先日のトラブルの為に、三高対八高の準決勝が始まった。とはいえ、一条将輝がたった一人で八高の選手を倒すと言う結果で終わった。
そして、一高対九高の試合も、一度も直接対決がないまま、幹比古の古式魔法によってあっさりと一高の勝利に終わる。
準決勝が両試合ともシンプルな形で終わり、決勝戦が二時間後に始まるとアナウンスされた。
「じゃあ、私も戻るね」
「そう。舞姫、決勝戦、楽しみにしているわ」
「達也達に伝えとく。あ、あと、二人のミラージ・バットも楽しみにしてるから」
「えぇ、ありがとう。舞姫の友人の名に恥じぬよう全力で挑むわ」
「私もです。全力で参りますので楽しみにしていてくださいね」
二人と別れた舞姫は、一高のテントに向かう。そこには選手の他に真由美達もいた。
「あら、舞姫さん。輝夜さんと見ているって聞いていたけど」
「決勝戦だから、皆と見たいと思って。いい?」
コテリと首を傾げる舞姫に、周りの上級生(女子)がノックダウンしていた。真由美も咳払いで誤魔化すと、勿論と頷く。
「達也、それ貸して?」
「構わないが、何に使うんだ?」
「何って、こうする」
舞姫は、達也が持っていたマントを受けとるとおもむろにそれを羽織る。当然、それは達也のサイズに合わせられているのだから、舞姫が羽織ってもブカブカだった。
「マントとか、ロマン。似合う?」
「似合うも何もサイズがな……」
「可愛らしいじゃありませんか」
達也がつっこもうとしていた所に、可愛いとの声。その声の主を見れば、それは鈴音であった。
「リン、ちゃん?」
「何か?」
恥ずかしがる様子もなく尋ね返す鈴音に、真由美はそれ以上何も言えなくなってしまった。
そんな上級生二人を尻目に、舞姫は辺りをキョロキョロしていた。そんな舞姫に深雪が声をかけた。
「どうしたの舞姫?」
「ん。精霊が一杯いるなって」
「そうなのか?」
精霊ということで、幹比古に視線が集まる。幹比古は突然注目されたじろいだが、気を取り直して頷いた。
「うん。凰さんの周りにはビックリするくらいの精霊がいるよ。達也の言う通り、これには魔法が掛かりやすくなる補助効果がついているからね」
その説明を聞いた舞姫は、マントを脱ぐとそれを幹比古に渡す。
「え、えっと」
「多分だけど、私が着たから精霊が一杯来てくれると思う。富士の麓だから、効果は高くなるはず」
「ま、舞姫さん、そんな効果があるの?」
「うん。開会式に舞をやったから、精霊達も活性化してる。その舞い手の私の……匂いみたいのがついてるから、一杯来てくれる」
舞姫が精霊に愛されているからこそ出来る芸当だが、他の者たちは、別のことが気になっていた。
「舞姫さんの……」
「匂い、ですか」
最初に呟いたあずさはともかく、後に続いた鈴音の声が少し怖かった。
微妙な空気となるなか、達也が再び舞姫に作戦について尋ねた。
「舞姫は決勝についてはどう考えている?」
「普通に考えれば99.9%三高の勝ち。これが渓谷ステージとかだったら100%向こうの勝ちだったと思う」
まさかの返答に、周囲はざわついた。しかし、それを言われた達也本人も頷いている。
「続けてくれ」
「ん。三高の一条選手は妙に達也のことを意識しているのは、さっきの試合で分かる。だから、達也はそれに乗って、打ち合うしかない」
「ちょ、ちょっと待って。いくら達也くんが強いと言っても、それは厳しいんじゃないの?」
真由美の質問に達也以外の者も頷いていた。舞姫は少し考えると再び説明を始めた。
「単純に地力を比べれば、達也たちは二科生だし、三高の三人には敵わない。だけど、戦い方を知っているのは達也たちの方。それを生かせれば0.1%の勝利を掴める」
決して甘い評価ではないが、達也たちの勝利を疑っていないことが分かる舞姫の説明に、緊張気味であったテントの空気が柔らかくなる。
「だから、達也。心配しなくても大丈夫。私に頼る必要なんて、ない」
そう言われた達也は、珍しく驚いたような表情を浮かべる。そして、すぐに笑みを浮かべると舞姫の頭の上に手を置いた。
「俺も慣れないことをしていて緊張していたみたいだ。感謝するよ、舞姫」
「ん。傲慢不遜が達也には似合う」
「調子に乗るな」
「あぅ」
コツンと軽くチョップされ、頭を抱える舞姫の姿に、真由美やあずさ、鈴音までもクスリと笑ってしまっていた。
その内に決勝開始の時刻も迫り、達也たちは控え室に、深雪達は観客席に向かっていった。舞姫は、深雪にはついて行かず、真由美達と共にテントに残っていた。
「舞姫さんは、深雪さん達と一緒に見なくてよかったの?」
「うん。ご主人様達とは一緒に見てなかったから。皆は今年が最後だし、一緒に見たいの」
「ふふふ、それなら私たちも嬉しいわ。せっかくですし、座って見ましょうか」
そう言って真由美達は近くの椅子に座って観戦することにした。舞姫は毎度の如く誰かの膝の上に座ろうとしていたが、今回はというと。
「リンちゃん先輩、いい?」
「……………………………………はい」
鈴音であった。長い沈黙の後、鈴音が頷くと、舞姫はピョンと鈴音の膝の上に座った。その光景に周囲は絶句していたが、舞姫はそんなことは知ったこっちゃなかった。
「……まぁ、リンちゃんがいいならいいか。舞姫さんの言う通りになるよう、しっかりと応援しましょう」
真由美がそう言うと、テントに残っていた生徒達が一斉に頷いた。
そして、様々な名勝負や波乱に溢れた新人戦最終種目モノリス・コードの決勝戦開始のブザーが響き渡ったのであった。
新人戦は後二回ほどで終了かと。
九校戦編の終わりがようやく見えてきました……