自分、会話シーン苦手みたいです。
(な、なんて重い空気なんだよ……)
一誠は心の中でぼやいた。
今、一誠たちはオカルト研究部の部室にいる。
一誠の隣にはリアスが険しい顔で腰かけていた。そのななめ後ろには朱乃が控えている。いつものような笑顔に見えるが何やら黒いオーラが見える気がするのは気のせいだろうか。
机を挟んで対岸には錬蔵がふてぶてしく腕を組みながら座っている。ソファの両脇後ろには木場と小猫が並び立って錬蔵を睨んでいる。
なんでこいつはこんなに堂々とできるんだよ、と思う。
三人の前には朱乃が淹れた紅茶があるが錬蔵は一切手を伸ばす気配はない。一誠なぞは緊張から変に喉が渇き、二杯目のお替りをしたところである。
「……それじゃあ、貴方は堕天使を追っていたら偶然はぐれ悪魔に出会い、人を襲う奴を野放しにできず、やむなく戦闘を開始したと言うのね?」
いつものように優雅にカップを口に運びながらリアスは錬蔵の証言を繰り返す。
はぐれ悪魔とは自分の主を裏切り、己の欲望のままに行動するようになってしまった悪魔のことだ。
「堕天使だのはぐれだのは知らんが、まあそんな感じだよ。人様に迷惑かけてたみたいだからついでに片づけてたのさ」
なんて軽い言いぐさだろうか。一体こいつの神経はどうなっているのか?
「まるでゴミでも片づけてるみたいな言い方ね。バイザーに同情なんてしないけど、気に入らないわ」
「躊躇なくキレイに消し飛ばしたアンタが言うかい?」
その言葉に一誠も先ほどあった光景を思い出す。あんなにデカかったあの化物がリアスの魔力で跡形もなく消え去った。改めて自分の主人の力の偉大さを思い知る。
しかし一緒にそれを見てなお錬蔵はリアスに対して怯むことは無かった。それどころか常に隙あらばリアス達を
煽る発言をしてくる。目の前のこの男は死ぬのが怖くないのだろうか?
一誠はオカルト研究部の一員である。故にどんなことがあってもリアス達の味方だ。だが錬蔵だって大切な友の一人である。出来ることなら両方とも失いたくはない。何とかこの場を治める手段を考えようと努力しているがどうもうまくいかない。
「他に、何を聞きたい?」
錬蔵が話をかえる。
「そうね、では貴方の正体、所属する組織。それからここに来た目的を言いなさい。包み隠さずよ」
静かだが威圧感のある声でリアスが問う。錬蔵は小さく鼻息を洩らす。
「多々良錬蔵 十七歳、O型、私立駒王学園二年生。ここに来たのは有名校で進学に有利なのと、家が近いからだ」
「……ひょっとして私、舐められてる?」
リアスの眉が吊り上がる。
おい、止めろ。ホントに消されちまうぞ! なんでわざわざ怒らせるようなことを言う?
錬蔵の前に一誠の心臓が緊張で止まりそうだ。
「お前さん等が俺にどんな妄想を抱いているか知らんがな、俺はどこにでも居る普通の高校生だぜ? 偶々、個人的な事情でほんの少し仙道をかじっただけの一般市民だよ」
「仙術!?」
なぜか小猫が驚き声を上げる。目を向けるとまるで身内の仇のように錬蔵をねめつけている。
「『術』なんて大したもんじゃないよ、俺が教わったのは円空拳の技と内丹術の基礎の基礎、それからちょっとした憑き物落としの知識だ」
気にせず話を続ける錬蔵。
「素手で悪魔を圧倒する一般市民なんて信じられると思う?」
「真昼間に平然と学校に通う悪魔なんてのも十分馬鹿げて聞こえるがね?」
むう、と顔をしかめるリアス。
確かにそうかもしれない。悪魔になる前の一誠ならばどちらも同じように信じられないものに聞こえただろう。
「俺のことを疑うのは構わんがね。そうなると、こちらもあんた達が何かここで悪巧みでもしてるんじゃないかとついつい勘ぐっちまうぜ?」
「こちらの事情とそちらの都合は違うわ。一緒にしないで」
毅然と言い返すリアス。どうかな、と錬蔵は嗤う。
もう見てらんねぇよ……。
さっきから一誠の胃が妙に痛む。
「ともかく、これ以上はいう事ないぜ。もうどんだけ叩いたって埃もでねぇよ。それでもまだ聞き出そうってなら……」
錬蔵の声が一層低くなる。
「ここにいる奴の一人くらいは道連れにするくらいの抵抗はするぜ」
そしてバイザー戦で見せた獣の威嚇のような笑顔を表す。
ダメだ。そんなことはさせない。
一誠はリアスを腕で庇いながら錬蔵に吼える。
「錬蔵! 部長達に手ぇ出したら俺が許さねえぞ!」
「イッセー、そんときゃお前が第一候補だぞ。自分の状況分かってるか?」
「え? マジで!?」
それもそうか。思えばこの中で一番弱いのは自分だ。
困ってリアスの顔を見ると、どうやら錬蔵の言葉がかなり聞いているらしい。忌々しそうに錬蔵を一瞥するとソファにもたれかかり目を閉じて考え事をし出した。
数秒たったあと再び錬蔵を見て口を開く。
「いいわ、全然納得してはいないけど、貴方の言う事を信じましょう」
「部長!? それは……」
木場が異を唱えようとするがそれを目線で制す。
「お願い祐斗。ここは抑えて。どちらにしろ彼はこれ以上話さないわ。それならば私は、無駄な犠牲の無い方を選ぶ。」
静かに木場を諭すリアス。こんなことがまだ続くのか。一誠は一人嘆息する。
「話しはまとまったか? そろそろ攻守交替の時間だぜ」
「……何が聞きたいの?」
「この町で起きていること、全てだ」
錬蔵の番が回ってくる。
「いいわ、少し長い話になるわよ」
そしてリアスは話し始めた。イッセーにはほとんどこの間聞いたことの復習のような感じだ。時々間に入って自身の体験を補足する。錬蔵は口を挟まずに真っ直ぐリアス達を見ながら話を聞いていた。
「……以上よ。何か質問はあるかしら?」
「そうだなぁ、2,3聞きたいことがあるんだがいいか?」
どうぞ、と承諾するリアス。
「最初に瀕死のイッセーを助けた時、本当に悪魔にするしか手は無かったのか? 下心が無かったと言えるか? あんたにとっちゃ、下僕と『力』の両方が手に入るんだ」
錬蔵のリアスを見る視線が鋭くなる。
「……『
一旦言葉を切るリアス。
「でも、私は他者から自分の都合で理不尽に何かを奪う行為は好きではないわ。信じて貰うしかないけど、あの時は『眷属化』以外他に手は無かった。もしまだ間に合うのなら迷わずどこかの医療機関へ送り届けたわ。転生するかしないかはその後の話しよ」
そう静かに、ハッキリと言い切るリアス。
「どうだかなぁ、悪魔の言葉だ。おいそれと信じるわけ……」
「俺は信じるぞ」
錬蔵の言葉を遮って一誠が発言する。
「実際に殺されかけたのは俺だからな。誰がなんて言ったって構わない! 俺自身が部長を信じている!」
迷いはない。これが本心である。
それを聞いて深くため息をつく錬蔵。なんだよその憐れな者を見る目は。
「質問を換えるぞ」
錬蔵が話を切換える。
「新学期が始まる以前、俺は悪魔が関係してると思われる仕事を一つ手伝った。直接対峙したわけじゃぁないがね。ある男が浮気され自分を裏切った彼女に復讐するために自力で悪魔を呼び出し契約を交わした」
その言葉にリアスたちは驚きの表情を浮かべる。
「どんな契約か知らんがその結果、男は化物となり、女を呪った。関係ない人間も一人犠牲になったよ」
一誠がリアスを見ると彼女は小さく首を横に振る。どうやらその一件には関わっていないらしい。
「男と対峙した時、どうみてももう手遅れだった。人に戻すことなんて無理だった。……だから、殺したよ。あんた等も人間と契約なんてことしてるみたいだが、一体どんなことをやっている? 私たちは潔白ですなんて言わんよなぁ? 手前ぇ等だって悪魔の端くれなんだろ?」
錬蔵の声色が段々迫力を増していく。
「どうやって契約者を見つける? 魔術で操るのか、それともその見事な身体で誘惑でもしてんのか!」
……止めろ錬蔵それ以上言うな。一誠は思わず拳を握る。
「その男みたいなことを頼む人間がいたらそれを実行するのか? 他人を殺せと命じられたら、対価さえあればやるのかい? 俺たちが普段生活している裏で、どんな薄汚ねぇことやってやがるんだ!?」
「「いい加減にしろ!!」」
一誠が錬蔵に掴みかかる。同時に木場も後ろから鋭い剣先を首筋に当てている。
「俺達が! 部長が! そんなことするわけないだろうがああぁ!!」
「僕らは、いや部長は、どんな依頼だってちゃんと誠実にやっているんだ。君のいうような無責任なことは絶対にしない!」
「私たちにだって、依頼人や仕事の内容を選ぶことはできますわ」
朱乃が刺すような視線で睨む。
「何も知らないくせに……」
小猫も静かに怒りを表す。
「イッセー、祐斗、落ち着いて。みんなも冷静になって」
「でも部長」
「命令よ。その手を放しなさい?」
リアスの言葉に渋々錬蔵を放す二人。
「多々良君」
静かに名前を呼ぶリアス。
「私は自分の仕事に誇りを持っているわ。確かに他の悪魔にはそういう不誠実なことをする者もいるわ。キレイ事以外を専門に請け負う悪魔も確かにいる。でもね、少なくとも私はそれを自分の下僕たちに強要したりしないし、やって欲しくない。この子たちにはこの子たちが胸を張って仕事ができる様にしてあげたい。そのためならどんな事があっても守り抜くし道を誤りそうになったら全力で止めるわ。これが私の信念よ」
一誠は目を丸くする。とてもじゃないが悪魔の言う台詞には聞こえない。
「でもあなたの気持ちもなんとなく分かるわ。だって貴方は人だから。そしてここは人間の世界。あなたにとって私たち悪魔は自分たちの世界を勝手にかき乱す異物のように感じるのよね」
リアスの目にもう敵意はなくどこか寂しげな色を湛えている。
「私はこの世界が好きよ。この町も、この学園も、そこに住む人々も。それでは答えにならないかしら?」
「部長……」
リアスの言葉に皆が冷静さを取り戻す。
一誠は感激で胸が熱くなる。これが自分たちの主人、リアス・グレモリーなのだ。
「……最後の質問いいか?」
「ええ、どうぞ?」
錬蔵の問いかけに静かにリアスが答える。
「バイザーとかいうやつ、元々は普通の悪魔だったんだよな? それが主から離れてあんな醜い化物になった。イッセーもあんなモンになる可能性はあるのか?」
今度はどんなイチャモンをつけるつもりだろうか、と身構える一誠。しかしそれを余所に隣から声を押し殺した笑い声が聞こえる。目をやるとリアスが口に手を当てて笑いをかみ殺そうとしていた。
「なんだ? 何が可笑しい」
「フフフ。ごめんなさい、気を悪くしないで。だってあんまりイメージと違うから」
なんのことだと首をかしげる一誠。錬蔵を見ると何故か苦い顔をしている。目が合うと『見るな』と視線で語ってくる。
「いいから、質問に答えろ」
「あら、そう? ……そんなに睨まなくても分かってるわよ。そうね、可能性はゼロではないわ。でもその質問に答えるのは私ではないわね」
そう言うと一誠に目を向ける。
「ねえイッセー? 貴方はどんな悪魔になりたい?」
「え? 俺ですか!?」
突然話をふられ驚く一誠。どんな悪魔になりたいのか、少し考える。浮かんできたのはやはりアレだ。そう、一誠にはやらねばならない夢がある。
「俺は、部長に命を助けてもらった。だから出来る限り恩返しがしたいです! そのためにまず悪魔の契約をバンバンとって部長を喜ばせたい! そんでもって……」
ここからが一番大事なところである。
「俺は絶対に魔王様から爵位を貰って、可愛い女の子達を下僕にし、俺のためのハーレム王国を築きあげて毎日エロとおっぱいに囲まれた幸せな生活をおくるのだああああああぁっ!!」
全力で己の野望を語る一誠。
「……サイテーです」
小猫の尤もなツッコミが一誠の心に響く。効いたぜ。
さすがのリアスも苦笑するしかない。錬蔵を見ると顔を伏せて肩を震わせている。
!? まさか泣いているのか。そうか、分かってくれるのか、錬蔵!
そう思って声をかけようとした時。
「……こんのぉ」
「ん?」
「大馬鹿野郎がああああああああああああっ! せっかく人が心配してやってんのになに寝言ほざいてんだっ! お前ぇの頭ン中はそれしかねえのかぁぁ!? この年中発情期ザルッッッ!!」
突如起き上がり一誠に吼える。
「な!? 錬蔵てめえ、俺のハーレムへの夢をバカにしてんじゃねぇ! 俺は本気なんだよっ! あぁそうか、嫉妬してんだな!? 部長の生乳を拝み、さらにはハーレムへの切符を手に入れた俺に嫉妬してんだろう! そうだよなぁ!? お前なんか部長のおっぱいチラ見しただけで鼻血噴き出してぶっ倒れちまうもんなぁ、このムッツリスケベゴリラアアアァァァっっ!!」
「ふざけろ! お前ぇなんか爵位持ったってどうせモテるわけねぇだろ! そのまま何百年も何千年も童貞こじらせて魔法使いどころか大賢者にでもなっちまえぇぇぇぇ!!」
「上等だああぁぁ! かかってこいっ! 俺の夢ハーレムへの思いをなめんなあああ!!」
「砕いたらぁ! そんな夢!!」
場の空気なぞぶち壊して悪友二人の取っ組み合いが始まる。
その様はよくある男子高校生の日常風景だ。とても対立した人間と悪魔の様子ではない。
「覚悟はいいな、イッセー? 『キン肉……』」
「ま、待て! その技は!?」
「ハイハイ、二人ともそこまでよ。じゃれるのはまた今度になさい?」
暴れる二人を止めるリアス。言われた二人は渋々引き下がる。
「はぁ、なんだか私も疲れてきたわ。なんかどうでもよくなってきちゃった」
「あらあら、それでは彼のことどうしますか?」
「引き続き警戒はするけど、基本放置でいいんじゃないかしら? 話をした限り、とても危険人物には思えないわ。多々良君、今日のところは帰っていいわよ」
少々やっつけ気味にリアスが錬蔵の退出を許可する。
「あぁ、そうするよ。アホらしくてこれ以上付き合ってられんからな」
そう言って入り口から堂々と出て行く。
「本当にいいんですか?」
錬蔵を見送ったあと、木場がリアスに問いかける。
「アラ、祐斗あなたは気づかなかったの?」
面白いものを見つけた少女のように笑うリアス。
「あの子、ここに来てからずっと、自分のことなんかそっちのけでイッセーのことを守ろうとしていたのよ?」
は? どういうことだ。リアスの言葉に首をひねる一誠。
「いや、アイツずっと部長たちの悪口言ってただけのような気がすんですけど。俺のことも道連れだ~、みたいなことい言ってませんでした?」
「そうね、だからこそ、あの時何かあれば私達は迷わずイッセーを庇っていたでしょうね。本当に道連れにする気ならわざわざあんなこと言わないわ」
「!?」
あれはそういうことだったのか。一誠は錬蔵の出て行った方を見やる。そんなこと思いもしなかった。
「彼の質問にしてもすべてイッセーにかえって来るのよ? 一つ目は私達がイッセーを道具ではなく仲間として認識しているかどうか。2つ目はイッセーが強制的に働かされているのかどうかの確認」
指折りさながらリアスは語る。
「三つ目は、もし万が一イッセーがはぐれ悪魔になった時は彼は自分の手で決着をつける、そう覚悟してのことね。友達が怪物になってしまったのなら、せめて自分の手で終わらせたい。なんて思ってたんじゃない?」
アイツそんなことを……。思わず泣きそうになる一誠。
「それでも部長に言ったこと、許せないです」
小猫はまだ納得出来ないらしい。
「……私達の本音を引き出すためでしょうね。本心を聞き出すには怒らせて冷静さをなくさせるのも一つの手よ」
「あらあら、私達まんまと彼に騙されたんですの?」
いつもの様子に戻った朱乃が困り顔をする。
「さあ? 質問自体は本心だったんじゃない? だとしても、敵に囲まれながらあれをやってのけるのは並みの胆力と覚悟ではないわ。イッセー、いい友だちを持っているのね?」
優しく一誠に言葉をかけるリアス。なんだか照れくさいぞ。
「お取り込み中申し訳ない」
急に入り口から声がする。皆が振り向くとそこに錬蔵が顔をのぞかせていた。
「あら、まだ何か用かしら?」
「最後にも一つ聞くことがあったの忘れていたんでね。堕天使がもし集まるとしたらどんな所が考えられる?」
思わぬ質問をしてくる錬蔵。
「居るとしたら、神が打ち捨てた聖なる土地に奴らは潜むわ。そこで日々自分たちを見捨てた神に見せつけるためにかつて神聖だった場所を儀式で汚すの。……そんなことを聞いて一体どうする気なの?」
「なあに、恐ろしいから近づかんよう注意せんとな。ありがとう、参考になったよ。……それからコレ、一枚もらってくぜ、面白そうだからな」
そういってチラシを一枚ポケットに入れるとあっという間に行ってしまった。
最後に見せた笑顔は、バイザー戦の時と同じ顔だった。
「もう一度言います部長、本当にいいんですね?」
木場がリアスに念押しする。
「……ちょっと自信無くなってきたわ。うぅ、頭が痛い」
「あらあら、リアスをこんなに悩ますなんて」
たった一人の人間が悪魔たちをここまで翻弄する出来事があるだろうか。
どうやら俺はとんでもない奴を友達に持っているらしい。
もう一誠には苦笑いする以外為す術がなかった。
どんな暗い場面も夢と希望とおっぱいで空気ぶち壊すイッセーは偉大です。
ここ最初錬蔵視点だったんですがなんかしっくりきませんで、イッセーに変更しましたらなんかうまいこといった。
一応、この話の主人公は錬蔵とイッセーのダブルで考えてます。