詠唱があるとすれば、《重ね重ねよ幾重にも》でしょう。
新人戦モノリス・コード決勝戦。
様々なトラブルもあり、色々な意味で注目されていたが、その戦い方はシンプルであり、それだけに見応えがあった。
「まさか、あの一条選手と真正面から撃ち合えるだなんて……」
そう思っているのは真由美だけではなく、モニターを見つめる殆どの一高生徒が言葉を失っていた。
「達也の心臓には毛が生えてるから。でも、このままだと撃ち負けちゃう」
舞姫の言う通り、二人の距離が近付くにつれ、達也の防御が間に合わなくなってきていた。
「このままじゃじり貧だけど、何か策はあるのかしら?」
心配そうな視線で見守るなか、それは起こった。
レオと幹比古が倒され、それによって生まれた将輝の隙。それをついた達也が将輝に目にも留まらぬ速さで接近したことで、将輝は慌ててしまった。
明らかなオーバーアタック。大怪我以上に命までもが危ぶまれる出来事に将輝だけでなく、観客の殆どが息を呑んだ。
そんな中、その《殆ど》から外れる舞姫は、クスリと微笑み耳を塞ぐ。
「王手」
「え? 舞姫さん、今何て……」
真由美の言ったの、という言葉は、スピーカーからのけたたましい轟音により遮られた。
その音に皆耳を塞ぎ、何事かとモニターを見つめる。
そのモニターでは、魔法を撃ち込まれ倒れている筈の達也が立っており、圧倒的有利なはずであった将輝が気絶して地面に倒れている光景であった。
しかし、これには三高だけではなく、真由美達一高の者達も驚愕していた。
「ど、どういうこと!?」
真由美の叫びに自然とこの事を予測していたような発言をしていた舞姫に視線が集まる。
「詳しく説明するには難しくなるから簡単に説明すると、あれは古武術の応用技みたいなもの。皆琉神威流にも《剛体》っていう自己強化術があるけど、それにちかいかな?」
真実は異なるが、その真実を知らない者にとってはそれが真実になる。真由美も納得しきったわけではないようだが、克人の仲裁を受け、取り敢えず疑問を収めた。
「というか、耳、痛い」
うーうーと耳を押さえながら呻く舞姫の手を、椅子になっていた鈴音が押さえる。
「大丈夫ですか、舞姫さん?」
「うん。りんちゃん先輩も大丈夫?」
「はい。驚きはしましたが、ダメージはありませんよ」
のほほんと話す舞姫と鈴音だが、試合はまだ終わっていない。
将輝が倒され、そのショックで固まってしまった真紅郎。その大きな隙を、幹比古は見逃さなかった。
《地鳴り》、《地割れ》、《乱れ髪》、《蟻地獄》。
四連続で小さな魔法を発動させ、真紅郎を必要以上高く飛び上がらせる。
本来なら最後に止めとして《雷童子》を放つ予定であった。しかし、舞姫が達也と共にCADにプログラムした魔法は、その更に上位に当たる魔法。雷撃を放つ古式魔法としては、《雷童子》とは比べ物にならないほどの高ランクの魔法。
その名を《降御雷(ふるみかづち)》。
本来ならば視界に映る一面を稲光で埋め尽くすその魔法は、古式魔法に精通する舞姫と、魔法そのものに精通する達也の手によって簡易的にアレンジされていた。
それであっても、《降御雷》は真紅郎の周囲数メートルを覆い尽くし、その直撃を受けた真紅郎はそのまま地面に倒れ伏した。
「凄い……何て強力な魔法なの」
「本来、《降御雷》は対軍殲滅魔法だから。因みに私がアイス・ピラーズ・ブレイクで使ったのも《降御雷》のアレンジ。種目が決まってからお家にも協力してもらってプログラミングしたの」
「流石は十七家ですね。それをアレンジできた舞姫さんと司波くんも素晴らしいですが」
《降御雷》について話す間にも試合は続く。
真紅郎を倒され激昂した最後の三高選手が、幹比古に向かって魔法を放つ。魔法を連続で発動し、疲弊し切った幹比古では避けることは叶わず、幹比古自身も目を閉じ衝撃を待つしかなかった。
会場に響く、魔法が激突する轟音。しかし、自分に来るはずの衝撃を幹比古はいつまで経っても感じることがなかった。
目を開けてみれば、目の前には硬化魔法がかけられたマントの壁。それは、将輝に倒された筈のレオのマントであった。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
気合いの籠った叫びと共に、三高選手に小通連を叩き込む。
脳天に打撃を叩き込まれた三高選手は、その衝撃に耐えることが出来ず、そのまま倒れ混んでしまった。
広々とした草原ステージには、最強と謳われながらも倒れ伏す三高選手と、ボロボロになりながらも、何とか立つことの出来ている一高選手。
「……勝ったの?」
真由美がポツリと呟くと、段々とその事実が染み渡っていく。
「達也達の、私達の勝ちだね」
舞姫の勝ちという言葉に、一高のテントは歓声に包まれた。
「やったわね、舞姫さん! 新人戦優勝よ!」
ピョンピョンと跳び跳ねる真由美に手を取られ、ブラブラと腕を揺らす舞姫。鈴音の膝の上でそれをされているので、鈴音に物凄く振動を与えていた。
「会長。私の上で暴れないで下さい」
「何を言ってるのよりんちゃん! 優勝なのよ!? 今暴れないでいつ暴れるの!」
「少なくとも今ここでではありませんね」
そう言う鈴音も、口元が緩んでいる。トラブル続きだったのだから、作戦スタッフとして、もしかすると誰よりも嬉しかったのかもしれない。
「りんちゃん先輩、嬉しそう」
「ふふふ。そうですね、とても嬉しいです。舞姫さん達一年生が頑張ってくれたお陰です。ありがとうございます」
笑みを浮かべながらお礼を言う鈴音に、舞姫も笑顔を返す。
「十文字くん、あんな笑顔のりんちゃん初めて見たのだけれど」
「まぁ、悪いことではなかろう」
三分の二巨頭が何やら言っていたが、二人は気にする様子はなかった。
そんななか、舞姫は端末で誰かに電話をかけていた。
「あら、舞姫さん。どなたに電話ですか?」
「深雪に。おめでとうって」
幾度かのコールの後、深雪が電話にでる。
『ま、舞姫? どうしたの?』
電話口の深雪の声は涙ぐんでいた。その事を予想していた舞姫は指摘をせず、目的の言葉を口にする。
「おめでとう深雪。やっと、一つお願いが叶ったね」
『舞姫……、えぇ。ありがとう。他でもない貴女にそう言ってもらえて、とても嬉しいわ』
「達也にもお祝いしてあげたいけど、これから忙しくなるから、お祝いは後で盛大にやろうね。深雪の二冠おめでとうパーティーと合わせて」
『ふふっ、まだ気が早いわよ。でも、必ずやりましょうね』
「私も腕によりをかけてご飯作るから。じゃあね」
『えぇ。また後で』
電話を切ると、舞姫は鈴音の膝から飛び降りた。
「あら、どこかに行くの?」
「うん。試合が終わったら六瓢様に来てほしいってお願いされてるから」
またしても舞姫から飛び出す大物の名前に、真由美の笑顔がひきつりかけた。
「あ、そういえばご主人様」
「ん、なあに?」
「六瓢様がみんなと是非お話したいって言ってたよ。悠陽様と六瓢様、それに深螺様が懇親会に来るって言ってたから、もしかしたら声をかけられるかも」
「は? え、ちょ、ちょっと……えぇ!?」
「あ、そろそろ行かなきゃだから、行くね」
「待って、そのことについて詳しくぅぅ……」
真由美の制止は聞き入れられず、舞姫はテントから出ていってしまった。
「ねぇ十文字くん、私、十七家の至宝の方々とお話出来る余裕なんてないわ」
「……それもまた生徒会長の役目だ。頑張れよ」
「ちょ、ちょっと十文字くん? 逃げる気じゃ……十文字くん!?」
わざとらしく自分から離れようとする克人に、真由美は逃すまいと必死に追いかけるのであった。