九校戦のメンバーも決まり、練習も本格的に始まった。本戦二種目にエントリーされた舞姫ももちろん練習を行っているのだが、現在舞姫は出場するわけではないモノリス・コードの練習に参加していた。
「……ヒロ先輩から三時方向十メートルにこー先輩、シン先輩の正面八メートルに十先輩。む、はんぞー先輩は私が行く」
精霊魔法を用い、相手の位置を仲間に伝えると、舞姫自身は服部のもとへと向かう。
「……ぬいぬい」
小さく呟き、舞姫は服部の足元に向けて小さな針を打ち出す。
「くっ、そこか!」
直前で攻撃に気付いた服部はその方向に魔弾を撃ち込む。しかし、舞姫は反対方向の木の上から無音で飛び出し、小刀を振り抜いて斬撃を文字通り打ち出し、服部の鳩尾に斬撃をたたき込む。
「ぐあっ!」
意識の外から急所に攻撃をたたき込まれ、耐えきれず跪いてしまう。その隙を見逃すはずもなく、舞姫は服部のヘルメットを取った。
「私の勝ち。服部半蔵の名は私のもの」
「……だからそれは止めろと」
痛みに耐えながらも、突っ込むことは忘れない服部。
しかし、そんなやりとりも試合中では流石の舞姫も切り上げる。辺りに散開させていた精霊達が、他の二人が倒されたことを知らせてきたからである。
「二対一……がんばろ」
二人よりも先に、モノリスの前に位置取る舞姫。
「ほう、服部はやられたのか」
モノリスの前に舞姫がいることに感心する辰巳。少し遅れてやってきた十文字も感心した様に舞姫を見つめていた。
「少し本気でいく」
そう言うと、辰巳に向けて斬撃《峰飛ばし》を打ち出す舞姫。一振りで無数に飛ばした斬撃が辰巳を襲う直前、辰巳の前に現われた壁に全て阻まれる。
「む」
「二対一なのは少しすまねぇが、行くぞ!」
辰巳は舞姫の斬撃を十文字に任せ、正面から舞姫に襲いかかる。
無数の魔弾と、虚空から現われる壁の圧力に、舞姫は避けることに専念する。しかし、防戦一方ながらも、モノリスに近付かせないために、素早く牽制の雷撃を放っていく。その雷撃も十文字の《ファランクス》に阻まれるが、舞姫は気にすることなく、どんどん魔法を放ち、二人の距離を広げていく。
「……っ、そこ」
そして、二人の魔法が同時に途切れた瞬間、舞姫は自己加速術式を発動させ、辰巳の背後に目にも留まらぬ程の一瞬で移動する。
「なっ!?」
「くっ」
十文字も急いでファランクスを発動させようとするが、舞姫にはその一瞬で十分であった。
「寸勁(改)」
移動した後の一瞬でCADを発動させ、辰巳から数センチ離れた場所から魔法を発動させる。
「ぐあっ!!」
その魔法によって、遠くの木まで吹き飛ばされる。舞姫はそのまま動きを止めることなく、すぐさま前に飛び出し、十文字の方へと移動しようと動き出す。
「……仕方あるまい」
十文字は自身も後ろに飛び退きながらCADを操作し、舞姫の五方向にファランクスを展開させた。
舞姫は壁にぶつかる前に停止し、壁をコンコンと叩く。
「むぅ……降参」
舞姫が両手を挙げると、簡素なサイレンが鳴り響く。
それを聞いた十文字がファランクスを解除する。壁から解放された舞姫は、少し悔しそうに十文字の元へ歩いてきた。
「負けた」
「いや、俺たちの敗北だろう。これはいわば反則技だからな」
舞姫は悔しそうだが、十文字は反則技を使ったため、自分達が負けたのだと思っていた。
「そうだぜ。まさか、あんな手があったとはな。完全にしてやられたぜ」
痛みを堪えながらもこちらにやってきていた辰巳が舞姫の頭を荒々しく撫でる。森の方から、お腹を押さえた服部もやってきて、辰巳にされるがままになっている舞姫を見て、ため息をついていた。
「全く、戦闘の時とはまるで別人だな」
「そう言うな。しかし、凰。精霊魔法の脅威、非常に勉強になった。それに、ファランクスへの対処法についてもな。礼を言う」
「どーうーいーたーしーまーしーてー」
頭を揺らされながらなので、妙に間延びした返事である。服部の言うとおり、戦闘時とは別人な舞姫に、十文字も小さな笑みを浮かべたのだった。
練習試合も終わり、参加した六人でスタッフの元へ帰ると、盛大な拍手で迎えられた。
「凄かったわ、舞姫さん! まさか、十文字君のファランクスを攻略するなんて」
一番興奮していたのは真由美であった。一応、負けた舞姫たちであったが、十文字の言葉の通り、十分すぎる戦果であったのだ。
「ん、最後に閉じ込められたから、完全攻略は出来なかった。今度は絶対負けない」
それでも不満げな舞姫に、真由美は十文字と共に苦笑を浮かべる。
「それでもお疲れ様。さ、汗を拭いて」
「ん」
小さく頷くと、舞姫は汗を拭こうとする。すると、小さな舞姫の体はヒョイと持ち上げられた。
「お疲れ様、舞姫ちゃん! こっちで休も!」
舞姫を持ち上げたのは、二年生の先輩。すっかり舞姫の可愛さとその強さに魅了された舞姫親衛隊なる組織である。舞姫も抱き上げられることに抵抗はないのか、されるがままにしていた。
「はい。レモンの蜂蜜漬け」
「ありがと。ん、おいし」
あーんと差し出されたレモンをぱくりと食べ、もぐもぐと食べる舞姫。その姿に舞姫親衛隊はメロメロである。
その光景を、真由美や鈴音、そして舞姫以外のモノリス・コードの参加者は苦笑しながら眺めていた。
「はは、大人気だな」
「というか、こちらにも飲み物くらい欲しいものだ」
選手よりも歓迎されている様子に、服部はやるせない気分になったいた。
「それで、舞姫さんはどうだったの十文字君?」
「精霊魔法の恐ろしさ、思い知った。あそこまで待ち伏せされては、隠れる意味も少なくなってしまうな。ファランクスに対しても、あそこまで対応されてはそれに慢心してはいられないな」
十文字にとって、この練習試合は非常に実りあるものとなったようであった。
「しかし、女子にモノリス・コードがないのは惜しいな。もしあれば本戦であろうと優勝確実だっただろうに」
「そうね。でも、アイス・ピラーズ・ブレイクも中々だったわよ。千代田さん相手に勝利してたもの」
一高トップの二人は、頼もしすぎる後輩の存在に嬉しそうにしているのであった。
「舞姫さん、あーん」
「あーん」
「あーもー、可愛い~♡」
「……その辺にしてあげて」
何時までも離される気配のない舞姫を助けるべく、真由美は声をかけるのであった。
そうしてようやく解放され、帰ろうとする舞姫。待ち合わせをしていた逹也たちが待つ校門に向かった。
「おまたせ」
「お疲れ様。見てたわよ、さっきの試合」
「凄かった。まさか、十文字先輩のファランクスを破るなんて」
モノリス・コードの大ファンである雫は、いつもより興奮している様で、目をキラキラさせていた。
「ファランクスは体に纏うんじゃなくて、壁を作るものだから。あぁすればいけると思ったけど上手くいった」
「今日は奢ってやるよ。ほどほどにだがな」
「パフェ食べる」
舞姫は逹也が奢ってくれるということで、幾分ウキウキしながら雫と一緒に歩き始めてしまった。
いつものカフェに入り、食べ物が届くのを待っている間、先程のモノリス・コードの話になる。
「そう言えば、さっきの試合では何をやってたんだ? 最初の方はあんまり動いていなかったけどさ」
レオが聞いているのは、試合が始まった直後の舞姫の動きについてである。
「あれは精霊魔法。索敵をして、位置情報を先輩達に教えてた」
「精霊魔法? お札は持ってなかったわよね?」
幼馴染みが古式魔法の家であるエリカは、首を傾げた。
「普通のCADでも出来る。専用のよりはたしかに効率は落ちるけど、問題ない」
確かに、攻撃系の魔法は古式魔法であっても普通のCADで使う。考えてみれば当然なのだが、それを失念していたようだ。
「じゃあ、十文字先輩のファランクスを破ったのは?」
そう質問したのは雫だ。やはり一番気になっていたのは絶対防壁であるファランクスの攻略法のようだ。雫以外の皆も気になっているようで、みな興味深そうにしていた。
「さっきも言ったけど、ファランクスは壁を作る魔法で、体に纏うものではない。だから、発動させる前に懐に潜り込んで零距離で攻撃すれば何とかなる」
言うのは簡単だが、為すのは非常に困難である。そんなことでファランクスを破れれば、絶対防壁の名は名乗れない。
「それって、すっごく難しいんじゃ……」
「正直、最後の舞姫の動き、全然見えなかった」
雫の言うとおり、舞姫が辰巳の背後に移動したときの動きは、殆どの生徒は捉えられていなかった。
逹也も完全に追えた訳ではなく、精霊の目を用いて動きを捉えたに過ぎなかった。
「あれは本気で動いたから。それに、十先輩相手だと通じなさそう」
「そうなの?」
エリカの問いかけに頷く。
「今回は違う相手に対して攻撃したけど、術者本人に対してだと、座標指定の手間が省かれるはずだから、攻撃が間に合わない。それに、モノリス・コードだと直接攻撃出来ないから、その分タイムロスで間に合わない。だから、モノリス・コードだと負け無しかな」
モノリス・コードは直接攻撃禁止である。その縛りの中では舞姫も十文字の展開の速さには対応できない。
「ん、ちょっと待って。もし、直接攻撃有りなら、十文字先輩との直接戦闘でも太刀打ち出来るって言うこと?」
エリカは、舞姫の口振りに疑問を持つ。
「ん、正直分からない。一対一だと、殊更警戒されるだろうし、その一撃しかないなら加速術式を発動するタイミングに注意されたら破れないと思う」
それでも勝てないとは言わない辺り、舞姫も負けず嫌いであった。
そうして頼んでいたDXパフェが届き、舞姫は話を中断しパフェを食べ始める。まだまだ話は聞き足りなかったが、幸せそうにパフェを頬張る舞姫を止めることは出来そうになかった。