因みに、原作との相違点によって、幸せになる人物と、人生nightmareモードになる人物が出てきます。
ヒント:風紀委員
九校戦の花形競技であるミラージ・バットが始まるとあって、会場の外はがらんとしていた。
そんな所に三人の男女が相対していた。
女性二人はどちらも他を圧倒するほどの美女であった。対する男の方は、中々に精悍ともいえるような風貌であったが、如何せん生気を感じることが出来なかった。
女性──悠陽は、そんなジェネレーターに対して、同情的な視線を向けていた。
「これも魔法の一側面というのは、中々に悲しいものです。我等にとっても他人事ではありませんね」
そんな悠陽の言葉に、もう一人の女性──綺沙羅が首を横に振る。
「確かに真理足り得ますが、我等にとってそれはあり得ません。貴女様がそのように思って下さいますから、そんなこと思わせまいと張り切ってしまうのですよ」
「あら、綺沙羅さんったら。では、そんな貴女達に恥じぬ戦いをしなければなりませんね」
戦闘兵器であるジェネレーターを前に、嘘のように朗らかに微笑む悠陽に、ジェネレーターはしびれを切らし、突撃した。
しかし、悠陽と綺沙羅は何の苦労もせずにその突撃をかわす。ジェネレーターが何度攻撃を仕掛けようとも、二人には傷一つつけられなかった。
「貴方が貴方の意志を持たぬ限り、どれだけ素早くとも私たちを捉えることはかないません」
「故に、終わらせます」
そう呟き、綺沙羅の姿が悠陽の隣から消える。次の瞬間、ジェネレーターの右足と左腕が消え去った。
突然四肢の内の二つを失ったジェネレーターは倒れこみ、立ち上がろうとするももがくことしか出来ず、血一つ零れぬままジェネレーターは息を引き取った。
「せめて、その呪いから解き放たれることを願います」
目を見開いたまま骸となったジェネレーターの瞳をソッと閉じさせる。
「さて、お仕事を奪ってしまいましたね」
スッと立ち上がり、後ろを振り向くと、三人の男女が悠陽達のことを見つめていた。
綺沙羅が頭を下げると、その中の女性、藤林響子が一歩前に出て頭を下げる。
「突然のご無礼をお許し下さい」
「そんなに畏まらなくてもいいですよ。ずっとそんなではお互いに疲れてしまいますわ」
そう言われても砕けて話せるわけもなく、失礼にあたらない程度の言葉遣いに直すことにした。
「煌武院悠陽様、独立魔装大隊大隊長風間玄信少佐が、此度の件についてお話したい事ががあると申しております」
「風間少佐ですか。先日冥夜が出向いたかと思いますが」
「その件についてのご報告です」
響子の申し出に悠陽は頷いた。
「此度は我々も色々と動かさせていただきましたし、説明もしなければなりません。是非ともお誘い、お受け致します。あぁ、申し訳ないのですが、この場の後始末、お願いしてもよろしいでしょうか?」
悠陽がにこりと微笑むと、綺沙羅も警戒心を少し和らげた。その様子に響子達は、心の中でホッと息を吐いたのであった。
響子は柳達にジェネレーターの後処理を任せ、悠陽達を案内する。
そんな響子に対して、悠陽が声をかける。
「重ね重ね申しますが、此度は貴殿方の領域を多く侵してしまいましたね。申し訳ございませんでした」
そんな悠陽の言葉に響子は首を振った。
「此方こそ謝罪をしなければなりません。我々の対応は後手に回っていました」
「ふふふ、これでは謝罪合戦になってしまいますね。では、別のお話にしましょうか。貴女から見て舞姫さんはいかがでしたか?」
軍とは繋がりのない舞姫であるが、古式魔法の名家である藤林の出の響子とは、個人的に面識がある。藤林少尉としては近付けなくとも、藤林響子本人として近付くことは、十七家としても多目に見ていた。
「率直に圧倒されました。現代魔法・古式魔法・CAD調整技術・作戦立案能力の全てにおいて、超高校生、いえ、日本屈指の実力だと感じました。それに、とても人気がありますし、高校三年間でどのように成長するか楽しみです」
祖父に命じられ世話をしていたのが始まりだが、お人形のように愛らしい姿で自分になついてくれた舞姫は、響子にとって年の離れた妹のような存在であった。
「ふふふ、今回は軍の施設ですから会わせてあげることは出来ませんでしたけど、夏のお披露目には藤林家にも招待状を出していますから、お話してあげて下さい」
「はい。是非とも」
そう話している内に、風間が待っている部屋に到着する。
響子が扉を開けると、そこには風間の他にもう一人、響子の祖父である九島烈が待っていた。
「あら、おじ様までいらっしゃるとは」
しかし、悠陽はさして驚かず、にこりと微笑むだけであった。
「突然お邪魔するのは失礼と思いましたが、お礼を言わねばと思いまして」
「嫌ですわ。おじ様にそのような言葉遣いをされてはお祖父様に怒られてしまいます。昔のように《悠陽》とお呼び下さい」
悠陽にそう言われて、九島は少し困ったように肩を竦めた。
「私にも立場というものがあるのだが……では、悠陽。今回の一件、心から感謝する。希望溢れる若人の夢を護れたのは悠陽達のお陰だよ」
砕けた口調ながら、九島は頭を深く下げた。
それに続けて風間は立ち上がって頭を深々と下げる。
「我等国防軍からも感謝と謝罪をいたします。手出し無用と豪語しておきながら、対応が後手に回り、被害を出してしまったこと、そして《無頭龍》の壊滅を貴殿方に任せてしまったこと、心から謝罪いたします」
頭を下げ続ける二人に対して、悠陽は柔らかに声をかける。
「頭をあげてくださいませ。我等が動いたのは私達の宝物を護るため。それに貴殿方の領域を侵してしまったことは事実なのです。ですが……そうですね。一つだけお願いを聞いていただいてもいいでしょうか?」
そう微笑みながら提案する悠陽は、単なる可憐な美女ではないと二人は感じたのであった。
大会委員による不正という驚愕の事実は、各校に通達された。しかし、不要な心配はさせまいと、必要以上に広まることはなかった。
舞姫の宣言通り、選手に対して直接害は与えられることなく、本選ミラージ・バットが始まった。
小早川は第一試合。小早川自身も実力者ではあったが、今回ばかりは相手が悪いとしか言いようがなかった。
「凄い……あんなに無駄のない調整に加えて、あの速さ……」
敵なれど、その見事さに小春は驚嘆してしまった。
「輝夜は《天神》だから。輝夜に勝てた姐さん先輩が凄い」
《天神》とは、十七家の長い歴史の中でも輝夜の他には二人しか名乗ることを許されなかった名であった。
第一ピリオドを終え、息を切らせながら帰ってきた小早川に、舞姫は水を渡す。
「こばやん先輩、大丈夫?」
「え、えぇ。鳳輝夜さん、凄いわね。流石は凰さんのお姉さんね」
「むぅ、どっちもオオトリだから分かりにくい」
「ふふふ、じゃあ、舞姫さん、かな。でもね、こんなに苦しい戦いなのに、とても楽しいの。全力を出し切っても敵わないような人に喰らいつきたい。舞姫さん達が護ってくれたおかげね」
そう言うと、小早川は舞姫を抱き締める。
「ありがとう、舞姫さん。最後の九校戦は、貴女のお陰で最高のものになりそうよ」
万感の思いを舞姫に告げる小早川。そんな小早川に、舞姫は一つの作戦を口にする。
「……ってするの」
「ふふふっ、それは面白そうね。三人で一泡吹かせましょうか」
そう言って元気よく立ち上がると、小早川は競技エリアに向かって行った。
疲れを感じさせない小早川の背中を、舞姫は少し申し訳なさそうに見つめていた。そんな、舞姫の分かりにくい表情の変化に、小春はしっかりと気が付いていた。
「どうしたの、舞姫さん?」
「ん、輝夜が強いといっても、こばやん先輩を勝たせてあげられなかったのが申し訳ない」
悔しそうに言う後輩の頭を優しく撫でる小春。
「小早川さんを勝たせてあげられなかったのは、私の責任でもあるわ。それに、舞姫さんのお陰で小早川さんは楽しいって言えたのよ。それは舞姫さんにしか出来ない、とても素敵なことよ」
「……ん。輝夜への借りは深雪経由で返してあげる」
そう言ってニヤリとすると、第二ピリオドが始まった。
既に輝夜の大量得点によりほぼ勝敗は決していたが、各選手懸命に競技を頑張っていた。それに対する礼儀とばかりに、輝夜も手を抜かず、圧倒的な勢いで得点を重ねていく。
そして、試合も終わろうとした時、輝夜とほぼ同時に小早川が飛び上がる。だが、輝夜の方が圧倒的に速く、小早川は足場に戻ろうとする。
輝夜は過去二年生間を含め、空を踏みながら競技を進めていた。BS魔法と言われてもおかしくない程の異能を以て他の選手を圧倒していた。
一月前に飛行術式が発表されたばかりである今、輝夜についていけるのは摩利以外にはいなかったが、舞姫は《天神》に抗う術を小早川に教えていた。
「っ!? これは、舞姫様ですね」
足場に降りる直前に跳ね上がった小早川に空中で抜かれ、優先権を奪われた輝夜は、困ったように眉をひそめる。
その一撃を最後に試合終了のブザーが鳴り響いた。
輝夜は小早川と同じ足場に降りる。
「小早川さん、最後にしてやられましたわ」
「舞姫さんに、一泡吹かせようって言われてね。どうでしたか?」
負けながらも小早川は、輝夜に対して握手を求めた。輝夜も笑顔でそれに応える。
「全く、とても驚きました。でも、決勝戦では油断しませずに《天神》となりましょう、とお伝え下さい」
挑戦的な笑みを浮かべた輝夜に、小早川は少し顔を赤らめる。その笑みはスクリーンに映し出されており、多くの男女を魅了していた。
「それでは失礼いたします」
「うん。あ、私達の後輩は強いわよ」
後輩とは深雪と舞姫のことである。そんな小早川の挑発に、輝夜は笑みを浮かべて応えるだけであった。
舞姫達の元へと戻った小早川は、舞姫に抱き締められた。とはいっても、身長差があるため腰辺りだが。
「お疲れ様、こばやん先輩。最後、格好よかった」
「えぇ。こんな言い方失礼だけど、スッとしちゃったわ」
小春も負けながらも一矢報いたことで晴れ晴れとした表情だった。
「あはは、ありがとう。負けちゃったのは残念だけど、楽しかったわ。特に最後の一発は最高だったよ。それで、鳳さんのスイッチが入ったみたいだけど」
「輝夜のスイッチ?」
「《天神》になるって言ってたよ」
その言葉に、舞姫は満面の笑みを浮かべた。
「《天神》輝夜の本気の本気。深雪が羨ましい。私のときはあくまで鳳凰の戦いだったから」
小春と小早川には舞姫や輝夜の言葉の意味はわからなかったが、とんでもない強敵が出現したことだけは予想がついた。
「あはは、これは、とんでもないものをよびだしちゃったかな?」
「だったら、私達も後輩達を支えなくちゃいけませんね」
そうして、先輩二人は最後に自分達の出来る力で、後輩達のことを支えることを誓うのであった。
次回は決勝戦。愛梨のミラージ・バット描写はオリジナルです。優等生で、どんな魔法使うか知っている方いたら、教えていただきたいくらいです。