鳳凰の舞姫   作:天神神楽

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オリジナル展開がございます。




九校戦七日目。

この日、一高本部テントは騒然としていた。

女子の大躍進に奮起して臨んだ、新人戦モノリス・コード第一試合。その試合は開始直後に悲鳴に包まれた。

相手の反則行為により、森崎達三人は、ビルの瓦礫の下敷きになったのである。

不幸中の幸いというべきか、骨折はしたものの大事には至らず、しかし、復帰は絶望的であった。

そして、とある一室に、真由美や十文字、鈴音を初めとした一高首脳陣が集まっていた。理由は、達也をモノリス・コードに代理として参加させるためである。

だが、必要以上に目立つわけにはいかない達也は参加を拒否しようとする。それに対して十文字が口を開こうとしたとき、部屋に舞姫が入ってきた。

「凰? どうした」

舞姫の真剣な表情に、十文字は何があったのか尋ねる。

「達也が逃げる必要はない。もしも、達也を妨げるものがあるのなら、私達が全力で護る」

突然の言葉に、達也以外は何を言っているのか理解出来なかった。しかし、達也だけは舞姫の言葉を正確に理解出来た。

それまで強張っていた表情を、フッと緩めると、達也は舞姫の頭に手を乗せた。

「分かった。お前にそこまで言われては逃げるわけにはいかないな」

「じゃ、じゃあ達也くん」

「はい。その申し出、慎んでお受けします」

達也は逃げることをやめ、試合に挑むことにしたのだった。

 

そんなやり取りが為されているとき、横浜のとあるホテル。その中で存在しないはずの、最上階の一つ上のフロアに、男達が円卓に腰かけていた。

彼らの表情は、冷や汗が流れており、決して良いとは言えるものではなかったが、彼らは悪辣な笑みを浮かべていた。

「一時はどうなるかと思ったが、一高選手も不運だったな」

「若さゆえの過ち、というやつだろう。お陰で我らに運が向いてきたのだ。彼の若人達には礼を言わねばなるまい」

自分達が仕組んだにも拘わらず、白々しくのたまう《無頭龍》の姿は、哀れですらあった。

そんな彼らの頬に、不意に冷たい風がそよぐ。夏といえども、冷や汗で濡れた彼らには少々小寒い。

この場のリーダー格でもあるダグラス=黄は、窓を閉めさせようとして、そんなものはなかったことに気が付く。

慌てて後ろを振り向けば、そこには一人の女性が音もなく佇んでいた。

「き、きき貴様、どこからっ!?」

「漸くお気づきになられましたか。あまりにも気付かれないので、思わず魔法を使わさせていただきましたが、お具合はいかがですか?」

叫びも聞こえていないかのように、その女性は静かに円卓に歩み寄る。慌ててジェネレーターに止めさせようとしたが、なぜか指先一つ動かすことが出来なかった。

「皆様お疲れのご様子。ごゆっくりなさってください」

いつの間にか口も開くことが出来なくなっており、ダグラス=黄は開かない口の中でカチカチと歯を鳴らすことしか出来なかった。

やがて、その女性がダグラス=黄の横に到着した途端、周囲に控えていたジェネレーターの体がビー玉程の大きさに押し潰された。

血の一滴すら零れず、カランと乾いた音を立てて床に転がる《元》ジェネレーター。それを見た《無頭龍》達は、目の前に佇む死の恐怖に呑み込まれた。

「あぁ、自己紹介が遅れてしまいました。私、鵬輝沙羅と申します。あと僅かなお付き合いではありますが、どうぞよしなに」

優雅に礼をする輝沙羅。輝沙羅はそこでダグラス=黄の口の拘束を解除した。

「き、貴様は、《零》!?」

「はい。貴殿方はやりすぎました。故に、私が無に帰しましょう。あぁ、それと最後にお伝えしておかねばならないことがありました。貴殿方の龍の所在は確認致しております。日本軍が対処してくださいますので、粛清を恐れる必要はないのでご安心なさってください」

凰の《舞姫》の守護役鵬輝沙羅。国際A級ライセンスを持つ卓越した能力をもつ魔法師であるが、彼女はもう一つの顔を持つ。

十七家斯衛部隊副隊長《零》。準戦略級魔法師とも言われるほどの脅威の存在でもある。加重系統における世界最強、それが輝沙羅なのであった。

「さて、舞姫様のご学友の皆様の勇姿、見届けねばなりませんね」

そう呟くと、輝沙羅は音もなく室内からいなくなった。

静まり返る室内。そこには、いくつかの人間であった小さな球体しか存在していなかった。

 

「そうですか。はい、では、気を付けて帰って来てください」

輝沙羅からの連絡を受けた悠陽は、優しい口調で輝沙羅のことを労った。

「悠陽様、輝沙羅は大丈夫?」

電話を置いた悠陽に、舞姫はすぐに輝沙羅の様子を尋ねる。

「えぇ。傷一つなく、無事に終えたようです。今日中には戻ってくると言っていましたわ」

その言葉に、舞姫はホッと安心したように方から力を抜いた。

「舞姫さんも、CADの調整でお疲れでしょう? 試合に出るのではないにしても、早めにお休みしてください」

「うん。お休み、悠陽様」

輝沙羅が無事なことを確認したからか、舞姫は来たときよりも軽い足取りで部屋を出ていった。

それを微笑んで見送った悠陽は、そのまま端末を取り出した。

「さて、連絡はどなたに致しましょうか」

「姉上、悪いお顔ななっています」

部屋の奥から出てきた冥夜は、呆れた様子で悠陽を諌める。

「あら。これはいけませんね。ともあれ、後は残党だけですし、国防軍の皆様にお任せしましょう」

「それであれば、私の方から風間少佐にお伝えしておきましょう。現在動いているのは彼の部隊ですし、風間少佐とは面識もあります」

「では、頼みましたよ冥夜」

冥夜はもう一度頭を下げると、部屋を出ていった。

一人残された悠陽は、お茶を淹れてほぅと一息吐く。

「最近は随分と騒がしくなってきましたが、貴女方がいればひとまずは安心でしょう」

「……そう言っていただけるのは光栄なのですが、それは些か……」

悠陽以外誰もいないはずの室内に現れたのは輝沙羅。悠陽はクスクスと微笑みなから、悠陽にお茶を勧める。

「いただきます」

「ふふふ。ともあれ、お疲れ様でした。舞姫さんも心配していましたし、明日は会ってあげてくださいね」

「無論、そのつもりです」

「報告は冥夜に任せてあります。なので、今夜はゆっくり休んで下さい」

「ありがとうございます。ですが、その前に」

そう言って、輝沙羅はテーブルに記録メディアを置いた。

「こちらも国防軍にお渡ししてください」

「……はい。流石は輝沙羅さんですわね」

それ以上はなにも言わず、悠陽は輝沙羅を見送った。

今度こそ一人になった悠陽は、どこか楽しそうに微笑んでいたのであった。

 




多分、輝沙羅さんが最強です。
十師族のような組織がもう一つあったら、無頭龍はこうなるんじゃないか、と。
無理矢理な感じは否めませんが。
次回はモノリス・コード
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