椅子に腰かけた私の両肩に一人ずつ乗っかった妖精さんが、自分達の身体よりも巨大なドライヤーを両手で抱かかえて、ぬるめの温風を私の髪に当ててくれている。
最初、その見た目のあまりの危なっかしさに自分でやるからいいとドライヤーを取り上げようとした。
私は、妖精さんから猛烈に抗議されてしまったのだ。
「?私より、力持ちだから、大丈夫?やらせて?そんな冗談言われてもっーオッ?!」
肩から飛び降りた妖精さんの一人が軽々と私を片手で持ち上げる。
「分かった、良く分かったから下ろして」
その時の私はまだ何も判っていなかった。妖精さんの背の高さ、たかだか、5cmくらい持ち上げられた所で恐怖は感じない。
だけど、そこから空に放り投げ上げられたら?
私のまわりの妖精さんが悪い笑顔で私をみる。
「…何をする気?」
人間キャッチボールに人間ジャグリング。心ゆくまで私で遊んだ妖精さん達が、放心状態の私を座らせてドライヤーをかけ始めたのが、冒頭の状況である。
「まあ、妖精さんを甘く見た娘の末路ね」
娘がもて遊ばれているのを何も言わず涼しい顔で見ていたお母さんに私は抗議の視線を向けた。
「お母さんもやられてみればいいのよ」
私の言葉を聞いた妖精さんが一瞬で青ざめた。全力で首をぷるぷると降る妖精さん達。
何が家のお母さんとあったの?
謎めいた笑みをお母さんが浮かべて妖精達を見ている。
「いいのよ。やって見る?」
この時、始めて妖精さんと私の心は一つになった。罠だ!本気でやったら殺られる!
「まあ、ともかく生還おめでとう神通。志願者以外での初の艦娘ね」
「その神通って、だから、何なのよ?」
「艤装を着けると、艦船としての記憶が自分自身の記憶と一体化するの。そうなると、人としての名前より、艦娘の名前を呼ばれた方が違和感が無くなってくるのよ。そんなに違和感ある?」
「これ以上ないほど」
「なら、雪風?」
「?」
「祥鳳かしら?」
「何で三つも名前があるのっ!?」
「死にかけていたから、急いで適合しそうな艤装とくっつけた。普通、一つと適合する事さえ稀なんだけどね、三つともしっかり貴女の艤装になっているわよ」
能天気に笑う母親に久々に殺意がわいてきた。
「でもそうすると、ちょっと不安ね」
「何が?」
「艦娘って、海の上を滑るのよ」
「どうやって?」
「艤装の使い方って、普通、艦娘になると勝手に頭の中にあるものなんだけど?」
「無いわよ。欠片も」
「仕方ないわ。実際に試してみれば何とかなるでしょう」
…当然、何ともならなかった。
溺れて妖精さんに助けられている私の横でお母さんが呆れたように呟いていた。
「犬かきも出来ないほどの金槌だったなんて」