神通の憂鬱   作:zenke

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かい二 その2

訓練中に、深海棲艦に行きあったら?

逃げる?戦う?

それが、百体以上いたならば?

逃げる、逃げない以前の問題。見つかったら終わりの死の隠れんぼ。

 

私達は主機を停止させ、半分以上水没した状態で息を潜め、その深海棲艦の群れが私達に気づく事なく通り過ぎてくれる事を真剣に願っていた。

 

そして、こうゆう時に限って願いとは裏腹な結果が待っている。

悪くなる可能性があるなら、いつかはその悪い結果が起きる。マーフィーの法則とも言われる、それは、私達をも当然、例外とはしなかった。

 

私達に向かい、真っ直ぐに近づいてくる深海棲艦。

 

最近になってようやく深海棲艦に対して有効なレーダーが開発され、前のように夜間に奇襲される事も少なくなってきた。

とはいえ、レーダーの画面半分が深海棲艦の光輝で埋め尽くされているなんて何の冗談よ。

 

那珂ちゃんが私に目で問いかける。

私は今回の派遣業務を聞いた時、響から押し付けられた錨を那珂ちゃんに渡す。

 

嫌そうな顔。

 

それでも、しぶしぶ受け取って装備する。

普通の艦娘には不人気なのに、何故か第六駆逐隊では大人気の近接打撃戦装備。

暁や雷、電、そして実の妹でもある響に近接打撃戦の訓練中、鎖付き錨で襲いかかられたのはいつの話しだろう。

その時は、つい本気になってしまい皆を涙目にさせてしまったけど、素手の私に鎖付き錨なんて代物で襲いかかる方が悪いのだ。

 

私は悪くは無い…と思う。

 

とは言っても相手が多くて、こちらが少数の戦闘なら、鎖付き錨はかなり凶悪な武器になる。

特に那珂ちゃんのように武器の扱いに不慣れな艦娘でもソコソコの結果を出せるのは大きい。

それに対して私はいつの間にやら正式採用されていた甲式斬撃兵器三型改(要するに、艦娘の力で振り回しても壊れない巨大な薙刀だ)を構えた。

これを最初に構えた時、私を見るや鬼に金棒等と妹達がのたまったとか。

当然、彼女達、第六駆逐隊には連帯責任と言う事で、私を教導艦とした遠征に付き合って貰った。

まあ、その時に、たまたま、台風が来ていて、たまたま、食事当番が私で、たまたま朝ごはんがコッテリとした物であったけど、偶然とはたまに悪戯で残酷なものである。

 

結果として胃液すら出なくなる程に吐きまくった艦娘が私を含めて五人いた事は公然の秘密となっている。

 

ただ私としては不本意な事ではあるが、その後、年少組を含めて訓練の鬼との異名を贈られる事になってしまったのは誤算である。

結局は鬼である事は変わらないし…

 

そんな場違いな事を考えていたせいか、絶対の死地に居る筈なのにいつのまにか、私の口元には笑みが浮かんでいた。

簡単には死ねない以上、最後まで足掻いてみるしか無いじゃないの。

(神通?)

那珂ちゃんからの声にならない問いかけに対して、私は笑顔で蕨と葦に伝える。

 

「私達が行った後、五分したら主機の火を入れなさい。そして、私達が行くのとは反対側に航走。絶対に戻ってきたり、私達が行く方に来たら駄目よ」

「出来れば那珂ちゃんも葦達と一緒がいいな〜」

私の無言の笑顔と言う名の強要に那珂ちゃんが屈したのはそれから三十秒後の事だった。

 

私と那珂ちゃんが主機に火を入れる。

甲高い吸排気音、ガスタービンよりも高性能で低燃費な妖精さん謹製の機関が一瞬で全力運転を開始する。

 

念の為にヲッちゃん達から教えて貰った敵味方識別通信を行い、返信が帰って来ない事を確認。

 

「誰かを庇って死地に赴くなんて那珂ちゃんのキャラじゃないんだけど?」

「大丈夫、私のキャラでも無いから」

疑わしい気持が一杯に込められた視線を闇夜で姿さえ見えないのに感じる。

「引っ掻き回して混乱させて。後は逃げの一手。この大群に統制を保って追い掛けられたら死亡フラグそのものだと思わない?」

「夜戦で引っ掻き回す?川内が聞いたなら歓喜するね」

「那珂ちゃんだって嫌いじゃないよね?」

「私達が水雷戦隊旗艦を務める事が多いのは伊達じゃないってことね」

那珂ちゃんの言葉に笑みで私は答える。

「蕨達から十分離れたし、そろそろ始めよう」

 

深海棲艦が私達の存在に気が付く前に先制攻撃をかける。

 

93式酸素魚雷に最終誘導用のソナーをつけた93式酸素魚雷改。

史実の神通、那珂とは異なり、私達の腰と両太腿には島風の使うのとよく似た五連装酸素魚雷発射管が合計四基、二人で8基、備えつけられている。

 

第二次大戦中の重雷装艦を総合力では遥かに越える打撃力を備えた私達から深海棲艦の皆様への死のプレゼント。

 

魚雷の自爆を避ける為に通常の空気で点火、直後に酸素に切り替わりそれと共に白く泡立つ雷跡が海水に溶け込んで消える。

四十射線の酸素魚雷が扇型に広がり深海棲艦に向かう。

 

魚雷のスクリュー音を捉えている筈なのに動きのない深海棲艦に疑問を感じつつも、私と那珂ちゃんは第一戦速で深海棲艦に接近する。

 

レーダーに写り込む深海棲艦の群れ。それに対して相手のレーダー波は感知さえもされていない。深海棲艦がレーダーピケット艦の一隻も配置してないという信じられない程の幸運。

 

しかも魚雷を回避する事も無く音響デコイを投下するでも無く私達に向かって進んでくる深海棲艦の群れ。

 

魚雷のソナーが深海棲艦を叩き初めて動きがあった。

慌てて逃げだそうとする深海棲艦達。

 

でも、逃げるには遅すぎる。

 

最初の雷撃で戦艦2隻、巡洋艦5隻、空母2隻、駆逐艦16隻合計二十五体が沈む。

沈む艦を避けきれず追突して沈む敵なんて初めて見た。

 

次発装填装置で魚雷を再装填し、その魚雷を右往左往する深海棲艦達に向けて私達は発射する。

 

まるで私達が見えていないかのように大きく外れる砲撃。

レーダーを使い深海棲艦の斜め後ろに占位する私達には、ただでさえ相手から向ける事が出来る砲が少ないのにこんな射撃では当たる筈もない。

 

その直後に第二波の魚雷が深海棲艦を襲う。

残っていた戦艦5隻と空母4隻、輸送艦3隻。それらを庇おうとした駆逐艦11隻が火を吹き炎上する。

 

残り五十余体。

 

数では半減、戦力的には六割強を喪失しながら深海棲艦の群は、統制を失う事もなく艦隊に残る重巡、輸送艦を中心にした三つの輪形陣を作る。

 

そんな深海棲艦の行動に疑問を感じる。

練度が低い筈の敵なのに。大損害を受けながら統制を失わないそれにいささかの不気味さを感じる。

それでも、そのまま状況が推移したのなら私達のワンサイドゲームもあり得たかもしれない。

 

那珂ちゃんの呟きを喉頭式マイクが拾い私に伝えてきた。

「葦?」

その時になってようやく、私も自分達の後ろに付いてきている蕨と葦に気がつく事になった。

 

最初の悲壮な決意は、深海棲艦のあまりにも酷い練度に呆れ変化し、このままなら蕨と葦を守って帰るのも夢では無いと考え初めていた私達。

その背中に冷水を浴びせる蕨の行動。

 

蕨から深海棲艦に向かって伸びる一条の光。

 

「消せっ!!」

 

私と那珂ちゃんの悲鳴じみた怒号が蕨と葦に飛んだ。

 

それまで外れ続けた砲撃が嘘だったように正確な砲撃、私達の呼び掛けは必要無かったのかもしれない。

探照灯を砕かれて満身創痍の蕨。中破で済んだのが奇跡とも思える砲弾の雨。

幸いにも主機は無事だったようで消火に成功したのか、火が出る事は無かった。

 

私と那珂ちゃんは漸く理解した。

練度が低い?完勝?私達は大馬鹿だ。

探照灯の照射と同時に照準の修正をして、初弾命中を複数、私達に与えてくる敵の練度が低い訳が無いじゃない。

 

でも、それならどうして?今までは?

駄目。今はそんな事を考えている場合じゃない。

 

私達と蕨と葦の間に入り込んでいた数体の深海棲艦をレーダーで感知する。

深海棲艦を迂回し、救助に向かおうとしていた私達の目の前で、深海棲艦の先導艦が探照灯をつけ、蕨と葦がいる周辺に捜索の光を向ける。

 

大きく海面を薙ぎ払うように光が闇を切り裂く。

 

蕨を救助しようと接近していた葦が照らされようとした、まさに、その瞬間、那珂ちゃんが投じた錨が深海棲艦の探照灯を打ち砕き、少しだけ遅れた私の持つ刃が深海棲艦の首を切り落とした。

 

直後にその深海棲艦がいた場所に降り注ぐ砲弾の雨。味方を巻き込む事をかけらも躊躇わない、その砲撃で私と那珂ちゃんの服が千切れ飛ぶ。

 

至近弾が海面を叩き、生き残っていた戦艦が放った主砲弾が海面に巨大な水柱を沸き上がらせる。

 

目の前にそびえ立った水柱。

避ける事も出来ず、その水柱に突っ込んだ私は、海中に一瞬で引き込まれ、直後にスタビライザーが働き今度は空中に飛び出す。

武装の幾つかが不具合を訴える。ダメコン妖精さん達が全力で故障箇所を修繕してくれはしたもの、完全に治す事は出来ず、主砲の半分が使えなくなり、魚雷発射管の二基が二度と使えなくなる程に破壊される。

 

予備魚雷を含めて打ち尽くしているから誘爆する事こそなかったけど戦力半減どころじゃない被害。

 

那珂ちゃんの方はと見れば、そこに私以上の惨状を目の当たりにする事になる。

主砲の全てと、魚雷発射管の全てを失い全裸に近い状態の彼女。

それでも、戦意がある証拠とでも言うように鎖付き錨を手にし状況とは不釣り合いな笑顔を私に向けているのが夜の闇に紛れて見えない筈なのに何故か判る。

 

那珂ちゃんから通信が入る。

「神通?貴女だってもう気がついてるよね?あいつ等はレーダーも逆探も持っていない」

「だからってレーダーを守る為に武装を全部失わなくても」

「彼女達を守る為に必要だったからやった事よ。それに、この状況なら、砲や魚雷発射管より、レーダーと近接兵器の方が間違いなく役にたつ」

 

妹達以外にもあの錨を愛用する艦娘が生まれた気がする。

 

「じゃあ3分の1は任せてもいい?」

「そこは半分任せると言う所でしょ?」

「本当に任せても大丈夫なの?」

 

まるで闇の向こうにとんでもない猛獣でも潜んでいるような気配を感じた私は口をつぐむ。闇の向こうに、獰猛な笑みを浮かべる那珂ちゃんを幻視した私は、次の瞬間、目にした風景に口を大きく開けざるを得なかった。

 

砲丸投げのように遠心力を利用して錨を振り回す第六駆逐隊方式ではなく、槍投げ宜しく片手で二キロ向こうの戦艦に錨を投擲。

 

低い軌道で放たれた錨は波頭を撃ち抜き戦艦を一撃で破壊する。

 

それで終わりならば、まだ常識からはさほど解離はしてはいない。と思いたい。

 

だけど、錨の爪に深海棲艦の亡骸を付けたまま鎖がま宜しく振り回す?

 

相手はあんななりこそしてはいるけど、実際の重量は二万トン以上ある怪物よ?

 

それが軽々と振り回されている現実を前に私は心に誓った。

那珂ちゃんも怒らせたらいけない人物の一人だ。私から喧嘩を売るのだけは止めよう

 




義理の父がなくなりちょうど一周忌です。バタバタとした環境も少しは落ちつきましたので、投稿を再開したいと思います。つたない文章ではありますが、暇潰しにでもお読みください。
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