九校戦が終わったら番外編書きたい。
会場や各校が歓喜に沸いた後の夜のホテル。その一室で、悠陽はとある人物と通信を行っていた。傍らには輝沙羅が控えている。
『……では、私たちに手出しはせぬように、ということでしょうか』
モニター越しで渋い顔をして言葉を絞り出していたのは、七草弘一。十師族七草家の当主である。そんな弘一に対して、悠陽は笑みを以て答える。
「はい。此度新人戦において一条のご子息が一高に敗退した件で、ご息女に対して十師族の意思を伝えようとしていることは聞き及んでおります」
悠陽の言葉に、弘一は悠陽に気づかれないように内心舌打ちをしていた。しかし、見えないはずの弘一の行動に、悠陽はしっかりと気が付いていた。
「本来ならば、我らがあなた方に口を出すことは無礼ですが、此度の九校戦において多発した『事故』において、魔法協会の不備は我らとしても看過できるものではありませんでした。結果、国防軍の仕事を奪ってしまいましたが……ともかく、九島家から便宜を図っていただきましたので、正式な依頼として口出し無用、と告げさせていただいた次第です」
本来、十七家は世界有数の魔法集団であるが、十師族の直属の上司というわけではない。しかし、十師族の一つに過ぎない七草家が大きな理由がないのにも拘わらず逆らうことが出来ないことも事実であった。
『……かしこまりました。我らが必要以上に口を出すことは控えることをお約束します』
「感謝いたしますわ七草殿。とはいえ、我々も選手の活躍を見たいのは事実ですし、一高に頑張っていただきたいことも事実なのです。なので、ご息女に激励をお送りください。親の声援程喜ばしいことはありませんから。では」
何をいけしゃあしゃあと、と感じたものの、弘一は表情を読まれぬように頭を下げたまま通信を切ったのであった。
通信を終えた悠陽は、輝沙羅の淹れたお茶を口にした。
「ふふふ。当主としての仕事は疲れてしまいますね」
「悠陽様。随分楽しそうでしたが?」
「あら、それはいけませんね。でも、一高に勝ってほしいのは、私も七草殿も一緒ですわ」
確かにそうなのだろうが、意味合いが全く違うことに悠陽が気が付いていないはずがないことは輝沙羅も理解していた。
この話は終わりといわんばかりに、悠陽は席を立つ。
「さぁ、今の私はただの一般人です。せっかく舞姫さんが祝賀会に招待してくれたのですから、急ぎましょうか」
「……あまり一高に迷惑をかけないでくださいね?」
自分の主人たちの自由奔放さに、少々の辟易と多分の使命感を抱きつつ、輝沙羅はうきうきしている悠陽の後ろに付いていくのであった。
「まだ競技は残っていますが、無事に総合優勝を決めることが出来ました。男の子たちは十文字君たちに遠慮して控えているみたいですけど、私たちは精一杯優勝に貢献してくれた人たちを祝いましょう。では、優勝おめでとう! かんぱーい!!」
「「「かんぱーい!!!」」
真由美の音頭に、華やかな掛け声が会場に響く。そんな中、居心地の悪さを感じているのは、ただ一人の男である達也である。
「……俺は男なのだがな」
「あら、お兄様ったら。女子競技の大活躍の立役者ではないですか。ね、舞姫」
「うん。はんぞー先輩にもオーケーもらったから問題ない」
「舞姫、意外と服部先輩と仲いいよね」
深雪たちの周りにいた雫がぽつりと呟いた。その呟きに点々としていた親衛隊が少しだけ殺気立った。
「り、リンちゃん!?」
「…………………………」
少し離れたところで震える生徒会長を尻目に、舞姫は説明する。
「はんぞー先輩との魔法談義は勉強になる。はんぞー先輩は色々な魔法を使うし、私も似てるから。それに、お菓子とかたくさんくれるし」
服部としては、こまい後輩に対してどう接すればいいか分からなかったため、とりあえずお菓子をあげているだけで、大した理由はないのだが、結果的に正解していただけである。とはいえ、舞姫の心をつかんでいることに対して、親衛隊がさらに殺気立つのであった。
「り、リンちゃん……何があったの?」
「なんでもありませんよ、なんでも」
「もう、や……」
真由美が早々に心折れそうになっていたが、二人の周りからは人が離れていっていた。
そんな三年連続二冠選手はさておき、達也は自分が担当した選手たちに囲まれていた。舞姫も達也の隣にいたため一緒に囲まれていた。
「それにしても、司波くんの調整したCAD、凄く使いやすかったよー」
英美の言葉に、みな頷いていた。
「それと、舞姫さんの魔法、どれもすごかった。深雪の《羽衣天女》も舞姫さんが組んだんだろう?」
「うん。とはいっても鵬技研で一緒に作ったものだけど」
「すごいよね。舞姫は、九條様達に色々教えてもらってるの?」
ほのかの問いかけに、みな興味津々である。
「うん。戦術とかは義実様だし、舞は深螺様、CADは大鵬の慎也様達に教えてもらってる。六瓢様にはお勉強も教えてもらってるかな。あと、御剣家の冥夜様には剣術とかも教わってるよ」
「なんというか、日本の名家勢ぞろいだね」
「まぁ、舞姫もその一員だから」
教師陣の豪華絢爛ぷりに、ほのかと雫は苦笑いをしていた。
「みんな厳しいけど、とてもタメになる」
「その顔ぶれなら、俺も教わってみたいぞ」
「なら、やってみる? 夏のお披露目には達也たちも招待するつもりだし、義実様達も達也に興味津々だったから」
まさかのオーケーに達也は頭を抱えた。慌てて深雪が気になったことを尋ねる。
「ねぇ舞姫。夏のお披露目って何のこと?」
「ん、深雪たちには言ってなかった。夏に色んな舞の成果を見せるためのお披露目会があるんだけど、それに何人か招待しようと思ってるの。開会式に見せた舞の本式の舞とか、神楽の《舞姫》としての舞とか、輝夜も《天神》の舞をやるの。私たちの舞は神様とか大地に奉納する舞だから一般公開は殆どないんだけど、夏のお披露目では一堂に会する。招待制だから、落ち着いて観られるよ」
一高には、良家の出の者も多いが、それでもなお、その豪華さに驚愕してしまった。
「それは……他の参列者の方も凄そうね」
「まぁ、うん。今回はご予定がつかなかったみたいだけど、皇族の方々にもお声をかけたみたいだし。私たちは元々皇族お付きの家だから、そういうご縁は多いの」
「……招待されたのは光栄なのだけど、畏れ多いわね」
深雪の言葉に一同頷くことしか出来なかった。
「今回は私たちの知り合いしか招待しなかったから、そんなに緊張する必要はない。有名な人が来ないわけじゃないけど、みんないい人だから」
「そういうことではないのだけれど……いいわ」
首を傾げる舞姫に、深雪は彼女が世界有数のお嬢様であることを再認識したのであった。
小さな祝賀会の後、達也は自室に戻っていた。深雪も着いていきたそうにしていたが、達也の疲労度を考え辞退していた。
そんな達也の部屋の扉がノックされる。声をかけるとそれは舞姫の声であった。
「舞姫? どうし、た……」
扉を開け舞姫を迎え入れようとすると、そこにいたのが舞姫だけでなかったことに動揺してしまった。
「夜分遅くに申し訳ありません。お時間、よろしいですか?」
そこにいたのは、煌武院悠陽。それを護衛する鵬輝沙羅であった。
「疲れてるところごめん。でも、どうしても説明しておきたいことがあったから」
「……構わない。荷物で散らかっていますが、どうぞ」
達也はすぐに気を取り直して三人を自室に招いた。椅子に腰かけた悠陽は開口一番に告げる。
「さて、貴方も風間少佐より聞き及んでいるかもしれませんが、《無頭龍》日本支部の面々は壊滅しました。輝沙羅」
「はい。横浜にて指示を出していたダグラス=黄らは私が殲滅いたしました。彼らはそのままにしておりますが、そちらの処理は国防軍にお任せしております」
「貴女は……ブランシュの件の際に舞姫といた」
「輝沙羅は私のメイドさん。ただ、戦闘型メイドさんなの」
舞姫の気の抜けるような説明に、緊張感が削がれそうになったが、何とか気を取り直す。
「では、もう全て終わっているのですね?」
「はい。ですので、今日はお休みなさい。いくら魔法で治療しているといえど、此度の活躍です。お疲れでしょう」
悠陽の言葉に、達也は僅かに反応してしまった。それを見逃す悠陽ではない。
「ふふふ、貴方の魔法は到底気付かれる類のものではありませんが、分かる者には分かるのです」
「分かるのは悠陽様くらいだから心配はいらないよ」
「……貴女たちを疑うことは出来ませんか。《千里眼》を有する貴女方は」
《千里眼》という言葉に、悠陽は笑みを深める。
「ふふふ、そういうことですわ。とはいえ、貴方の秘密を漏らすことはありません。千年規模での秘密もありますから、心配はご無用ですよ」
悠陽の笑みから何も読み取れないものの、信用という点では疑う余地はなかったため、素直に頷いた。
「それでは、私たちはこれで」
「失礼いたします」
悠陽は輝沙羅とともに達也の部屋を出た。しかし、舞姫は残っていた。
「舞姫は戻らないのか?」
「すぐに戻るけど、追加報告」
「追加報告?」
「うん。最後のモノリスについてなんだけど、みんな全力でやるんだって」
「は? あ、あぁ、そうなのか」
突然の説明に首を傾げる。話の流れ的に重要な話だと思っていたが、大した話題ではなかった。
「達也が一条選手に勝ったから、十師族から介入が来そうだったんだけど、悠陽様がそれを止めたの。みんなが頑張る姿を見たいからって」
「そうだったのか。……お礼をいうべきだな。なら、明日は見逃さないように早めに寝ることにするよ。舞姫も早く休めよ」
「ん。達也もお疲れ様。お披露目の時、パーティー開くことになったから、楽しみにしててね」
そういうと、舞姫は部屋を出て行った。
残った達也も休もうとしたが、ふと先ほどの舞姫の言葉を思い出す。
「十七家総出のパーティー……嫌な予感がするな」
舞姫にダダ甘な一族の開くパーティーに、底知れぬ不安を覚えた達也であった。