深海棲艦との戦いにおける、最初の犠牲者が誰だったのか、今となっては知るよしも無い。
もう少しで一年前になる、5月11日。
ほぼその日、一昼夜をもってして、人類は保有する船舶の99%を失い。その船、艦に乗っていた乗員のほとんど全てを失ったのだから。
ナイフから核兵器まで、人類が持つ兵器は何一つとして役にはたたなかった。
人類が知っていながら、本当の意味では知らずにいた小さな隣人が手を貸してくれなければ、今だって同じだった筈だ。
多次元的同一存在。それが深海棲艦とは何か?と人が妖精さんに訊ねた時、かえってきた言葉だった。
お母さんと妖精さん達が、説明してはくれたのだけど、今一きちんと理解出来ているか、あやふやな部分がある。だから、その時の会話、情景をそのままに書き出す事にする。
「二次元の世界があったとするよね?」
…だから、何でそこの妖精さんは、ドヤ顔で奥行きを失って平たくなっているのよ。
お母さんが平たい妖精さんと、まるっこい4頭身の妖精さんをつまみ上げた。
「そう、こんな感じね。背景はこんな感じかな?」
お母さんが空間に何かを描く。
空間上に支えもなにもなく、漫画か、絵本を思わせる物が現れ出る。
…前から、変だったけど、いつから人間辞めたのかしら?
「そんなに嫌そうな顔をしないで、貴女だって出来るんだから」
そんな事が、出来てたまるか
「貴女は私の娘よ?これくらい、出来ない方がおかしいんだけど」
私の表情ってそこまで読みやすいの?ながもんにしろお母さんにしろ、読心能力者かと思う事が、しばしばある。
「まあ、いいわ。これを良く見て」
お母さんの人差し指の上で一枚の景色つきの絵がクルクルと回転する。平面妖精さんはともかく、角度によっては、立体妖精さんの身体を絵が両断しているように見え、何となくホラーじみている。
「平面の世界が私達の世界、立体妖精さんが深海棲艦だと思って」
深海棲艦の被り物を、いつの間にか付けている妖精さん。
「で、これが今までの私達の戦い」
「はあっ!?」
戦いが始まった瞬間、絵から素早く抜け出した、深海妖精さんが、問答無用で絵に向かって両手で持った銃器を乱射する。
絵の中で逃げまどっていた平面妖精さんは、あっという間に、穴だらけにされ、絵の中に力無く崩れ倒れる。
「…反則じゃない」
「確かにそう思えるくらい、深海棲艦との今までの戦いは一方的な物だったわ。さっき妖精さん達が演じたように、平面の世界で絵の外から一方的に攻撃されているような物だった。でも、これからの私達の戦いは違う物になるわ」
絵の中で復活した平面妖精さんは立体妖精さんに変わっている。
深海妖精さんが発砲した弾を、絵の中から同じように飛び出した立体妖精さんが可憐によけ、撃ちかえす。
深海妖精さんが撃たれて崩れ折れた。
「何となく言いたい事は判るような気もする。でも、実際、どうやれば、私達はそんな存在と戦う事が出来るの?」
「妖精さんの力を借りる事で可能になるわ。具体的には、50年以上前に沈んだり、解体された船や艦船の思いを譲さんと妖精さんが共同で作った人工の九十九神に宿らせる。心が宿った九十九神の事を、私達は艤装と呼んでいるのよ。そしてこの艤装を纏うことが出来る人は深海棲艦とも戦う事が、出来る」
「…ながもんや、お母さんが着ているコスプレじみた服の事?」
「コスプレって…まあ、確かにそう見えるかもしれないけど、一万人に一人位しか身に纏う事が出来ない貴重な品なんだけどなあ~」