たのは、銃砲弾をまったく寄せ付けず鋼鉄の艦船を紙細工でもあるように貪り食らう異形の生物と機械のハイブリッド。
総員退艦が発令された時、当直についていた彼女は避難が遅れ、目の前で最後の短艇がその艦船を離れるのを目にすることになった。
申し訳無さと自分達は助かるという、無言の視線の交差。彼女を置き去りに去ろうとした短艇が、突然表れた深海棲艦に丸飲みにされたのを見ても彼女の感情は動かされなかった。
救命胴衣を脱ぎ捨て、丸裸になって甲板から海面に飛び込む。
六時間後、疲労こんばいの彼女は海岸に何とか泳ぎついた。
何故、そんな事をしたのかを後から聞かれた彼女はこう言ったという。
「生き残る為に最善だと考えました」
彼女の乗艦していた、ときかぜから脱出して生き残る事ができたのは彼女一人だった。
その後、二度乗艦を失ない、そこでも生き残った彼女はいつしか同僚には死神と呼ばれ忌み嫌われるようになっていた。
そして、彼女自身が疲れきっていた。民間船からの救難要請は司令部の命により、ことごとく彼女の目の前で無視される。海に出る事もなく埠頭につながれる艦船の中にいる生きながら死んでいるような同僚。
いつしか海上自衛隊に居場所を失いつつあった彼女が直属の上官により、鳳翔と譲の行っている実験的な計画に貸し出されたのは、彼女にとって幸いな事であったのだろう。
携帯からのテスト投稿です。