鳳凰の舞姫   作:天神神楽

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感想でも書いてありましたが、鳳だか凰だか鵬だか鴻だか分からなくなった。


名家たる由縁

一夜明けて、開会式。先日の九島と華耶の激励に触発されたのか、整列している全員がいつもより背筋を伸ばしていた。そんな中、一高生は一人少なかった。

「舞姫、動ける?」

舞台裏で舞の準備をしていた舞姫は、衣装を纏い動きを確認する。

「うん。大丈夫」

「じゃあ、お化粧に入りましょうか」

舞姫は鏡の前に座ると、華耶と刹那が化粧品を手に取り、慣れた手つきで舞姫に化粧を施していく。化粧を施し終わると、ちょうど真由美と鈴音が入ってきた。

「失礼します。舞姫さん、調子はどうかしら?」

生徒会長として挨拶に来た真由美は、舞姫に声を掛ける。舞姫は準備を終えていたので、二人に振り向く。

「ん。最高」

調子が抜群な舞姫は、笑みを浮かべて二人に答える。その姿に同性ながら見惚れてしまう。普段も美しい少女であるが、化粧を施し、舞の衣装で着飾った舞姫は比喩でも何でもなく、本当に姫のように優雅で美しかったからである。

「二人とも、どうしたの?」

黙ったままの二人に、舞姫は首を傾げる。それに、真由美と鈴音はハッと気を取り直した。

「あ、ごめんなさい。思わず見惚れちゃって」

「ありがと、ご主人様」

「親御さんの前でそれは……」

こんな場でも相変わらずなのに、ホッとしつつも恥ずかしい真由美。

「もうすぐ時間ですか、コンディションは完璧のようですね。こんな時に言うのも失礼かもしれませんが、午後のバトル・ボードは大丈夫そうですか?」

作戦スタッフとして、競技のことも尋ねる鈴音。その問いに、舞姫は頷いた。

「大丈夫。この後の舞を見てもらえれば分かる」

そう言う舞姫には嘘を言っている気配は全くなく、それが事実であることがうかがえる。

「それでは私達も楽しませてもらうわね。華耶様、刹那様。私達はこれで失礼いたします」

「えぇ。ぜひ楽しんで下さいね。特に真由美さんはすぐに試合ですし、助けになるよう、願っていますわ」

再び頭を下げると、二人は部屋を出て行った。

「さ、そろそろ時間よ。調子は大丈夫かしら?」

刹那が時計を見て、舞姫にコンディションを尋ねる。

「バッチシ。最高の舞を見せる」

舞姫が好調なのを告げると、凰の従者が時間であることを告げてくる。

「じゃあ、行きましょうか」

刹那が舞姫に手をさしのべると、舞姫はその手をとり立ち上がる。そんな舞姫に華耶が声を掛ける。

「いってらっしゃい舞姫。凰の舞姫として、精一杯舞ってきなさい」

「ん。行ってきます」

舞姫は僅かに微笑み、そして表情を引き締めると、部屋を出て行き、舞台に向かうのだった。

現在会場には、舞の舞台が設置されていた。急拵えにもかかわらず、立派な舞台がくみ上げられていた。凰の従者たちが短い時間でくみ上げたのであり、舞台だけでも荘厳な雰囲気を漂わせていた。

各校に割り振られた席で、深雪達は舞姫がやってくるのを楽しみに待っていた。

「もうすぐ始まりますね!」

特にほのかは一層楽しみにしている様で、隣に座る逹也に興奮気味に話しかけていた。

「あぁ。俺はその衣装を見てはいないが、凰の舞は非常に素晴らしいということは聞いたことがある。楽しみだな」

「私は凰家のものは見たことがありませんが、朋友の鵬の舞はみたことがあります。とても幻想的でした」

深雪は思い出したのか、うっとりとした表情を浮かべた。

「間に合ったみたいね」

そこに舞台裏から戻ってきた真由美と鈴音がやってきた。

「会長。舞姫の調子はどうでしたか?」

「とても良さそうだったわ。ふふ、逹也君でも惚れちゃいそうなくらいに」

真由美のからかうような言葉に、ぴくりと反応したのはやはりというか、逹也本人ではなく、逹也の両隣に座る深雪とほのかであった。逹也は反論しようとしたが、アナウンスで舞が始まることが告げられた。

「ほら、始まるわ。早く座らないと」

そう言うと、真由美と鈴音は逹也の後ろの席に座ったのであった。

アナウンスが舞姫のことを紹介すると、舞姫が和服に身を包んだ刹那に伴われながら舞台の上にでてくる。その舞姫の姿に、一高生とだけでなく、九校全ての生徒や来賓など、彼女を見る全ての者達が、舞姫の姿に魅了されていた。

「綺麗……」

昨日その姿を見ていたはずのほのかでさえも、化粧を施し、さらに美しくなっていた舞姫に頬を赤らめる。ほのかだけでなく、雫も英美もスバルもみな舞姫から目が離せなくなっていた。

刹那が舞台から下がり、舞台の上には舞姫一人になる。舞台の下に控えていた雅楽隊が、楽器を構え、舞姫が動き出すのを待つ。

目を閉じていた舞姫がゆっくりと目を開き、神楽鈴にサイオンを流すと、舞台の上に桜の花びらが咲き乱れる。それとともに、音楽も演奏され始めた。

ゆっくりと、優雅に舞う舞姫の姿は、幻想的で夢うつつにいるような感覚に陥っていた。

「あ……」

思わず漏らしたのは誰だったのか、桜の花びらは、清水の小川の上に流れだし、清涼な空気が会場を覆う。その川の流れにたゆたうように、舞姫はゆらりゆらりと舞を続けていた。

舞台の上に留まらず、会場全体を巻き込む魔法と、舞台の上で小さな体で大きく存在感を放つ舞姫に、会場全体は魅了されていた。

やがて舞も終わり、夢に包まれていた会場は現実に引き戻される。舞が終わってもなお、静寂に包まれる会場。そんな中、舞姫が頭を下げ、再び刹那に手を取られた所で、会場から盛大な拍手が送られた。

まだ興奮した空気が冷めやらぬ中、各校余韻に浸りながらも、自分達の持ち場に向かい始めていた。真由美も生徒会長として、皆に指示を出し始める。

「さぁ、後輩があんなに素晴らしいものを見せてくれたのだから、私達も頑張りましょう!」

真由美の言葉に、一高生徒はやる気を満ちあふれさせ、各々席を立ち始めた。

「あーちゃん。舞姫さんは先に会場に向かっているはずだから、よろしくね」

「はい!」

バトル・ボードの舞姫担当に抜擢されたあずさは、元気よく頷いた。走ってバトル・ボード会場の一高控え室に向かうと、すでに舞姫はウェットスーツに着替えており、調整機でCADの調整をしていた。あずさが来ていることに気が付くと、舞姫はCADをあずさに渡す。

「待ってた。確認お願い」

CADを受け取ると、あずさはプログラムを確認する。

「うん、大丈夫ですね。すぐにチェックに出してきます!」

あずさは走ってレギュレーションチェックに出しに行く。そして、すぐに戻ってくると、CADを舞姫に返す。

「チェック通りました。第一試合ですけど、大丈夫ですか?」

舞姫の出番は第一試合である。先程の舞もあり、疲れているはずなのである。しかし舞姫はその疲れを見せる様子もなく、むしろ気力に満ちているようだった。

「じゃ、行ってくる」

舞姫は小さな体でボードを抱え、会場に出て行った。

舞姫が会場に姿を見せると、会場から大きな歓声が沸き起こる。それを気にすることなく、舞姫はボードをコースに浮かべ、その上に乗る。

正座で。

舞姫の謎の行動に、歓声は困惑に変わる。それは他の選手達も同様で、並びながら舞姫のことを見つめていた。

しかし、やはり舞姫は気にせず、進む先と、手に持つCADに意識を集中させていた。

選手の紹介も終わり、あとはスタートを待つのみ。他の選手たちも舞姫を見るのを止め、自身のことに集中し始める。

それは舞姫も同じであり、シグナルが赤から青に変わった瞬間、舞姫が誰よりも先に前へ出る。

古式魔法《流し雛》。凰家が開発した複合魔法である。雛祭の流し雛をモチーフにした魔法であり、正座をしているにも拘わらず、急カーブも波もものともせず、猛スピードで駆け抜けていく。

「くっ!」

舞姫の後を追いかける二高の生徒が、舞姫の足元に波を起こそうとした。

「無駄」

しかし、舞姫の言うとおり、その波は舞姫にたどり着くことなく、その間際で壁に阻まれるかのように跳ね返し、魔法を仕掛けた二高生徒を飲み込んだ。

「厄はもう受け付けない。破るなら、疫病神でも連れてきて」

自分の魔法に絶対的な自信をもつ舞姫は、後ろを振り返ることなく、前だけを見て他の選手を寄せ付けず、そのまま絶対的なリードを保ちながらゴールを駆け抜けたのであった。

盛大な拍手に見送られながら、控え室に向かおうとすると、出番を待つ摩利に出迎えられる。

「姐さん先輩、似合ってる」

「はは、ありがとう。舞姫こそ、まさかあんな魔法を使うとは思わなかったぞ」

笑みを浮かべる摩利に、舞姫は拳をグッと出す。

「決勝で待ってる。負けないから」

「私の試合は第四試合だ。途中で負けるなよ?」

コツンと拳を合わせると、舞姫は着替えを済ませ、跼蹐に移動する。たった今、一年生ながら圧倒的な実力で勝利した舞姫は、周りから注目されていた。

 その中で見知った顔を見つける。というか、逹也たちである。

「やふ」

「さっきの試合見たぞ。凄い術式だったな」

「とっておきだから。会長のも見たかった」

第一試合であった舞姫は、スピード・シューティングに出場した真由美の試合は見られなかったのである。

「だが、決勝の方は見られるだろう。俺たちも見に行くが、一緒に行くか?」

「そうですよ! 一緒に見ようよ」

ほのかも乗り気だったようだが、舞姫はウムムと唸る。

「何か予定があるのか?」

「ん、ちょっと声を掛けようとしてる人がいるから」

「そんなぁ……」

ほのかが気落ちしたように肩を落とす。

「この試合は一緒に見られるから、勘弁して?」

そのまま逹也の隣に座るほのかの膝の上に座る。

「舞姫?」

「さぁ、存分に愛でよ。何でもしなさい」

何故か偉そうな舞姫。しかし、ほのかはわなわなと震えていた。

「舞姫を、存分に……何でも……好きに……」

一言足されているが、舞姫は構わないようだ。

「……一応、人の目があることを忘れないでね?」

「はっ!? そ、そうだね。じゃ、じゃあ、抱きつくにとどめておこっと」

決して留めていないが、ほのかはそれで納得したようだった。

「お、始まるぜ」

下を見ないように、会場に注目していたレオが、摩利が出てきたことを告げる。ほのかも、摩利のレースを見逃す気は流石に無いようで、会場に注目した(E:舞姫)。

摩利が紹介と共にスクリーンに映し出されると、会場の至る所から黄色い女子の歓声が上がる。

「ウチの先輩達には随分熱狂的なファンがいるみたいだな」

逹也の呟きを余所に、シグナルが点灯した。

そして、赤から青に変わった瞬間、選手が一斉にスタートする。優勝大本命である摩利は、どの選手よりも先頭に躍り出た。それを阻止しようと二高の選手が、波を発生させたが、発生させた本人までも飲み込まれてしまった。標的であった摩利は、その波を軽々と乗り越え、決定的なリードを広げたのであった。

「凄いな……硬化魔法と移動魔法のマルチキャストか」

「硬化魔法? どこに使ってるんだ?」

摩利の魔法の見事さに、感心した逹也が呟くと、それにレオが反応した。

「自分とボードの相対位置を固定するために使っているんだ。それなら、ボードから転落することもないからな。さらに、自分とボードを一つの「もの」として移動魔法を掛けている。しかも、コースの変化に合わせて持続時間を設定して細かく段取りしているな。何とも面白い使い方だ」

「すげぇ……」

逹也の説明に、レオは絶句ししていた。逹也も、摩利の魔法を分析しながらその高校生レベルをはるかに超えている実態を再確認し、その凄さに改めて感心していた。

摩利がゴールし、会場が興奮に包まれる中、逹也はそう言えばといって舞姫に声を掛けた。

「そういえば、舞姫がさっきの試合で使った魔法も、マルチキャストをしたものだったな」

「え、そうだったの?」

逹也の言葉を聞き、ほのかが驚いたように胸元の舞姫を見る。舞姫は隠すことなく頷くと、《流し雛》の説明をする。

「あれは、さっき逹也が説明してたのと同じ。流石に、あのスピードでボードの上に座ってたら、カーブで投げ飛ばされるから」

正座をしたまま無表情でボードから投げ飛ばされている舞姫を想像して、すこしほっこりするほのか。それを知ってか知らずか、舞姫は説明を続けた。

「《流し雛》は、名前の通り、雛祭の伝承からとった古式魔法だから、あんまり広い範囲をカバーするものじゃない。本当だったら寝っ転がるかうつぶせになるのがベストだけど、それだと前が見にくいから、バトル・ボード用に調整してる」

「じゃあ、波を防いだあの魔法は?」

エリカが気になっていたのは、妨害を確認せずに発動された防壁魔法である。

「あれは《厄払い》の魔法。向かってくる対して、魔法壁を展開する魔法。本来なら讓二展開してるけど、流石に燃費が悪いから、今回のは私が自分で発動させた」

「でも舞姫、あのとき後ろ見てなかったよね?」

これに疑問を持ったのは雫である。雫の言うとおり、舞姫はレース中一度も後ろを振り返らずに、後ろからの妨害を全て防いでいた。

「だから、今回は精霊の目を借りたの」

「精霊の目?」

餘聞き慣れない言葉に、雫だけでなく、他の皆も首を傾げた。そして一人舞姫の言葉を理解したのは逹也であった。

「古式魔法による遠見か」

「ん。遠見といっても、周りだけだけど。だから、後ろから何が来るかは把握してた。大体は気配でも分かるけど」

やはり最終的には舞姫の超人的能力がものをいっていたことを知り、何だかやるせなくなるのだった。

舞姫は説明をし終わると、ほのかの膝から飛び降りた。

「どこにいくんだ?」

「さっき言ってた人に会いに行く。ついでにお昼のお誘いも」

そう言えば先程真由美の試合は一緒に見られないと言っていたことを思い出す。

「そうか。今日は疲れているだろうし、あまりはしゃぐなよ?」

「大丈夫。じゃ、またね」

舞姫が去ろうとすると、それを深雪が止めた。

「舞姫。今夜、渡辺先輩と会長の小さな祝勝会をするつもりだから、あなたもいらっしゃい。あなたも無事に予選を突破したのだから」

「ん。お菓子用意しておいてね」

深雪の誘いを受けると今後こそ舞姫は逹也たちの所から離れていった。

逹也達から別れたのは、とある人物に合うためである。それは決して色恋沙汰などではなく、そう言えば挨拶したなーと思いついたからである。特に大きな意味はなかった。

そして舞姫が向かったのは、第三高校のテントの近くである。ある人物を探しキョロキョロとしているのを、何事かと遠くから見つめる三高生徒。

舞姫はお目当ての人物を見つけると、一目散にその人物――愛梨に飛びついた。

「きゃっ!? 舞姫さん?」

「やふ。一緒にお昼食べよ」

舞姫のお誘いに、どうしていいのやらと困る愛梨。舞姫の誘いに乗ったのは愛梨ではなく、愛梨と一緒にいた女子生徒であった。

「いいのぅ! 他校との交流もまた九校戦の醍醐味。そのお誘いが、一高の秘蔵っ子であるならば、喜んでご一緒しよう!」

舞姫と早くも意気投合したのは、四十九院沓子。そんな沓子を愛梨と共に呆れたような目で見ているのは、十七夜栞。二人とも愛梨と同じく、三高のエースであり、新人戦では優勝を期待されている人物である。そんな三人が、最大のライバルであるはずの一高生徒と歩いていれば、注目されるのは当然のことだった。

「ここ、美味しそ。おじさん、ケバブちょーだい」

「おっ、可愛い嬢ちゃんだな。ボリュームは少なめにしておくかい?」

沓子と手を握りながら、大きな肉を備えた屋台に向かう。店主は可愛らしく言ってくる舞姫に容貌を崩しながら応対してくれた。

「まさか。ギガ盛りで。お肉一杯野菜も一杯」

「そりゃあいい! 特別サイズで提供しちゃうよ。後ろの三人はどうするんだい? 普通の女の子にギガ盛りはきついぜ?」

「わ、私は……」

「三人には中盛りで。お金は私が払う」

マネーカードで払うと、素早く造りあげてくれたケバブを三人に渡す。沓子は嬉しそうに受け取ったが、愛梨と栞は受け取っていいものかと戸惑っていた。

「どうしたのじゃ? 二人も早く食べようぞ。ほれ、あそこのベンチで食べるのもいいじゃろ」

沓子が栞の、舞姫は愛梨の腕を引っ張って、大きめのベンチに位置どる。あまりこのようなことをしない二人はどうしたものかとケバブを手にしたまま固まっていた。

「むぐ。どうしたの?」

ケバブのソースで口元を汚しながら舞姫が尋ねる。

「い、いえ。あまりこういうのは食べたことがないのよ」

「何も難しいことはない。ガブッとかぶりつけばいい」

そうはいうが、舞姫の口元を見ると、そうするのはためらわれる。どうすべきかと栞をみるが、自分と同じように戸惑っていた。次に沓子を見ると、気にせず舞姫と同じようにかぶりついていた。流石に舞姫のように口元を汚してはいないが。

「うむ? どうしたのじゃ。美味いぞ」

「……分かったわ」

観念したのか愛梨もケバブを口にする。流石にガブリではなくカプリとであったが。

「あら……美味しい。大味だと思ったけど、色々スパイスを使ってるのね」

見た目からあまり好みではないと思っていなかったのか、愛梨は少し目を見開いていた。栞も同様であった。

「本格本場味を頼んだから。ちょっとクセはあるけど、私は好き」

「えぇ。こんなものと馬鹿にしていたわ。ちょっとこういう食べ方は慣れないけれど」

「それは場数をふむしかない。ん、ちょっと待ってて」

いつの間にか間食していた舞姫は、ベンチから飛び降りると、どこかに行ってしまった。

「ちょっと!? ……行っちゃったわ」

「むぐむぐ……美味しい」

「栞……。まぁ、確かに美味しいけど」

栞までも夢中になっているのを見て、愛梨は諦めたように自分もケバブを食べることにした。

いくら少しずつ食べるとはいっても、ケバブ一つくらいなら十分も掛からず食べ終える。食べ終えた後どうしようかと考えていると、袋を持った舞姫が戻ってきた。

「はい、デザート」

そう言って取り出したのは、カップに91と書かれたアイスだった。全てダブルで、その内三つは、ストロベリーやカシス、ラズベリーといった赤いアイスが入っていた。もう一つのカップにはバニラが入っていた。

「もう一つは九校戦限定フレーバー。九種類のフルーツをミックスしたやつ」

「じゃあも一つのアイスは?」

何となく気付いていた愛梨は、あえて尋ねる。

「赤は三高の色だから」

「では、白は一高のかしら?」

「ん。あと、私はバニラが好き」

それぞれアイスを渡すと、舞姫は美味しそうにアイスを食べ始めた。沓子はいざ知らず、二人も慣れてきたようで、アイスを食べ始めた。

「あら、これも美味しいわね。この九色のも、面白いわ」

「イチゴ、美味しいわ」

「カシスもさっぱりとしてて美味しいのぅ」

おおむね三人も満足しているようだった。あっという間にアイスも食べ終え、四人は一緒にスピードシューティングの会場に向かっていた。

「でも、私達と一緒に観戦なんてしていいのかしら?」

「構わない。私は早撃ちにはでないし、それに、色んな人とみたいから。愛梨達が気にしないなら、構わない」

舞姫は三高と敵対する気はない。それをしっかりと感じた愛梨は、それ以上尋ねることはしなかった。

観客席に着くと、やはりというか、真由美が出場するだけあり、時間もあるにもかかわらず満席に近かった。

「お、一色。こっち席取っておいたよ」

愛梨達が席を探していると、三つほど席を確保していた三高生徒――水尾佐保が手を振っていた。

愛梨は少し気まずそうな表情をしつつも、佐保の所に近付く。その内に、佐保も舞姫の存在に気が付くと、表情に困惑が浮かべた。

「おや、珍しいお客さんだね。懇親会で随分仲良くなったんだね」

「えぇ。舞姫に誘われまして。彼女もご一緒させていただいてよろしいですか?」

「もちろん。一色の名前を呼び捨てにしている子を無碍に出来ないからね。それに、私の対戦相手になるかもしれない子だしね」

佐保も舞姫と同じ本戦バトル・ボードの選手である。彼女が、第一試合を見ていないはずもなく、舞姫が要注意人物であることを知らないはずもなかった。

「とはいっても、三人分しか席を取っていなかったんだよね」

佐保がどうしようかと思っていると、舞姫がちょんと佐保の膝の上に腰掛ける。

「そんなに重く無いと思うけど、ダメ?」

膝の上から見上げてくる舞姫に、きょとんとしていた佐保はクスクス笑いながら頷いた。

「あぁ。もちろんだよ。いやはや、一色。君たちのお友達は、随分可憐な子みたいだね」

「頷いていいのか分かりませんが……」

どう返答すればいいのかわかりにくい質問に、愛梨は口を濁した。そうしているウチに、試合開始の時間となり、大歓声と共に真由美が入場して来る。対戦相手は第三高校である。

「しかし、凄い声援だね。鳳さんの先輩は凄いね」

「ご主人様は大人気。この競技に関しては死角無しだから」

後半の言葉はともかく、最初の言葉に固まる三高の四人。

「えと……七草さんは、そのようなご趣味が?」

「ん、お菓子を作っていってあげたら、従者になって欲しいって言われた」

舞姫のことをどう判断すべきか悩んでいると、シグナルが点灯する音が聞こえる。とりあえず、扱いにくい案件は横に置くことにして、真由美の試合に注目した。

始めは両選手とも互角。三高生徒も、準決勝まで上がってきた実力の持ち主である。そして、一つずつクレーを射撃していく真由美のスタイル故の弱点を狙っていた。

そして、両者のクレーが重なるように射出され、白のクレーが赤のクレーを覆う。それこそが狙っていた弱点、のはずであった。

死角などものともせず、クレーの下方から魔弾を射出し、クレーを打ち抜いた。

「ほぅ……流石というべきか。敵ながら見事ね」

真由美の魔法に、愛梨が首を唸らせる。

「《マルチ・スコープ》の見事さ。流石、《魔弾の射手》の名は伊達ではないわ」

「いやはや、一色といい、十七夜といい、私の後輩は大したものだね。それで、彼女のメイドさんである凰さんは、どう見る?」

「文字通り死角がない。逃げたくても逃げられない。《妖精(エルフィン)》というよりも、ウンディーネ?」

愛する相手にはどこまでも尽すが、裏切った相手にはどこまでも苛烈に復讐する水の精霊である。天真爛漫といってもいいくらいの真由美には当てはまらない形容だが、ご主人様と呼ばせているくらいの仲である舞姫のいうことである。一蹴したくても出来なかった。

「先輩も流石に相手が悪すぎたのぅ」

試合は、弱点が弱点ではなかったことに動揺した三高選手が、ミスを連発していた。対する真由美はパーフェクトペースであった。

「……流石は《七草》ね。悔しいけど、一高には勝てないわ」

栞も、悔しそうにしつつ真由美の力を認めた。

佐保は何も言わないものの、残念そうにしていた。

そして、試合終了のブザーが鳴り、真由美がパーフェクトで勝利を決めたのだった。

大歓声の中、佐保は残念そうにため息をつきながら、舞姫の頭に手をのせる。

「全く、君の先輩には完敗だよ。さて、私は三位決定戦の方を見に行くけど、一色達はどうする? このまま決勝を見るのかい?」

一色である愛梨は《七草》の試合を、そして栞も新人戦スピード・シューティングに出場する選手として高校生最強である選手の試合を見る為に。真由美の試合をみることには大いに意義がある。

「先輩方には失礼かもしれませんが、私はこのまま決勝を見ようと思います」

「分かった。あぁ、全員で席を立たない方がいいよ。虎視眈々と空席を狙う人達がいるからね」

それだけいうと、舞姫を膝から下ろし、佐保は三位決定戦会場に向かっていった。

決勝戦といってもすぐに行われるわけではなく、一時間の休憩があった。

「さて、一時間もあることだし、ジュースでも買って来ようかのぅ」

「私も行くわ。二人はここで席を取ってて」

愛梨の答えを聞かずに、二人は席を立ってしまう。

「全く、二人は返答も聞かずに。舞姫もこのまま決勝を見るのかしら?」

愛梨が言っているのは、同じ一高生の元へ行かなくていいのか、ということである。舞姫は愛梨の言葉にウンと頷く。

「どこで見ても変わらない。それに、愛梨と話すの、楽しいし」

「そう。ならもう何も言わないわ。それに、私もあなたの話を聞くのを楽しいしね」

愛梨も、自身と同じく一年生ながら本戦に出場する舞姫のことが気になっていた。

「それにしても、バトル・ボードの時に使っていた術式、凄いものだったわね。古式魔法をベースになっているとは思えないほどの速さだったわ」

「あくまでベース。それに、魔法自体は特に特別なものじゃない。基本的な魔法を組み合わせただけだから、良かったら九校戦が終わったら教えてあげる。使いどころがあるとはあんまり思えないけど」

あっさりと魔法について話す舞姫に、愛梨は唖然としてしまう。多かれ少なかれ、魔法は秘匿されるものである。それが古式魔法を扱う家となればなおさらであり、その最大の名家である凰家の術式ともなれば、おいそれと教えていいものではない。

しかし、舞姫はそんなこと気にしないでと一蹴する。

「これくらいなら構わない。それに、うち、というか、鴻鵠の鴻家は、色々な魔法を公開してるし。それに、これは私がアレンジしたヤツだから。鳳凰のオオトリの家の魔法は秘匿だけど、大鵬、鴻鵠のオオトリの家の魔法は、発展のために使われてる。だから、教えて欲しければ教えてあげる」

ハイ、と端末を愛梨に向ける舞姫。つまりは連絡先を交換しようとしているのである。愛梨も、魔法師としての興味とともに、舞姫自身が気になり、連絡先を交換することに賛成する。

「それにしても、オオトリの方々は、現代の魔法師とは一線を画しているしているのね。もちろんいい意味で、よ?」

「それは先祖代々のクセ。宮廷守護の役目を負いつつ、代々の天皇の心を癒してきた。それは、外に出られない方々の目となって、その時々の流行のものとかをコッソリ伝えていたみたい。だから、各守護四家の玄関口、ウチで言えば、鴻(こう)家は、どうにかしてくれていつでも言われてたみたい」

「あら、歴史家が聞いたら喜ぶわ。いえ、慌てるかしら。でも、オオトリ一族の顔役って、凰、鳳凰の鳳(ほう)家ではなかったかしら?」

「よく知ってるね。流石は一色家。確かに凰家は顔役だけど、クレーム受付は鴻家。というか、鳳家は鳳凰の片割れだから、顔は出すけど心は見せない。大鵬・鴻鵠は表に、鳳凰は天にいる。だから顔は見せるけど触れさせないの」

たしかに、舞姫の言うとおり、鳳凰の二家は決して内情を表に出さない。それは魔法のことだけではなく、どのような風習を持つのかということも殆ど知らせていない。対して鵬・鴻の二家は、CADや術式など、多くのことを外へと公開している。そのことを舞姫は鳳凰は天にいると表現したのである。

「流石は守護四家というのかしらね。是非、オオトリの神秘の一端、是非教えてもらうわ」

「おや、なにやら楽しそうなことを話しておるな。わしも仲間に入れろ」

ジュースをもって戻ってきた沓子が、楽しそうに話していた舞姫と愛梨に突撃する。後ろから同じくジュースを持った栞が、呆れた顔をしながらやってきた。

「お待たせ。フレッシュジュースだけど、良かったかしら?」

「ありがと。ん、おいしい」

栞から受け取ったジュースを美味しそうに啜る舞姫。そんな舞姫の様子に、愛梨も栞も思わずクスリとしてしまった。

「そう言えば、栞はスピード・シューティングに出るんだよね?」

「えぇ。新人戦のね。もちろん、貴女たちには負けないわ」

栞は自信を持って答える。

「む、雫も負けない。今年の一高一年生は強いよ」

その筆頭と言っても過言ではない舞姫が言う言葉である。しかし、三人はそれに物怖じすることはなかった。

「それでも私達は負けないわ。三高の最強伝説を作らないといけないもの」

「それでも私達は負けない。だって、一高は最強だから」

舞姫も負けず嫌いであり、真っ向から愛梨に言い返す。しかし、にらみ合うのではなく、互いにニヤリと笑みを浮かべながらであった。

「ほれ、啖呵の斬り合いはそれくらいにしておいて、試合を見ようではないか。そろそろ始めるようじゃぞ?」

沓子に言われ、会場に視線を戻すと、準備を終えたのか、真由美が会場脇でスタンバイしていた。

「で、三高最強として、どっちが勝つと思う?」

「七草さんでしょうね。相手の四高選手も去年の準優勝者だけど、七草さんには敵わないでしょうね。それで、一高最強としてのあなたの意見は?」

「ご主人様。さっきも言ったけど、この競技では負けることはない」

二人とも同じ意見であり、それは覆されることなく、全試合パーフェクトで真由美はスピード・シューティング三連覇を達成したのであった。

 




ちなみにちょこちょこ書いていて、投稿している気になっていた。本選アイスピラーズブレイクの終わりまで、書き終わってます
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