ラタン=ヲ王女殿下、ラタン朝、第三王女にしてヲ級の仕えるご主人様である。何が気に入ったのか、私の艤装にそのまま乗った状態で航海中である。
当初は他の艦に移す事も検討されたのだが、王女様本人の意向を尊重してこのまま、私が日本まで連れて行く事になったのだ。
さしずめ御召艦という事になるのかしら?
本来なら今まであった事を含め、アメリカ、日本、各国に状況を報告しなければいけない所だが、いかんせんデジタル暗号通信でさえ安全では無い事がヲ級によって明らかにされていたのだ。
ヲ級が片手間で簡単に解読してしまうデジタル暗号通信。その強度に自信を持っていた軍関係者は揃って頭を抱えた。
次善の策として計画されたのは、艦隊から離れた場所で無線連絡を行う事。
その際、王女殿下を保護している事は当面秘匿しておく事が紆余曲折の末に決定された。
ヲ級の分析でも、羽黒やカリフォルニアの考察でも、王女殿下が敵の手を逃れたと知った敵が大挙して襲ってくる可能性を無視し得なかったのだ。
水上偵察機を発艦させ、通信が傍受されており、無線封鎖を行う事を知らせようとしたのだが、連絡内容が一巡もしないうちに偵察機は撃墜され、妖精さんの楽しげな悲鳴を残して連絡が絶たれた。
撃墜された妖精さんは、二、三日すると元の状態で復活するらしい。
艦載機に乗っている妖精さんは、妖精さん本人でありながら、本人では無いとか。
存在密度の問題であまり短期間に何回も落とされるとへたばって暫く動けなくなるとは言っていたが、妖精さん曰く、一週間に一回位なら、かえって健康にも美容にも良いとか。
一体妖精さんってどんな生き物なのよ?
ただ一つ言えるのは、妖精さんが敵でなくて良かったと言う事。
彼女達が人類の敵なら、今頃人類は間違いなく滅びている。
そして、ヲ級はヲ級で、妖精さんについて明らかに何か隠し事をしているし。まあ隠し事というよりは守秘義務をかせられているような印象だけど。
「じんつう?」
いつの間にか私の肩口に王女様が腰掛けている。
大きさや容姿もあってお人形さんにしか見えない可憐な幼児、だが賢さなら殆どの人類を凌駕するであろう異界のお姫さま。
いくらクラゲのサポートがあるにしろ、一日で片言とはいえ、日本語を喋れるようになるとは
「ヲ級が話したい事があるって」
「話したいなら、勝手に話せば良いじゃない?誰も止めないわよ」
「うーん。そう言うのじゃなくて、こうしき?の話しだって」
「公式でない話しなんて、ヲ級、貴女とした事があったかしら?」
たっぷりと含みを持たせた言葉に引きつるクラゲ。
ヲ級の抱えこんでいた大量の王女様秘密コレクション。
その一切合財を会談後に私は検閲し、倫理的に危ない物は破棄させたのだ。
所持を許したのは世間一般的の基準で妥当な物だけ。
ホノルルとの一件もあり、王女様に対してのヲ級のいささか行きすぎた愛情を矯正しておく必要を感じ、私はヲ級が泣こうが、わめこうが、哀願されようがコレクションの廃棄処分を容赦しなかったのだ。
その結果、軽巡に怯える航空戦艦等という妙な属性をヲ級は獲得するのに成功したのだ。
「ラタン=レ王女とサバタ=リン公女がこちらの世界に来ている可能性があります」