登場人物たちの関係が原作とは変わってきていますが、ご了承ください。
様々な名勝負を生んだこの九校戦も、残すところ二競技となり、一競技は決勝となった。
予選で飛行術式を披露した深雪は、会場中から注目されていた。そんな中で注目の的である深雪と、新たに装飾品を身に付けた輝夜だけは落ち着いていた。
「あの簪がCADなのか?」
服部の問いかけに舞姫はコクリと頷いた。
「《月詠》は輝夜の為のオートクチュール。元々輝夜はBS魔法レベルで《月詠》を発動出来るから」
「鳳選手は本当に高校生なのか?」
高校生レベルを遥かに越えた実力を持つ輝夜に、服部は息を呑んでいた。
「私たちは英雄様とか深螺様とかにたくさん教えてもらってるから。それに、鵬とかCADの企業もあるから、魔法研究においてはとても恵まれてる」
「決してそれだけではないとは思うが……まぁ、凰や鳳選手がそれだけ努力をしているということか」
「ん。みんなスパルタ」
舞姫と服部は、普段はあまり接点はないものの、意外と仲がいい。食堂で一緒になると、同じテーブルで食事をするくらいには仲が良く、服部が十七家の話を聞いたり、魔法について議論を交わすこともしばしばある。そのため、親衛隊には要注意人物に位置付けられているのだが、本人たちはそれを知ることはない。
「しかし、凰からみて、司波さんの勝機はどれほどのものなんだ?」
「ん……実力から言えば互角かな? サイオン量では深雪の方が上だから飛行術式を使うなら有利だけど、輝夜は魔法の使い方がとても上手。しかも《月詠》を使うなら習熟度は深雪よりもずっと高い。サイオン量の消費は輝夜の方が大きいはずだから深雪の方が有利だからどうとも言いにくい」
「司波さん程でも難しいのか……」
「輝夜は《天神》だから。《至宝》の名はそれだけ重い。でも、深雪にだって十分勝機はあるよ」
「凰からそれだけ聞ければ安心できるな。すまないな、本番前に話し込んでしまって」
「ううん。はんぞー先輩とのお話は楽しいから構わない。でも、そろそろリンちゃん先輩の所に行く」
「……呼び方はそろそろ諦めるべきなのか」
相変わらずな後輩の態度に、頭を抱えている服部をよそに、舞姫は鈴音の元へと移動した。
「お話は終わったのですか?」
「ん。達也とかは会場の方に行っちゃったから、リンちゃん先輩と一緒に見る」
「それは嬉しいのですが、《羽衣天女》の調整などは大丈夫なのですか?」
個人としては舞姫が来てくれて嬉しい鈴音であったが、作戦スタッフとしての立場を優先した。
「それは達也がいるから大丈夫。元々FLTの術式を使えるから、《羽衣天女》の調整も問題ない。それに、調整は私がやったのだけで十分」
「ふふふ、それならば安心でしょうか。では、一緒に観戦しましょうか」
「あ、私たちも一緒に観ていいですか?」
話が落ち着いたところで南たち親衛隊メンバーも舞姫の周りに集まってきた。舞姫も鈴音も快く頷いたため、舞姫の周りは一段と華やかになっていた。
それを見ていた服部は、苦笑しつつも十文字に話しかける。
「決勝前だというのに、みなリラックスしていますね」
「普通なら注意すべきなのかもしれんが、そんな気も起きん。まぁ、それが凰の人徳なのだろうな」
十文字も、この小さな後輩が及ぼす影響力の強さには脱帽していた。その功績を考えれば、このぐらいのことは目を瞑るべきであると感じていた。または、止めた瞬間、恐ろしいことになることも承知していたのである。
「ともかく、俺たちも司波の決勝を見守ろうではないか」
十文字の言葉に、服部は集団からモニターへと視線を動かしたのであった。
多くの注目が集まる中、ついに決勝が始まった。そして、開始とともに会場は驚きに包まれ、大きな歓声が沸き起こった。
「やはり、全員が飛行魔法を使ってきましたね」
「でも、あの魔法はすぐに使えるようなものではないわ。選手の安全を軽視している」
飛行魔法の特徴ことを少なからず理解している真由美は、この状況に眉を顰めていた。
「それは否定しませんが、他校が術式をいじっていなければ大丈夫でしょう」
達也がそんなことを話したからか、会場で それは実証された。
選手の内の一人がサイオン不足により飛行魔法が途切れ、落下を始めた。しかし、すぐに落下速度が緩和され、安全に足場へと着陸することが出来たのである。
「飛行魔法は誰にでも使えるものですが、誰にでも使いこなせるものではありません。それだけに、深雪と張り合える選手は限られてくるでしょう」
次々と選手が羽を折られていくなか、最終ピリオドとなる。順位は輝夜がトップであり、僅差で深雪が二位、そして少し話されて愛梨が三位となっていた。
「鳳輝夜はどうだ?」
長時間飛行魔法を行使しているにも拘わらず、ほとんど息を切らしていない深雪。しかし、ポイントを上回られていることに少し不満げであった。
「素晴らしい方です。流石、舞姫が称賛していたお方ですね」
不満げであったとしても、深雪の目から戦意は失われていなかった。それどころか、戦意に満ち溢れている。
そんな深雪の表情に達也は笑みを浮かべると、深雪にCADを手渡した。
「それなら深雪。《羽衣天女》を使おうか。今の深雪なら使いこなせる」
「はい。舞姫に笑われぬよう、頑張ります」
満面の笑みを浮かべ、深雪は会場へと戻っていった。現状協議を続けられるのは、上位三人のみであり、深雪と張り合えるのは輝夜だけとなっている。
深雪は先に会場でスタンバイしていた輝夜を見る。すると、閉じていた目を開き、深雪に微笑みかける。決して嘲るような笑みではなく、好敵手が現れたことに喜びを感じているようだった。
そして、輝夜は髪に刺していた簪《月詠》を外す。束ねてあった髪が静かに舞い上がり、抑えてあったかのようにサイオンが輝夜を包み込んだ。
「《羽衣天女》となるならば、私は《天神》として貴女を上回りましょう」
遠く聞こえないはずであったが、深雪には輝夜の言葉がはっきりと聞こえていた。天上の女神の名に深雪は思わず震え上げる。しかし、その震えは嫌なものではなく、まさしく武者震いであった。
その返答として、深雪は舞姫から受け取った《羽衣天女》を強く握り、開始の合図とともに発動した。
これまでの飛行魔法とは格段に違うサイオン消費に、一瞬眉を顰めるが、その性能に歓喜した。しかし、それは輝夜も同様であり、これまでとはけた違いの速度で空中を自在に飛び回っていた。
「これが《天神》の鳳輝夜選手……」
本戦アイス・ピラーズ・ブレイクで繰り広げられた舞姫と輝夜の対決の時のような、まるで幻想の中に紛れ込んだような感覚に陥る真由美。観客たちも同様で、深雪と輝夜の空中での舞に息も忘れて魅入っていた。その美しさの中には愛梨も入り込むことは出来ず、静かに地上へと降り立っていた。
「まさか、こんなことになるなんて。恨むわよ、舞姫」
自分の実力不足とともに、魔法の可能性に触れることが出来た愛梨は、せめてもの恨み言を親友につぶやいた。
永遠にも続いてほしいと願っても、試合の時間は有限である。流石の深雪も、高性能の術式に、スタミナが尽きてきていた。
残り数秒にして、ポイントはほとんどイーブン。深雪は最後の力を振り絞り、最後になるであろう光球へと飛行した。そして、その光球をたたいた瞬間、終了のブザーが鳴り響いた。
「け、結果は……」
試合に夢中になっていたため、最後の方ではポイントの確認をしていなかった深雪は、慌てて会場のビジョンを見る。
ビジョンに映し出されていたのは自分の写真とポイント。それは、自分自身の勝利を表していた。
会場が大歓声に包まれている中、深雪は輝夜のことを探す。すると、輝夜は愛梨に抱えられていた。
「鳳さん!?」
深雪は驚き、思わず輝夜たちの足場に飛び移った。輝夜は疲労はしていたが、はっきりと意識を保っていた。
「はぁはぁ……、ははは、すみません。つい、張り切ってしまいました」
「大丈夫ですか、輝夜様?」
輝夜を支える愛梨も心配そうにしていたが、輝夜は愛梨に礼を言いつつ、一人で立ち上がった。
「ありがとうございます、愛梨さん。それと、優勝おめでとうございます深雪さん。ふふふ、最後の大会では、優勝を逃してしまいましたね」
そう言いつつも、輝夜の表情は非常に晴れ晴れとしていた。
「まさか《天神》になっても勝てないとは思っていませんでした」
「……私だけでは、鳳さんには勝てなかったと思います。ですが、私にはお兄様と舞姫がいてくれましたから」
「ふふ……そうですね。その組み合わせは少々反則です」
「そうね、ちょっと羨ましいわね」
輝夜と愛梨にそう言われてしまい、深雪も苦笑するしかなかった。
盛大な拍手に包まれながら、三人は会場の外に出る。達也や真由美に出迎えられていると、そこに、舞姫がやってきた。
「深雪、優勝おめでとう」
舞姫に抱きしめられ、深雪は屈んで舞姫を正面から抱きしめる。
「本当にありがとう、舞姫。私が勝てたのは貴女とお兄様のおかげよ」
「私は後押しをしただけ。帰ったらパーティーの準備をしなくちゃね」
「えぇ。盛大に開きましょうね」
舞姫は深雪から離れると、輝夜と愛梨に向き直る。
「輝夜と愛梨も準優勝と第三位おめでとう。今回は私たちの勝ち」
ブイと二人にドヤ顔を見せる舞姫。そんな舞姫に、二人は顔を見合わせて笑いあう。
「む、笑うなんてひどい」
「あはは、ごめんなさい。でも、そんな顔をしても可愛いだけよ?」
「はい。とても愛らしいですわ」
「むぅ……」
笑われてしまい、頬を膨らませる舞姫に、愛梨はツンとその頬をつつく。
「でも、司波さんや輝夜様の本気を見られてとても楽しかったわ。相手にならなかったことはとても悔しいけど、来年は負けないわ」
「む、私たちも負けない。目指せ、二年連続二冠」
「あら、それを阻むのが私たちの役目ね」
試合が終わってすぐに、未来のことを話す後輩たちに、輝夜は嬉しそうな表情を浮かべる。そして、真由美に声をかける。
「ふふふ、頼もしい後輩たちですね真由美さん」
「はい。来年、一緒に戦えないことが少しだけ寂しいです」
真由美も同じようなことを考えていたらしく、お互いに笑いあう。
そんな中、愛梨のエンジニアとして会場に入っていた真紅郎が達也の元へと来ていた。
「優勝おめでとうございます。今回は完敗です」
「そこは、素直にありがとう、といっておくべきかな」
達也の言葉に、真紅郎は頷いた。
「えぇ。僕たちは全力で挑んで負けました。悔しくはありますが、それ以上に貴方や凰さんの技術の素晴らしさに感服もしました。来年はこうはさせませんし、君とは横浜で決着をつけなければなりません」
全く折れていない真紅郎に、達也は苦笑を浮かべつつ手を差し出す。
「そちらには手を付けていないのだが……いつかは決着をつけなくてはな」
真紅郎も握手に応じ、宣戦布告をしていた。
「はい。貴方は僕にとってのライバルになりましょう。まだ、かなわないかもしれませんが、いつか、必ず」
多くの人を結び付けたミラージ・バットは、大声援の中終結したのであった。
九校戦もあと数話で終了です。
夏休み編はオリジナルになるかも。