私の記憶の中の父は、ほとんどの場合、母親と一緒にならんでいる人というものだ。
たまにお母さんがいなくて家に父だけがいると、難しい技術書籍を読みあさっていて、書斎から一歩も出て来なかったりする。
そんな父ではあるが、私や妹の事は嫌いではないようで、休みになると良く食事に連れて行ってくれたりしていた。
私の時は、デパートの食堂、妹が出来てからはファミリーレストラン。ただお子様ランチを私と妹の分、勝手に頼むのは切実に勘弁して欲しい。
確かに、私の大好物ではあるけど、あるんだけど、この年でお子様ランチを外で食べるのはさすがに恥ずかしいから。
それでも、毎回、抗議はしつつも食べれて嬉しいと言う私の本当の気持ちが透けて見えていたのか、父が勝手に私達の食事を選ぶという悪癖は、改善される事もなく現在まで続いていた。
何故?わざわざ現在と断ったか?
私と妹が父の頼んだお子様ランチを同僚の教職員注視の中で食べさせられている景色を見て察してはくれないだろうか?
羨ましそうな年少組は、ともかく、ながもんの奴なんて笑い過ぎて痙攣しているし…
学校に、今まであったそれとはけた外れの巨大な食堂が併設されているのは、妖精さんの食べる分や場所を確保する意味もあるから、まだ許せる。
だけど…父がごり押しでメニューの中に入れたらしい、お子様ランチ。それを私と妹に対して、生徒や職員の前で得意気に振る舞うなんて。
父の辞書には、体面とかデリカシーって言葉は載っていないのだろうか?
「どうだ美味しいだろう?一年近く家に帰れなかったからな。父さんが知っている最高の料理人に頼んでつくって貰った物だ」
我慢だ私、このお子様ランチに罪はない。だから、最後までたべる、食べるけど、食べおわった時には。
私の雰囲気を察して段々と青ざめていく妹には申し訳ないけど、決めたんだから。
これでもう二度と食べる事が、出来なくなるかも?という思いと、今まで食べた事のあるどんなお子様ランチよりも美味しいと感じた気持ちが、食べ終えた私の頬に自然と一粒の涙を流させた。
満足げにうなずく父に向かって、私は容赦無く言葉の剣を突き立てる。
「父様、貴方は今、この時から、私の敵です」
言いはなった瞬間に、私は後悔した。
いや、正直に話そう。
命の危険を感じて少しだけ、小水を漏らしてしまったのだ。
背後から、感じた気配、と言うか隠してもしょうがない、殺気はそれ程のものだったのだ。
その証拠に、私の背後に佇む人物に視線を向けていた人のほとんどすべてが失禁し、その中の何人かは、恐怖の余り気絶していたのだから。
「お父様の敵は私の敵よ」
笑顔で断言する。お母様。
動物の世界で、人の笑顔に類する表情が何故、攻撃的な表情と見なされるのかを私は痛感した。
「勿論、さっきのは、私の聞き間違えよね?」
父に対する私の反乱は、開始後、わずか十秒足らずで鎮圧された。
その後、恐怖の余り、幼児退行して泣き出した私が、父に慰められ、父の事を少しだけ、前より好きになったのは、お母さんには内緒の事だ。
と言うか、そんな事を知られたら、実の娘だろうが、容赦なく、粛清される未来しかみえない。