今回は橋渡し的な話のつもりです。
雫、ゴメン。
アイス・ピラーズ・ブレイクとバトル・ボードの決勝戦はほぼ同時刻に行われる。柳達は悠陽達とバトル・ボードを観戦することにし、舞姫は美禰と玉藻、そして輝沙羅の四人でアイス・ピラーズ・ブレイクを観戦することにした。
しかし、向かうのは観客席ではなく、控え室。ある意味最も近い場所である。
「深雪、やふ。未来の一高生を連れてきたよ」
二人の紹介をすると、舞姫は深雪の緋袴を見て満足そうに頷いた。
「良く似合ってる。それに、精霊達も一杯いる」
「ふふ、ありがとう。舞姫が譲ってくれたこの服のお陰ね。とてもしっくりくるの」
「調子はいいみたいだね。流石は達也の調整のお陰?」
「えぇ。お兄様の技術は世界一だもの」
頬を赤く染めてのろける深雪に、同じく激励に来ていた真由美や摩利は苦笑いを浮かべていた。
そんな深雪に、達也が声をかける。
「さぁ、深雪。行ってきなさい」
「はい!」
達也に笑みで答えると、深雪は会場に向かう。深雪が立ち位置につくと、その美しさに会場がわく。対戦相手は深雪の迫力に萎縮してしまっていた。
「はぁ……深雪様もとてもお美しいです」
「相手の方も萎縮しているから、勝負は決まったでしょうか」
玉藻の言うとおり、深雪の一回戦同様、一瞬で決まっていた。続く雫と英美も勝ち上がり、大会史上初の同一校による決勝リーグ独占という結果になった。
会場から戻ってきた三人を、真由美は興奮した様子で出迎えた。
「三人とももの凄い快挙よ!」
「ありがとうございます」
深雪が代表して頭を下げると、雫と英美も続けて頭を下げた。
その後、真由美から大会委員からの通達を受け、英美は逹也の勧めもあって決勝リーグを辞退した。そして、雫は深雪との対決を志願し、深雪もそれを受ける。
多くの一高生徒が深雪の所に行く中、舞姫は美禰と玉藻と共に雫の元を訪れていた。
「舞姫? 応援に来てくれたの?」
「うん。ほのかも決勝だし、お友達としては来ないと」
「ふふ、ありがとう。えっと、そっちの子達は」
二人の紹介をすると、雫は驚いたように目を開く。
「驚いた。でも、もし来年入学したらよろしくね」
「はい。よろしくお願いいたします」
その後も試合開始前までの間、美禰たちの話で盛り上がり、試合前の緊張は自然とほぐれていた。
「ん、そろそろ時間だね。雫、頑張って」
「うん、頑張ってくる」
そう力強く頷くと、胸を張って会場に入っていった。
結果は、深雪の勝利。しかし、CADの同時操作を成功させ、今大会唯一、深雪の氷柱に傷をつけることが出来たのだった。
この日の試合が全て終わり、逹也と深雪はホテルのカフェを訪れていた。
そこで目にしたのは、ほのかと一緒にお茶を飲む雫と、縮尺が可笑しく見えるほど大きなパフェを食べていた。
雫を打ち破り優勝した手前、深雪は気まずくなるかと思っていたが、頬をこれでもかと膨らませながらパフェを頬張る舞姫を見て、何だかばかばかしくなってしまった。そして、それは雫も同様のようで、お互い顔を見合わせて、クスクスと笑ってしまったのであった。
細やかな深雪達の祝勝会が終わると、舞姫は部屋には戻らず、メールで指定されていた部屋に向かう。
その部屋はホテルの最上階。所謂VIPルームである。軍の施設であるため豪奢な内装というわけではないが、室内の調度品はどれも仕立てがよく、趣味のよさが伺える。
何よりもこの部屋は機密性という意味でどの部屋よりも優れていた。
「遅くなっちゃった」
その部屋で待っていたのは刹那と華耶、そして斑鳩六瓢である。
「突然呼び出して悪かったね。お友達と一緒だったろうに」
「ん、みんな疲れてたから早めに上がった。それに、六瓢様ともお話したかったから」
「ははは、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。そうだ、今日は玉藻が世話になったね。何か迷惑をかけはしなかったかな?」
「ううん、玉藻はいつも元気いっぱい。一緒にいると楽しい。来年入学してくるのが楽しみ」
それを聞いた六瓢は、とても嬉しそうに頷いた。
「それは何よりだ。早速帰ったらその旨を各所に伝えておこう」
「六瓢、舞姫ちゃんと話すのが楽しいのは分かるけど、そろそろ本題に入りましょう」
いつまでも世間話をしていそうな六瓢に、華耶が口を挟む。
「おっと、これは失礼。それでは本題に入ろうか」
六瓢がそう言うと、舞姫は姿勢を正す。
「さて、悠陽様から聞いていると思うが、件の賊について、そして大会初日から相次ぐ一高でのトラブルについてだ」
六瓢は脇に置いてある封筒から書類を取り出す。
「残念だが、下手人の確保には至っていない。しかし、怪しいのは司馬達也君が推測していたように、CADをチェックしている係員だろう。そして、何かを仕掛けるのならば得点の大きいミラージ・バットとモノリス・コードだ。新人戦は仕掛けてくるか分からないが、本戦には必ず仕掛けてくる」
「新人戦ミラージ・バットは深雪さんが抜けたため仕掛けてくる可能性は低いでしょうが、明日の新人戦モノリス・コードは五分五分です。流石に確証も無しには捜査できませんから」
華耶の言う通り、今回の事件に華耶や六瓢は首を突っ込めない。
「では、私は何をすれば?」
「舞姫ちゃんには、試合を注視していてもらいたい。精霊達の力も使ってだ」
舞姫には、達也や美月のような特別な目はない。しかし、精霊に働きかけることで常人よりも遥かに多い情報を見ることができる。
「分かった。明日はなるべく近くで観戦する」
「ありがとう。私達も出来る限りのことはさせてもらうよ」
そう言うと六瓢は席を立つ。
「さて、話はこれくらいにしておこう。今日は玉藻達の世話で疲れただろう。早めに休んでくれ」
「うん。今日ははるるん先輩と一緒に寝る約束をしてるから、ゆっくり休める。お母さんとお姉ちゃんもお休みなさい」
「えぇ、お休みなさい」
「お休み、舞姫ちゃん」
舞姫が出ていくと、室内の空気がスッと鋭くなる。原因は六瓢達三人だ。
「さて、深螺殿達の報告の件もあるが、賭けをしていた《彼の者》はどうしているかな?」
「大層反省しているようで、屋敷にてジッとしているそうです」
刹那の報告に、華耶がわざとらしくため息を吐く。
「反省するようなら、初めからしなければいいものを。確か、《遠見》が得意な者でしたよね?」
「あぁ。今回の件の罰として休みなしで働いてもらっているよ」
六瓢はそう言いながら封筒からもう一枚書類を取り出す。そこにはとある地域の地図とビルの見取り図が書かれていた。
「さて、輝沙羅くんを呼んでくれるかな?」
そう言う六瓢の姿は、魑魅魍魎渦巻く平安より続く名家の当主に相応しい姿であった。
次回からは舞姫達が動く、かも知れません。