暁と響、長門に羽黒、不知火と島風、雷と電、舞風と叢雲。彼女達の間には、一触即発の空気が流れている。
十人に対して残されたプリンの数は五個。
スプーンは武器じゃない筈なのに、どうしてそうは見えないし思えないのかしら?
こうなった発端は三時間前、長門と羽黒に手伝って貰って反省文50枚を作成した私の元に、鳳翔から一通の手紙が届けられたことにある。
佐藤 恵、私の妹が、艦娘として響の名前を与えられたとの連絡。
何となく昔を思い出した私は、妹の好物だったプリンを作りたくなり、学園内の家庭科室をかりてオーソドックスな焼きプリン作りにいそしんでいた。流れでそれを手伝ってくれている羽黒と長門。
思い出に耽っていた私は、肝心な事を確認し忘れていた。
「…どうしろってゆうのよ?」
12個入り卵パックを10パック分、全ての卵を割るという、暴挙をしでかしてくれた長門と羽黒。
そう言えば、料理経験の有無を二人に確認して無かった。
流石にこの数の卵を、未経験二人と処理する勇気は私にはない。
サプライズで妹に差し入れようという当初の目論見とはことなったものになるが、妹にも作るのを手伝って貰おう。
私は自分の思いつきに一人悦に入っていた。
…未経験者が増えている。
まさか、妹を呼びに行ったら、妹の姉妹と称する子が三人もついて来るとは思わなかった。
ちょっと背伸びをしたいお年頃の暁、元気の固まり、雷、ちょっと引っ込み思案な雰囲気の電。
恵あらため、響は…うん。普通にいつもの妹だ。
「響のお姉さんの暁よ。神通が響のお姉さんと言う事は貴女も私達の姉妹と言う事ね」
「響から話は良く聞いているわ。宜しくね」
「宜しくです。電もプリンを食べたいのです」
「と言う訳で、暁達も一緒でいいかな?」
まあいいや。多少増えた所であれだけの卵で作るなら十分でしょう。
途中で行き会った不知火には、妹達とプリンを作る事を話すと羨ましそうな顔をされて、まあ正確に言うと表情はあまりかわってなくて、雰囲気が誘ってオーラをだしているのがわかるっていうか。
つい誘ってしまった。
「不知火、貴女も一緒に作る?」
「ご指導、ご鞭撻宜しくお願いします」
「当然、島風達も」
島風、舞風に叢雲がすぐそばのドアから顔を出しているのを見て私もさすがに悟った今日はこうゆう日なんだと
ぞろぞろと年少組を引き連れて家庭科室に戻る私。
「増えたな」
「お茶のカップを増やさないといけませんね」
長門と羽黒はまったく動じず一言で現状を要約してくれた。
どう説明しようかと悩んで損した。
料理、お菓子作りの経験者、私、響、叢雲が他の8人を監督する形で調理を開始する。
未経験者の面倒を見る数と言う意味では、妹を呼びに行く前とまるで状況が変わっていないのは、敢えて考えまい。
卵に牛乳、砂糖に、香り付けのバニラエッセンス。
生クリームも使わない、昔ながらの焼きプリンがテーブルの上に山をなしている。
紅茶と温かいプリン。冷やした物も悪くないけど、暖かな物をその場で食するのは、また格別な味わいでつい食べ過ぎてしまう。
最後に机の上に残った五つのプリン。で、冒頭の状況になる訳だ。
口論になる前に間に合うかな?
私は密かに召喚しておいた大魔王の訪れをまつ。
たった1つの冴えたやり方。誰が勝利者になっても遺恨が残るなら、皆で敗者になりましょう。
乱入した赤城に残ったプリンを食べ尽くされ涙目になった十人に最後のプレゼント。
「長門?赤城は帰ったのね?」
「ああ、足音が遠ざかっていたからな、間違いないだろう」
「一人、一個ずつ、冷蔵庫にいれてあるから、仲良く食べたら、片付けておいてね」
冷えたプリンを手に調理実習室を出ようとした私に差し出された。二つのカップ
「赤城に持って行くのだろ?」
「二つじゃ足りませんよ」
「いいの?」
「今更だが、最後くらいかっこをつけさせてくれ」
部屋から出たとたんにかっさらわれるプリン。
「!?」
「冷えたプリンがある事は判っていました。ですから足音を偽装したのです。そして私が知っている神通ならそれをくれるだろう事もね。また作る時は最初からお願いしますね」
去り行く赤城の背に問いかける
「私が出てこなかったら?」
「全員、後悔に咽び泣くがいいのです」
この子だったら間違いなくやる。