鳳凰の舞姫   作:天神神楽

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おひさしぶりです。
今回は本筋に戻ります。


古式魔法の力

 

九校戦八日目。先日の新人戦ミラージ・バットを一位二位を独占したものの、モノリス・コードでの事故もあり、一高の観客席は緊張に包まれていた。

そんな中で、代役に抜擢された達也、そして達也に選出されたレオと幹比古は控え室で待機しており、幹比古は舞姫にCADの説明を受けていた。

「今朝のうちに、CADの最適化を済ませておいた。発動の時間が幾分速くなると思うから、最初に使う遠見で誤差を確認して。それと、例の魔法だけど、使い勝手は《雷童子》に似てるから、もしもの時に使って。ミッキーに合わせてるから、問題なく使えるはず」

「朝一で来られたときは何事かと思ったけど……うん、ありがとう」

舞姫は朝一、幹比古が起きようとしたころに部屋に押し掛けた。古来より男子が女子の部屋に行くことはファランクスよりも強固な壁に阻まれるものだが、逆はせいぜいベニヤ板ぐらいである。抵抗してもバヨンバヨン言うくらいなのだ。

しかし、その結果は最高と言えるものであり、試しに発動した魔法は、今までのどの時よりも速く魔法を発動出来たのである。

「舞姫、お前にも作戦について聞いておきたい。一応昨日伝えておいた通りだが、何か問題などはあるか?」

「相手の八高は野外実習に力を入れてるから、森林ステージは得意なはず。だけど、突出した古式魔法の使い手はいないから、ミッキーの魔法を上手く使えば苦戦はしないはず。だから、達也の作戦通り、ミッキーは攻撃よりも撹乱に力を入れるといいと思う」

達也の作戦を文句なしと判断した舞姫。達也は舞姫に礼を告げると会場に向かった。達也たちと別れた舞姫は急ぎ足で深雪達の元へと戻る。

「あ、舞姫。お兄様達はどんなご様子だった?」

「何の心配もいらない。決勝までは問題ない」

クラウド・ボールで見せた戦略家としての実力を持つ舞姫の断言に、深雪だけでなくほのかや美月もホッと安心していた。

「でも、いくら達也さんが強いといっても、直接攻撃禁止のモノリス・コードで、どう戦うんだろう」

モノリス・コードの大ファンである雫は、達也達の弱点について首を傾げた。

「達也達の戦い方の基本は奇襲。モノリス・コードのルールだと、達也たちが不利なのは事実。だけど、達也の作戦とミッキーの隠密性、そしてレオのディフェンス力は物凄い力になる」

「吉田君のですか?」

古式魔法にそれほど詳しくない美月が首を傾げる。

「うん。九校戦が始まる前にやった私達と十先輩との模擬試合は覚えてる?」

「舞姫が十文字先輩の《ファランクス》を破ったやつだよね」

雫が目を輝かせながら言うのに対し、舞姫は頷く。

「あの時、私が参加したのは、一高があまり対策をしていない古式魔法の強さを見せるため。結局新人戦では使われなかったけど、《モノリス・コード》では本来古式魔法は有効になり得るから」

それは、舞姫が示したことであり、達也が二科生から幹比古を選出したことからも明らかだった。

「ミッキーは現代魔法はともかく、古式魔法は割りと普通に使える。それに、吉田家の魔法は歴史に裏打ちされた良い魔法だから、今回みたいな森林ステージではそれこそホームステージ」

舞姫がそこまで説明すると、試合開始のブザーが鳴った。

「ともあれ、百聞は一見に如かず。達也はミッキーの魔法をたっぷり使わせるって言ってたから、面白くなる」

その後は舞姫の予想通りとなった。

達也が攻撃、レオが守備、幹比古が遊撃として各々の仕事をして、危なげなく相手のモノリスを開いた。

魔法実技が一科生に劣るのは事実なため、各所でその様子が現れてはいたものの、レオは《小通連》で意表を突き、そして幹比古は相手を足止めさせ、達也をフォローする。

各々が持つ未熟な部分を完璧にフォローし、一人も脱落させずに初戦を突破した。

それを見届けた舞姫は、ピョンと席を立つ。

「あら、舞姫。どうしたの?」

「輝夜から一緒に試合を見ないかってお誘いを受けてるから。次は二高との戦いだし、折角だから」

対戦相手の学校の生徒と見るなんて、普通なら咎められても可笑しくはないのだが、これまで散々そのようなことをしてきた舞姫を止めようとは思わなかった。

「全く……あまり鳳さんにご迷惑をかけてはだめよ」

「む……分かった」

舞姫にも自覚はあるのか、素直に頷いた。

舞姫が見えなくなると、深雪は小さく溜め息をつく。

「もぅ、他の学校の方と仲良くなるのは悪いことではないけど、もう少しどうにかならないかしら」

「あー……でもそれが舞姫のいいところなんじゃない?」

エリカもフォローはするものの、同感のようだった。

「それにしても、達也さんに相談されるだなんて、舞姫って戦術を考えるのが得意だったんだね」

微妙な空気に、ほのかが話題を切り替える。

「そうね。クラウド・ボールの作戦もそうだけど、舞姫は司令塔としても優秀よ。作戦スタッフにも入れられないかと市原先輩が悩んでいたわ」

鈴音は、最後の最後まで舞姫を作戦スタッフに入れられないか真由美や十文字に相談していた。結局はそうはならなかったが、舞姫に作戦について意見を求めたりしていた。

「舞姫は十七家の中でも中心となる《凰》の家の出身よ。それに、各家々は対立していないから、技術や知識を共有しているわ。日本の歴史と共に歩んできた家々の知識を舞姫は受け継いでいるのよ」

それは100年「程度」しか歴史を持たない十師族では及ばない、世界で唯一とも言える魔法師集団である。その叡智の層の深さは、達也であっても全てを見透せないものであった。

「分かっていたつもりだったけど、舞姫って、物凄いお嬢様だったのね」

「まあ、千年以上続く家だから間違いないわね。とはいっても、ご本人達はとても気さくな方だけどね」

そんなことを話していた頃、舞姫は輝夜に連絡をとり、指定された場所に向かっていた。

そして、輝夜の姿を見つけると舞姫はトコトコと駆け足で近寄る。すると、輝夜の隣に見覚えのある人物が一つ。

「愛梨?」

「はい。お見かけしたのでお誘いしてしまいました」

「そういうわけだけど、良かったかしら?」

「勿論。嬉しい」

舞姫は嬉しそうに輝夜と愛梨の間に座る。一、二、三高のエースとも言える三人が並んで座っている光景は目立っていたが、三人は特に気にした様子はなかった。

「先程の一高の試合、とても面白かったわ。まさか、代理出場するとは思っていなかったけど」

「それに、吉田さんの古式魔法は素晴らしかったですね。あれこそ私達が目指す道でしょう」

愛梨も輝夜も達也達の試合を称賛していた。

「ありがと。達也達なら三高以外には負けない」

「あら、一条君達は一高にも負けないわよ?」

「ふふふ、確かに今年の一高と三高の一年生は他の学校よりも頭一つ飛び抜けています。二高としては悔しいですけど」

舞姫と愛梨が仲良く鞘当てをしている様子に、輝夜は嬉しそうに口に手を当てて微笑んでいた。

その後も鳳凰家の歴史などについて話している内に、あっという間に一高対二高の試合となった。

舞台は市街地ステージ。先日事故があったばかりだったが、そこが試合の場となった。

「これは……二高の圧倒的不利ですね。吉田さんと司波さんのお二人がいて、このように遮蔽物が多いステージではお二人の独壇場でしょう」

「達也はモノリス・コードの特質を熟知してるし、ミッキーは精霊を上手に扱える。今回はいただき」

舞姫と輝夜の二人は、まだ試合が始まっていないにも拘わらず、試合結果を予測していた。流石にこれには愛梨も戸惑う。

「舞姫。一つ聞きたいのだけれどいいかしら」

「うん、なに?」

「今言ったルールを熟知している、ということについてよ。舞姫の話を聞く限り、司波達也さんが戦術家であることはわかるのだけど、それはどこの学校も同じではないかしら?」

「あ、んと……」

愛梨の質問に、舞姫がどう答えようか考えていると、代わりに輝夜が説明をした。

「それは《使い方》ですよ、愛梨さん」

「使い方、ですか?」

「えぇ。懇親会のご挨拶で九島閣下が仰っていたことではないですが、ルールをいかに噛み砕き、自らの糧に出来るか、ということです。そうですね……これは口で言うより実際に見た方がいいですね。丁度試合も始まりますし」

輝夜の言う通り、一高対二高の試合が始まった。始めに飛び出したのは達也。その素晴らしい身体能力で屋上までいくと、魔法を使わずに屋上から屋上へと飛び移った。

「はいっ!?」

「魔法を使えば居場所がバレかねない。ならば、魔法を使わなければいい。当たり前のようですが、魔法科高校にいると忘れがちですね」

「どこで魔法を使うのかの判断力は、私でも敵わないかな」

輝夜も舞姫も、魔法無しで飛び移ったことに対しては何の疑問も感じていない様子に、愛梨は戦慄した。

「その、司波さんがビルからビルに飛び移ったことは驚かないの?」

「ん? うん。あれくらいなら出来るひとがいるから」

「皆琉神威の方々は、身体能力が凄まじいですから。それに斑鳩家の方々も同じようなことが出来ますね」

「……私がおかしいのかしら?」

納得がいかない愛梨だったが、試合が進んでいたのでそちらに集中することにした。

試合は一進一退、そんな中達也が突然動きを止めた。そしてCADを下に向ける。

「何をしようとしているのかしら?」

「ふふふ、これはしてやられたでしょうか」

首を傾げる愛梨をよそに、輝夜は眉を下げながら苦笑していた。

達也はそのまま下に向けてCADのトリガーを弾く。すると、二高のモノリスが開いた。

「えっ!?」

「モノリスの有効範囲は10m。そしてそれは正面からだけではなく、上からでも有効なのですよ」

「確かに言われてみればそうですね……。でもそんなこと考えてもみませんでした」

「達也は意地悪だから。でも、面白いのはこれから」

舞姫がしてやったりと笑みを浮かべたため、愛梨は見逃すまいとステージを見つめた。

しかし、愛梨が気が付く前に試合終了のブザーが鳴った。

「えっ!? どうして!?」

愛梨の驚きは会場の観客が感じていたことだった。

「今のがミッキーの精霊魔法。因みに私達も使えるよ」

「今のは視覚同調ですね。今回のような視覚が遮られるステージではとても有効です」

「古式魔法はあまり勉強していなかったですけど、これは調べておかなければなりませんね」

「本来は二高の得意分野なのですけど、今回は完敗ですね」

「今年は私が模擬戦の相手をしたから、古式魔法、特に精霊魔法の対策はバッチリ」

ブイとピースを向けてくる舞姫に、愛梨と輝夜は顔を見合わせて苦笑したのだった。

 

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