鳳凰の舞姫   作:天神神楽

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大変お待たせいたしました。これにて九校戦編完結です。


舞う姫の姿には心動かされ

 

 達也と悠陽の密かな会談の翌朝、達也は風間に呼び出されていた。

 「それでは達也も先日聞いたのだな?」

 「はい。昨夜に直接」

 達也の返答に、風間は大きくため息をつく。

 「結果を見ればありがたいのだが、今回の件で国防軍は十七家に大きな借りを作ってしまった。あの家々はそれを悪用するような所ではないが、胃が痛いな」

 悠陽からは気にすることはないと言われているものの、上層部からのメールのことを思い出し、風間は苦々しい表情を浮かべていた。

 「しかし、今回の件についてですが、国防軍といい十七家といい、一介の地下組織に対して分不相応な対応に感じましたが……」

 「そういえば達也には詳しく話していなかったな。達也、ソーサリーブースターという名に聞き覚えは?」

 「名前だけは」

 「そうか。《無頭龍》はその供給源だったのだ。そして、ソーサリーブースターは、魔法師の能力を飛躍的に上昇させる。そのような装置をばら撒く《無頭龍》は我らにとっても、そして十七家にとっても見過ごすことが出来ない存在だったのだ」

 「そして、その材料となるのが、魔法師の大脳だ。魔法師の存在を文字通り部品とするような存在、僕らであろうとも許すわけにはいかなかったんだよ」

 真田の言葉に達也も顔を顰めたが、それ以上何か言おうとはしなかった。

 そこで風間が場を取り直すかのように話題を変える。

 「まぁ、ここまで達也には高校生らしからぬことをさせてしまっているからな。まだ一高の試合には間に合うだろうし。そっちを観戦したまえ」

 「はっ。それでは失礼します」

 達也は風間の厚意に甘え、一礼して部屋を出て行った。

 

 会場に戻ると、最終競技とあってほぼ満席であった。しかし達也は気にすることなく、深雪たちを探す。

 「お兄様!」

 達也は、混雑の中、しっかりと深雪の声を聴き分け、その場へと向かう。

 「すまない、待たせたな。それより舞姫はどうしたんだ?」

 深雪の周りには、ほのかやエリカ達いつものメンバーはいたものの、舞姫だけが不在だった。

 達也の問いかけに、深雪は苦笑いしながら答える。

 「それが、舞姫ったら、鳳さんたちと観るらしくて。市原先輩がとても残念そうにしていましたよ」

 その鈴音に巻き込まれた真由美も残念そうにしていたのだが、そこまでが深雪も知ることはなかった。

 「全く、随分と仲良くなったんだな。一色選手たちとも一緒なのだろうな」

 「はい。一二三高揃って観ると言っていたので。さ、お兄様も座って下さい。そろそろ試合が始まりますよ」

 深雪のいう通り、会場のモニターには十文字たちがスタンバイしている映像が映されていた。

 「十文字先輩のモノリス、凄い楽しみ」

 この競技の大ファンである雫の目は輝いていた。

 「十文字先輩は当然だが、他の二人も見逃してはいけないぞ」

 「服部副会長と辰巳先輩ですね」

 「あぁ。辰巳先輩は単一系統の魔法が素晴らしい。そして、服部先輩の魔法の使い方に関しては深雪が見習うべきことも多い」

 色々と確執のある服部だが、達也はその実力をしっかりと認めていた。深雪が及ばない多様性は、是非とも見習ってほしいと思っているほどだ。

 「それに、服部先輩は舞姫も認めているほど魔法の造形が深い。それも込みで見逃さないようにな」

 達也の言葉に、深雪だけでなく、他の面子も見逃すまいとモニターを注視し始めた。

 そんな光景に苦笑しつつ、達也は舞姫が面倒を起こしていないか少しだけ心配するのであった。

 そして、そんな心配をされていた舞姫はというと。

 「あぁ、舞姫ちゃん。ほっぺたにアイスが付いていますわ」

 「むぐ……深螺様。ちょっと痛い」

 「ふふふ。はい、綺麗になりましたわ。うん、いつもの可愛い舞姫ちゃんね」

 水無瀬家の当主に世話を焼かれまくっていた。

 その光景を輝夜は羨ましそうに見ていたのだが、一緒に観戦していた愛梨や栞は頬を引きつらせていた。沓子はそれを楽しそうに眺めている。

 「もう、深螺様。舞姫様を独り占めしないで下さいませ。ズルいです」

 「あら、輝夜ちゃんったら。せっかく九校戦に来たのに、今まで舞姫ちゃんと一緒に観戦できなかったのです。少しくらい楽しませて下さいませ」

 舞姫を膝の上に置いた深螺は、舞姫の頭を撫でながら輝夜に言う。それを輝夜はムムムと見つめていたのだが、観念してその隣に座った。そして、騒動の張本人である舞姫はわれ関せずとばかりにアイスを食べていた。

 「ねぇ、舞姫。止めなくていいの?」

 「むぐ? ……むぐ。うん。大丈夫。輝夜も深螺様も仲良しだから」

 「それはそうなのだろうけど……まぁ、他家のことだし、口出しはしないわ」

 「そんな大したことではないけど……」

 本当に大したことではないので、愛梨も二人を放っておくことにした。

 「舞姫は、十文字選手を攻略するならどうやる?」

 栞は舞姫と同じアイスを食べながら舞姫に質問をする。

 「ん……十先輩のファランクスは鉄壁。しかもモノリスは直接攻撃禁止だから、十先輩の魔法構築よりも速く魔法を発動する必要がある。でも、十先輩はそれも速いから、凄く難しいかな」 

 「そうね。過去の九校戦の試合の映像を見たけれど、十文字選手は全体的に超高水準ね。でも、舞姫は模擬試合でファランクスを破ったのでしょう?」

 舞姫が模擬試合でとはいえど、ファランクスを破ったことは大きな噂となっていた。

 「そのときはたつみん先輩に張られていたファランクスだったから。十先輩との勝負には負けちゃった」

 「私からしてみれば、それだけでも凄いと思うのだけれど……」

 「愛梨の言う通りね。私では対抗法を思い付かないわ」

 愛梨も栞も舞姫の実力に両手を挙げた。

 「そんなに難しく考えなくても、要は、スピード上げて物理で殴るっていう感じ」

 「モノリスは物理NGでしょうに。まぁ、それも含めて舞姫は凄いのね」

 ざっくりとした説明に愛梨は舞姫の頭をポンポンと叩いた。

 「みな、雑談はそれくらいにしたらどうじゃ? そろそろ始まるぞ」

 沓子の言う通り、二校の準備は終わっていた。そして、試合が始まると同時に、辰巳を残して服部と十文字が前に出た。

 「十文字選手がディフェンスではないのね」

 「この人数では、十文字さんをディフェンスに置くのはもったいないです。それに、辰巳選手のディフェンス力は素晴らしいですし、十文字さんをオフェンスに回すのはよい判断です」

 愛梨の呟きに深螺が答えた。

 「十先輩、体がおっきいから、突進されると凄く怖い」

 「まぁ……そうね」

 舞姫の言う通り、三高選手がタックルされて吹き飛ばされていたのだが、釈然としなかった愛梨であった。

 「私からすると、服部選手の魔法の使い方が気になるわ。使い分けが勉強になるからね」

 テクニカルな戦術を得意とする栞としては、服部の魔法に興味があった。達也が素直に認めるほどの腕前を持つ服部は、十文字同様、多くの選手に注目されていた。

 「彼は……あぁ、刑部の。十師族のような突出したものはありませんが、全てのレベルが高いですね」

 深螺も同じく服部のことを認めており、一高のレベルの高さに驚いていた。

 そして、三高の選手が十文字のタックルに吹きとばされると、試合終了のブザーが鳴った。

 負けてしまった三高だったが、愛梨は舞姫に手をさしのべる。

 「優勝おめでとう。今年は残念だったけど、来年は必ず勝つわ」

 「ん、受けてたつ。今から来年が楽しみ」

 そんな二人に栞と沓子も加わり、来年のことを想像し話に華を咲かせていた。

 その横から、輝夜が複雑な表情を浮かべながら四人のことを見つめていた。

 「ふふふ、寂しそうですね。そんな表情をしていたら、舞姫ちゃんに心配されてしまいますよ?」

 深螺に指摘され、輝夜は苦笑を浮かべた。

 「失礼いたしました。舞姫様に、こんなにも素晴らしい友人が出来たことが嬉しいのですが、反面、羨ましく思いまして。私は七草様や十文字様とはあまり友誼を結んでいませんでしたから」

 輝夜の実力は、同年代ではトップクラスである。だが、同じくトップクラスである真由美や摩利とはあまり交流をしてこなかった。家と家との繋がり等理由があってのことだったが、こうして愛梨達と仲睦まじげに話し合っている様子を見ると、やはり羨ましくなってしまった。

 そんな輝夜に、深螺はクスクスと微笑んだ。

 「ふふ、《天神》とは言えど、貴女もまだ18。諦めるなんてまだまだ早いですよ? このあと折角交流会があるのですから、楽しみなさい。そうですね、悠陽様が真由美さんとお話したいみたいですから、それに付き従うのか良いですね。いくら七草のご令嬢といえども高校生一人に悠陽様のお相手をしていただくというのは酷というものです」

 「あら、深螺様ったら。……そうですね。是非そうさせて頂きます」

 不敬とも取られかねない深螺の言い方に、輝夜は思わず笑ってしまった。

 一方。

 「…………な、何だか悪寒が。鈴ちゃん?」

 「はい」

 「……鈴ちゃんじゃないか」

 「はい?」

 観客席で優勝を喜んでいた真由美は、えもいわれぬ寒気に襲われていたのだった。

 

 

 十日間の長い日程を終え、九校戦も残すは後夜祭のみとなっていた。

 大会後ということもあり、前夜祭とは異なり各校の生徒たちが積極的に交流しており、とても華やかなものとなっていた。

 そんな中舞姫は、二人の女性と話していた。

 その二人は崇司聖璃と難波京。共に其々の家の当主であり、舞の名主である。

 「中々お話出来ず寂しかったけれど、こうしてお世話出来て嬉しいわ」

 聖璃は満面の笑みを浮かべながら、舞姫のお世話をしていた。そんな聖璃のことを京は呆れた様子で見ていた。

 「全く、崇司の当主なのにそんな顔しはって。それより舞姫はん。お友達の所に行かんでええの? 折角の後夜祭なんやし、お話してきてもええよ」

 京の言葉に、舞姫は頬を膨らませたまま首を横に振る。

 「ん……ごくん。みんなとは後でお話しするから。それに、聖璃様と京様とはあんまり一緒にいられなかったから」

 「ふふ、ほんに嬉しいこと言ってくれるなぁ。じゃあ、一緒に回りましょ」

 「うん。聖璃様も一緒に来てくれる?」

 「勿論よ。舞姫ちゃんのお友達に挨拶させてくれる?」

 「ん。あ、でもみんな忙しいかも」

 舞姫と親しい者達は、みな誰かしらに囲まれていた。

 一年生ながら大活躍であった深雪は様々な人物に囲まれていたし、達也も多くの技術畑の者達に囲まれていた。最も目立つのは、悠陽に声をかけられ、なおかつ、六瓢や英雄達重鎮に囲まれている真由美であった。何とか笑顔で対応していたが、スカート中では足がガクガクと震えていた。

 「んー、あ、ほのか」

 そんな中、雫と二人で過ごしていたほのかを見つけ、舞姫はほのかに飛び付いた。

 「きゃっ!? あ、舞姫。どうしたの?」

 突然の衝撃に驚いたほのかだったが、相手が舞姫だと分かるとすぐに抱き止めた。

 「ほのか達に二人を紹介したいと思って」

 「紹介? あ、一色選手?」

 「ううん。あ、来た」

 舞姫の視線を追い、その二人が眼を入ると、ほのかは固まった。

 「舞姫はん、そんな走ったら危ないで?」

 「元気な舞姫ちゃんも素敵だけど。それで、そのお二人がお友達?」

 「ん。こっちがほのかで、こっちが雫。二人とも同じクラスのお友達」

 随分と雑な紹介だったが、聖璃と京は嬉しそうに微笑んでいた。

 「初めまして、ほのかさん、雫さん。私は崇司聖璃です。舞姫ちゃんと仲良くしてくれてありがとうございます」

 「ウチは難波京申します。ほのかはんと雫はんやね。テレビでしか見れんかったけど、二人とも素晴らしい魔法やったわ。特にほのかはんの光、美しゅうございました」

 「は、へ、こ、光栄でふっ!?」

 「ありがとうございます」

 テンパりまくりなほのかに対し、雫は落ち着いていた。 

 「そんに、固くならんといて。そうやなぁ……あ、そういえば、二人とも夏の御披露目には来はるのやろ?」

 「は、はい。舞姫に招待されましたので」

 「それやったら、私達からも札あげるさかい、良い席で見とくれやす。聖璃もええやろ?」

 「勿論。丁度二枚ありますから……はい、どうぞ。無くしちゃ駄目よ?」

 ぱちんとウインクされ渡されたが、その意味が分からず首を傾げるほのかと雫。

 「えっと、ありがとうございます?」

 「ありがとうございます」

 その二人の様子に、京も首を傾げた。

 「なんや、舞姫はんに聞いとらんの? まぁ、簡単に言えば、それは入場券みたいなもん。もう一枚あればええんやけど……お、深螺はん。ちょいと、こっち来とくれやす」

 偶々近くを通りかかった深螺を呼び止める京。更なる重鎮の追加に、ほのかの目はグルグルし始めた。

 「あら、お話をしていると思ったからそっとしておいたのですけど。私も加わっていいのかしら?」

 「ん、深螺様ともお話したい」

 舞姫にそんなことを言われれば、拒否するはずが無いのが十七家である。 

 「それなら、ご一緒させてもらいます。貴女方は……舞姫ちゃんのお友達ね。私は水無瀬深螺と申します。ほのかさん、でしたね。貴女の光を拝見しましたが、とてもお美しゅうございました。そして雫さんも。大胆にして強大なあの魔法は、見ていてとても気持ちの良いものでした。お二人とも御披露目にはいらっしゃるときいております。是非、我らの舞を楽しんで下さいね」

 「そんでな、そのことで深螺はんからも札を出して欲しいんや」

 「私達は是非にとお渡ししています。お二人には特等席で見ていただきたくて」

 二人の話を聞いた深螺は、懐から札を二枚取り出しほのかと雫に渡す。

 「こちらは私の物です。そういえば、舞姫ちゃんは渡していないの?」

 深螺に言われ、自身が渡していないことを思い出す。

 「うっかり。じゃあ、二人に。……四枚じゃキリが悪い」

 「そうやなぁ。ここに来てはる中だと……あ、輝夜はんやね」

 そうして一行は輝夜の方に眼をやると、悠陽から解放された真由美を介抱していた。

 「ありゃ、お取り込み中やろか?」

 「多分大丈夫。行こ」

 舞姫を先頭に輝夜(と真由美)の元へ向かう。

 「あら舞姫様。皆様勢揃いでいかがいたしました?」

 豪華絢爛なメンバーに輝夜も少し苦笑いである。真由美は足がガクガクしていた。

 「輝夜に御披露目の札を貰いに来たの。二人に渡してほしくて」

 輝夜は聖璃達を見て、大体の事情を察していた。

 「それは是非とも。折角ですから、真由美さんにもお渡しいたしますね」

 輝夜は快く三人に札を渡した。

 「これでほのか達は五枚ゲットしたから、特等席で見られる」

 「そ、そうなの?」

 「その……これはどういうものなんですか?」

 いきなり札を渡された真由美は首を傾げていた。

 「二人にはさっき言うたけど、特等席への招待チケットみたいなもんどす。一枚で一段上の席で、三枚で十七家と同じ席で、五枚で当主と同じ席で見れるんよ。折角やし、真由美はんにも後で送ろか?」

 「そ、その、とても嬉しいのですが……」

 十師族の長女である真由美が十七家の長と並んで秘伝の舞の数々を見学するというのは、流石に問題になりかねない。

 京もわざと言っていたのですぐに訂正した。

 「ふふふ、すんまへん。一枚に絞っておきましょ。今年はウチや聖璃はん、それに舞姫はんと輝夜はんも舞うし、深螺はんや神楽はん。それに美禰様も舞うから、久し振りに二日間に渡って開催するんよ。せやから、見所たっぷりやで」

 「私は二日目の夜から」

 「私は一日目の宵時からですね」

 ホッとして良いものか悩んだ真由美だったが、幸か不幸か、時間がやってきた。

 「あら、楽しい時間は早いですね。では、私達はこれで。また、御披露目の時にお会いしましょう」

 「十七家総出演の御披露目、是非とも楽しみにしていてくださいませ」

 京達が退室し、会場には魔法科高校の生徒達のみとなる。

 そして始まるのは、少年少女が嬉し恥ずかしながらも楽しみにしていたダンスパーティーである。

 深雪や愛梨、その他華々しい活躍をした者達がペアを組んでいく。

 そんな中、唯一一年生で本戦二冠を達成した舞姫が最初のパートナーに選んだのは。

 「一緒に舞お? 《天神》様?」 

 「えぇ。慎んでお受けいたします。《舞姫》様」

 恭しく手を差し出した輝夜と静かにその手を取る舞姫。余りにも嵌まり過ぎていた少し気障なそのやり取りに、側で眺めていたほのかと雫は照れてしまった。

 その後、一曲目ということもあり、深雪と将輝のペアや達也とほのかのペアなど、目立つペアが多くいるなか、舞姫と輝夜のペアは一際目立っていた。

 「同じ舞台に立つことはありましたが、このように共に踊るのは初めてですね」

 「うん。輝夜のリードは踊りやすい」

 「私がこの舞台に立てるのは今年で最後ですから、二高の娘たちに練習相手になってもらったんです」

 練習の甲斐あってか、輝夜の男性側のダンスは美しく、どんな男子生徒よりも凛々しかった。

 舞姫も輝夜も楽しげに踊っていたが、一曲目が終了する。

 「終わっちゃった」

 「このまま続けて踊っていたいですが、それでは皆さんに恨まれてしまいますね。舞姫様も楽しんで下さい」

 「うん。ありがと、輝夜」

 輝夜と離れた舞姫は、次のパートナーを探すのではなく、休憩とばかりに飲み物と料理を探そうとしていた。

 そんな舞姫に対して声をかけようとする男子もたくさんいたのだが、それ以上に女子達が熱狂していたため、近寄ることは出来なかった。

 そんな中で、舞姫に声をかけたのはジュースを持った愛梨だった。

 「舞姫」

 「あ、愛梨」

 愛梨からジュースを受けとる舞姫。そのジュースを嬉しそうに呑む姿に愛梨は内心ほっこりした。

 「輝夜様とのダンス、とても素敵だったわ。あれじゃ、並の男性では誘えないわよ」

 「私としては気にしないけど。愛梨も踊る?」

 「私はいいわ。魅力的ではあるけど、貴女達の踊りは見ていたいのよ」

 誘いを断られた舞姫は、少ししょんぼりとしたが、すぐに立ち直る。

 「じゃあ、マッキーと踊ってみたいな」

 「マッキー? 誰、その油性マジックみたいな人は?」

 突然の不思議な名前に愛梨は怪訝そうに首を傾げる。

 「だから、一条選手。まさき、だから、マッキー。因みに、吉祥寺選手はくりむー」

 「クリムゾンだから、よね……まぁ、紹介ならしてあげるけど……」

 呆れつつも将輝と深紅郎を探す愛梨。噂をすればとは言うが、二人は揃って歓談していた。

 「一条くん、吉祥寺くん」

 愛梨に声をかけられ振り向く二人。その愛梨よ傍らにいる舞姫を見て、二人は苦笑する。

 「ははは、噂通り、一色さんは凰さんと仲がいいんだね」

 「それより、どうしたんだ?」

 「舞姫からのご指名よ。よかったわね、一条くん」

 「へ?」

 愛梨の言葉にポカンとした将輝。そんな将輝の手をとる舞姫。その瞬間、一高と二高の女子生徒の一部から凄まじい殺気が溢れた。

 「え? ちょっ!? 何だこの殺気!?」

 「一緒に踊ろ」

 「か、構わないから、取り敢えず引っ張るのは止めてくれ!」

 背の低い舞姫に引っ張られているため、不安定な姿勢になっている将輝。そんな二人を見て、深紅郎は笑っていた。

 「ははは、あの将輝が形無しだ」

 「珍しいといえば珍しいわね。司波深雪さんと踊っていたときは嬉しそうだったけど」

 「あぁ、それは、司波達也と司波さんが兄妹だって気づいたからみたいだよ」

 「一条くん、まさか気付いてなかったの?」

 将輝のあまりの鈍感振りに、思わず尋ね返してしまう愛梨。

 「そのまさかだよ。どちらも司波って呼んでたのにね」

 相方の情けなさに肩を竦める深紅郎。愛梨もそれにはため息をついてしまっていた。

 一方、ダンスエリアに引っ張られた将輝は、意外にも上手に舞姫のパートナーを務めていた。

 「ん、上手上手。もしかして練習してた?」

 「練習といえば練習だが、十師族としてこういう機会があるんだ。それより、流石は凰家というべきか、今までで一番踊りやすいよ」

 「深雪よりも?」

 「……その返答は卑怯だ」

 口でも勝てないことを悟った将輝は、大人しく舞姫をエスコートすることにした。

 そんな中、舞姫は不意に口を開く。

 「マッキーは今回の九校戦、どうだった?」

 「そうだな……凰さんを始めとしてだが、完敗だよ。司波さんや司波の実力もそうだし、凰がエンジニアを務めた二人にもそうだ。だけど、負けたことを含めても、楽しかった。もちろん悔しいけどな」

 悔いのない晴々とした将輝の言葉に舞姫は嬉しそうに笑う。

 「それなら良かった。今度金沢に行ったら、湖園舞(こえんのまい)を見せてあげる」

 「湖園舞? 初めて聞いたが?」

 「そかは歴史のお勉強。金沢に縁のある舞なの。妹さんやお父さんお母さんと見にきて。お忍びでになるけど」

 十師族である一条家を招待するとなれば、少々問題が生じる。将輝は父親である剛毅にどう説明すべきか悩むことになった。

 「わかった。親父にも話してみるよ」

 「ん。こっちも準備しておく」

 この承諾により、一条家男性陣の胃を破壊することになるのだが、この時将輝はそんなことになるとは思っていなかった。

 

 「じゃあまたね、舞姫」

 「ん。愛梨も。落ち着いたら連絡するね」

 将輝と踊り終え、愛梨たちとも別れた舞姫。相変わらず注目の的だが、輝夜と将輝の次に踊ろうという猛者は中々現れなかった。

 そんなところに一人の女子生徒が舞姫に声を掛けた。

 「舞姫さん」

 「あ、さくらん先輩」

 さくらん先輩こと、三高生徒会会計の八重櫻であった。

 「あら、さくらん先輩だなんて。ふふふ、ありがとうございます。改めて、本戦二冠と一高の総合優勝、おめでとうございます」

 「ありがと。さくらん先輩は踊らないの?」

 「えぇ。私はダンスはあまり得意ではないのです。ですので、私とお話して下さいませんか?」

 「もちろん喜んで。さくらん先輩とお話したい」

 舞姫は殆ど話す機会がなかった櫻と話せると嬉しそうに櫻の手を引っ張る。

 「まぁ、そんなに引っ張らないで下さい」

 「あぅ、ごめんなさい。じゃあ、立ちながらでもいい?」

 「えぇ。舞姫さんとは魔法のことの他にも色々話したいですから」

 櫻の言葉に、舞姫は嬉しそうにさまざまなことを話す。ファランクスが如何に強固な魔法か、舞の楽しさ、果てには深雪の恥ずかしいミスなど、本当に様々なことである。

 「で、はんぞー先輩がお菓子をくれたから、リンちゃん先輩にもお裾分けしたの」

 因みに服部はこの時、死兆星の輝きを見そうになっていた。

 「ふふ、一高の生徒会はとても楽しそうですね」

 「うん。ご主人様もだけど、あーちゃん先輩とのお話も楽しい。CADが大好きだから、私の話をとっても楽しそうに聞いてくれる」

 因みにこの時のあずさの行動には、他の生徒会役員+風紀委員長+会頭もドン引きであった。

 「ふふふ……あら、少々話しすぎてしまいましたね。舞姫さん、ラストダンスはどなたと踊るのですか?」

 「ん……折角だから、はんぞー先輩と踊ろうかな。さくらん先輩、一杯お話聞いてくれてありがと」

 手を振り服部を探しに行く舞姫に手を振り返す櫻は、あまり面識のない服部の行く末を案じる。

 「でも、舞姫さんと踊れるのであれば、その苦しみもやむ無し、と言ったところですか」

 そう微笑む櫻の視線の先には、舞姫に捕まった服部とそれを女子が見せてはいけないような死線を放つ親衛隊たちであった。

 

 九校戦編 完

 




輝夜→将輝→服部。順に死線が強くなっています。
夏休み編はオリジナルのお披露目会編です、舞姫は海には行きません。あしからず。
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