最近ssにはまってしまいまして勢いでやってしまいました。
文章書くのは初めてなので読みづらいかもですが、それでもよいという方ありがとうございます。
その男、多々良 練蔵
静かな夜だ。
冬の厳しさが薄れ、周りの草木が灰色から力強い緑に変わりつつある。昼になれば太陽が日に日に暖かく感じる時期。だがまだ夜になると冷えた空気が足から体へと這いずってくるから、ほとんどの家はその寒さに耐えられずにきちんと窓を閉め切っている。もう町の灯りもほとんど消えている。
ある屋敷もその日念入りに戸締りをしていた。その町で特に大きな屋敷である以外ほかと大したちがいはなかった。だがその家の中は異様な空間があった。
若い男が一人、暗い屋敷の一室で座していた。
端正な顔立ちで、10人の女子が10人とも文句なくイケメンと評する甘い色気がある。しかしその着ているものを見ると白装束、所謂山伏のそれに近い衣装である。
男の目の前には女が静かに寝ていた。二十歳前後の美しい女だ。寝間着をつけず、はだかのまま仰向けに寝かされていた。その上に毛布が一枚あるだけだ。普通ならなかなかに艶やかな場面だがその女の生気の無い青白い顔を見ればそれどころではないと理解できる。
「玄角さん、入ります」
コン、と扉叩いて少女が入ってきた、目が女とよく似ている。姉妹なのだ。
「寒いでしょうから、あったかいお茶をお持ちしました!」
そういってティーカップに紅茶を注ぐ。白い湯気がゆらゆらと揺れた。
「詩織ちゃん? ありがとう、助かるよ」
「いいえ、助けていただいてるのはこちらのほうですから」
そういって申し訳なさそうに手を振ったあと、心配そうに姉に目をやる。その横顔を見た玄角は詩織の気丈さに感心していた。
「明日には、全て終わるでしょうか?」
姉に顔を向けたまま、詩織は不安そうに呟いた。
「……そうなるよう努力するよ」
玄角もできることならもっと元気づける言葉をかけたかったが、何が起こるかわからないのがこの稼業である。
キィィッ、と窓が小さく鳴った。
「来たか」
詩織がその声を聴いた瞬間、部屋の空気が一気に凍った。ゾゾゾッと悪寒が這い上がってくる。
黒い影が窓の外からこちらを見ている。顔は分からないがはっきりと人の形をしている。真っ暗な景色よりもなお黒々とした『それ』は窓に張り付いていた。その視線は形のない力となって詩織の心を締め付けてくる。
玄角は素早く手に印を結び、真言を唱える。己が張った結界に今以上の力を込める。
ドンッ
その眼が寝ている女を見つけた瞬間、窓が激しく叩かれた。玄道の声に更に力が入る
ドンッッ
どんどんと叩く音が強くなってゆく。
ドオンッ
ヒィッ、と詩織が小さく息を洩らす。玄道の結界がなければ今頃あの影は部屋に侵入していたろう。
身を屈めながら玄角を見ると、更なる恐怖が襲った。普段の涼しげな表情は一切無く、全身から汗が噴き出ている。血管が浮き出て、床にはボタボタと鼻血が垂れ、彼の装束とカーペットを染めていた。
(結界が上手く動かない?! なぜ?!!)
窓を叩く力は更に強くなり、とうとうガラスがガシャンッと音を立てて飛び散った。その瞬間、玄角は後方に弾き飛んで壁に激突する。
「玄角さん!!」
詩織は玄角の名を叫ぶが返事は返ってこない。
ズルリッ、と影が窓から部屋へと這いずってきた。それの体が入りきるとゆっくりと立ち上がる。詩織は初めてそれの正体が見えた。
(……、佐久間さん)
知っている顔であった。以前姉と付き合っていた男である。詩織も何度か会っている。最後に見たのは約一ヶ月前の姉が佐久間を振る直前の日だった。
ひどく変わり果てていた、いつも清潔にセットされていた髪はバサバサ、顔には無精ひげが生えている。白くて細かった腕は更に青白く血管が浮き出ていた。一番変わったのはその眼だ。どこか弱気な印象だった視線は消え失せて、かわりに狂気の光をもってギロリと見開かれていた。だらりと両腕を垂らして立っている姿は人よりも獣のようだ。
佐久間は詩織を無視してその姉へと向いた。
「歌奈子ォ…」
擦れた声で佐久間は女の名前を呼んだ。
「歌奈子ォ、こっちへおいで」
詩織も姉の方へむくと、そこには体を起こしてベットから降りようとしている姉がいた。ここ数日突然倒れてからどんなに呼びかけても起きなかった姉が目を覚ましている。詩織はすぐにでも駆け寄りたかったが佐久間の見えない圧力でまったく体が動かない。
歌奈子が佐久間の前に立つ。
「いい子だぁ」
ニタリと嗤うと佐久間は右手で歌奈子の髪をなでた。隠れていた歌奈子の顔が見えた。目は虚ろで光を失っている。鼻を首元に近づけ何かを確かめるように匂いを嗅ぐ。青白い腕が歌奈子へ伸びて肩から腕をなで回す。そして腰や胸、太ももにも手が伸びた。
その行動に詩織は吐き気がした。佐久間が歌奈子に口づけをしようとしたとき、詩織の中で恐怖よりも怒りが上回った。
(ふっっっざけんじゃないわ!!)
途端に体が軽くなる。即座に近くにあったティーポットをつかむとそれを佐久間に投げつける。ポットの割れる音が部屋に響く。
「お姉ちゃんから離れてっ!!」
どうやらダメージにはならなかったようだが、おぞましい行為を中断させることには成功した。忌々しげに詩織を睨みつけてくる。
今度はカップを投げようと動いた瞬間、詩織は頬をはたき飛ばされる。反応する暇のないほど速い動きだった。
恐ろしい力で飛ばされ床に倒れる。たが、詩織はすぐに身を起こして両目を佐久間に向けた。直ぐに追撃に備える。
ほんのわずかな時間お互いが睨み合う。
「邪魔だなぁ・・・」
そう呟いた佐久間に変化が起こった。
ミシッと音をたてて身体が膨れ上がり、手には短剣のように鋭い爪が生える。口端が耳元まで裂け肉を破って犬歯が生える。その奥にヌラリと長い舌が覗く。眼は更に見開かれ眼球が突き出ている。
最早、人とは言えない姿となった佐久間は腕を振り上げる。
「じゃぁねぇぇぇっ、詩織ちゃん」
腕が風呂される寸前、
「喝ッッッッッ‼‼‼‼‼‼」
後ろから気が放たれ佐久間を弾き飛ばす。
「玄角さん!」
振り返ると、壁に手をつき立ち上がる玄角の姿。何とか足を動かして詩織の前に立ち盾となる。
「下がって」
後ろに声をかけると玄角は体内の気力を練りあげ始める。
臨
声が響く。
兵 闘 者
再び佐久間が邪魔物を消さんと飛びかかる。
開 陣 烈 在
佐久間の爪がとどく瞬間
「前ッッッッ!!!!!!!!!!」
佐久間が弾かれ両者の間が空く。グウゥ、と獣の唸り声をあると入った窓から鬼は逃げ出して行った。残された二人はしばらく動けずに沈黙した。
「…終わったんですか?」
先に話し始めたのは詩織だ。
「いや、ちょっと予想外があってね。」
逃げられちゃったよ。と困り顔で玄角が答える。しかしその顔にはいつもの余裕が少し戻っていた。詩織はそれを見て息を一つ吐くと思い出したように歌奈子に近づく。
「お姉ちゃん! 大丈夫? しっかりして‼」
返事はなく、歌奈子はそのまま元のように動かなくなった。歌奈子を抱えベットに戻すと玄角が歌奈子の下腹部に手を当て気を放つ、異常がないか調べるのだ。
容体は悪化していた、今すぐどうとはならないが佐久間に直に接触して身体の中の呪いが進行していた。このまま進めば確実に取殺される。
こうなる前に仕留めたかったがまんまと逃がしてしまった。次は敵も警戒してくるだろう。失態である。
(さて、どうするか。一人では手に余るな。)
「助っ人を呼ぶしかないか」
玄角は決断した。助っ人と聞いて詩織は心強かったが次の言葉で少し不安になる。
「今は学校も丁度、春休みだしね」
そう、笑って言った。
ーーーーーーーー
翌日
「遅いなぁ」
今、屋敷には詩織だけである。玄角は最寄りの駅まで助っ人とやらを自前の車で迎えに行っていた。長くはかからんだろうと玄関の前が見える窓のそばで待っていたが予想以上に時間がかかっている。
ぐぅ、と腹が鳴る。もうお昼だ、昼ごはんの用意でもしよう。そう思っていると窓からエンジンの音が聞こえた。
「来た!」
すぐに部屋を出て玄関に向かう。
どんな人だろう。玄角に聞いても教えてくれなかった、見ればすぐにわかると言って笑うだけだった。知っているのは学校関係者というくらいである。できればいかにも怖そうなのはご遠慮したい。実はオカルトはあまり得意ではないのだ。姉のことがなければ一生関わることはなかった。
玄関を開けると丁度玄角が車を降りてくるところだ、詩織に気づき手を振る。次に助手席のドアが開いた。のそりと助っ人らしき人物が降りてくる。
(でかっ!)
それが助っ人の第一印象だ。大きい。とにかく全てが大きい。身長は2m近い。年のわりに小柄な詩織の顔が丁度彼の腰のうえ辺りにある。見上げなければ顔が見えない。その全身が岩のように鍛え上げられた筋肉でおおわれている。腕など詩織の腰回りと同じくらいありそうだ。間違えてどこぞの格闘家でも連れてきたのかと思う。とてもオカルトに関わる人間には見えない。
お互いの目が合う。肌の様子を見ると思ったよりも若そうだ。決して玄角のようなハンサムではないが優しそうな目をしていた。
「初めまして、
ーーーーーーー
「さて」
玄角が話し始める。さっきまで三人は軽く自己紹介をしたあと、玄角が買ってきた弁当で昼飯をとっていた。いや、正確には一名だけはまだ食事中であるが。
「一応、錬蔵君には車の中で軽い説明はしたけど。もう一度最初から詩織ちゃんを混ぜて話しを聞いてもらうよ」
その錬蔵は弁当をかっ込みつつ首で相づちをうつ。今食べているのは三個目のから揚げ弁当だ。
「…、始まりは、両親の事故死です」
詩織が口を開く。一年半前、両親が運転中の事故で死んだ。悲しい事故だった、当時姉と二人で泣きまくったのを思い出す。
「その事故と今回のが関係あるのか?」から揚げを頬張りながら錬蔵が質問する。
「いえ、事故自体は不幸でしたが普通でした。でもそれでそのあと姉さんが」
なんとゆうか、自由奔放になったのだ。特に異性関係で。
「古い家柄で、元々厳しい親でしたし、姉さんは長女ということで特に厳しかったんです。」
それが突然の両親の死で解放された。近しいものがいなくなった消失感も手伝ったのだろう、それを埋める為にに毎晩男と遊び回った。
「だが、彼女には事故以前からの婚約者がいてねぇ」玄角も加わる。
つまり、それが佐久間だった。歌奈子と佐久間の親が決めたようものであったが、詩織の目には二人とも特に気にしている様子はなく普通のカップルに見えた。当然、歌奈子の男遊びが面白いはずはない。
ここ半年の二人は険悪だった。佐久間が怒鳴り、それを無視して歌奈子が他の男を連れて遊びに行く。それが繰り返されていたが一ヶ月前ぷっつりと佐久間がこなくなった。数日たってとうとうあきらめたのかと思った時期に急に歌奈子が倒れ、そのまま起きなくなった。
「どんな病院に連れていっても原因は分からないって言われて、でもお姉ちゃんまでいなくなるのは絶対に嫌だったから兎に角いろんなこと試したんです」
「そして、僕に声がかかった」
玄角は歌奈子をみてすぐこちらの領分と判断した。そして真っ先に佐久間を調べた。結果は黒。佐久間は鬼になり、歌奈子を呪っていた。
「おかしいなあ」
錬蔵が初めて口を挟んだ。手には四個目の弁当がある。
「普通の人間が怪異の類に為るにゃ一ヶ月そこらじゃむりでしょう?」
人が人と異なるものになるにはそれ相応の期間と力がいる。ほとんどは力が足りないかその期間で気が狂って死ぬ。
「ましてや玄角さんの結界を破るなんて、相当なレベルですよ。どうやってそんな力を手に入れたんですか」
その質問に玄角は苦笑する。
「結界に関してはね、僕の不注意なんだ。ここのメイドさんに術式の要の部分を壊されてね」
メイドは佐久間に惚れていたらしい。そのまま片思いで終わるところが二人のケンカを見て歌奈子に不満を持った、そこで悪戯程度のつもりで要を壊した。元々玄角のことも詐欺師か自称霊能者くらいにしか思ってなかったのだ。
「簡単な確認ミスだよ、自分が恥ずかしい」と頭をかく。
「偶にはそんなこともあるもんですよ。んで、次は」
鬼に為った原因だ。
「玄角さんと佐久間さんが暮してる家に行ったんです。これがその部屋の中の写真です」
「これは、魔法陣?」
写真にはぐちゃぐちゃに散らかっている部屋の中心に描かれた大きな魔法陣が写っていた。
「あぁ、術式や陣の構成がいい加減過ぎてどんなものかよくわからないけど、力の残滓がある。たぶん召喚に使われたんだよ。悪魔のね」
「悪魔? そりゃとんでもねぇな。ほんとに呼んだのか」
いる、らしいことは錬蔵も知っている。が知っているだけである。仙道の師匠にくっついて仕事をした時も、憑き物おとしがほとんどでそんな上位の存在と関わることはなかった。というか、関わらせてくれなかった。
「師匠に関わるのはまだ早いって言われつづけてたなぁ、悪魔となるとこれが噂の【眷属化】ってやつですか?」
錬蔵の悪魔に関しての知識の一つだ。悪魔の中でも上級の存在は有能なものを転生させて自分の配下にするらしい。
「そんないいもんじゃないよ、アレは転生したんじゃない。人間を辞めさせられただけさ」
人間でも悪魔でもなくなりただの化け物なった。今の佐久間にはもはや加奈子に対する執念だけだ。
「さて、錬蔵君がいいならそろそろ加奈子さんの様子を見てもらいたいんだ」
弁当はもう残っていなかった、結局錬蔵は五つもの弁当を平らげた。
場所を歌名子の寝ている部屋に移す。玄角と詩織は先にベットの横に立つが錬蔵は入り口の前で二人に背を向けていた。
「あの、どうかしました?」
「・・・、玄角さん。一応聞きますが歌奈子さん今のかっこって」
「?あぁ、裸だね」
くくっ、と笑う。
「錬蔵君、もしかしてまだアレ治ってないのかい?」
詩織は首をかしげる。
「彼は、ちょっとその、苦手なんだよ女性が」
・・・、それってまさか。
「ちがう!!そうじゃない!そっちじゃない!ただ慣れてなくて近づくと緊張するんだ」
「はぁ、そうですか(私はいいのか?!)」
確かに姉と比べればあまり発育はよろしくないが少々失礼じゃないか、と詩織は思う。
「詩織ちゃんは充分美少女だと思うよ?それに高校生一年生なんだからまだこれからさ」
玄角のフォローが逆に悲しい。
「なに?!同い年か、なんか色々すまん」
(謝んな!てか、同い年かよ!!)
「ごめん、そろそろこっちに来てよ」
そう言われ錬蔵は渋々歌奈子に近づいていくが玄角が布団をとった途端
「ぐはっ!!!!!!」と叫んでのけぞる。
「大丈夫ですか?!!」
詩織が驚くと、
「あぁ~、いいよ詩織ちゃん。いつもの病気」
と玄角。当の錬蔵は顔を真っ赤にして鼻血を垂らしている。
「依頼人がきれいな女の人だと大体こんな感じだから大丈夫」
「大分、祟りが進んでますね」
気を取り直してもう一度歌奈子を診る錬蔵。真面目にやっているのだが真っ赤な顔と鼻に突っ込んであるティッシュがそれを台無しにしている。
「ちっと手荒くなるが今すぐに堕としてもいいですか?」
「お願いするよ、僕だと時間がかかる。いいかな?詩織ちゃん」
「いいですけど、・・・お姉ちゃんに変なことしないでよね」
さっきから錬蔵を見る目が酷い。
「しねぇから、頼む。その眼をやめてくれ」
無理だ、と目線で答える詩織。錬蔵は諦めて歌奈子に向き直る。
「さあて」
両の掌を歌奈子の腹にあてる。後ろからのプレッシャーがきつくなるが今は気にしない。錬蔵は呼吸を整えると己の気を歌奈子に目一杯注ぎ込む。錬蔵の生命エネルギーは元々の素質と修行によって常人の何倍も強い。しばらくすると何かが歌奈子の皮膚の下で動き始めた。うねうねと蛇のようなものが体中を這い始める。
「げえええ!!!!!」
急に歌奈子が目をむき暴れだす。
「押さえろ!!!!」
玄角と詩織が手足を押さえる。蛇のようなものは次第に歌奈子の喉へ這っていきついに口からその姿を現しだした。
表面は蛇皮のようで黒い。頭に当たるところは目がなくまるで男のアレのような形をしていた。錬蔵がそれを掴んで引きずりだす。歌奈子からでてなお蛇は床でのたうち回る。あまりの気持ち悪さに詩織は吐き気がする。
「祟りが凝り固まるとこうなるんだ」
そういって玄角が呪を唱えると蛇は煙を上げて燃えだし、消滅した。
「お姉ちゃんはどうなったんですか? 治ったんですか」
「残念だけど今のは溜まっていたものを一時的に出しただけ、大元を叩かないと遅かれ早かれまた溜まる」
そうですか…、少し期待していただけに詩織の返事は重い。
「しかし、奴とさっきのは繋がっていた。それが消えたんだ。奴さん慌ててまた植えつけにくるぞ」
「え? てことは」
「あぁ、今夜にでもくるだろうな」
錬蔵の顔は不敵に笑っている。第二ラウンドは今夜と相成った。
ーーーーーーーーーーーー
夜。
三人は昨夜佐久間がやってきたのと同じ部屋にいる。詩織は歌奈子の近くに座っている。玄角は二人の近くの壁に寄りかかり、錬蔵は部屋の真ん中で腕を組んで佐久間を待ち構えていた。
(大丈夫かな…)
どうしても詩織は心配になる。
「大丈夫だよ」
顔にでていたのか玄角から励ましの言葉がかかる。
「そうだぜ、今日はメイドもいなかったからな」
と錬蔵が笑うが、その言葉に詩織の顔が曇る。
「あ~、錬蔵君それなんだけどね」
玄角が錬蔵に近づき耳打ちする。
「そのメイドさん、もう死んでいる」
「なに?」
錬蔵は驚く。
「今朝早く全身の血が抜かれてミイラになった死体が見つかったよ」
奴の生贄になったのだ。
「ここ最近このあたりで野犬やペットの変死体がでてきててね、佐久間が力をつける為に喰ったんだろうね」
「用済みだから喰ったか…、人の味を覚えたのならもう人間の心は残ってねえなぁ」
そういって詩織をみる。周りの人間が次々倒れているのに錬蔵が今日みた詩織は常にしっかりと物事を見ていた。
強いなぁ、錬蔵は感心した。
「詩織さんよ」
「な、なんですか?」
急に名前を呼ばれて驚く詩織。錬蔵は真っ直ぐに詩織をみる。
「絶対に、今日限りでこんなことは終わりにする。約束だ」
野太くてよく響く声だ。
「だから心配するな、どんとかまえてまってろ!」
「は、はい!!」
思わず返事が上ずった。顔が熱くなる。しかしそこにはさっきの暗さはなかった。
すう、と空気が寒くなる。
「「来たか(ね)」」
二人の声が重なる。
ドンッッッ‼‼
昨日と同じく結界を壊そうと叩く音がする。
ドンッッッッ‼‼‼
「どうやら昨夜より強いね」
そういう玄角は昨日より遥かに余裕がある。元々昨夜も結界破りで佐久間が弱ったところを仕留めようとしていたのだ、強度には自信がある。叩く音は強くなるが結界が破られる気配はない。
「しかし、このまま諦めて帰られても困る。玄角さん、お客を呼び込んで下さい」
「分かった、あとは頼んだよ」
印を解き結界を張るのをやめる。錬蔵はゴキリと拳を鳴らす。すると昨日と同じ窓から佐久間が入ってきた。今日は最初から化け物の姿である。しかしその体は昨日よりも大きく、全身に怪しい妖気を纏わせていた。
「煩い虫が増えたねぇ」
人の声には聞こえない。獣が無理やり口を動かして発しているような声だ。どうやら結界にかなりイラついていたらしく、忌々しげに錬蔵と玄角を見る。
「呼ばれて来たんだ、あんたの相手をするためにな」
しれっと返す錬蔵。それを聞いてカカカッと佐久間が嗤う。
「人間には無理だよ、あんた等は殺す。そして歌奈子を手に入れる」
そして詩織をみて、
「詩織ちゃんは美味しく食べてあげる、悪戯した罰だよ」
そういってまた笑う。
(あぁ、本当にもう前の佐久間さんじゃないんだ)
詩織は泣いていた、恐怖ではなく目の前の獣があまりにも憐れだったから。
「もういいよ。わかった、しまいにしよう」
錬蔵が口を開く。
「玄角さん、二人を頼みます」
「わかった」
そういって詩織たちの前に立つ。錬蔵は佐久間の前に並ぶ。今佐久間の体は錬蔵よりも大きかった。
「来いよ」
錬蔵が佐久間にづ近く。瞬間、佐久間が飛び上がり錬蔵を襲う。その佐久間を錬蔵は前蹴りを放った。恐ろしく速い一撃である。
佐久間の体は後方にぶっ飛んだ。
「嘘?! 今のナニ!!」
詩織には信じられない光景だった。錬蔵がやられると思った瞬間吹き飛んだのは佐久間だった。目の前の少年は自分より大きな化け物を蹴り一発で押し返したのだ。
佐久間は咆哮しながら体を起こすがすぐに錬蔵が距離を詰めて連続で拳を叩きこむ。一発一発が肉を潰す音をたてる。また佐久間が地に伏される。
佐久間が起き上がりそれを錬蔵が叩く、一方的だった。
倒れるごとに佐久間の動きが鈍くなる。そのうち立ち上がるのもやっとになる。
悪夢のようだった。佐久間にはもはや反撃する力は無くなっていた、それでもその眼は歌奈子に向けられたまま動かなかった。
錬蔵はもう叩く手を止めていた。
「終わりだよ」
そういって佐久間を両腕で抱きしめる。呼吸を整えると全身からありったけの気を放出した。佐久間は最初もだえるような動きをしたが、すぐに動かなくなる。
シュウシュウと目や耳、鼻や口から青白い煙が漏れ出す。それに応じて佐久間の体も錬蔵の腕の中で小さくなっていった。
最後にミイラとなった佐久間の屍が残った。
「終わったね」
玄角が言った。あぁ、と錬蔵が答える。
「今となっちゃもう愛なのか独占欲だったのかわからないけど。一途だったね、彼は」
詩織は静かに手を合わせた。せめて、死後は安らかにと願って…。
ーーーーーーーーーー
翌日。
「本当に、ありがとうございます!!」
別れの朝である。
玄関の車の前に三人が集まっていた。
「見送りまでしてくれてありがとう。お姉さんと仲良くね」
玄角が返す。歌奈子は今日の朝目覚めていた。
寝ていた時憶はないようだが、玄角をみるなり猫なで声を出していたあたり後遺症もなく大丈夫そうだ。それをみた詩織に折檻されてはいたが。今は大事をとって部屋で寝ている。
「はい、姉のことはこれから私がしっっっっっかり見張っておきますのでご心配なく」
「ハハ、だったら安心だ。それじゃ」
そういって運転席のドアを閉める。次に錬蔵に話しかける。
「錬蔵さんもありがとうございます。本当に報酬はお支払いしなくていいんですか?」
詩織は玄角と同じ額を払うといったが錬蔵は頑なに断っていた。
「同い年なんだから敬語はいいよ、むずがゆくなる。報酬も玄角さんからもらう分で十分だ。元々俺の依頼人は玄角さんだしな」
そういって笑う。
「そっか、でも本当にありがとう」
「あぁ、またこっち関連で困ったら呼べよ。」
ニヤリとと嗤って続ける
「そん時にゃ、もうちっと成長しときな」
こいつは…、詩織の頬はむくれてしまう。このまま帰してなるか。
「錬蔵君ちょっと耳かして、玄角さんに聞かれたくない話があるの」
「? なんだ」
詩織に合わせて身を屈める錬蔵その横顔に詩織の唇が触れる。
「これは、あなたの報酬替わり。気に入った?」
耳元で囁く。途端に錬蔵は顔を赤くして鼻を押さえる。
ざまあみろ。詩織はにやつく。
「てめぇ、やりやがったな?」
「女の子を舐めちゃだめよ?みんな仮面をかぶってんだから」
「肝に銘じるよ、じゃあな!!」
そういってそそくさと車に入りバタンとドアを閉める。
出発していく車を見えなくなるまで見送った。
「報酬替わりってのは本当だからね、感謝しなさい」
そう一人つぶやいたのは車が完全に見えなくなってからだった。
「いつまでにやけてるんすか?」
「いやいや、青春だねぇ。うらやましいよ」
車内では錬蔵が全てを見ていた玄角に弄られまくっていた。
「頼みますから前見て運転してくださいね」
「大丈夫大丈夫、いやぁこれで少しは錬蔵君の病気が治るといいんだけどねぇ」
「むしろ悪化しますわ」
ずっとこれである。もう三十分はこうしている。
「いいですから、道間違えないでくださいよ?ナビ付いてないんだから」
「大丈夫だよ。そんなのなくてもいくらでも目印はあるさ。ちゃんと夜には着くよ」
多々良 錬蔵が住んでいる町
「
えらく長くなった気が。
こんなもんなのか。
加減がわからない。
全然D×Dぽくないすね。途中で無理やり悪魔出したけどだめだった。
次から原作入ります。